表参道

□歯磨き
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ある日の昼。
「ごちそうさまでした」
荀攸の部屋でお昼ご飯をご馳走になった楽進は、丁寧に合掌した。
「今日もきれいに食べてくれて、嬉しいですよ」
荀攸はニコニコして食器を片付け、入れ替わりに歯ブラシを二本手にして戻ってきた。
「さ、はじめるよ。文謙」
先日の健康診断で楽進に小さな虫歯が見つかってから、荀攸は歯磨きに力を入れるようにした。一緒に食事をした時は、こうして食後の歯磨きも共にするのだ。
しゃこしゃこしゃこ・・・。
「あー文謙、それじゃ荒いよ」
早速荀攸の「指導」が入る。
「歯の一つ一つを磨くようにするんですよ」
「は、はい」
楽進は言われた通りにしようとするが、これまで適当に磨いてきた楽進にとって、改めて歯磨きを意識して行うのは精神的につらいものがある。
「・・・文謙。もういいです」
ため息とともに荀攸は楽進から歯ブラシを取り上げた。
――荀攸殿に嫌われた。
楽進は悲しくて泣き出しそうになった。
「あーんして」
「え?」
唐突な台詞に楽進が荀攸を見つめれば、荀攸は心なしか頬を上気させて。
「私が磨いてあげますから、コツをしっかり覚えて下さいね」
「え、あ、あの」
「ほら、あーん!」

ごしごし・・・
奥から前まで、楽進の歯は荀攸に綺麗に磨かれる。
「気持ちよい、です」
楽進が思わず本音を口にする。荀攸は微笑み、頭を撫でて。
「歯磨きは、本当は気持ちいいものなんですだから文謙も、正しい磨き方を覚えましょうね」
「覚えるのですか・・・・・・」
「キチンと磨けるようにならないとダメ」
「それは、上手になるまで公達殿に磨いて頂ける、ということですか?」
素直な楽進の問いに、荀攸の顔が真っ赤になる。
「仕方ないね、文謙は」
上手くなるまでね、荀攸は磨いたばかりの楽進の唇に口づけした。
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