忍であることの前に

□パラダイム
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先生が常にエロ仙人の書いたエロ本を携帯して愛読しているのは、もはや俺にとっての日常でもあった。

だいたい、俺と先生が初めて会って演習した時からお決まりのポーズなんだから、ほんとうにふざけた教師だ。

今まで数えきれない回数、飽きもせずイチャイチャシリーズを読み、もはや完璧に暗記してるんじゃないかとさえ思う。

いやいや、俺だって健全かつお年頃の男子なんだから、エロ本にだって当然興味は、ある。あるよ。

イチャイチャシリーズもいちおう弟子として目を通したし、エロ仙人の書いた『ド根性忍伝』なんか大好きで何べんも読み返して、あちこちボロボロになってもまだおんなじやつを読んでるくらいだし。
その点でいえば俺も先生の事は言えない。

いやいや、けど、俺は下忍教習の時に読んだりなんかしない。

好きな人と一緒にいる時に読書に没頭したりも、しない。






ダイム







「なーせんせぇ、まーたそれ読んでんのかよ〜」

「見りゃ分かるだろ」

連れねえ!!なんつー連れなさか。

「もうとっくに読み飽きたんじゃねーの?」

「飽きない」

「ほんとに!?」

「オマエこそ、自来也さまの弟子なんだから、もっとしっかり読みなさいよ。この本には、あの方からのメッセージがいっぱい詰まってるでしょうが」

そこで俺は居住まいを正して言ってやった。

「分かってるってばよ。今まではつまんねーエロ本だと思ってたけど、エロ仙人がいなくなっちまってから読み返してみたらさ、スゲー色んな言葉ん中にエロ仙人が伝えたかった色んなことが込められてんだって、よく分かった。……けど!」

「けど?」

「俺は俺の生き様を物語にするって決めたんだ。エロ仙人の言葉も、ぜーんぶココに入ってっから」

トン、と右手の親指で胸を突き、先生の顔をじっと見ると、最近よくやるこそばゆいような貌をしている。

「そーだな。でも、これは俺にとってちょっと特別なものだから、ね」

そう言って、読んでいた本を持ち上げて背表紙を俺に向けた。

「『エロエロパラダイム』…?イチャイチャじゃねーの?」

「そう。自来也さまの遺作だよ」

「え!!?俺ってば全然聞いてねーんだけど!!?」

「まあ、そりゃオマエはまだ18になってないしな。いずれ二年ばかり経って、手に取ってくれればいいと思われたんじゃないのか?」

「そうなのかな」

雨隠れに潜入する前に書いてたってことだよな…

「そうだろうな」

「……な、それってどんな話?」

「どんなって…オマエ、また俺に読ませる気か?」

俺は単純にエロ仙人の最後の本がどんな内容なのか気になっただけなのに、カカシ先生は恨みがましい目付きをしてじとりと睨んできた。

あ、そうか!あん時、暗号解読のために先生にイチャタク読んでもらったんだった。
あん時の、恥ずかしがりながらやらしい文章を読む先生は可愛いかったなー。マジでどうしようかと思った。
シカマルとかシホに聞かせんのもったいなかったもんな。


今でもエロ仙人を想うと心臓がギュウっとなる痛みが湧いてくる。
だけど先生を想うと、別のあったかい気持ちでまた心臓がギュウギュウなって、痛いのに甘くなる。
これって不思議だ。


「読まなくてもいいよ。先生が俺のココに伝えてくれれば」

今度は、先生の胸をトン、と人差し指で突く。

「まだ18になってないのに?」

「18になんねェとダメ?」

こうなるともう俺は先生の眼差しから目をそらせない。
キスをしようと顔を近付けたら、
先生は「駄目にできない自分の独占欲を憎むよ」と言って、先に口付けた。



それから俺は、思ったよりずっと深くて永いキスが終わってから、言った。


「俺は、愛すよ」

無欲なこの人の独占欲を何よりも。







後書に続く
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