旧 霊皇戦隊セイレンジャー 1

□第7話・2
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都内・河川敷

ひと気がない河川敷‥草むらも風が吹いていないので、今日は沈黙したまま。

信代「仲間だなんて‥ともだちだなんて…みんなのうそつき‥」

信代の瞳から大粒のポロポロと涙が落ちた。


信代の過去‥12歳の頃


風丘邸

とても良い日和‥信代はひさしぶりに庭で、愛犬のポチと愛猫のタマと遊んでいた。

日頃、部屋に閉じこもっている信代だが、じいやである大石のススメと、
ポチやタマが熱心に誘うので、ようやく外へ出る気になっていた。

信代「ポチぃ、行くよ」

ゴム製の柔らかいボールを投げる‥嬉しそうに転がるボールを追いかけるポチ。

そのボールを追ってタマも駆けてくる。

久々に感じる風は心地よかった‥のたが‥涼しい風は変わり、生暖かく吹き抜けた。

信代「?」

ふと、空を見上げる。

信代「なに‥?」

黒い影の塊が空に浮いている‥

信代が不思議に思った瞬間、その塊は眼前へと瞬時に移動した。

それは‥血まみれで苦悶の表情を浮かべるの男性だった。

左手はもげ、左半分の顔面は額からささくれ状に傷つき、身体中から血が噴出している。

苦しそうに低い調子の唸り声を発しながら信代に迫った‥

あまりの怖さに信代は身がすくみ、身体が動けなくなってしまって泣き叫ぶ。

そんな信代の声を聞きつけ、じいや‥執事の大石は駆けつけた。

大石「信代お嬢様、いかがなされました!」

信代はその声で身体の自由を取り戻し

信代「じいや、じいや」

と、泣きながら大石に飛びつき、震えて抱きついている信代。

それからも‥いや、この以前からも、こう言う事は続いていた。

何かに突然怯え、泣き出す信代の姿はたびたび目に映ることとなっていて

そのため知人・親戚はもちろん、家の使用人まで

『薄気味悪い子』や『お可哀相に‥ご病気かしら』『とんでもないうそつき娘』

などと陰口を叩かれた。

そのために、信代は自室に閉じこもり、誰とも会わず喋らず‥

ふたおやにさえ悩みを打ち明ける事無く、重い心痛を抱えたまま暮らしていた。

両親は病弱な姉の看病や気遣いで手一杯‥

それもまた、信代の孤独を深めた理由なのかもしれない。

だからこそ、大石は信代をいっそうに想い尽くし‥

信代もまた、大石には少なくとも心を開いていた。

薄気味悪いとひそひそ話すメイドたちに大石は

大石「これ、バカなことを言うものではない」

と、たしなめた‥しかし、大石がことあるごとに陰口を叩く者達をいさめ、

わからせようと努力してもなかなか人の口にとは建てられなく‥。

信代の両親、厳と嬉もずいぶんと心を痛めていた。

大石「旦那様、奥様、お許しくださいませ‥わたしの力がいたらないばかりに
ずいぶんとご心労を‥なんと詫びればよいものか‥申し訳ございません」

厳「大石‥謝らないでください。

お前のせいではないのですから‥むしろお前はよくやってくれている。

感謝しているんですよ」

嬉「そうですとも‥あなたにはどれほどありがたいと感じているか。

それに比べて何もあの子にしてやれないこの身が腹立たしいのです‥

何のための母なのか‥あの子が不憫で」

涙を滲ませて話していた。

厳「学校でも浮いた存在のまま‥今では閉じこもって行くことさえままならない‥

勉強だけなら家庭教師もつければ何とかなります。

何人でも、何十人でもあの子につけてもやれます‥簡単なことだ。

しかし、学校と言うものはそんな学問だけでは学べ無い事を勉強する場所だと
私は考えるのです‥友達に先生方‥そう、友情や敬愛、色々な人間関係の中で
自分と言うものを殺す事無く、相手を生かして、
人と人のつながりをどうやって構築していくか‥成しえるのか。

