付喪堂綴り・1

□第7章・1
3ページ/5ページ

伝助「なんや、急に泊まらせてとかゆーて 堪忍な」

紅「なんで? 困ってるときは、お代官様だよ」

伝助「[困ってるときは、お互い様]やんっっっ」

また笑顔でハイタッチの2人。

伝助「あーオモロ♪」

紅「へへへへ♪ホント、めっちゃ面白いね、伝助さん」

伝助「ホンマ ホンマ、ごっつオモロイ‥ん?」

確か今、紅は自分を[伝助さん]と呼んだ。

伝助「紅ちゃん、僕のことわかるんけ?」

紅「うん」

伝助「なんで!?」

紅「だって‥雰囲気が伝助さんそのものだし、京都弁の強い関西弁もだし

なによりその‥」

伝助「なにより‥なんや?」

紅「ほ、ほら、愛・伝えまフォン-赤

持ってるしねー♪」

伝助「あぁ、これで」

人間の姿になっている伝助には小さいが、確かに手にしていた。

でも‥肝心な部分を言えないのは、紅らしいというかなんというか。

『なにより、私は伝助さんのことが好きだから

手にしてるものや雰囲気でわかるの』

大事なことは言えずじまい‥気持ちは心の奥深くに秘めたまま。

伝助「ほしたら‥」

愛・伝えまフォンから取り出した、継・笹葉魂撃守國景も

伝助「おもちゃサイズやん」

小さい子が持つ、おもちゃのサイズ。

伝助「アカン‥もし今、夢魔やSSD、モンスタリアが襲ってきたら
どないもこないも出来ひん」

ワリと事態は深刻だが、かといって どうしようもなく。

こんな時は話題を変えて

紅「そうそう。

昨日は私の誕生日、お祝いしてくれてありがとー」

伝助「あ、どういたしまして」

お互いペコリとお辞儀。

伝助「そやけど、助かった」

少し明るくなったところで

紅「ねえねえ、なんでその姿に?」

興味津々な状態に、質問してみる。

伝助「んー‥それがハッキリしたことは、僕もわからへんねん。

おそらくは、心水晶の影響やと思うんやけど」

紅「付喪堂のみんなは?」

伝助「この姿になったんは 僕だけやと思う。

夕べは僕だけが心水晶を調べとったさかい」

紅「じゃ、これからみんなも変わるってことは?‥」

伝助「それも心配いらへん、だいじょうぶや。

さっき整備室のマニピュレーターを、遠隔操作して

心水晶は特別保管箱のなかに しもぉた。

念入れて、缶吉にメールもして
心水晶には当分近づいたらアカンでと伝えたで」

紅「じゃ、大丈夫だね」

伝助「せやな」

紅「それじゃあ、このことは」

伝助「僕のこのことは、まだ誰にも言うてへんねや。

まぁ突然、この姿になってもぉたゆーても

みんな混乱してまうやろし、僕のこの変化が一時的なもんなんか、ずっとこのままなんか
まだ詳しゅうわからへんよってに。

せやさかい、誰にも言わんと紅ちゃんのとこにやってきてん。

総右衛門たちや雪永ちゃんたちには、まだナイショにしとってな。

そうそう、とくにルナには」

伝助がいきなり人間になってしまったと知ったらルナはショックを受けるかも知れない‥

いや、今朝のあの話なら

逆にこの姿に喜ぶか?

