付喪堂綴り・1

□第4章・2
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境内

あっというまに傷だらけのワンダーZ。

嬉々と殴る・蹴るを重ねる中学生たち。

巧は、痛さと怖さで震えるばかり‥

ワンダーZ「巧!」

叫ぶ。

ワンダーZ「君の親友は、かつて独りぼっちで世界を歩き

傷つき、寂しさを抱えて生きてきた。

ある日‥拾われた家で、初めて暖かさを知った。

親の情や、おもいやる優しさは
自然という厳しく、過酷な生きる場所の中で感じることなく育ったその親友にとって

どれほど嬉しいものだったかわからない」

石原・兄「こいつ、うるせぇんだよ!」

わき腹に強烈なキック。

しかし、ワンダーZは倒れない。

ワンダーZ「その家で、彼は愛そのものを託された‥それが君だ!

彼はそれからというもの、巧と名付けられた『愛』と暮らしてきた。

その命が尽きようとしていても、なんら寂しくはない‥何故だか わかるか?」

震え、身を縮こまらせていた巧は顔を上げる。

ワンダーZ「出来る事なら、その最期は静かに終えたかったと思う‥

君との時間を大切にして、穏やかに別れの時を迎えたかった。

だが君は、彼のために薬草を見つけ

少しでも命を長らえてほしいと願ってくれた!

医者さえ見放した命をつなぎとめようと、懸命に薬草を調べ、探し、

彼に飲ませようと思ってくれた」

中学生たちは、どんなに殴っても蹴っても倒れない不思議な犬に
なお腹を立てて暴行を加える。

ワンダーZ「いいか、巧! 生きていくには強さが必要だ。

それは腕力だけの強さじゃない‥弱さを包んでやれるのが強さだ!」

石原・兄の手をワンダーZは掴む。

ワンダーZ「君は何にそんなに怯えている? 何が君を暴力に走らせている?

君は暴力に頼らずとも、強い子なのだろう?

そんなに怯えなくていい、怖がらなくていい」

石原・兄「うるさい!」

膝でワンダーZの腹を蹴る。

ワンダーZ「そうやって誰かを傷つければ、強いと思っている間は弱虫のままだ!

本当に強いというのは、誰に対しても優しくできることをいう!」

石原・「うっせえ! 俺は強いんだ、俺に逆らうヤツは!!」

ワンダー「叩きのめした後、どうする!? どうなる!?

力で支配した者とされた者に、絆はあるか? 愛はあるか!

いいか‥男には、負けるとわかっていても
立ち上がらなければならないときがある。

過ちを認めることも

詫びることも

けっして恥ずかしいことなんかじゃない

それも強さだ

強さとは、大切な誰かを守りたい

その心だ。

心は無くしてはいけない

強さ、優しさとは、誰かを思いやること‥思いやりは強さだ!

いいか、人を憎むな‥憎むのは悪意だ。

悪意に負けるな!

許さないのは罪だけでいい‥人は許せ。

弱い者を正し、許してやれ。

それが優しさであり、強さだと信じている。

我々は自然の厳しさの中で生き残るため、争い、

誰かが君臨して、支配するものとされるもの分かれて生きている、

群れて生きることしか、生き残る術はないからだ。

親と子、兄と弟、姉と妹‥肉親の情はある、友への情もある。

だが、それだけでは生き残れないのが自然だ‥私は、そんな厳しさの中で生きてきた。

そして、その厳しさに身を置かなくても生きていける術を
友の家族に教わった‥その暖かさは、私に沁みて、安らぎをくれた。

君たち人間は、食い合わなくても生きていけるじゃないか。

争わなくても、蹴落としあわなくても、奪い合い、殺し会わなくても

生き残っていけるだけの術、知恵を持っている!

なのになぜ、傷つけあう?

助け合い、支えあって生きれる世界で、傷つけあい、奪い合う生き方しか出来ないなんて
そんなもの、人間の怠慢だ!!

自分自身の放棄でしかない!

戦争、貧困、差別、偏見‥くだらないものばかりを受け入れて

自分たちに与えられた大切な物を放棄する‥それが怠慢でなくて、なんというんだ!

いいか、人間! 君たちには知恵がある、心がある。

人間が間違え続けている方向から、正しい方向へと瞳を向けてくれ!

