旧 霊皇戦隊セイレンジャー 1

□短編・バレンタイン編
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ボスの屋敷 大豪邸。

さきほど、殺し屋が現れたと騒ぎがあり、殺気だっている庭。

5人の屈強な手下の男たちが見張っている。

プシュ!プシュ!!

サイレンサー銃の銃声が静かに響く。倒れる手下2人。

異変に気付き、駆け寄る2人‥ふたたび無音の銃声が命を奪う。

何も知らない1人の手下‥背後から音も無く忍び寄った何者かのナイフで、
喉を掻っ切られてしまう。

それは恐るべき手際‥そんな事は露知らず、豪邸の一室でワインを楽しむ
ガウン姿のマフィアのボス・マルコ。

かたわらにはボスの一人娘・モニカが遊んでいる。まだ5歳だ。

部屋の奥では、その子の母親・セレーナがドレッサーの前で髪をとかしている。

モニカ「パパ、おいしいパンよ、はいどうぞ」

ハンカチを丸めたものをパンに見立てて差し出す。

マルコ「ハイハイ、ありがとう」

一人娘が目に入れても痛くないほど可愛いボスのマルコは、ニコニコと微笑んで
ハンカチのパンを受け取った。

セレーナ「モニカ、またパン屋さんの真似?好きなのね。マルコ、モニカのパンは
とっても美味しいわよ、フフフ」

マルコ「そうか、そうか。ハハハハ、じゃあ、いただくとしよう」

目を細め、娘を愛しい眼差しで見る。

このひとときは、とてもマフィアのボスとは思えない様子のマルコ。

モニカ「はい、レオンも‥」

ガシャーン!

窓ガラスが突然割れ、続けて何発もの銃弾が3人を襲う。

マルコはモニカをかばう‥セレーナはそんな2人に近づくことすら出来ず、
悲鳴をあげながらその場に伏せた。

ソファーの後ろに隠れるマルコとモニカ。

セレーナもドレスケースの陰へと身を潜める。

訪れる静寂…小型の銃をガウンのポケットから取り出す‥したたり落ちる汗。

マルコ「くそっ」

静寂と緊張に耐えかねて、起き上がり発砲する。

マルコ「ぐわぁ!」

姿を見せない殺し屋に左腕を撃ち抜かれ、倒れてしまうマルコ。

モニカ「パパ!」

セレーナ「あなた!」

マルコは血が流れる左腕を抑えながら、座り込む。

死が近いことを知り、観念してしまったのだろうか?

殺し屋の声「フフフ‥もらった」

冷徹さがにじみ出た声で一言発し、ヌッと現れる手‥銃を持っている。

撃ち出される一発の銃弾。

マルコ「ヒ、ヒィィィ!」

やはり死への恐怖には耐えられず、声が漏れてしまう。

モニカ「パパぁ!」

セレーナ「いやぁぁぁ!」

キーン!

