確かに恋だった

□諦
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朝食後の自主練を一通り終えて、今日の局長と副長、それから自分の仕事内容を確認する
そろそろ他の隊士が朝食を終える頃だろう。この後は部隊長も集めたミーティングがある。

「(今日は滞りなく始まりますかね)」

息を吐く。あの人はまったく、今も昔も変わらない。



「さて、朝の長会議始めるぞ。

…と言いたいんだが…」

「一番隊隊長がいらっしゃってません」
「またアイツか…!」
「…お呼びしてきます」
「悪いな結城、俺やトシじゃ全然言うこと聞いてくれないからさ…あれっ俺局長だよね…?ただのゴリラじゃないよね…?」
「だああ!いちいち落ち込まないでください局長!」

局長室を出て足早に廊下を歩く
そもそも部屋にいるといいのだけれど。

「沖田さん」

一声掛けても返事はない。
時間が惜しいので待たずにすらりと襖を開けると、部屋の中央には丸まった布団。そこからは規則的な寝息が響く

「沖田さん、起き上がってください、会議が始まりません」

言うと、もそり、と布団が動く。
頭だけ出して面白くなさそうな顔を結城に向けるのは、一番隊隊長である沖田総悟。


「結城、そんなとこいないでこっちで一緒に温まりましょうぜ」
「会議の時間です沖田さん。」
「結城に引っ張ってもらわねぇと起きれねぇ」
「……」

はぁ、と静かに小さく溜息を吐いて、立ち上がる。
すると結城は素早く沖田の布団を引き剥がし、沖田の両脇に手を入れまるで子供にするかのように抱き起した

「…もうちょっと色っぽく起こしてほしかったんですがねィ」
「必要性がありません」
「衝撃で思いっきり目が醒めちまった…」
「それはよかったです。秒で着替えてください、局長方がお待ちです」
「へーい。
…結城」
「…」
「着替えさせ「失礼します」…釣れねぇの」


局長室に戻ると、土方が4本目の煙草に火をつけようとしていたところだった


「完了しました、まもなくいらっしゃいます」
「ああ、いつも悪いな。」
「うーん…なぁトシ、結城にそろそろ特別手当つけたほうがいいかな」
「総悟の給料から引こうぜ」
「何勝手なこと言ってんでさぁ」

現れた沖田を見て、やっと会議が始まると全員が安堵する


「まあそんなことしなくてもいずれ結城は俺の扶養に入るんで」
「なッ…何言ってんだ総悟テメェ!」
「そうだぞ総悟!!
まだうちの娘はお嫁には行かせません!!!!」
「扶養に入る気もありませんし嫁ぐ気もございませんが」
「やだやだー!!結城の花嫁衣裳見ーたーいー!!!ヴァージンロードお父さんが一緒に歩きたいー!!!」
「ゴリラに腕組まれるなんて結城が可哀想でさぁ」
「おい総悟お前いい加減にしろよ、少なくともお前みたいなサド野郎には仙波はやらねぇぞ」
「うるせー土方どの目線で言ってんだ死ね」
「ゴリラだってヴァージンロード歩きたいもん!!」

ぎゃんぎゃんと言い合いをする3人を見守るしかない他の隊長達は、もうこれ会議なしでいいんじゃないかと諦めかける

その時、静かに正座していた結城がゆっくりと鞘に手を掛ける姿が土方の目に入った

「ちょっ、仙波待て!!」
「…会議を」

明らかに怒っている声色に、沖田と近藤もぴたりと静止し結城を見やる


「始めなければ…今ここで、素振りをさせていただきますが」

ゆら、と結城の背景に閻魔のようなものが見えた

「「「すみません…」」」


―――…

朝から疲弊してしまった体を淹れたてのコーヒーで癒しつつ、最近扱った事件の書類を整理していると

「結城」
「…如何されましたか」

ひょこ、と襖から顔を覗かせたのは、その疲労の元凶。

「休憩させてくだせェ」
「…此処は休憩所では「此処が一番落ち着くんで」」

猫のように気ままな彼が、そんな静止に従うわけもなく。隊服を緩め結城の背中に寄りかかる沖田。

「午後からは見回りですよ」
「わかってらァ。それよりお前の髪が擽ってぇ」
「でしたら寄り掛からないでいただけますか」
「怒んなよ。…なぁ、結城。



俺の扶養に入りやせんか」


紙が擦れる音が、一瞬止んだ。
コーヒーの香りが漂う部屋に、まるで自分の心臓の音が爆音で響いているかのようだった。
が、すぐにその幻聴にも似た音は掻き消された。

「私は嫁ぐ気はございませんが。」

どこか、安心した自分がいた。
本気を帯びた言葉に気づかない結城ではない。冗談ではないと知りながら、それでいて、明確な拒絶ではなかったから。
断られながらも、まだ終わりではないと。


「(我ながら女々しいねェ…)」


鼓動が落ち着いてきた頃、心地よい匂いと安心感に微睡む。

「…結城、」

3.諦める。



…なんて一生言わねぇから覚悟しといてくだせぇ。

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