ふたご姫
□星霜記〜序章@〜
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辺りは一面真っ白。
どこまで行っても何も存在しない、完全なる『無』の世界だった。
霧が掛かっている様に、周囲の様子が窺えずファインは脅えていた。
「だ、だれかいないの〜?」
震える体を抱き締めながら、ファインは懸命に声を出しうろついていた。
「レイン〜」
「シェイド〜」
自分にとってかけがいのない存在の2人の名を呼ぶが、もちろん返事はない。
「も、もうダメ・・・」
疲れ果ててしまったファインは、足を三角に曲げ腕と頭をそこに乗せて座り込んでしまった。
体力に自信があったファインだが、どこか分からない場所を1人で歩き廻ることは精神的にも体力的にも辛いものだった。
その時だ。
今まで何をしても変化のなかった真っ白な空間に、異変が起きた。
霧掛かったような空気を、一瞬で入れ替えてしまうような突風が吹いたのだ。
それと同時に、風の吹いた方向から黒い人影が浮かんできた。
「レイン!?」
大好きな姉だと思ったファインは、疲れた体のことも忘れ、勢いよく立ち上がり、そこへ駆け寄ろうとした。
しかし、それはレインではなかった。
それには見たこともない男がいたのだ。
いや、男の子とも言えただろう。
それぐらい微妙な年頃の人間だったのだ。
彼は白い世界の中で見ると今にも消えてしまいそうに見えた。
なぜなら白いタキシードを着用し、存在感の薄い縁のない眼鏡を掛けていたからだ。
「あなた・・・だれ?」
いきなり見たこともない人間の登場に戸惑いながらもファインは声を掛けた。
しかしファインの呼び掛けを無視し、彼はファインをただ見つめた。
その表情は今にも泣き出しそうで、辛そうで、でも愛しそうなものを見ているようで、見ているこっちが切なくなった。
2人は見つめ合ったまま、全く動かなかった。
否、動けなかった。
沈黙が辺りに訪れる。
どうしようか迷っているファインをよそに、男は突然何かを決心した様で、表情を変えた。
そして左手を差しだし、告げた。
「君を迎えに来たよ」
男の手は震えていた。