それはそれでなんか、ムカッと来る。

男はホント‥馬鹿な生き物。

紅「じゃあ、私と伝助さんだけの秘密だね」

伝助「そーゆーことになるな‥頼んどくで、紅ちゃん」

紅「らじゃー♪」

目元に横にしたピースサインで、紅は答える。

内心『2人だけの秘密』の響きに
あーんな想像や、こーんな妄想がポンポンと浮かび出て

ドキドキするやら、デレデレするやら。

そんなこととはつゆ知らず

伝助「それにしても」

人間の姿で食べるご飯は‥

伝助「なんや、ヘンな気ぃするわ」

苦笑いを浮かべて、元気よく ご飯のおかわり。


都内

せっかく仲間たちが気を使ってくれ、1人外出する機会を楽しむはずが

かえって寂しくなってしまった感があるルナ。

トボトボと歩きながら『もう帰ろうかな』そう思っていた時のこと。

ドン‥誰かとぶつかってしまう。

相手は女子高生。

『きゃっ』と小さく驚いた声。

ルナ「ゴメンなさいね、ちょっとよそ見したから」

彩恵「いえ、いいですよ」

矢代 彩恵だった。

彩恵「あっ」

ルナ「え?」

彩恵「その服‥キレイ」

ルナの来ている純白の衣服‥背中のリボンが特に可愛くて

彩恵「いいなぁ。

それ、どこで売ってるの?」

ルナ「んー‥売ってはいないんですよ」

彩恵「ウっソ、じゃあ作ったの!? あんた、お金持ち? スゴっ」

ルナ「まぁ‥なんというか」

彩恵「いいなぁ、背中のリボン」

可愛いと、とても欲しそうに見ている。

ルナ「そうですか? そうだなぁ‥ね、私のともだちの会長が
洋裁も和裁も先生レベルなの。

もしよかったら、その先生に頼んでみましょうか」

彩恵「マジ!? ホントなら嬉しいんですけどぉ」

ニコニコとするその顔に、まだ幼さが残っていて
ルナも微笑んだ。

ルナ「だったら、どんな感じがいいのか
もう少し詳しくお話、聴かせてください」

彩恵「そーね」

いい店を知ってると、彩恵はルナを連れて歩いていった。


いちごみるく

食事休憩も終えて、紅はまた店番中。

茜は午後から用事で抜けて

代わりに、泊めてもらう代わりの約束通り
伝助も店番をしていた。

茜は『クリスマスも終わったから、仕事はヒマになるよ』と言っていたが

イケメン化している伝助を見て

『芸能人級のイケメンがいる』と世の女性たちが
一目見たさに押しかけて、普段以上の客入り。

伝助「はーい、順番は守ってやぁ」

『はーい♪』

奥様方もお姉さん方も、女子中高生の子たちも

みな瞳をハートにしてケーキを買ったり、数少ない席を争って店内で食べたりしている。

伝助「うひゃっひゃひゃっひゃっひゃっ♪

儲かりまんなぁ」

紅「そーでんなぁ♪」

ニタニタ、ニヤニヤ、ニコニコの2人。

あっという間にケーキは完売で‥

伝助「ほな、また会いまひょ」

『はーい♪』

美形に弱いは、男性も女性も同じといったところか。

ケーキをすべて売り終え、予定よりも早く店を閉めることにした。

紅は店を閉め、伝助を連れてデート気分を楽しもうと考えていたのだが‥

とりあえず、お客さんが去った後の席の後片付けをしていると

『こっち、こっち』

店に入ってきたのは彩恵で、後ろから

ルナ「あ、ここは‥」

紅「いらっしゃいま‥ル、ルールルルルルールルルルル!!!」

夜明けなスキャットかっ。

いきなり現れたルナに紅は必要以上に気が動転している。


彩恵「シュークリームセット、2つぅ」

ハッとなって紅が伝助を隠そうとしたが、すでに姿はなく。

彩恵「ねえねえ、聞いてんの?」

紅「は? あっ、えっと‥ハンバーグ定食2つですね」

ルナ「紅さん、ファミレスじゃないですよ」

紅「い、いけない、前のバイトのクセがっ」

彩恵「早くしてよー」

紅「あ、あの、今日はケーキも何も全部売り切れてしまって‥

申し訳ございません」

彩恵「えー、売り切れ? ならもっと作ればいいのにさぁ」

紅「すみません」

ルナ「あの、私このお店の人と おともだちで」

彩恵「うっそ」


ルナ「本当なんですよ。

だから、怒らないであげてほしいんです」

彩恵「そっかぁ、でもなぁ‥ここのケーキ、美味しいんだよな」

ルナ「常連さんなんですか」

紅「よくおいでになってくださってますよね」

彩恵「顔、覚えててくれたんだ♪」

機嫌が直った様子。

彩恵「ともだちと食べに来たりするし、よく買ってきてももらってる」

ルナ「そうなんですか」

彩恵「子供のころから、誕生日ケーキはいつもココのケーキなんだ」

紅「ありがとうございます」

ルナ「紅さんのお母さんが作るケーキはもちろん

紅さんのケーキも、とっても美味しいですからね」

そんなルナの笑顔に、紅の心がチクッと痛む。

伝助が人間の姿になったことを黙り、しかもそんなときなのに
デート気分に浮かれてしまう自分のズルさに落ち込んでしまう。

ルナ「紅さん? だいじょうぶですか。

なんか元気がないみたい」

紅「えっ? う、ううん! なんでもないよ、元気っ 元気っっっ」

天使にウソをついた私は罰当たりだと感じる。

紅「そうだ、ちょっとまっててください‥えっと‥スポンジケーキはっと‥」

材料を確かめて

紅「スポンジケーキの切れ端がありますから

それを集めて‥すぐにチョコを溶かして、コーティングしてベースにして

あとは‥うん、デコレーションで何とかできる‥

あの、イチゴのチョコレートショートケーキ‥で、いいですか?」

彩恵「作れるの」

紅「はい、少しだけお時間をいただけたら」

彩恵「じゃあ、それでいい」

ルナ「私、ミルクティー淹れますね」

紅「いいの いいの、ルナさんもお客さんとしてきたんだから、座ってて」

ルナと彩恵を座らせて、紅はまずケーキに使う材料を取り出しに冷蔵を開けた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