捧げ物

□誰かための祈り
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星が瞬いている。
成都の一角にある、法正の家。そこの庭で、諸葛亮は家の主と酒を酌み交わしていた。
「初めてではありませんか、あなたとこうして顔突き合わせるのは」
いささか皮肉混じりに諸葛亮は言う。法正は鼻を鳴らし。
「心配するな。お前のような図体のでかい奴を押し倒す趣味はない」
「私だって嫌です」
愛妻家の諸葛亮にとって、少年との一夜限りの契りを繰り返す法正は理解の外だ。
諸葛亮は黙々と酒を呷った。気詰まり、というほどではないにせよ、間違えても仲がよいとは言えない相手と二人きりというのは気分のいいものではない。
用意された酒が空になる頃、諸葛亮は法正に切り出した。
「・・・そろそろ、お聞かせ願いませんかね」
「何をだ?」
「とぼけないでください。あなたが私をご自分の家に呼んだわけですよ」
一切の表情を削ぎ落とした顔をして、法正は杯を置く。そのまま立ち上がり――。
ヒュッ。
風を切る音とともに、鋭い剣の切っ先が諸葛亮の喉元に当てられた。
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