付喪堂綴り・1

□第8章・1
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「不可思議萬請負業 付喪堂綴り」第8章
『男どすこい純情歌』

2011年5月

ハートフィールド、今は精霊世界と融合して『精心(ガイア)』と呼ばれる世界で
付喪堂はじめ、セイオウジャ、セクトウジャ、風救隊ヴァンツァー班、
ヴァーミリオン、モンスタリアといった仲間たちと苦闘の末
悪魔・メフィストを退けた。

しかしそれは天獄の悪魔たちとの最終戦争の前哨戦にしかすぎず
その時は刻一刻と近づいている。

付喪堂や仲間たち皆が、各々の強さに磨きをかけ
来るべき最終戦争に備えている日々を送っていた。


付喪堂

外見はまったく以前のものと変わっておらず
骨董店といった感じの、古びた建物。

が、地下に通常は格納されている要塞ブロック『付喪ビルダー』があり
新幹線型の移動要塞『付喪ライナー』と併せて、人間世界の守りの要となっていた。

しかし、悪魔との決戦時にビルダーもライナーも大破してしまい
ここ人間世界‥今は名が変わり『混沌(カオス)』という世界になった人間世界を守るため
大破したビルダー、ライナーともに大幅パワーアップを図り新造再建される。

新型要塞『付喪ハイパービルダー』とリニアモーターカー型移動要塞『付喪ウルトライナー』
付喪ウルトライナーは以前が新幹線型であったが今回は
リニアモーターカー型となっていて、伝助自慢の作品である。

そして以前までの付喪ビルダーはというと、付喪ライナーとともに
外観はそのままに内部は新造のビルダーとライナーと同等に一新され再建し
これまでの居城・クローマパレスを失った、精心に住むモンスタリアへと譲渡された。


メアリー「おまえさん」

源左衛門「ん?」

付喪堂内にある農園エリアで作業中の源左衛門。
源左衛門が作る野菜はとても美味しく、火村仁と水里愛理が経営する食堂・福福や
吉黄 檸檬の親が経営する八百屋・八百月で販売もされていた。

評判はかなりのもの。

伝助は将来的にはネット販売も視野に入れているらしい。

最近は梅桃 桜花、芸名・天晴 夢子のマネージメントで芸能部
伝えまフォンシリーズやセクトウジャが使用するツァイフォンなど
通信事業も正式に立ち上げて
さらに飲食事業も

仁・愛理の『福福』
茜・紅の『いちごみるく』
愛理の母・望の弁当店『ごはんよー』
善三さん・弥生さんが経営する甘味処『ひなぎく』

付喪堂と協力関係にあり今後、関係のさらなる強化と新規事業も広げていくらしい。

なにかと商魂発揮しているがそれもこれも、今後ますます激しくなる戦いのために
新たな装備を開発・製作していく資金のためで。

付喪堂の武装も現在、パワーアップしている最中。

ビジネスと研究開発、制作と伝助はなかなか多忙である。


メアリー「珍平のヤツ、どこにいったかしらないかい?」

源左衛門「朝飯のときはいたが‥そういえば見かけないな」

メアリー「そうかい、おまえさんも知らないんだね」

源左衛門「どうした?」

メアリー「なぁに会長がさ、様子を見てきてくれって言うもんでね」

源左衛門「淑が?」

メアリー「そうなのさ。

ほら、珍平のヤツ ココんところ元気がないじゃないか。
だからね、会長が気にかけてんだよ」

源左衛門「なるほどな‥ま、しかたないさ。
アイツ、今までずっと妹といっしょだったからな」

付喪堂から満優たちのもとへと帰った珍平の妹・餡子、そして夫の君兵衛。

熾烈になっていく戦いは、これからもっと苛酷になっていくであろうと予想に難くはなく
そんな中で餡子と君兵衛の力は、伝助たちに追いつけるどころか距離が開くばかり‥
このままでは足手まといになる。

力不足を痛いほど感じた二人は、最前線から撤退することを決める。

だがけっして後ろ向きな考えからではない。

ともに戦い支えられなくとも、サポートの術は様々であり
精心で付喪堂の支部を作り、支える仲間たちや戦うものたちを鍛え育てること
それに、満優たちを守ることもまた付喪堂へのサポートだと。

