捧げ物

□誰かための祈り
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張り詰めた緊張感が、二人の間を支配した。
「諸葛亮、私はお前に問う」
法正の声は、いつになく峻烈に満ちていた。
「お前がその知謀用いるのは、一体誰のためだ」
諸葛亮は目を見開いて法正を見、そして目を伏せた。
予測されるべき問いだった。
益州に来て間もない諸葛亮と違い、法正は二十年近くここで生活している。当然大切な人々との交流もあろう。その彼らを兵士として戦場に駆り出すのは法正の、そして自分の役割なのだ。そして口で何と言おうと、軍師にとって兵士は駒でしかない。
だから、法正は問う。彼らの命を何に使うのかと。
「・・・答えろ」
法正の声が低さを増した。諸葛亮は凛と顔をもたげて法正の鋭い眼光を受け止めた。
「殿の天下を実現するために」
「蜀の民を犠牲にしてもか」
「血の一滴も流れない上に立つ天下などどこにありますか。ですからせめて、味方の損害を少なくするために私は奥義を使います。
それを冷血と笑いたいなら笑えばいい。しかし私は、このまま天下が分裂している方が民にとって大いなる不幸だと思います」
永遠とも思える時が過ぎて。
「今、とっておきの酒をだしてやる」
唇の端を上げ、法正は微笑む。剣を収めた彼の笑みに、諸葛亮は自分が益州の大地に受け入れられた徴を見た。
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