旧 霊皇戦隊セイレンジャー 1

□桃の節句編
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善蔵の回想・1945年‥昭和20年3月1日

善蔵「はぁはぁはぁ‥くそっ、一太郎のやつ!
うっ‥ぐ‥う、うぅ」

悔し泣きの少年・善蔵‥手には汚れたお守り袋を持っていた。

今日はこの村に疎開してくるさいに、母親からもらったお守り袋を
肌身離さずに持っているのをからかわれ、ケンカになってしまったらしい。

負けるとわかっているのについ、母親や父親の事を悪く言われて
頭にきてしまったのだ。

疎開する前に兄が戦死したとの知らせが届いた。

父も戦地に赴いたまま、連絡が途絶えたっきり‥母は姉を連れて別れ際、
このお守り袋を父さんや母さん、兄さんに姉さんだと思って元気でいるのよと。
そう励ましてくれた‥兄さんはきっと、空から見守っていてくれる‥

寂しがらずに、叔母さんの家で暮らすんだよと送り出してくれた。

でも‥昨日の夜‥叔母さんたちの話を聞いてしまった。

父が‥父も戦死したと。

兄さんと同じ空へと行ってしまった父さん‥涙があふれてしかたなかった。

そんな時、ふいに後ろから抱きしめられた。

不思議と怖さはなかった‥とてもいい香りのする女の人の腕‥

細い腕に透き通るような白い肌。

柔らかくて、温かい感触が善蔵を包み込む。

「おもいっきり泣きなさい‥気のすむまで‥」

鈴の音のように心地よい声だった。

それからどれくらい時間が過ぎただろう‥気が付けば辺りに夕闇が迫っていた。

善蔵「あっ!ごめんなさいっ」

慌ててその女性から離れる。

いつの間にか抱きついてしまっていたらしい。

顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。

チラッと見ると、細面の美しい女性だった‥艶やかで長い黒髪にりんごのような紅い唇。

着物の隙間から見える白い肌がとても眩しかった。

年の頃は19‥20歳と言ったところだろうか。

善蔵「あ、あのぅ‥お姉さんは‥」

その女性はニッコリ微笑むと

「私の名前は‥そうね、弥生‥弥生と呼んでね。はじめまして」

と、言った。

善蔵「は、はじめまして」

その微笑にドキリとした善蔵少年。

高鳴る鼓動を抑えつつ、それからイロイロ話しをした。

父や母の事‥兄や姉とのケンカや遊んだ話‥楽しかった日々の話をたくさんした。

弥生はただ黙って‥微笑んで話しを聞いてくれた。

優しいその笑顔がとても印象的だった。

次の日も、弥生と土蔵で会う約束をし、会うとまた、たくさん話しをした。

弥生「善蔵くんはいい子だから‥好きよ‥そのままでいいの」

善蔵は一太郎にまたいじめられて悔しい思いを話す。

強くなりたい‥強くなってみんなを見返すのだと。

弥生「力じゃ何の解決にもならないわ‥この国はいつもそう。

争って、奪い合って‥もう血が流れるのはたくさん…これからの時代は争いの無い時代に
してほしいの‥わかってくれる?」

まだ幼い善蔵にはピンと来ない話だった。

弥生「うふふ‥善蔵くんにはまだわからないかもね。

でも、憶えておいてね‥この世界はね‥空も山も海も‥猫も犬も、鳥も魚も、花も木も‥

すぐそばにある桶も、善蔵くんが寝る布団も‥そしてその大切なお守り袋も‥

すべて、みんなが支えあって生きているのよ。

大切にするから、大切にしてくれる。

なのに人は‥人同士は大切にする事を忘れて、傷付けあう。

国なんて勝手に線引きをして、攻撃をして‥勝ったの負けたのと言っては
愚かな力で人を服従させ、支配して、貶めて‥醜くて愚かしいことだわ。

挙句、殺しあってばかりいる‥そんなのおかしいと思わない?

支えあわなくてはならないもの同士が殺しあう‥命を奪い合うなんて悲しい‥

憎しみう、傷つけあのはとても愚かで悲しいこと。

善蔵くん、この国は戦争に負ける‥負けてからが大事なのよ。

生きたくても生きれなかった人たち‥想いを遺して逝ってしまった人たちのためにも
精一杯生きなきゃ‥そして、2度とこんなあやまちを犯さないような
平和な時代を築いてほしいの‥強さよりも優しさを持ってね、善蔵くん。