高音の衝撃音を残して、弾丸は何者かに弾かれた。

セレーナ「!?」

マルコ「あ‥あぁ…」

モニカ「え‥?レオン‥レオン!」

涙を浮かべていた顔が、笑顔へと変わる。

そこには、ウサギのぬいぐるみが立っていた。

手にはモニカが遊ぶためにキッチンから持ち出していたフォークが数本。

殺し屋の声「バ、バカな‥俺様の弾丸をフォークなんかではじいただと!?」

ウサギのぬいぐるみ「姿を見せろ‥」

この状態に驚きつつ、風にばたつくカーテンの影から姿を見せる殺し屋。

殺し屋「お、俺は夢でも見てるのか?」

ウサギのぬいぐるみ「夢か‥お前がこの世で見る最後の夢だ」

殺し屋「なっ!?」

その刹那、殺し屋の両腕と両足に突き刺さるフォーク。

よろめく殺し屋。

ウサギのぬいぐるみは猛スピードで移動、顔面を殴る。

殺し屋「うわぁぁぁぁ‥ガッ!」

倒れる。

この一撃で気を失ったようだ。

ウサギのぬいぐるみ「次に目を覚ました時には冷たい監獄の中だ‥夢さえ凍てつく
暗い獄舎で朽ち果てろ…今まで摘み取ってきた命への贖罪に」

モニカ「レオン!」

気絶した殺し屋を破ったカーテンで縛り付けているウサギのぬいぐるみへ
名を呼びながらモニカは駆け寄った。

ウサギのぬいぐるみ「モニカ‥悪いな、俺はレオンと言う名ではない。

俺に名など無い‥必要も無い。この5日間、世話になった」

それは5日前の事、公園に遊びに出かけたモニカ。

公園の噴水前にあるパン屋の看板が妙に好きだった。

しかし、ともに遊ぶ子などいない‥誰にも遊んでもらえず、いつも寂しい思いをしていた。

それも仕方の無い事か‥警察さえ恐れるマフィアの一人娘、ましてぞろぞろと

護衛のためとはいえ、屈強な手下たちがついていたのでは。

そんなときのことだ、噴水の縁になぜかポツンと座るように置かれてあった

ウサギのぬいぐるみ。

とても気に入ったモニカは、屋敷へと連れ帰った。

ウサギのぬいぐるみ「水を飲んでいて‥寂しそうなお前の顔が気になってな」

モニカ「レオン」

ウサギのぬいぐるみ「モニカ、すまん‥お別れだ」

モニカ「え?レオンっ」

へたり込むマルコへ向かって

ウサギのぬいぐるみ「父親‥娘が可愛いか‥愛しいか…だったらマフィアなど
やめてしまえ。

たった一つの命、家族との日々に使ってやれ。母親‥モニカを大事にな。

モニカ‥楽しかったぞ…パン屋になる夢、大切にしろよ‥さらば」

別れの言葉を残し、ウサギのぬいぐるみは姿を消した。

モニカ「レオンっ、行かないで、レオンっ!行っちゃやだぁぁぁ!」

泣き叫ぶ‥その声を背に聞きながら、街を屋根伝いに走るウサギのぬいぐるみ。

ウサギのぬいぐるみ「明日からは1人じゃない‥お前は普通の子供になる‥

マフィアの娘ではなく、普通のパン屋を夢見る女の子にな‥

友達をたくさん作れ、モニカ…」

走る前方に、パンダと犬のぬいぐるみが現れた。

伝助「チョイとお待ちよウサギさんっ!」

総右衛門「あいやしばらく、しばらくお待ちの程をっ!」

ウサギのぬいぐるみ「なんだ‥お前達は?」

身構える‥殺気が伝わってきた。

伝助「ちょちょちょ、ちょっと待ちぃなぁ。

タンマやてっ!

なんも、おまはんとやりあう気はないねん。

ないないっ、おまへんがな」

総右衛門「さようでございまする。

お気を静かにしてお聞きなされいっ」

ウサギのぬいぐるみ「いったい俺に何のようだ」

伝助「いんやいやいや、お前、つおいやっちゃなぁ。

でもな、なんぼつおぉても心ん中で泣いとったら、いつかは負けるで」

キッと睨むウサギのぬいぐるみ。

総右衛門「やややっ、お気に触ったのならば、なにとぞご容赦を。

ですが、若のおっしゃることはごもっともにございまするぞ。

貴殿、生まれいでし時より、人と関わることをきらい、

たった1人でこれまでお生きになられたとお見受け申す。」

ウサギのぬいぐるみ「調べた‥か。ヒマな奴らだ」

総右衛門「いえいえ‥されど、生き方と胸中は違いますようで」

ウサギのぬいぐるみ「なに?」

総右衛門「襲い来る者を伏せ、挑む者を砕き‥まさに血の海を己が爪と牙で渡る
修羅のウサギ。

が、心に吹き込む風にいつも凍えておられよう‥

それは、虚無の心にございまする。

ご貴殿が信じ、渡られる血の海の果てにいったい何がありましょうか?

死、のみでございまするか?

では何のために生まれて来たのでございまする?

貴殿はお1人で生きているのではございませぬぞ。

生れ落ちる時すでに、誰かの力を借りているのです」

ウサギのぬいぐるみ「フッ‥親などおらぬ」

伝助「工場のおっちゃんやおばちゃんがおるやないかっ」

総右衛門「ヤンさん、ホイさん…もっと言えばベルトコンベアーに

オートメーションの方々…様々な力を借りて生まれた我々ぬいぐるみさんが、

何故に1人でございますっ?

その体に詰まる綿に聞いてみなさいませっ!

貴殿の心にある虚無を、しかと見詰められませいっ!」

伝助「せやからどーや?

僕らの仲間になったらえぇやん。

一緒にけぇへんか?」

ウサギのぬいぐるみ「断るっ」

伝助「即答かいっ!」

総右衛門「まま、そう答えを急がずともよいではござらぬか」

ウサギのぬいぐるみ「いらぬ詮索は無用‥俺の心は俺が知っている」

満優「では、募る寂しさは何故ですか?」

姿を見せる満優。

ウサギのぬいぐるみ「誰だ!」

満優「わたくしたちは精霊の森より参りました者‥満優と申します。

あなたの心の虚しさを聞き、迎えに来たのです」

ウサギのぬいぐるみ「迎えだと?」

満優「そうです。わたくしたちと精霊の森へ参りましょう。

あなたの寂しさ‥虚しさ‥火とともに歌い、水とともに喜び、

土とともに笑い、風とともに走り‥。

そうする事で、あなたの心に穏やかな光が差し込むことでしょう」

伝助「僕の名前は伝助。満優様のお心を伝え、助けるから伝助」

総右衛門「わたくしめは総右衛門にございまする。

若のお側‥右に座すゆえにてござる」

伝助「満優様のゆーとおりやっ、僕らと一緒に行こやないかっ!

せやなぁ‥総右衛門が右っ方におるさかい、おまえは左やっ。左におるさかい‥

そやっ!

源左衛門っ、源左衛門に決まりや!

どやっ」

にっこりと笑う。

総右衛門「若、とても良き名にございまするな。源左衛門殿、よろしくにございまする」

ウサギのぬいぐるみ「フッ‥源左衛門か…この俺に名など無い‥必要も無い‥

雲のように流れるだけ。何処で朽ち果てるかは俺の勝手‥それでいいっ!」

その言葉を残し、姿を消した。

伝助「あ!待ちぃやっ‥」

伝助と総右衛門は後を追おうとする。

満優「お待ちなさい。時がかかりましょう‥凍てついた心をとかすには」

暖かな日が差す午後の事だった‥。
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