名もなき冒険者

□09:情報収集のち対峙
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木造の家々に瓦の屋根。
この組み合わせがルレナフィアンロの王都の一般的な建築物の基本。
ところによってはヴォロトゥードにある家々のような、
所謂洋風な建物も存在しているが、その数は多いとはいえないだろう。

火山の多い国ではあるが、国の心臓部ともいえる王都は、
安全のために当然のことだが火山から離れた場所に位置している。
そのため、王都の家々は火山が噴火した場合の災害に対しての対応はされておらず、
どちらかというともうひとつの天災である地震に対しての対策が強化されていた。

趣のある街の様子をリトナは懐かしそうに眺める。
街の雰囲気は幼い頃に訪れたときと何一つ変わっておらず、リトナはなんだか嬉しい気持ちになった。


「リトナ様はルレナフィアンロの王都の地理について詳しいのですか?」

「いえ、昔お母様の付き添いでここにきたときは、
いつも大朱道を通っていたから詳しい地理はわからないわ」

「そうですか。…では、カティラを頼る他ないようですね」


そう言ってプラムはカティラに視線をやると、カティラはその視線を受けて笑顔を見せる。
それは頼っても問題ないという意味なのだろう。

リトナの母親はルレナフィアンロの女王。
そのため、リトナは両親の仲がいい時代には、
母親の里帰りに付き添って母親とともに、このルレナフィアンロに訪れたことがあった。

だが、今も昔もリトナは王族だったため、王都とはいえ、一般庶民たちで賑わう街を歩き回ったことはない。
大体、子供であったリトナが危険の潜む外の世界で好き勝手に出歩けるはずがないだろう。

なのでリトナは、ルレナフィアンロには何度か訪れているが、
ルレナフィアンロの王都の大体中央部に位置する
ルレナフィアンロの王族が暮らす館から見るルレナフィアンロしか知らないのだ。

また、基本的に年中行事で訪れる以外は特に用がなければ訪れたことはないので、
地理についても、政治や情勢についても、
ヴォロトゥードでプラムから教えられた知識しか頭に入っていない。
母親の故郷だというのに、何も知らなさすぎるとリトナは心の中で猛省しつつ、
迷いなく歩くカティラの後に続いた。


「とりあえず、ここ最近のルレナフィアンロの出来事と、王家の動向の情報を仕入れましょう」

「なにか策があるのか?」

「ええ、先手は打ってあります」


何気なく尋ねたツェリオだったが、
すでに手を打ってあるというカティラの言葉に思わず目を見開いた。

カティラがこの聖王戦に関わって数日しか経過していないというのに、
すでにこのルレナフィアンロにまで手を回しているとはまったく予想していなかった。

異常たるカティラの手回しの早さに恐怖しつつも、
ツェリオはカティラが自分たちの仲間で本当によかったと再度思う。
もし、カティラが他国の王族に雇われでもしていたら
――かなりの勢いで勝率が落ちていたことだろう。


「…もしかして、あの酒場の?」


リトナは、先手を打ったというカティラの言葉を聞いて、
不意にカティラにくっついて行ったあの怪しい雰囲気の漂う酒場を思い出した。

あの酒場でカティラは男にエヴェージとダオランジアの宝珠の在り処の調査と一緒に、
各国の王族の動向も調査するように依頼していた。

それを考えると、カティラが打ったという先手はこれしか想像できなかった。


「ええ、ご名答ですリトナ様。あれだけの莫大な金額を払ったんです。
――死ぬまでこき使ってやらないと」

「た、確かに凄い金額だったけど…、死ぬまではどうかと思うわ……」

「…カティラ、一体いくら支払ったんです?」


眩しいプラムの笑顔がカティラに突き刺さる。
さすがのカティラのこの笑顔を前にしてはいつもの笑顔は保てないようで、
少し引きつった笑顔を見せながら、プラムの質問に答えを返した。


「300skです」


耳を疑うド阿呆な金額に時間が止まる。
だが、この場面でカティラが嘘を言うはずがないのだから、
このカティラの口から出た金額は嘘偽りのない金額なのだろうとプラムは理解した。

一瞬はどうしたものかと頭を悩ませようかと思ったが、
そんなことをする必要はないと判断して、プラムはそのままの輝かしい笑顔でカティラに言葉を返した。


「聖王戦でリトナ様が勝利できなかった場合、その300skは全額あなたに負担していただきますよ」

「ぅおいおいおいおい!!
ぼ、冒険者にそんな金額一生かかったって返済できないだろ!?」


プラムのぶっ飛んだ言葉に思わずツェリオはツッコミを入れる。
しかし、プラムはツェリオのツッコミを取り合うつもりはないようで、涼しい顔で顔をそむけた。

そのプラムの対応からプラムにこれ以上なにを言っても無駄だと判断したツェリオは、
カティラに抗議しないのかと言葉をかけようとするが、その前にカティラがポツリと呟いた。


「ふむ…、300skですか……。まぁ、15年ぐらいあればどうにかなりますね」

「あれ!?前向き!?つか、敗北前提!?」


仲間が増えるかと思いきや、増えたのはツッコミを入れる相手だけ。
常識のじの字もないプラムとカティラにツェリオはどうしようもない怒りを覚える。
しかし、不意にリトナに肩を叩かれてハッと我に返った。


「からかわれてるだけよ…」

「………」


平然とした様子で先に進む性悪コンビを呆然とツェリオは見つめていた。
 

 
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