妄想部屋

□夢の痕
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「ほんと、痕つきやすいんだな」


大の字に晒された白い体を見下ろして、感心したようにディアッカが言う
何と言い返したらいいのかわからなくて、思わず視線を逸らしてしまった

場所によって、鮮やかだったり、鈍かったり
いずれにせよ、散りばめられた紅い色は、紛れもなく独占欲の証だった


「あとでちゃんと見とけよ」


で、オレを思い出してね、と
獣のような目で、余裕な口調で言う







この色が消えかけたときにまた、抱きに来る
まるで、その時期がわかるかのように


ディアッカが昇格し、共に行動することがほぼ無くなった
遠い星での任務に明け暮れているのか
時には1週間と連絡が付かないことも多い


『寂しがらないように』


ディアッカはそんなことをほざいて
オレの体に顔を埋める


わずかな痛みの代償に残された
愛の刻印


こんなものよりも
欲しいものがあるのに


…悔しいから
オレも、お返しをしてやった


それは少しの痣にもならなくて
余計に腹が立った


「やり方が悪いんじゃない?こうやるんだよ」


と、肌を強く吸い上げる
また増える、唇の痕








鏡の前に立ち
体中に付いたそれを指で辿る


鬱血の場所は、鮮血の色をしていて
傷をつけられたような錯覚に、唇を噛んだ


振り返っても
そこにはもう、奴はいない



わずかな時間で
これだけの余韻を残して行ってしまう


まるで、生殺し
タチの悪い奴だ



シャワーを浴びたあとも、根強く主張を続ける紅の花



その身を軍服に隠して
オレは今日も、強い自分を保つ



でも、時々
心が折れそうになったとき
ふと、自らの体を掻き抱いてしまうのは


残された体温を、その痕跡を
少しでも感じようとするからか



…会いたい



奴が帰ってから数日も経たないうちに
思わず、心でそう呟く自分がいた




会えないのは辛すぎる




『寂しがらないように』なんて




逆効果だぞ、こんなの





漆黒の空を見上げて
ひとつの考えが浮かぶ



至って、単純な結論



『会いに行けばいい』



限界が来る前に
オレが、オレでなくなる前に







数時間後
ドアを開けたディアッカの、間抜けな顔がそこにあった



声を出すより先に、腕を強く引き込まれて
天井が目まぐるしく回転した



その夜、ディアッカは痕をつけなかった
ただ、甘えたようにひっついたままで


クールな素振りをしていたくせに
オレと同じように、寂しい想いをしていたのかと思ったら
いつも素直じゃないとオレをなじるコイツに、また腹が立って


今度は思い切り
首筋に噛み付いてやった



「いって…!!」


オレの突然の奇行に
思わず声を上げたディアッカ




やり方は違っても、痕は痕だ




オレの、想いの証だ




褐色の肌を見下ろして
オレは、先ほどまでの寂しさが嘘の様に嘲笑ってやった



体にはまだ、ディアッカの唇の痕が無数に残っていたけれど



オレが、何よりも欲しかったもの




それは今、ここに
オレの目の前にあった

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