ふたご姫
□星霜記〜序章A〜
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向日葵旅館は山間にある星霜村に位置していた。
星霜村はその名の通り、冬になると星のように輝く霜『星霜』が出来ることで有名な、ちょっとした観光スポットだった。
そのため、20年前に旅館建設ブームが起こり、一時期星霜村には10を越える旅館が建てられた。
しかし地球温暖化により、『星霜』が出来にくくなったため、次第に客足が遠退いた。
そして、気づいたときに旅館は、村の最も奥で目の前に河が流れている場所に位置する『向日葵旅館』と、山裾に位置する『月影旅館』の2つだけになっていた。
向日葵旅館の唯一のライバルである月影旅館は、江戸時代から続く老舗旅館で、現在の当主は15代目になるそうだ。
次期16代目当主であるシェイドも現在旅館の当主になるため、勉強に勤しんでいた。
「シェイド〜!」
「ファイン!」
「遊びに来ちゃった♪今、大丈夫?」
「あぁ。」
普通なら星霜村に2つしかない旅館の跡取り。
仲が悪くなりそうなものだが、ファインの天真爛漫な性格とシェイドの周りに影響されない頑固な性格により2人はとても仲が良かった。
「今日はこれを持ってきたよ!」
ファインはバックに、花畑が見えるぐらいご機嫌だった。ファインはシェイドに会える時が嬉しいのだ。
何でそう感じるのか、本人は分かっていない。
「何て言う和菓子だ?」
「『寒椿』っていうの。ブライトが持ってきてくれたんだ♪」
ファインの手には椿の形を型どった、水色の練りきりが2つ乗せられていた。
週に一回はファインから、またはシェイドからお互いの家に行く。
そこでファインは必ず自身が大好きな和菓子を持参するのだ。
シェイドもファインの為に必ず和菓子を持っていく。
「どう?」
一口『寒椿』を口に含んだシェイドにファインは伺う。
「うん。あんまり甘くなくて美味しいよ。」
「良かった〜。じゃあ私も!」
ほっとしたり、笑顔になったり。まるで万華鏡のようにコロコロ変わるファインの顔を見ることがシェイドには嬉しかった。