それは人とぶつかったり支えあったりしながら、
そこから学び取って積み重ねて身に着けていくもの。

数式や化学式では決して解き明かせない問題です‥

だからこそ、信代にはこの苦しみを乗り越えてもらいたい」

嬉「それでも‥親ですもの‥我が子が泣けば、我が身を切られるように心が痛みます‥

可愛い子供が、誰かのそしりや心無い行動で傷ついたなら、

引き裂かれるほどにこの胸が痛みます。

それほどそしりたいなら、罵りたいなら私をそしればいい、罵ればいい‥

それほど信代を傷付けたいのなら、私を傷付ければいいのに‥。

あの子には何も罪はないのです‥なぜ、あんなふうにあの子が言われなきゃいけないの‥

あの子がなにをしたって言うの‥代われるものならば、あのこの苦しみを私が
代わって背負いたい‥どんなに代わってやりたいか‥あのこの苦しみを間近で知りながら
何もしてやれない私です‥この身に煮えたぎった油をかけられたとしても、
この手に、この目に、釘を打たれたとしても、あのこの苦しみを代われるものならば
どれほど心休まることでしょう‥そう思うのですよ‥」

厳「私たちにも正直、あの子が何に怯えているのか‥何を恐れ、泣き叫ぶのか
まったくわからないのですよ‥加えて、純代のことで私たちも手一杯‥いけませんね。

どちらの子にも目を届かせ、気を配らなくてはいけないと思いつつも、出来ずにいる‥

信代が何を見ているのか‥何を感じているのか、まったくわからない‥。

親ならばこそ、無力がいちばん堪えますね‥

私たちに出来ること‥あの子を、信代を見守るしか出来ない‥

それが、今の私たちに出来る精一杯のこと‥情けないことですが」

父と母もまた、病の純代と苦しむ信代‥2人の娘を想い、悩んでいた‥


信代の過去‥13歳の頃


風丘邸内・信代自室

薄暗い室内‥窓辺の厚いカーテンは閉ざされたまま。

照明もつけず、パソコンはほこりをかぶったまま‥

テレビの画面の仄かな灯りだけがこの部屋を照らしている。

音声音量は消音と表示されていた。

ベッドと壁のわずかな隙間の床に、信代は両足を抱えるようにして座っている。

『誰もわかってくれない‥わたしをわかってはくれないんだ‥』

脳裏に思い起こされる言葉‥

気味悪い‥頭おかしいんじゃない?‥キモい‥

心に突き刺さり、えぐってゆくような言葉の数々。

父・厳は何があったのかと聞いては来るが答えたってわかるはずもない‥

母・嬉はただ私に質問ばかりする父と、時には口論までして私を抱きしめてくれた。

抱きしめては心配してくれる母‥いや、きっと父も心配してくれている。

それはじゅうぶんわかっているのだけれど‥

それでも、私に見えるあの恐ろしいモノは、父にも母にも見えていない‥

言ったってわからない‥みんなそうだったもの‥学校でも、お部屋を掃除しに着てくれる紀子さんだって、みんな聞いた後は‥私のそばへ近づこうとしない‥ヒソヒソ誰かと話す。

だとしたら‥お父様もお母様もみんなと同じようになる‥嫌だ‥ぜったい‥ヤ‥。

私、わかった‥見えているもののが何なのか‥あれは死んだ人だ‥

死んでしまった人が私には見えるんだ‥それだけじゃない、
最近はフツーに生きている人と合ったって見たって、
その人の過去・現在・未来が見えるようになっちゃった‥

これって、フツーじゃないんでしょ?

違うよね‥フツーじゃない‥みんな言うもん‥お前、気持ちワリィーって。

バケモノだって、私に言うもん。

学校に行ってても、街を歩いていても、お庭にいても、あっちこっちに血を流した人や
腕、足がちぎれたり穴が開いていたりの人、苦しそうな顔をしている人に泣いている人‥

怨みや怒りでヘンになっちゃっている人‥たくさん見える。

歩いている人たちの心の中の声がわたしの中にズカズカと押し入ってくる‥

うるさい‥うるさい、うるさい、うるさぁい!

誰も入ってこないで!

