付喪堂綴り・1

□第3章・2
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付喪堂

玄関を出て、メアリーはどこかへ出かけようとしていた。

源左衛門「メアリー、とこに行くんだ?」

屋根の上に、源左衛門が座っていた。

メアリー「あら、おまえさん‥ちょいとね、三味の糸でも買ってこようかと」

源左衛門「お前らしくもない、糸を切らすなんてな」

メアリー「ハハハ、そんな日もあるさ」

ルナ「お三味の糸なら、ケースの中にたくさんありましたけど」

ニコニコ笑顔のルナ、そして伝助もメアリーの傍へとやってくる。

メアリー「チッ、なんだい。

知ってるなら はじめかっらお言いよ、イジワルだねぇ」

伝助「こっそり後つけて、口出ししようやなんて
よくある嫁姑バトルみたいやないけ。

イジワルなんは、メアリーとちゃうか?」

ケラケラ笑う。

メアリー「この、メタボパンダっ」

確かに、伝助のお腹まわりがプニプニ気味。

伝助「ちゃうわっ、これは雨続きやさかい
湿気でお腹の綿がプニプニしとんのじゃっ」

メアリー「だったら、そのままカビちまいなっ」

伝助「しゃあぁぁぁ」

メアリー「ふぅぅぅ」

互いにケンカモード突入。

源左衛門「まぁそう怒るな、メアリー。

みな考ええるところ、感じるところは同じということだ」

メアリー「おや‥なんだい、じゃあ おまえさんも伝助も‥」

ルナ「ええ、みなさんピーノのことが心配だから‥

それに、雨に混じって感じるこの想い」

メアリー「人の心が、バケモンになっちまったってところだね」

源左衛門「ホイピエロイドとはまた違う‥モンスタリアが関係していないモンスターだ」

伝助「缶吉が調べてくれたんやけど‥

どデカいエネルギー波の正体は、心の負のエネルギー‥死心力の作用やらしい」

先日の夜、夜の街を引き裂くかのように発せられたエネルギーは
人の負の心だった。

源左衛門「死心力によって生まれた怪物‥ピーノの初恋の邪魔をするかも知れん」

メアリー「初恋を認めるかどうかは別として、あの子の邪魔は
私の目が黒いうちはさせないよ」

伝助「猫の目ん玉は、クルクル変わってまうやん」

イヒヒヒと笑いつつ

伝助「ピーノが進んでやろうとしとんのを、邪魔するヤツがおるんやったら
僕らが許しておかへん」

ルナ「真心を阻むものがいるのなら、私の翼で払いのける‥です」

メアリー「あいよ、ならコッソリ活動といこうじゃないか」

源左衛門「やはり お前は、出来た母親だ」

メアリーの肩をポンと優しく叩き
源左衛門は駆けだした。

メアリー「ヤダねぇ、背中がかゆくなっちまうじゃないか」

メアリーも源左衛門の後に続く。

伝助「ほな、僕らも行きまひょか」

ルナ「はい。

餡子さーん‥お留守番、お願いしますね」

付喪堂の奥から『はーい』と、餡子の元気な声が聞こえた。

伝助とルナ、2人も可愛い弟のため
手助けへと走る!