巧は弱い子なんかじゃない‥虫が怖くて、手が汚れるのがとても嫌で

なのに、死に瀕している友のために虫がたくさんいて、手をドロドロに汚してでも
薬草を取ってきてくれる子だ。

死の前へと見放され、置き去りにされた友のために

あきらめることなく、あがき続けてくれる子だ!

人間の本当の強さだと、私は思う。

ならば君たちも、強さはある‥人間は皆、強い生き物なんだろう!?

私の知っている人間は強い‥君たちも、強さに目覚めてくれ」

『お父さん、俺‥寿司屋さんになりたい』

そう言った俺を『お前はこの病院を継がなきゃダメだろ!』と、一喝したのは石原の父。

子供の夢に聴く耳も持たず、自分の思惑だけを押し付けて

そうして石原・兄は横道へとそれていった。

弟は動物が好きなのに、母が意固地に『銀行員』にしたいと喚いている。

実家の父が銀行員だったからだろう。

大人・親の想いと子供の想いがすれ違うのはよくあること。

大事なのは、そのすれ違いが大きくならないよう、長引かないように修復すること。

子供の夢に耳を傾け、見守ってやるのが親の務めなのだろうが
その務めを見失った親が多いのは、子供にとって不幸というものか。

しかし親もまた人であり、子供とともに成長していくものでもある。

『今』を急ぎ過ぎる人間が多い。

『今』でなくとも、『未来』があることを忘れすぎている。

ワンダーZ「弱さを私は責めたりしない。

君も君の親も、人は誰しも弱い‥人間だから。

だが、人間だからこそ強くもなれる。

責められるべきは、弱さに甘えることだ!

『どうせ』『しかし』言い訳ばかりして、それを口実に楽な生き方をしようとする。

弱いままでいようとする!

それでいいのか!?

立ち上がれ、目を覚ませ‥強さを求め、生きていけ。

君も、君の弟も友も‥巧も!

弱い者でいることに甘えるな。

巧‥キミは。ホントは強い子じゃないか。

誰よりも優しくて、誰よりも強い。

優しさはときに厳しさであり、すべてを思いやりと呼ぶ。

強くなれ、優しくあれ、思いやりをもて‥巧!

笑顔の似合う、強き者になれ‥優しいヒーローになれ‥それが私の‥私の最後の願いだ。

人は誰しもヒーローになれる。

誰かから『ありがとう』と言われれば、誰かを笑顔にできたら、

もはや君たちはヒーローだ‥優しく、強い‥ヒーローだ‥」

ドクン‥大きな鼓動をひとつ打って、ワンダーZの身体は静かになっていく。

石原・兄も弟も、知らず知らずに泣いていた。

暴行に加わった仲間たちはまだ、ワンダーZを殴ろうとした‥

巧「やめろ!」

拳を固く握り、キッと見据えるその視線。

巧の気迫に、仲間たちは怖じ気づき‥涙する石原兄弟を置いて
全員、逃げ帰ってしまった。

石原兄弟は、2人支えあって帰っていく。

謎の野良犬・ワンダーZの言葉は、確かに石原兄弟に刻み込まれて
巧の気迫も、少年たちの心に強烈に焼きついた。

巧「ワンダーZ !」

自分もかなり痛むだろうに、そんなことかまわずに
ワンダーZの傍へ駆け寄る巧。

ワンダーZ「強くなれ‥自然の厳しさをも超える、変えれる力を持つ人間よ‥

強くなれ‥巧、強くなれ‥」

巧の頭にポンと手を乗せ、ワンダーZは微笑んだ。


神社付近

ピーノ「ぬおぉぉぉぉぉぉ!!!」

ずず「てやんでぇぇぇぇぇい!!!」

手首にロープをかけられたピーノをずずは救い

ネットに絡まれ、動けない ずずをピーノは助け

ないすーん、鉄串丸と振って大立ち回り。

ボロボロ、フラフラになりながらもトルーパーズたちを鎮圧した。

ピーノ「や、やったでしゅ」

ずず「ま、まだ気ぃ抜くんじゃねえぞ、ピーノ」

ピーノ「ハイでしゅ‥もうひとつの たいしぇつな役目を果たすでしゅ」

ひょこひょこと、ピーノは痛む足を引きずりながら

ずずはそんなピーノに肩を貸しながら、2人は神社を目指す。
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