想いは仲間たちと離れることなく、ずっとともに戦っているのだ。

精心へ通じる入り口は付喪堂とほかに、霊皇たちの基地である霊皇の宿にもあって
とても簡単に、手軽に行き来できるものだし
伝えまフォンなどもある。

顔を見たり話したり、それはたやすいのだが
それでもやはり別れるというのは、離れるといのは寂しいもの。

源左衛門「家族と離れるということは、とてもつらくて寂しいものさ」

それはメアリーがよく知っているだろう‥

源左衛門の優しいまなざしにメアリーは

メアリー「そうだねぇ」

共に暮らしたものとの別れが原因で、心を深い闇へと沈めた過去を持つメアリー。

源左衛門「少し休ませてやればいいのさ。

それがたとえ闇だったとしても、立ち止まり休むことは悪いことじゃない。

休めたならまた立ち上がり、闇を抜けて光の中を歩けばいい。

メアリー「だね‥といってもまぁ、珍平のことさね。

同じ歩くならいつもお日様ポカポカの、陽だまりん中を歩くだろうけどさ」

源左衛門「ははははは、確かに。
アイツが歩き続けるそのための支えや差し伸べる手は
俺もお前も、淑たちだって惜しまないだろう」

メアリー「そりゃそうさね、いまだってこうして気にかけてるんだから」

笑顔になるふたり。

メアリー「ねぇお前さん、珍平はそのうち、餡子に子供ができたとかいって
大騒ぎしたりするんだろうね」

源左衛門「ふむ、じゅうぶんありえるな」


ここで少し説明させてもらう‥付喪神同士、惹かれあい結ばれ夫婦となることがある。

伝助とルナだったり、総右衛門と淑、源左衛門とメアリーであったり。

ずずとエトの場合は少し複雑。

付喪神のずずと宇宙からやってきたエネルギー生命体エトの夫妻であるが
エトの身体は擬態したコアラのキャラクターぬいぐるみに固定されつつあるそうで
やがて付喪神同士の夫妻と変わりなくなるだろうとエトは話している。

今はとりあえず、付喪神同士の夫婦における子宝の話をしたいと思うのだが
まず夫と妻の愛情の高まりが最大値になっていることが条件なのは第一。

しかし最大値になっているからと、すべてが授かるものではないらしい。

結ばれて長く授からない夫妻もいれば
結ばれてすぐにあるいは
子を授かって結ばれる、付喪神のカップルもいたりすることがある。

子が生まれ、親を探して出会い、結ばれるカップルもときとしてある。

そして『子供』についてだが、人間のように妊娠・出産を経て子を授かるものではなく
両親がいて、子となる付喪神との想いが、魂‥魂力が繋がることで親と子になる。

それが付喪神における子宝である。

全く気が付かないまま、魂と魂が結びつき生まれることもあれば
人のそれのようにつわりなどを経て授かる子もおり、その時々、様々である。

人でいうなら「血縁関係」がなにより優先されるのではなく
魂が、想いが、心が通じ合い、触れ合って親子関係になるということだろうか。

もちろん[ぬいぐるみ]なら
同じ綿を身体に入れることで『血縁関係』を築くことになるし、できるのだが
それについてはあまり意味を持たないのが、付喪神における親子関係である。

綿よりも想い‥想いが繋がっているか、魂が、魂力が繋がっているかが重要になる。

[血は水よりも濃い]と人はいうが、血よりも濃く深い想いの繋がりを付喪神は重視する。

人と人の関係も、そうであったならと考えなくもないが。


さて、珍平の行方はというと‥


河原

5月・初夏。

水辺の気持ちよい風も優しく吹く中、珍平は川の流れをみつめては
ちょっと溜息ついている。

妹夫婦が満優のもとへ戻ってから、なんとなく元気が出ず
寂しい気持ちをどうしたらいいものかまだ掴めないまま
日にちだけが過ぎてしまっている。

珍平「魚たい」

川の中で泳ぐ魚を見つめ『魚だ』と呟く珍平。

泳ぐ魚のうろこがキラキラ光り、なんだか自分がおいてかれるような気がして少し焦る。

焦れば焦るほど、寂しさのぬかるみにはまってしまうだが
わかっていてもそれを避けきれないのが、今の珍平の状態。

溜息ついては川の流れと魚たちの輝きを見つめているしかなく。

『やめてください!』

珍平の溜息を割いて、かわいらしい女のこの声が聞こえてきた。

珍平「なんやろか?」

キョロキョロとあたりを伺うと、珍平がいる河原の少し先に可愛らしい真っ白な子犬が
野良犬たちの集団に絡まれていた。

子犬の周りにまとわりついては、小突いたり引っ張ったりする3頭、その後ろに4頭。

子犬の赤い首輪には小さな鈴がついていて
今その鈴が悲鳴を上げているように忙しく鳴っている。

珍平「こりゃイカンっ」

走りだす珍平。

野良犬・1「おうおう、お嬢ちゃんよ」

野良犬・2「俺たちについて来いって言ってやってんだろうが!」

野良犬・3「親分の酒の酌すりゃ、今晩寝る場所もメシも心配することはねぇんだからよ!」

子犬「離してください、私にさわらないで!!」

振り払う爪が野良犬の頬をかすり

野良犬・1「イテぇじゃねえか、このアマ!」

カッとなって、子犬のノドに噛みつこうとした野良犬の頬を殴ったのは珍平の拳。

珍平「なんか、きさんらぁ!
男がよってたかって おなごに乱暴っちゃあ 恥ずかしゅうなかとか!」

野良犬・2「なんだテメェは!?」

野良犬・3「ぬいぐるみは引っ込んでろ!」

野良犬・2「さもねぇと大事な命、落としちまうぞ!」

野良犬・1「もう遅ぇや、コイツの綿ぁ、ひきずりだしてやれ!」

野良犬たちはそれぞれに返答し、珍平に襲い掛かる。

珍平「かかってこんかい!」

飛びかかる野良犬を掴んでは投げ、掴んでは投げ
放り投げると川に落ちて『キャウンキャウン』と悲鳴。

背後から襲おうとした奴らは『どすこーい』と腕をからめとって背負い投げ一本!