磯貝宅

家の上空に渦巻く、大量の死心力。

『フフフフ』ほくそ笑むのは、全身を黒色の衣服に包んだ堕天使。

漆黒のベルト腕や胸元、胴と多くあり
背中に鎖、肩から二の腕にかけて大きく開いている袖のロングコート‥

コートと同色のタンクトップ、ショートパンツ、ニーハイソックス、

ヒールが高くないショートブーツ。

チェーンなどのメタリックな装飾が、随所に施されている。

両手には鋲が打たれた指無しグローブ‥

ショートカットの髪型に、妖艶な赤い唇。

口から上は、漆黒の仮面をつけており、
覗くはキリリとした視線。

堕天使の名は『蝕-エクリプス-』

蝕「死心力‥おもしろい力だよ」

トランペットにもなる大型銃の『メギド』を構えつつ
エクリプスは笑う。

蝕「さぁ、弾けちゃいな」

メギドを吹いて、死心力を暴れさせる‥凶音に誘われ
力は空を翔けめぐり、落雷のように地へとぶつかり始めた。

蝕「あははは、やっちぇえ、やっちゃえ!」

やがて、大量の死心力は蠢く大きなトカゲの形となり

驚くほどの素早さで、メギドの中へと消え入った。

蝕「じゃ、お手並み拝見と行きますか‥ね、ルナ」

メギドにキスをしながら、エクリプスの瞳はギラリと輝いて見せた。


付喪堂

食堂で用事を片づけている餡子のもとへ

ピーノ「餡子しゃん」

声をかけるピーノ。

餡子ルナ「あんれぇ、おかえりピーノ」

ピーノ「まだ、ただいまじゃないんでしゅよ。

ケーキをもらったんで、渡しに来たんでしゅ」

杏ケーキを、みんなの分も紅は入れてくれていたので
それを持ち帰ったピーノは、箱を餡子に手渡す

ピーノ「これ、紅しゃんからでしゅ」

餡子「あんれまぁ、アプリコットケーキでねぇか。

美味しそうだなやぁ♪

んだば、今夜のおやつの時間に出すっぺか」

そう言って、冷蔵庫の中にしまう。

餡子「そうそう、お昼はルナさんが作ったチキンライスずら。

出かける前に食べて行きゃあ ええ」

そんな言葉も聞かず、ピーノはキョロキョロ‥

餡子「どうしただ?」

ピーノ「おにいしゃんは‥」

餡子「伝助さんなら、ホームセンターに行ったべな。

ネジの形が違ってたとかなんとか言って
ルナさんと、源左衛門さんとメアリー姐さんと、4人で出かけただよ」

ピーノ「ふーん‥そうでしゅか」

餡子「ごんさんとねんさん、あんちゃや君兵衛に缶吉さんは
制御室や格納庫で作業中だっぺ」

ピーノ「わかりましたぁ。

餡子しゃん、ボクはもう1度パトロールに行ってくるでしゅ」

餡子「だども、チキンライスさ食べていけばええのに。

それからで、パトロールには遅くねぇだよ」

ピーノ「いいえぇ、ケーキを渡しに寄っただけでしゅから。

じゃ、いってきまーしゅ!」

テッテケーと、走り去るピーノ。

餡子「あっ‥ピーノちゃん‥」

外へ向かうピーノを、餡子は心配げに いつまでも見ていた。


商店街

付喪堂から、そう離れていない商店街。

ピーノがテッテケーと走っている。

走りながら、香織の父の姿を捜していた。

ピーノ「餡子しゃん、ごめんなしゃい。

ルナねーしゃんのチキンライス、とっても美味しいんでしゅけどね‥

今は香織しゃんのお困りごとを、」解決しゅるのが先でしゅ!」

そう言って、気合を入れるものの‥

ピーノ「チョット聞きたいことがあったんでしゅけどね‥

おにいしゃん、いなかったでしゅ。

うーん‥どうやって、香織しゃんのおとーしゃんに
お話したら いいんでしょうかねぇ‥

ピーノ、初めてでしゅから なんだか不安になったでしゅ」

『そうだ!』と、いった様子で愛・伝えまフォン-白を手にするピーノ。

ガチャっと音がして、電話の向こうから『おぅ、どーしたんでぇピーノ』と
忙しそうな、ずずの声。

ピーノ「あっ、じゅじゅ(ずず)? どうでしゅか、そっちの様子は」

『どうもこうも、相変わらずで困っちまうぜぇ。

なにしろコイツ、ぜんっぜん外に出ようとしねェもんだから

どーしよーもなくてよぉ‥あっ、コイツ! んなろぉ!! なーにしやがんでぇ!!!』

電話の向こうで、ずずは引きこもりの女性『翠季』と、もめている様子。

『ヒストリー起こすぐらいなら、外に出て暴れろってんでぇ!』

『歴史を起こしてどうするのよ、ヒステリーでしょ! 何度言ったらわかるのよ』

おそらく、身近にあるものを手当たり次第に投げているのだろう
騒々しい物音が響いている。

『ワ、ワリィ、ピーノ‥またあとでなっ』

通信が切れた‥ずずと翠季が、キレてケンカを始めた途端、通信も切れた。

ピーノ「じゅじゅ、大変そーでしゅ。

はぁ‥何から始めたらいいんでしょうかねぇ。

おにいしゃんたちに、エラしょうに言いましたけど
ピーノ‥なんにもわからないでしゅ」

ブツブツ不安を零しながら、あたりをキョロキョロ。

そんな時、泣きながら『ありがとう』といった、香織の顔をピーノは思い浮かべた。

ピーノ「香織しゃん‥‥‥うにゅにゅにゅっ、そーでしゅ!

ボクが頑張らないで、誰が頑張るというんでしゅかっ!

香織しゃんを笑顔にするために、おとーしゃんの笑顔を取り戻すでしゅ!!

それが、付喪堂のたいしぇつな(大切な)お仕事でしゅ!!!」

不安を押し退け、気合を入れなおして、俄然やる気になるピーノ。

ピーノ「ボクは男でしゅ。

しゅきな じょしぇい(好きな女性)をお守りしゅるんですから

ボクひとりの力で解決しなきゃ、いけないんでしゅ!!!」

『えいえい、おー』と息巻くピーノ‥ふたたび、テッテケーと走り出す。
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