付喪堂綴り・1

□第7章・2
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デン「それにしても‥ひと晩寝たら、元に戻るかと思ぉたんやけど‥アカンな」

いつになったら戻るのだろう。

データは毎日取るようにしている。

愛・伝えまフォン-赤に、その日の状態を詳しく入力しているのだが。

伝助‥仮の姿のデンドロビューム・出羽守こと3世出羽守伝泥美遊夢ことデン。

愛・伝えまフォン-赤でアレコレ調べては、自分のМyコンピューターに入って
心水晶のデータを見ているが、これといって打つ手なし。

デン「心水晶から出とる、大量の生心力を浴びとったせいで

夢とか願望とかが、一時的に実体化したんかも知れへんな‥」

ちょうどルナたちの会話を聞いたばかりで
本来の伝助の夢よりも一時的に強く思っていたことが、心水晶の力で具現化した‥

デンはそう分析していた。

デン「問題は、いつまでこの効果が続くかや」

今日で効果が切れるものか、明日かあさってか‥それともずっとこのままか?

デン「いや、それはないやろ‥ずっとこのままやないとしても

今、夢魔やモンスタリアに来られたら苦しいな‥ほんでや‥」

動きの見えないモンスタリアと夢魔たちに加えて

長崎から帰った翌日から、SSDソルジャーズが再編成されると大きく報道されている。

小暮 直明、織田 俊充、釜石 治夫、野口 茂美の4名は

勇猛果敢に未確認破壊脅威と戦って名誉の戦死を遂げた‥

国を守って戦士は死んだということで、
破壊衝動が強い『偽りの愛国心』を煽る目的の情報操作が行われている。

欠員が大きく出たソルジャーズに新しく選抜された人員を入れ

未確認破壊脅威にさらなる戦いを挑むとともに

同朋を死なせた敵は死を持って償わせる決意を秘めて‥

より強固に果敢に国を守って戦う戦士たちと、イメージ付けたいようだ。

我が国を脅かすものは何人たりとて許してはおかない、正義の鉄槌を下す。

間違った愛国者気取りの人間たちは、はしゃいでいる。

それが自身たちの破滅への入口だと考えることなく。

デン「自分は大丈夫‥」

その考えが、一番恐ろしいとデンはわかっている。

だが悲しいかな、人はそう思いがちでもある。

犯罪にしても事故にしても

『自分は大丈夫』と。

巻き込まれることはもちろん、巻き込む側になることは大いにあるのだ。

その危険はいつも付きまとっている。

何かあったときの心構え

『加害者』と『被害者』の境界線

いくつもの危うい境界線や分かれ道が、人生には待ち受けている。

だからこそ心はあり、その心に想いは大切なのである。

デン「少しでも、ええほうへ‥」

そう、少しでも善いほうへ。

デン「神様は、どう思ぉてはるんやろ?」

この世界からいつまで経っても消えることのない争いと悪意。

それを『神』はどう感じているのだろうか?

ふと、何度か伝助たちの目の前に現れた光の球体‥『神』を思い浮かべる。

デン「神さんやったらコレ‥すぐに戻してくれはるやろか?」

いきなりなってしまった人間の姿。

でも‥伝助の心の中でホンの少しだけ、このまま人間として暮らしても‥

デン「あかん、あかん。

僕には大切な役目もあるさかい」

だからといって、自分の願望を犠牲にしてもいいのか?

デン「それはちゃう‥それがホンマの願いやったらまた
とことん考え抜かなアカンのやろう。

でも今回のコレは、僕のホンマの願いでも夢でもない‥ちゃうねん」

本当の願いは仲間たちの絶えることのない笑顔であり

本当の夢は広い世界へと出て、平和の想いを伝え

誰かたちを助けること‥満優が自分の名に込めてくれた想いのように。

それでいいのかい?

デン「ええんや」

本当に?

