旧 霊皇戦隊セイレンジャー 1
□短編・お正月編
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公園 フリマの会場から少し離れた場所にある公園のベンチに、
犬のぬいぐるみは置き去りにされていた。
購入した女性はこの公園のベンチの前までやってくると、
ふいにぬいぐるみをベンチに置き、どこかへと行ってしまった。
冷たい風がピュ~ピュ~と音を立てていた…。
犬のぬいぐるみ「ふぁ‥ふぁ‥ふぁっくしょーい!」
くしゃみをする犬のぬいぐるみ。
犬のぬいぐるみ「はぁ‥またまたお役御免‥捨てられてしまったのでしょうか?」
喋りだす。
犬のぬいぐるみ「人と言うものはまこと身勝手な生き物にございますなぁ…捨て置かれる
ものの気持ちなど、まったく案じてはくれませぬ。はぁ‥これからわたくしめは、
いかがいたしたらよいものか…」
途方にくれ、落ち込んでいる。
伝助「もっしもぉしぃ♪よぉやっと喋ってくれたな」
伝助が木陰から顔を覗かした。
驚く犬のぬいぐるみ。
犬のぬいぐるみ「で、でたぁ~!おのれ妖怪、物の怪めぇ!怨敵退散っ怨敵退散!!
南無阿弥陀仏!
南無妙法蓮華経!!
主よ、この悪霊を打ち払いそうらえっアーメン!!
きぇぇぇいぃぃぃぃぃぃ!」
拝み叫ぶ犬のぬいぐるみ。
伝助「まったらんかぁぁぁいっ!おどれはなんなんじゃいっ!」
肉球模様の手鏡を犬のぬいぐるみに見せる。
犬のぬいぐるみ「あ…」
こっちもそっちもぬいぐるみ‥。ようやく犬のぬいぐるみは落ち着いた。
伝助「ゴホンっ、落ち着いたようやな。ま、気持ちはわかるで。
ぽいぽいぽいぽい、人間の勝手で捨てられて寂しゅうなって。
ほしたらいきなりこんな男前の只者やなさそうなニヒルでイケてるアゲアゲな
熊猫さんの僕に出おうたもんやさかい、
びっくりたまげた主水さんと時代劇は必殺です、になってもぉたっちゅう事はよぉわかる、わかりまっさ♪」
ウンウンと頷く伝助。
犬のぬいぐるみはその間、なにやらのたまうこの熊猫を珍しそうにボーっと眺めていた。
伝助「チミっ!行くところはあるのかいっ!?」
その質問にハッとなる犬のぬいぐるみ。
犬のぬいぐるみ「行くところ‥そんな所、そんな所があるわけございませぬっ。
わたくし、今日より浪々の身なれば流れ流れて朽ち果てるのみでございまする。
居場所なぞ、安住の地なぞ、わたくしにあろうはずもございませぬ‥これもさだめに
ございましょう、わたくしめに落ち度、あやまちがあったればこそ‥落ち度、
あやまちが…」
悔し泣きする犬のぬいぐるみ。
あんなに喜んで抱いて帰ったのに‥毎日、毎晩手にしては彼に電話をかけて
会話したあと、必ずチューとしていたのに、
あの日…帰宅したかと思えば無造作にわしづかみされ、
突然、壁に投げつけられ蹴られた挙句、
ダンボール箱に押し込められ家を出されてしまった‥なんの落ち度があったのだろう?
悔しくて悔しくて、涙がとまらなかった。
そんな犬のぬいぐるみを背後からそっと持ち上げ、抱きしめる満優。
犬のぬいぐるみ「!?」
満優「かわいそうに‥あなたが悪いわけではないのです。あなたを捨てた者も悪いのでは無い‥ただ弱かっただけ。
心が幼いゆえに誰かにあたらねば自身を保てなかった…
代わりに私があやまります。ごめんなさい‥」
犬のぬいぐるみ「う‥うぅ…うおぉぉぉん!うおぉぉぉん!」
切ない泣き声、涙がとめどなくあふれてくる。
満優にしがみついた‥悔しさも、悲しさも、すべて忘れるほどに…
ただ、満優に抱きついた…。
しばらくして
満優「どうです‥私たちと共に精霊の森で暮らしませんか?
私も、ここにいる伝助もそばにいます。
火に風、水と土‥精霊の歌声を聴きながら、穏やかにすごせばきっと、
あなたの傷ついた心も癒えることでしょう。さ、私たちと一緒に…」
満優の手から離れた犬のぬいぐるみに手を差し伸べる伝助。
伝助「おまえの行く場所はあるっ!ここやっ!」
自分の右隣を指す。
伝助「今日から僕の、この隣がおまえのおる場所になるんや!
そうやっ!右におるんやから、キャラが爺くさいんと右っちゅう字をつこてぇ‥
総右衛門!
今日からお前は総右衛門や♪」
ニッカリとした笑顔。
総右衛門「あ‥ありがたき幸せに存知まするっ。若っ、若に一生ついていきまするぞっ!」
抱き合う伝助と総右衛門。
静かに微笑んでは2人を見守る満優だった。