優しさは、どんなものよりも強い力になるわ‥それがほんとうの強さよ」

弥生の温かな笑顔が、穏やかな声が善蔵の心に浸透していった。

小さな恋のはじまり‥。


現在

暖かい陽だまり‥お茶を飲む善蔵と伝助たち。

善蔵「次の日もまた次の日も‥弥生さんとおうては日が暮れるまで話をした‥

あとから聞いたことじゃが、その土蔵は近所でも‥持ち主の叔母さんたちも
お化けが出ると噂する土蔵じゃったそうでな。

わしはちっとも知らなんだ‥ところがその次の日‥

いつものように土蔵にいったんじゃが、弥生さんとは逢えなんだ。

次の日もその次の日も‥ずいぶん捜したんじゃがなぁ‥歳を重ねても忘れられず、
ことあるごとに捜し続けたよ‥でも‥

とうとうこの歳までふたたびあう事はできなんだ‥わしは年老いて1人のままでな。

いやぁ‥はははは‥とんだ昔話じゃったな」

グスっと鼻をすする。

伝助「善さんの初恋かぁ‥いや、一生に一度の恋やないの。

このこのぉ♪」

肘でツンツン。

善蔵「ふはははは、そういうことになるかの」

照れ笑い。

総右衛門「して、いずこのお方でしたので?」

善蔵「それが‥まったくわからん。

叔母さんに聞いても誰に尋ねてもそんな人は知らんと‥この村にはおりゃあせんと
言われてな」

源左衛門「謎の女性‥か」

善蔵「弥生さんの言葉が胸に沁みての‥それからわしは一太郎がどんなに
いじめても罵っても気にならんようになった。

そればかりじゃない‥そんな風にしか人に接することが出来ん
一太郎が哀れにさえ思えてな。

大変な時じゃ‥食い物はない、残されたのは女子供が大半じゃと‥

よりいっそうに助け合っていかにゃならん時に強がって、人を抑えつけてと‥

それしか出来ん一太郎がもう哀れで。

弥生さんが言うた、優しさが強さじゃとの意味がうっすらと‥解ったような気がしたわい。

へへ‥一太郎の奴、わしが哀れんだ目で見とることに気が付いたのか、
真っ赤な顔して‥そのまま走っていった。

それからと言うもの、わしにいっさい突っかかってこんかった。

東京じゃ大空襲があって、沖縄じゃ決戦じゃゆうて多くの犠牲が出されて。

それからすぐのこと‥広島と長崎に相次いでピカドンが‥

アメリカの原子爆弾が落とされた。

弥生さんがおったら、さぞ悲しんだじゃろうな‥たくさんの命が消されてしもうた。

支えあう命が奪われてしもうたとな。

この国の人間も、よその国から無理矢理に日本人としてつれてこられた人たちも‥
惨い事じゃ‥愚かなことをしたもんじゃ。

戦争とは、いつも醜くて愚かじゃ‥どれほど、もっともらしい旗を掲げても
大義名分を振りかざしたところで、所詮は人殺しじゃ。

人殺しは今の世までも続いておるがな‥いつになったらやめれるのかの‥

疎開先から帰ることが出来たわしは、母と姉のために一生懸命働いたよ。

弥生さんの言うとおり、戦後荒れ果てたこの国を力を合わせて立ち直らせた。

まぁ‥結果である今の世を見ると、嘆かわしい気もするが。

これじゃあ弥生さんにあわす顔もないが‥それでも、必死に支えあって生きてきたんじゃ。

生きとうても生きれなんだ人たちの想いを胸に刻んでな。

必死な中、時が過ぎ去る間に母も姉もいなくなり‥世話になった叔母さん一家も
途絶えてしもうて、今じゃあの家の人たちはどこにおるのか、てんでわかりはせん。

だあれもおらんようになった‥あの村も村の人たちも、
戦後の混乱と、新しい世の中の成長の騒ぎで何処に行ったものか‥。

まぁ‥今ではこうして伝助どんや総さん、源さんが来てくれるで、
わしは嬉しいよ」

ニッコリと笑う。

陽だまりの中、話を続ける伝助たち‥。

しばらく穏やかな時は流れ、善蔵宅を出てくる伝総源。

その帰り道‥

伝助「善さん‥弥生さんに逢いたいんやろな」

総右衛門「どこのどなたかもわからずでは‥それに今もご健在とは限りませぬゆえ」

源左衛門「60数年‥想い続けて‥か」

伝助「せやなぁ‥あともうちょっと‥もうちょっとだけでも‥なぁ」

暗い面持ちの3人。

善蔵に残された時間は‥無いに等しかった。

持病の心臓はもう、持たなくなっている‥明日にも何が起きるかわからない状態。

しかし善蔵さんは病院にも行かず、あの縁側で日向ぼっこをして最期の時を待っている。

伝助たちは、自分の最期が近いのを知りながら1人寂しく縁側で時を過ごしている
善蔵に、せめて楽しい思い出をと、家に通うようになっていた。

伝助「どうしたらええんやろか」

とぼとぼと歩いていると

信代「あっ、いた♪伝助ちゃん、総右衛門ちゃん、源左衛門ちゃん、

どうしたの?そんな暗い顔して‥あのね、明日雛祭りの‥」

伝助「信代ちゃん‥!‥そぉぉぉやぁぁぁ♪」

パッと表情が明るくなる。
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