付喪堂綴り・1

□第6章
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「不可思議萬請負業 付喪堂綴り」第6章
『星空の下で』


2010年9月


That's one small step for a man, one giant leap for mankind
(これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である)

人類が月面へ到達した時の言葉である。

かつて人々は海をめざし、海原に出て新大陸を発見した。

そして次は、空のさらにその上の宇宙という名の星々の海を目指し
新たなる旅に出て、まず到達したのは月だった。

火星‥土星‥目指す惑星という名の大陸は数多くある。

宇宙。

果てしなく広がる星の海。

天の川銀河、アンドロメダ銀河‥宇宙は広大で、謎にあふれている。

『ビッグバン』と名付けられた大爆発によって誕生したとされているが
その前には『何』が存在し、『何』からこの宇宙は生まれたのか‥

それを実際に見た者はいない。

ただ、天の川銀河の端にある太陽系と呼ばれる小さな空間に
『太陽系・第3惑星 地球』があり

その星に命が満ちていると言うことだけは確実に言える。

では‥この宇宙には、我々、人類はじめ
地球にしか生命は存在していないのだろうか?

もしも、広大な宇宙の中で
奇跡に近い確率で生命が存在していたとすると‥

それは膨大な数字とはなりえないのだろうか?

もしかして昔、星の海より来訪した存在を人は、『神』と呼んだのではないか?

生命の起源は、宇宙にこそあるのではなかろうか?

かつて、地球に降り注いだ隕石に生命の源が含まれていたのでは?

それらがホントなのかウソなのか、誰にもわからない。

どんなに知識があっても、調査が進んでも
結局のところ、実際に見た者はいないのだから‥わからない。

だが‥地球には生命があふれ、命の息吹は今日も増えている。

それだけは真実。

チッポケな空間‥宇宙全体から見れば、我々人類が息づくこの太陽系は
とても小さい空間だ。

暗黒の空間に浮かぶ青い星・地球。

チッポケな空間の、そのまたチッポケな地球という星で
人々は争い、奪い合い‥されど、支え合い、愛し合って生きている。

今その地球に向かって、とても小さな彗星が近づいていた。

まるで地球が目的地のようにして、彗星は暗い空間を突き進む。


そして‥


とある山中

ずずは口笛で『コンドルは飛んでいく』を吹きながら飛んでいた。

足にコンビニが買い物をした物を入れた、水色のエコバックを引っかけて。

昼間、源左衛門とメアリーに鍛えられて猛特訓の毎日を送っている。

日も暮れて夜‥同行している墨彦の分も合わせて
チョットふもとのコンビニに買い出しに行って、帰る最中。

『チョット』といっても、かなりの距離ではあるのだが
空を飛べるずずにとってはチョットの距離。

蒼唯も一緒に来ていたのだが、
さすがと言ったところか‥与えられた課題はそうそうにクリアして
蝕と消えたピオレータを
亡霊となって現れた大切な親友の姿を捜しだすため、東京へと戻った。