姿を見せないで‥わたしをそっとしておいてよ‥。

信代の心は疲れ果てていた‥

何もわからないまま、心に流れ込んでくる運命と言う名の情報‥瞳に映る死者の叫び。

力をコントロール術をいまだ持っていない信代を苦しめ、疲れ果てさせる。

信代「怖いよ‥」

それは、しぼりだすような声だった‥手に持っているのはカッターナイフ。

テレビの灯りを鈍く反射させるカッターの刃を、信代はそっと左手首にあてる。

鈍い光は、悲しげだった。

『これで何もかもすむのかな‥』

心の中で彼女はそう呟いて、カッターナイフに力を込めた。

純代「呼んだぁぁ!!」

いきなり信代の眼前に、上から顔を見せる姉の純代。

信代「うわあぁぁぁ」

心臓が口から飛び出てきそうなくらい驚いて、ベッド上へと逃げた。

信代「お、お姉ちゃん‥どっから入ってきたの!?」

純代「どっからって、入り口からに決まってるでしょ」

言いながら、信代が放り投げたカッターを拾い、刃を引っ込めて自分のポケットに入れる。

信代「入り口からってお姉ちゃん、私 鍵閉めてたよっ」

純代「鍵なんてちょろいちょろい♪」

針金1本片手に、純代はケタケタと笑っている。

信代「習得したんだ‥鍵師さんの技術‥」

純代「ちょっとしたコツなのよねー‥これで999の技を会得したからね。

1000番目の特技はなんにしよっかなぁ♪占いとか興味あるんだよぇ‥やりたいなぁ」

純代は生まれつき心臓が弱かった‥残念ながら、成人式は迎えられないでしょう‥

医師からそう宣告されていた。

それを知った純代は、幼い頃より語学や楽器、絵画、書道‥

様々なことを習得するようになった。

私がこの世界にいた証‥証を残すために純代は1000の特技を持つことを決めている。

会得した技999‥残りあとひとつ‥それはまた、別れが近いことを示しているようで
厳も嬉も不安を隠せなかった。

しかし‥彼女は間近に迫るタイムリミットを気にする事無く、
『今』を大切に生きている。

純代「なにぃ、真っ暗な部屋でさぁ‥ジメジメジメジメ‥

ナメクジぷりんせすじゃないんだからっ」

カーテンを全開にし、窓も開ける。

部屋の中に吹き込む心地よい風‥

風に乗って木々の匂いや花々の香りが信代の部屋を訪れる。

信代「あ‥いい匂い‥もう咲いてたんだ‥」

それは、信代の好きな すずらんの花の香り。

純代「ったく、人がちょっと寝てたらさぁ‥何?この暗い感じはっ‥おっもい空気。

家ん中のみーんな、ゾンビみたいな顔しちゃってさ。

こちとら、三途の川のほとりから帰ってきたってのにさ♪」

この半年‥純代はまた入院で、意識不明の状態にも陥り‥生死をさまようこともあった。

次は‥覚悟してくれと医師から言われたそうだ‥早めのゴールか‥1等賞だね、私‥

純代は笑顔で言ったという。

信代は、そんな姉の泣き声を‥泣き叫ぶ声を聞いていた‥心の中でしっかりと聞いた。

退院後すぐに、純代は海外へ行きたいと言い出したが、それは身体が許してくれず、
代わりにアメリカンスクールや朝鮮学校、海外からの留学生や就労者の方たちとの
交流の場へと出かけたい‥人が生きると言う事、世界は回る‥命の力で回る‥

その事を感じ取りたい、各国の人と言葉を交わしともに笑う‥多くのことを学びたい‥

そんな経験がしたいと願った。

嬉は疲れるから人前に出て、話したり騒いだりするのはよくないと反対したが、
厳はとても喜んで協力すると‥賛成してくれた。

暮らしと言うものは、国が違っても本質は変わりないもの‥

人が笑い、泣いて、怒って‥風習や文化の違いはあるにせよ、

『暮らし』そのものの本質はけっして違わない。

それを理解してこそ、真の国際人だ‥父・厳の持論。

純代「目指せっ! 地球人っ!!」

国境など人が勝手に引いた、目に見えぬただの線‥

異なる言語など、勉強すればよいだけのこと‥違う宗教だとしても神様は神様っ。

ありがたーいことに変わりはないっ!あっ‥もち、仏様もねっby純代♪

せっかくこの星に生まれたんだもの、この星に住む人たちがどんな風に生きているのか、
暮らしているのか、確かめたい‥感じたいっ。

日本人だとかアメリカ人だとか、韓国人、中国の人、アフリカの人‥世界の人…

そう、私たちは地球人なんだ!!

純代はよく、信代に話してくれた。
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