SKETCHES

□白夜と極夜のはざまに
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クラブハウス前の噴水の縁に腰掛けて待っていれば、すっかり身支度を整えた忍足が出てきた。
「待たせたな。行こか」
逆光の位置にある忍足の頭が門の外へ向くので、いじっていた携帯をしまって立ち上がる。
辺りにはじわりと夕闇が垂れ込めていた。
「どないやった?うちの練習」
「いつもクラスで見てるチャラチャラした忍足が、あそこでは一生懸命汗流してるのって変な感じだった」
「そこか」
隣にこんな風に並んだことがなかったので、改めてこいつ背が高いな、声が降ってくる、と歩きながら会話とは関係ないことを考える。
学校の敷地を出れば既に生徒の姿はまばらだった。
「……普段もチャラチャラしてるつもりはないんやけどな」
そう言いながら忍足は、自然な動作でするりとこちらの手を取った。
ぎょっとして思わず手を引っ込めようとした私の指に自分のそれを絡めながら、忍足は何でもないことのように笑い掛けてくる。
「『これ』は、思い出作りやろ?」
──一種のシミュレーションである、と認識してしまえば切り替えは早かった。こういうパターンを望んだ覚えはないが、内心面白がった私は手を握り返して、体を寄せる。
「どこ連れてってくれるの」
「ああ」
寄り添う私達の姿は、道行く恋人達に紛れ込んだ。
「最初は東京タワーとか、どや」
「ベタだね」
「ベタが一番や」
忍足の手はざらりと乾いていて、熱さも冷たさも感じない妙な温度だった。
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