デン「しつこいなっ、ええゆーたらええんやっっっ‥ん?」

いつのまに誰かと喋っている。

デン「ん? 僕は‥誰と喋ってたんやろ‥」

蝕「はぁい、義弟くん」

いつの間にか現れた蝕は、いちごみるくの店内にいた。

デン「しょ、しょ‥嘱託社員の江藤さん」

蝕「私だってねぇ、そりゃ定年後もできるだけ正社員扱いのところで働きたかったし
現役のころと変わりなく働きたいのよ。

でも今のご時世、再雇用してもらえるだけでもありがたいじゃない‥って

そうじゃなくて、私は蝕! 蝕-エクリプスよ!!」

デン「ほほぉん、以外にノリツッコミ上手やんけっ。

それよりも、なんで僕が僕やとわかったんやっ」

蝕「僕が僕だとなぜわかったのか?‥ねぇ。

うふふふ、まるで思春期の子が書くポエムみたいなフレーズね」

デン「ええフレーズやないけっ。

だいたいな、ポエム書いてたとして何が悪いねんっ。

人が好きやって思ぉて一生懸命になにかをしたんを
なんもせんとってケタケタ・ニヤニヤ、笑う奴の性根は腐りきっとるんじゃ!」

蝕「なら私の性根も腐っているのね」

デン「お前がそれを笑うんやったらな!」

蝕「まぁ、別に義弟くんがポエム書いてても私はきにしないけど」

デン「ふんっ、それもそうやけど‥

性根の前に、おどれの身体が腐りかけとるそうやないか」

蝕「おや? あのパンダの女の子から聞いたのね」

デン「おどれの本体はドコにあるんけ?

今すぐに修復せんと、お前自身がこの世界から消えてのぉなってまうど」

蝕「消えてくれたほうがいいんじゃないの?

けど、その前に私がこの世界を滅ぼすわ‥」

デン「そないなこと、僕らぁがさせるかい!

せやけど、ウソかホンマかまだハッキリせぇへんけど‥

おどれがルナの姉ちゃんやったら‥」

蝕「私を助けてくれるの? そんなことしなくていいから‥
そうね、私を手伝ってくれるかしら。

この世界をブッ壊す手伝いを」

デン「それは出来ひん相談でんな」

蝕「なら私を倒すしかないわね‥義弟くんとルナで」

デン「ヤな奴やで、ホンマ」

蝕は今にも短槍・ゴルゴダを取り出しそうで
デンも愛・伝えまフォン-赤から継・笹葉魂撃守國景を取り出す。

デン「そーやった」

50cm大のパンダのぬいぐるみが持つように作られている刀だ‥

人間でいう17歳が持つのにピッタリなサイズとはワケが違う。

蝕「あらあら、そんなオモチャじゃ戦えないじゃない‥」

デン「こ、これでじゅーぶんじゃ!」

蝕「やめましょ、今回は何もなしってことで」

デン「このまま退くんけ?」

蝕「本当なら、私のお人形ちゃんを連れていったあの魔法使いや
義弟くんを懲らしめようと思って出てきたんだけど‥

まさか、そんな姿になってるなんてね」

デン「すぐに元に戻るわい」

蝕「その前にルナに言ってあげたらどうなの?

義弟くんのその姿、なかなかイケてるんだから
ルナも喜ぶんじゃなぁい?」

デン「ふんっ、男が顔で勝負してなんになんねん。

度胸と真心で、ガツンと男は勝負せなアカンねや!」

蝕「あっはははは、嫌いじゃないわ、そういうの。

ビオレータのことでムシャクシャしてたけど
面白いものを見せてもらったから今回は許してあげる」

デン「なんやソレ‥まぁええわ、おどれに かもぉとる(かまってる)ヒマもないし」

蝕「義弟くん、なんでルナにその姿のことを言わないのかしら」

デン「んなもん、きまっとるやないけ。

ルナに言うと混乱してまうやろ‥それに一時的な現象やさかい、すぐに元に戻るわっ」

蝕「そう‥珍しく、義弟くんからマイナスな波長を感じたから
てっきり、ほかに理由があるのかと思った」

デン「ギクッ」

蝕「わかりやすい子ねぇ」

確かに蝕の言うとおりだ‥

あの言葉が引っかかったままで、ついヘソを曲げている自分もいる。

蝕「曲げるヘソなんか無いくせに」

デン「あるんじゃ! パンダにおヘソはありますぅ!

爬虫類じゃないんどっ。

それに今のこの姿でも‥ほれ、この通りや!!」

蝕におへそを見せる。

蝕「あっ、あるある♪」

デン「ってゆーかオマエ、僕の頭の中で考えとることに
イチイチ話しかけてくな!!!」

蝕「はいはい。

でもね義弟くん、夢魔たちは‥悪魔たちは人の心の隙につけこむものよ」

デン「きゅうりにおナスに大根、カブに白菜‥」

蝕「それは[漬け込む]ね。

漬け込むのものは ぬかみそ、塩、しょうゆ、ほかにもイロイロあるんだろうけど
私が言ってるのは[つけ込む]よ。

いい? 悪魔は人の弱さや隙を突いて心に入り込んで
人の心を暗黒に染める‥そんな人の弱さが私は憎い」

デン「悪魔やのぉて、人が憎いんか‥」

蝕「ええ‥悪魔の言葉なんかにすぐに耳を傾け、
言いなりになってしまう人の弱さは大罪よ。

死を持って償うべきなのよ」

デン「やから、オマエはこの世界を壊そうとするんか?

