付喪堂綴り・1

□第5章・1
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「不可思議萬請負業 付喪堂綴り」第5章
『はないちもんめ』


2010年9月


勝って嬉しい はないちもんめ

負けて悔しい はないちもんめ


夜の町中に響く歌声。

どこか物悲しく、どこか禍々しく‥

塾帰りの女子生徒が、筆記用具を入れたカバンを手に家路を急いでいる。


あの子が欲しい

あの子じゃわからん


女子生徒「え?」

足を止めて、辺りを伺う。

街灯の灯りは仄か‥だが、見る限りは人影無し。

女子生徒「気のせいかな」

また歩き出す。


その子が欲しい

その子じゃわからん


女子生徒「ヤダ!」

聴こえる声に、怖さを感じた。


相談しましょ‥そうしましょ



猛スピードで夜の町を走り、女生徒に近づく『何か』

女子生徒「きゃあぁぁぁ!!」



相談しましょ‥そうしましょ‥‥‥


夜は その色を濃くしていく。


霊皇の宿・伝ラボ

ひととおり引っ越し作業も終わり、伝助・缶吉・ごん&ねんは
マモーブMk-2の調整や装備のパワーアップ、

そしてセクトウジャのマシン『セクゾースト』の新しいプログラム開発に着手していた。

同時に付喪堂各メンバーの装備も、点検と強化を兼ねた作業も進めている。

伝助「あー しんど。

こりゃ今日も湯船につかって、のんびりせなアカンな」

缶吉「伝助さんの のんびりは
ルナさんとイチャイチャするってことじゃけぇ」

缶吉の指摘の通り、連日ルナとお風呂の伝助だった。

メアリー「ったく、しょうがないねぇ」

笑って、今日も爪弾く三味の音は心地よく。

源左衛門は、メアリーの歌う都々逸に聞き入っている。

メアリー「主は二十一 わしゃ十九 四十仲良く 暮らしたい」

餡子「四十仲良くかぁ‥ええだなぁ」

君兵衛「四十は始終っちゅうがと、かけとるワケか」

メアリー「都々逸の古典さね。

そうだ‥会長、今度お三味教室も開いておくれな」

淑「いいですわねぇ♪

なんでも学び、自身を磨くことが大切ですわ。

それでは今度の文化教室は三味線にしましょう」

ワイワイと賑やかなとき、

ピーノ「おにーしゃん、付喪ポストにコレが入ってましたよ」

手紙を一通、ピーノが伝助へと持ってきた。

伝助「ん? なんや‥どれどれ」

封を開けて、手紙を読む。

ルナ「どうしたんです?」

伝助「ふぅん‥‥」

手紙をたたみ

伝助「あんな、山梨県の町でな
女の子ばかりが意識不明の状態になる事件が続いとんねんて。

それで、警察がいくらパトロールを厳重にしても
いっこうに収まらんのて。

なんか不思議なことが原因とちゃうやろか?