あっという間に野良犬の集団を叩き伏せる珍平だった。

野良犬・1「お、覚えてろ!!」

珍平「忘れたら聞きに行ってやるったい」

逃げていく野良犬たちに声をやり

珍平「弱い犬ほどよぉ吠えるっちゅーが、ホントじゃな」

振り返ると子犬は、あまりの怖さに震えうずくまったままでいた。

珍平「こりゃイカン、だいじょうぶやったか?」

優しく声をかけ、肩に手を置いたのだが‥

『うわーん』大きな声で子犬は泣きだした。

珍平「こ、こりゃイカン‥イカンぞ」

あまり女の子と話したことがない珍平だ。

この事態‥かなり危機感な表情を見せる。


付喪堂

伝助と缶吉がリュックいっぱいに なにやらパーツを買いこんできたようで
その後ろから、ペン、ごんとねんも歩いてくる。

どうやら4人で買い物へ行っていた様子。

缶吉「あー疲れた。

これくらいあったらしばらくは、だいじょうぶじゃろ」

伝助「よぉけ作るのあるからな‥どうやろか?」

ペン「ま、足りんようならまたオイが買い物に出ますばい」

ごん「ぶひぶひ (俺も俺も)」

ねん「うんもうんも (どーぞどーぞ)」

ペン「そこはまずいっぺん、自分も行くと言わな成立せんじゃなかですか?」

なにやらベテランお笑いグループの例のノリを再現しようと賑やかにワイワイ。

ルナ「あら、賑やかだと思ったら。
お帰りなさい」

玄関先を掃除をしていたルナがお出迎え。

伝助「ただいまぁ」

ペン「あっ! しもた、忘れとった」

缶吉「なんか忘れもんか?」

ペン「いやいや、必要なもんはぜんぶ買いましたばってん

今日は、ほしかったディスクの発売日やったのを今、思いだしたとです」

缶吉「なんじゃ、ほしたらついでに買ってくればよかったろうに」

ペン「そうなんですよ、予約しとったとにウッカリ‥楽しみにしとったディスクですけん
しょうがなか、今からちょっと買いに行ってきます」

伝助「ポチっとクリックして買ぉたらよかったのに」

ペン「それでもええのは ええんですけど」

伝助「好きなもんは早ぉほしいっちゅーことやな」

ペン「えへへへ、そーいうことです」

缶吉「なんのディスクじゃ?」

ペン「プロレスですばい」

伝助「ペン、プロレス好きなんか」

ペン「はい。

国内海外問わず、もちろんメジャーもインディーズも関係なく
男子も女子もプロレスば大好きです」

缶吉「へぇ、そうじゃったんか」

ペン「この前の伝助さんの新しい技‥」

悪魔との決戦の時、伝助が目覚めた不思議な力で繰り出した必殺技

エクトプラズムを用いて不可思議に気持ち悪く抱え上げ
投げ落とした技・シャーマンスープレックス。

ペン「あん技ば見た時、驚いたっちゅーか感動したと言いますか。

あんな技もあるんじゃなぁと心震えましたばい」

伝助「あの技な‥なんか自然いっぱいの不思議なトコにある
上下前後左右のドアの一つを開けたら
使えるようになったんやけど、イマイチ自由に使いこなせへんねん。

ほやから、ちょっと落ち着いたら修行に出ようと思ぉてんねや」

ルナ「悪魔との戦いは今も続いてますものね。
今は静かですけど確実に最終戦争は近づいてますから」

伝助「みんなの武装の強化や新造、ライドと伝えまフォンも新しゅうしたいし
片づけなアカンこととかあるさかい今は無理やけど
それがほぼほぼ落ち着いたら、チョット修行に出かけてくるわ」

いつ最終戦争が始まるのか‥それはまだわからない。
数年先なのか、数か月なのか数週間後なのか。

それでも焦ることなく、悲観もせず
付喪堂は今できることを最大限に、明日のための努力をそれ以上に励む。

ペン「じゃ、ササッとチョットいってきます」

息抜きの時間も、楽しむ時間ももちろんのことに必要だ。

ルナ「いってらっしゃい」

手を振り、ペンはテクテク歩いていく。
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