メアリーが言うには

『技術も力も、とっくに合格点‥あとは心の重しさえ、どければねぇ』

といったところ。

重し‥親友の影が亡霊となって現れた今、
蒼唯はまさに、自身に圧し掛かる『心の重し』と戦わなくてはいけなくなった。

あえて蒼唯を止めず、見送った源左衛門とメアリー。

『テメェの過去だ‥テメェが向き合わねェで、どうすんのさ‥好きにおしな』

とは、メアリーの言葉。

苦しんで苦しんで、それでも乗り越えたいと掴んだ兎の手。

メアリーは自身の過去を思いだし、蒼唯の覚醒を願う。

そんな想いがあるのだが‥

ずず「は、は、腹減った‥」

イロイロ考えていると頭がパンクしそうで‥

それよりも、買ったばかりの焼き鳥のいい匂いに
ずずは『ぐぅ』とお腹を鳴らした。

パタパタ飛んでいたが‥ふと、夜空を見上げる。

ずず「おぉ‥」

広がるは、満天の星空。

ずず「綺麗だ‥」

そう言えば、母を捜して旅に出てから
夜空を見上げるということはなかった。

母探しの旅は、実の兄弟に等しいピーノを捨て出た旅であり
心がいつの間にか擦傷だらけになって、夜空なんか見上げることはなかった。

見上げれば、つい涙を零してしまいそうで‥

ピーノが歌う『星に願いを』を思い出してしまう‥そうして流れ着いたのは付喪堂。

アニキと呼んだ源左衛門と再会し、ピーノとも再会した。

今では世界を守るために戦う日々で
その忙しさから、また夜空を見上げることを忘れていた。

ずずは、ふと思う‥

『オイラが飛んでるこの空の上には、いってぇ何があんだろうか?』

昼はおてんとうさまが輝いて、青空を雲は流れていく。

夜はお月さんが照らしていて、無限に広がる星々。

当たり前のように感じていた景色に
フッと疑問を持つ。

それは、ずずが成長しているからなのだろう。

当たり前のことを当たり前と感じることなく、知ろうとする気持ちが出てきたことは
ずずが、成長しているからだと思う。

いままで ずずは、宇宙とかなんとか

『オイラ、バカだから難しいことはワカんねぇんで』と言って
知ろうともしなかった。

だから、テレビで恐怖!心霊映像特集は楽しめるが
怪奇!UFO・宇宙人映像特集は怖くて観れなかった。

未知の物が怖いのは、仕方ないといった感じか。

でも‥今なら少し、観れそうな気がする。

好奇心、探究心‥学ぶことが、楽しくなってきた。

ピーノは先ごろ、将来は魔法と医術を組み合わせた『魔法医師』になると勉強している。

ルナに書籍『人体の不思議』を買ってもらったし
淑には得意の民間療法を熱心に尋ねてはノートを取っている。

そうそう‥淑と組んで、なにやら秘薬を作っているそうだ。

ずずは居合いの腕を磨き、身体を鍛えて‥将来、何になりたいんだろう?と
この頃考えるときがある。

捜していた母とは回り逢い、巣立ち、付喪堂という居場所をみつけた。

戦いは役目‥使命であり、将来の夢ではない。

おそらく、以前のずずなら間違いなく『大親分でぇ!』と言ってたろうが
今は違う。

ずず「夢‥かぁ」

グゥ

また鳴るお腹に、スピードを速めてテントへと戻った。

ずずが飛び去った夜空に、流れ星がひとつ‥。


病院・屋上

車椅子に乗った‥まだ10代といったところの女の子が1人、夜空を眺めていた。

バンダナを頭に巻いている。

もともと色白で、端正な顔立ちの女の子だが
今は顔色は土気色で、頬はおおきくこけていた。

消灯時間は過ぎているが、コッソリ病室を抜け出して
これまたコッソリ屋上へ。

看護師さんたちの見回りの時間も、屋上のドアの鍵の開け方も知っている‥

それだけ、入院期間が長かった。

彼女は星空を眺めるのが大好き。

星の観察‥星座、彗星、惑星‥広がる宇宙に憧れを抱き、いつか旅する日を夢見ている。

女の子「あ、流れ星‥」

流星を見つけても、彼女はお願いごとをしない。

彼女は知っている。

自分は旅することはないだろう‥この肉体、この命ではと。

自身が『星』となっても、

自分の命の期限では、星の海を旅することはないと悟っていた。

だから、無駄なお願いはしない。

自分が叶うことない願い事をするよりも、誰かの願いが叶ってくれれば‥

彼女はそんな子だった。


街中

街の中央に、図書館がある。

夜空を渡る流星は、燃え尽きることなく‥グングンと速度を上げて街へ近づき
あわや道路に激突かと思えたが‥キュンッと跳ねあがって宙に浮いた。

とても小さな彗星‥田舎道ゆえ、深夜は往来する車も滅多におらず
この不思議な光景は誰に見られるワケでなく‥パッと輝いたかと思うと
道路にたくさんの石ころだけが散らばっていた。


クローマパレス

半透明の宮殿‥その庭園で、メイド・シアンと遊んでいるのはプリンセス・マゼンタ。

マゼンタは『溝呂木 真友』という9歳の少女‥人間だ。

なぜ、クイーンベルメリオはマゼンタを『娘』として愛するのだろうか?

なぜ、マゼンタはいともたやすく人間であることを捨て
プリンセスとして生きる道を選んだのだろうか?

答えはまだわからない。

マゼンタとシアンの様子を、塔より見ているのは
色呪王国モンスタリア、赤色の女王 クイーン・ベルメリオと
黒色の吸血鬼 ヴァンパイア・ノワール。

腰には魔剣・クローズを携えている、クイーンを愛する女剣士‥セクトウジャの強敵。

そして、傍らには半透明の巨体の戦士‥透明の守護者 ガーディアン・トラン。

ノワール「ベルメリオ様、マゼンタ様はお元気に遊んでおられます」

優しい笑顔でマゼンタとシアンを見つめている。

返事がないことに、振り返ってみると
ベルメリオはなぜか涙を落としていた。

ノワール「いかがなされましたか、クイーン」

トランは、そっとクイーンの傍へ寄る。

ベルメリオ「ノワール‥いまだに神は存在し続けている。

それは、悲しみが広がり続けると言うことでもある‥早く‥一刻でも早く

あの無慈悲な神を抹殺しなければ。

そうでなければ‥でなければ!」

怒りによって塔は震え、壁が崩れ始める。

亀裂の入る塔をクローズを抜いたノワールが刺し貫くと震えは止まった。

ノワール「クイーン‥貴女の悲しみ、必ずや私が断ち切ろう。

トラン‥これよりしばし私は留守をする。

その間、クイーンのことは‥頼む」

コクッと頷くトラン。

ノワールはベルメリオをそっと抱き寄せ

ノワール「愛しき女王よ‥我が最愛の女王よ‥悲しむな‥悲しまないでほしい。

もう間もなく、あなたの悲しみを私が晴らしてみせる。

だから‥だからもう、泣かないで‥お願い」

そっと触れた唇の温かさ。

吸血鬼の唇とは思えない温もりを残して
ノワールはまっすぐに伸びた宮殿の廊下を進んで‥姿を消した。

庭園では塔の揺らぎに怯えるマゼンタを気遣うシアンの姿があった。

ベルメリオ「ノワール‥お願い‥」

トランは、気持ちを振るわせるベルメリオを不安にさせまいと
しっかり寄り添った。

以後‥ノワールの姿は宮殿から見えなくなる。
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