もしそうやったら警察の手には負えへんよって、助けに来てください‥って書いてはる。

差出人は‥詳しゅう書いてへんけど、女の子からやな」

総右衛門「不思議なことが原因‥で、ござりまするか」

伝助「せやねん。

そーやな‥もし不思議が原因やったとしたら、僕らが解決せなな」

源左衛門「差出人が、よくわからないというのがな‥悪戯ということもある」

メアリー「誰かの罠ってことも考えられるね」

ルナ「真偽はわかりませんが、手紙が来たことは事実です。

それでしたら、私が様子を見に行ってきます。

みなさんはSSDの目も厳しいですからね、私が一番動きやすいかと」

伝助「んー‥でもなぁ‥ルナだけ行かせるワケにもいかへん」

ルナ「そうは言っても

源左衛門さんとメアリーさんはこのあとすぐに

墨彦さん、蒼唯さん、ずずを連れて山籠もりでしょ。

総右衛門さんと淑さんは
雪永さん、桜花さん、翠季さん、ピーノを連れてハートフィールドで特訓。

珍平さんと君兵衛さんは
紅さん、雪永さん、檸檬さんを連れてやっぱりハートフィールドで特訓。

缶吉さん、ごんさん、ねんさんは伝助さんと装備の開発と調整。

餡子ちゃんは街の警護や怪我などがあった時にいてもらわなくてはなりませんし」

缶吉「いや、ルナさん。

それやったら、伝助さんがいっしょに行ってくればええ」

伝助「僕がか?」

缶吉「そうじゃ。

装備のメンテは大方終わっとるし、セクゾーストのプログラムもほぼ完成。

あとは組み込み作業だけじゃけぇ、ワシとごん、ねんだけでだいじょうぶじゃ

伝助さんがルナさんと一緒に行けばいい。

役目もあろうが、帰り道はのんびり休みがてらで行ってきんさい。

このところ、伝助さんは働きづめじゃったから息抜きにちょうどよかろう」

珍平「そうたい。

たまには2人で出かけるのもいいことたい。

最近はバタバタ続きで、風呂くらいしか二人っきりになれんかったけん」

伝助「いやぁ、そんなんゆーても

忙しい最中やし、みんなに悪いわぁ」

メアリー「とか言いながら、出かける準備してんじゃないよ」

淑「まぁ!」

確かに伝助は、白黒柄のリュックサックにお菓子や懐中電灯、ラジオなどを詰めて
水筒を取り出していた。

ピーノ「行く気マンマンでしゅね♪そしたら、ボクも行くでしゅ!」

ずず「オイラもお供いたしやすっ」

総右衛門「それはならん!」

ピーノ「えー」

メアリー「アンタたちはダメだよ。

この前もトルーパーズにてこずっちまってボロボロだったじゃないか。

これから先、モンスタリアも強くなるだろうしSSDもいる。

蝕んところのレギオンだっている。

アンタたちにゃあ、もっともっと強くなってもらわないとね」

源左衛門「成長を待ってやれるほど、現状は穏やかでないと言うことだ。

ピーノやずず、紅たちには悪いと思うがこれもまた使命。

お前たちには一刻も早く強さを増してもらうしかない」

総右衛門「さようにござりまする。

今後、戦いは厳しさを増すばかりにて
我々が、阻めし者たちを越えるばかりに強くならなければ
守りたいものが守れずになってしまいまする」

淑「ひたすら精進あるのみでございますわっ」

餡子「んだね。

たゆまず努力だよぉ」

伝助「そやで、あの紅ちゃんかてチョット前まで僕の特訓受けて
技を身に着けたんやから」

ピーノ「えー‥ちぇっ、仕方がないでしゅね。

ハイでしゅ」

ずず「へいっ」

ルナ「ピノ、ずず、その代わりお土産をたっくさん買ってきますからね」

ピーノ「うっほーい♪」

ずず「ホントですかいっ!?」

ルナ「ええ。

山梨県ですからね‥そうだな‥武将のお名前のお餅とか買ってきましょうね」

伝助「黄な粉と黒蜜が、ごっつ美味しいんやで」

ルナ「あと、ブドウも買ってきましょう♪

水晶もいいなぁ♪」

メアリー「ちょいとルナ、アンタにゃ珍しいことだけど
あんまりはしゃいじゃいけないよ。

目的は不思議の解決なんだからね」

伝助「あ、そうやった」

淑「まあっ」

ルナ「はい、まずはちゃんと解決してから‥みなさん、それではしばらく、お願いします」

伝助「ほな、ちょっといってきまっさ!」

こうして伝助とルナは、電車で一路‥観光気分マンマンで山梨へと向かった。


山梨県

深い山の奥。

仏教宗派の総本山が山梨に有り、ピンと張りつめた空気があるが
訪れる観光客には、なかなか深く感じる人は少ない。

だが、どこか空気が街とは違うと、軽い形で感じる人は多い様子。

その山よりももっと奥の山‥

道と呼ぶにはあまりに険しい道を、笠をかぶった人駆けが二つ歩いている。

かぶっている笠は『網代笠(あじろがさ)』という。

旅装の僧侶らしき人物たち。

白色の小袖を着、墨染めの直綴に墨の手巾(しゅきん)といわれる丸ぐけの帯。

白手甲に白脚絆、草鞋(わらじ)を履いて
頭陀袋(ずだぶくろ)を前に吊し、行李を背負う。

行李には日用の必需品を入れていて、その上には

『応量器[5ツ重ねの食器]』

『浄巾(じょうきん)』

『鉢単(はったん)』という黒の敷き紙

『水板』『刷(せつ)』

『匙(ひ)』

『箸』

『箸袋』

等、食事用の品が入っている箱を括り付け

手には錫杖を持っていた。

1人はまだ若く、10代の美少年。

1人はその美少年の師であろう老僧。

手にした錫杖は、仕込み刀になっているようだ。

『お師様』若い僧侶が声を出すと

『うむ‥』老僧は、笠を少し持ち上げて眼下の町を見つめた。


住宅街

一戸建ての門扉の前に、少女は立っていた。

『保科』の表札がかかってあり、そこから覗きこんで『おじさん』と声を発した。

庭の方で水撒きをしていた男性が、少女に気付いてやってくる。

『やぁ、今から塾に行くのかい?』

少女の名は『川島 初枝』12歳。

男性は『保科 智也』という。

初枝「うん、今から。

おばさんは?」

保科「あぁ‥昌子なら部屋にいるよ。

千代が着なくなった洋服を仕立て直して、また外着にしたり部屋着にするってね‥

張切っているよ」

初枝「そ、そう‥」

ドアの方をチラッと見て、心配げな表情を一瞬だけ見せた初枝だったが

初枝「じゃ、行ってきます」

保科「いってらっしゃい」

駆け去る初枝を優しげな微笑で見送った。

その瞳の奥に、深い悲しみと激しい憎しみが灯っていることを
町のほとんどの人たちは知らない。
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