悪魔に魂を売って手に入れた力で‥」

蝕「皮肉でいいじゃない。

悪魔にしか耳を傾けない人間たちを、悪魔によって力を得た堕天使が討ち滅ぼす」

デン「最悪な悲劇やな」

蝕「最高の喜劇よ」

交わす視線‥

蝕「義弟くん‥人間ってそんなに守る価値があるものかしら」

デン「わかろうとせぇへんヤツに、ホンマのことはわからへんな」

蝕「人は野蛮よ‥ケダモノだわ。

自分より弱いヤツにはいくらでも暴力を振るう。

自分より強いヤツにはいくらでも卑屈になる。

それに、どんなに想っても

その想いに甘えて傷つけるバカもいる。

そうそう‥このあたりの人間で、そういう奴がいたわ。

ゆうべだったわね‥見かけたのよ。

母親の想いに甘えて、無視して何もかも見ずに
不平不満ばかりのガキをね。

アレこそ、人間の本性なんじゃないかしら。

だって、この星の命も資源も
すべて人間のためにあると勘違いして

贅沢放題に殺し、喰らい、貪り、奪い尽くす。

まるで母なる星に甘えて、星の命を食いつぶす人間の姿のじゃない。

多くの命は人の手によって途絶え、たくさんの資源が取りつくされようとしている。

私は‥何もしない能天気で役立たずの神に代わって
この世界に罰を与えようとしているだけだわ。

大罪を犯し続けるものたちへ罰を」

デン「悪い奴らに罰を与えために、悪ぅもない人たちまで巻き込んでええってゆーんか?

それはもう、罰やのぉて暴力やないか。

それに、罰を与えるんならまず
自分自身に厳しゅうならなアカン‥

そうでないと、罰を与える資格なんぞドコにもないわい!」

蝕「義弟くんと話すと楽しいわ‥妹に嫉妬しちゃうくらいよ」

そういって蝕は店の外へと出た。

蝕「じゃあね。

次、会ったときは言葉はいらないわ‥私の槍と義弟くんの刀で語り合いましょ」

デン「それでも僕は、オマエに話しかけ続けるで」

蝕「好きにしたら」

去ろうとしたとき、デンはハッとなって蝕を呼び止める。

デン「職人さん!」

蝕「へい、らっしゃい! なに握りやしょうか‥って、違うわっっっ。

私は蝕よ、蝕-エクリプス!!!」

大工さんはじめ、漆塗りの工芸品や和菓子・洋菓子、織物に箸、タンス、畳‥
世の中に職人と呼ばれる人たちは数多いる。

その中から蝕がなぜ『寿司職人』をチョイスしたのかはわからないが
切れのいいノリツッコミを見せてくれた。

デン「すまん すまん、ひとつ聞きたいんやけど」

蝕「なにかしら?」

デン「さっき、このあたりの人間がなんちゃらって ゆーとったやろ」

蝕「ええ」

デン「それ、どの辺の人や」

蝕「そんなこと聞いてどうするの?」

デン「いや‥よぉある話なんやろうけど、なんや気になる」

蝕「気になるねぇ。

人の姿はしていても、付喪神の能力ってとこかしら。

たしか‥矢代とか表札に書いてあったわ‥ここからそう遠くない場所よ」

デン「やしろ‥熊本県?」

蝕「それは八代 (やつしろ)」

デン「犯人はっ」

私欲「ヤツよ! ‥じゃないっ」

デン「卑弥呼様ぁぁぁ」

蝕「それは邪馬台国!! 私が言ってるのは矢代‥

矢を射るの[矢]に

代打の[代]よ」

デン「矢と代打で連想するとなんや、ピーノの真心弓を思い出すな」

蝕「あの可愛らしい子のことね」

デン「さすがは夢の国の住人や。

やっぱり女性に大人気や‥天使にも堕天使にも人気なんや、ピーノ」

蝕「義弟くんも世界的に人気よ‥パンダはね」

デン「まぁな」

蝕「でも、あまり政治に利用されないように」

笑って蝕は空間を割って消え入った。

デン「パンダ外交なんぞ、するかいっ。

ったく‥それにしても‥矢代なぁ」

ルナといっしょにいた女の子も『矢代』といっていた‥。

デン「まさかな‥」

そう思いつつも、嫌な予感がザワザワと胸へと迫りくる。

デン「紅ちゃーん、あんな‥」

紅にワケを話して、万が一のためにと矢代宅を捜してみることにした。
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