オレンジDays。

□04
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「…何をしているのだよ」

『……ごめん』

雨が強い。痛むような、湿気の多い雨。


『(……そういえば、こういう時は必ず雨だなぁ…)

…真太郎は、雨男なのかな?』

「…それをいうならお前のほうが余程雨男らしいな…入れ。そこにいると邪魔だ」

『…ん』

秀徳高校、体育館北入口。
彼は変わらず、冷たくて優しい。


第4Q
それでも俺は



「あれー?真ちゃん、どちらさま?
…って、その制服、誠凛じゃね?」

「知り合いだ。近づくな高尾、お前のバカが移る」

「ひっど!真ちゃんひっど!」

『すみません、練習中なのに。』

「いやー、もう終わるから気にしないでよ。
つか高1でしょ?タメでいいって。
あ、俺高尾和成ってー「高尾ォ!何サボってんだ轢くぞ!!」げっ、すんません!じゃあまたな!」


賑やかに話す彼は、怒号を聞くと俺に手を振りながら走っていった
また、と手を振り替えして見送ると、その奥で彼を呼んだ人と目があって、頭を下げた


『…高尾くん、か、』

壁に寄りかかりながら眼を閉じて、息を吸い込む

汗とボールの匂いが充満した体育館。
バッシュが、床と擦れる音。
掛け声。たまの怒号。

ボールがネットを、くぐる音。


『…やっぱり真太郎の音はいいね。垂直に通る』

リングに引っかかる音もいいけど。と呟くと、結局なんでもいいのだろうと言われた。

『うん、まあ。でも、これが一番気持ちいい。』

「そうか」

単調な、それだけの会話。
真太郎はいつもわかってる、わかっているから、聞かない。
俺が冷静になるのを待って、それから


「まだ、引きずっているのか」


核心を、突いてくれる


『…さっきね、涼太が、誠凛に来た』

「むしろアイツがよくこの期間耐えたものだな…
それで、海常のマネージャーにでも誘われたか」

『俺、一番言っちゃいけないこと言った、バスケに本気じゃない人は嫌いだって、俺、

おれ…っ…みんなを否定した…っ』


いつからこうなってしまったのだろう
俺は何も進んでいない
立ち止まって、否定して、嫉妬して。

あの頃から、何も、


「それがお前の本音なのだろう」

『…』

「だいたい、黄瀬の発想は馬鹿馬鹿しいのだよ。
お前は、誠凛でやることがあるから、そこを選んだのだろう。
ならば自分の発言を悔いるより、行動で示すべきなのだよ。」

『…真太郎…、

俺、好きだったよ。俺は、帝光の、みんなが好きだった。みんなの…みんなでのバスケが好きだった。
…わがままなのかな、甘えてるだけなのかな、もう、みんなそれぞれ振り切って…進んでいるだろうに。
俺だけまだ、しがみついてる。』


燃焼されることのなかった後悔。
それでももう、ここまで来てしまった。

ずるずると、ぐだぐだと。


「しがみついていればいい。

お前がしたい事は何だ
お前があの日、俺に宣言した事は何だ。
引きずって、引きずり回してしまえばいだろう」

『……怖気づいたんだ、そんな、人の心が、変わるのかって。
怖いんだ、俺は、みんなが変わったことも、
みんなを変えようとすることも、怖くて怖くて。

どうしてだろう、俺はただ、ただっ、
みんなに、そのバスケは間違っていることを。
バスケは楽しくて、チームでやるものだと。
ただそれだけを伝えたいのに…っ』


涙が伝う。
ああ、真太郎が言った雨男とはこういうことか。
だって俺は、いつも泣いてばかりだ。


「七星」


真太郎が俺を包む

ああ、ごめん、ごめんね真太郎。
いつまでも彼に甘えてしまう自分の弱さに呆れてしまう。

どうしたらいいのだろう。
どうしたら自分の使命と、嫉妬とのバランスが保てるのだろう。


真太郎、
俺はそこまで、強くなかったみたいだよ。


「やめるのか。」

『やめたら…俺はなにになるんだろう』


透明になって消えてしまうんじゃないだろうか。
あの頃に取り残されてしまう気がした。


『わかってるんだ。
どんなに怖くても、やめることはできないって…
みんなに伝えなきゃならない。
勝手で、傲慢かもしれないけど。

でも、またみんなで、バスケがしたいよ…みんなで。
笑って、ふざけて、帰りにアイス食べてたあの頃みたいに。』

「傍で見守るのはつらいことになるのだよ。」

『そう、だね、…凄く苦しい。』


みんながそうなってしまった理由が、わかるからこそ。

苦しくて、哀しくて。


『それでも俺は、……やるよ。』


そう笑ってみせると、真太郎はやれやれと「落ち着いたか」と言った。

冷たさが優しい、
俺の大好きな友人。

『真太郎』

「なんだ」

『ありがとう、…大好きだ!』

「〜お前はまたすぐそんなことをっ」

『あはははっ!真太郎、顔真っ赤。』

「うるさいのだよ!!」


ああ、頑張らなきゃ
応援してくれる友人がいる
同じように願ってる友人も、いるのだから。

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