付喪堂綴り・1

□第8章・2
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珍平「うぉおお!」

蝕と戦う珍平。

蝕「義弟くんやボウヤ、呼ばないの?」

珍平「オマエのことじゃから、まだなんか仕込んどるかもしれん。

危険なまま仲間を呼ぶワケにはいかんのじゃ!」

蝕「あらあら、そうなの。

つまんないわね」

珍平「せからしか! おまんの遊びに付き合うために、なんで仲間を呼ばにゃあならんのか!」

パンチの連打。

蝕はかわすだけで、反撃もせずに笑っている。

珍平「なん考えとーとか! (なにを考えている)」

蝕「付喪堂といっても、義弟くんたちとあなたのように
明らかに戦闘力に差がある子がいるわね」

珍平「なんじゃあ!?」

蝕「ほら、パンチがずいぶん大振りになってる。

それじゃせっかくの怪力も、攻撃の正確性が低くなって効果ないのと同じじゃない。

義弟くんやボウヤ、うさぎさんや猫さんなら、そんなことないのにね」

珍平「伝助さぁにピーノ、源左衛門さんにメアリーさんのことばいうとんのか」

蝕「私、アナタの怪力さは高く評価してるのよ。

どうかしら‥私たちの仲間にならない?」

珍平「なに?」

蝕「最終戦争が起きる。

神と悪魔の最終戦争‥神の側に付喪堂がいるなら、悪魔の側にもいたっていいはずじゃない。

力の均等は守らなきゃ不公平でしょ」

珍平「なんが不公平じゃ。

悪かことしようとする奴らに不公平じゃなんじゃち、言われとうはなか!」

蝕「酷ぉい、いいの? 正義の味方がそんなこと言っちゃって」

珍平「公平か不公平か、正しいか正しくないか、それを都合の良いように使う
おまんらの言うことに耳を貸す気はなか。

命の、か弱いもんたちの声を聴こうとせんで
ただ自分の主張だけをぶつけてくるオマエの言うことに、貸す耳なんぞもっとらんたい!」

蝕「ならこのまま、いつかは倒される未来を選ぶのかしら?

アナタの今の力なら、きっと最終戦争には生き残れないでしょうね」

珍平はその言葉に一瞬、飲まれる。

妹の餡子は、自身の力と仲間たちの差に足手まといになると察し
また、恐れもあって一線から退く決断をした。

そのことは珍平も痛感するところで、野性に目覚めた伝助と自分は
比べようもないほどに力の差があると痛感している。

それは缶吉もそうだろう、ペンもごん、ねんも。

珍平「じゃっどん‥それでもなんかせんとおれんのじゃ。

たとえどんな厳しい未来が待っていようが、そん未来ば変えたらええんじゃ。

ワシの血と汗と涙で、よりよい未来が来るように変えていきゃあええんじゃ!

ワシが鍛え、強くなりゃあそれですむ話じゃ!」

気迫と努力は、眠る力を呼び起こす。

珍平の強さの上昇の兆しを蝕は感じ取った。

蝕「残念ね、だったらいまここでアナタの未来を絶ってあげるわ」

蝕が走り、珍平に一撃を加えようとしたとき

蝕「お嬢ちゃん、なにかしら?」

その蹴りを止めたのは結だった。

珍平「おまんは‥」

蝕「怖がりクマのお嬢ちゃん、死にたくなかったらアッチにいってなさい」

結「ワ、ワタシ‥確かに怖いけど、このパンダさんの言う通りだと思う。

どんなに辛くて苦しい未来が待っているとしても、今のワタシたちが頑張れば
辛くて苦しい未来は明るく幸せな未来に変わると思うの!

そのために、そのためならワタシ‥戦う!」

蝕「あらあら」

そんな蝕に珍平はパンチ。

蝕はサッと避けて間合いを取る。

珍平「結さんっ」

結「あい!」

可愛い返事だ。

珍平「結さん、悪かけんどココは、おまんの力を貸してもらうぞ!」

結「喜んで!」

パンダと熊、ふたりが力を合わせる。

一方‥

ペンと撫子も戦っていた。

互いに譲らぬエルボーやチョップ、張り手の応酬。

が、ペンはもうフラフラ。

撫子もかなり苦し気だった。

ペン「まだばい‥ここから勝負がはじまるとばいっっっ」

消えかけた意識を奮い立たせて、ペンは渾身のエルボー。

撫子も譲らず、撃ち返す。

吹っ飛ぶペンは川の中へ落ちた。

撫子「終わった‥」

ペン「まだばい!」

水中に入ったことで、ペンギンとしての能力を解放。

飛ぶように泳ぎ、勢いそのまま水面へ飛び出る。

ペン「ペンギン・エルボースイシーダぁぁぁ!」

まるでリング内から場外へ飛んで放つひじ打ちのように
ペンは突進して撫子を打った。

撫子とペンはそのままもつれて、両者ノックダウン。

同じころ、珍平と結は怪力で蝕を捕らえて猛攻を見せていた。

珍平「ひとりじゃ小さい力でも」

結「ふたり合わせたら!」

珍平「そして仲間たちと力を合わせたなら‥こん力はもっともっと強くなる!」

地面へ叩きつけられる蝕。

蝕「がっ!」

なかなかのダメージ。

蝕「フフ‥フフフ‥そう、そうなのね‥ひとつじゃダメだから束になる。

でも覚えておくがいい。

束になれないものだっているのよ」

珍平「それは‥」

オマエのことか?との言葉を飲みこむ。

蝕「ゴリラちゃんも終わったようね‥これでエキシビジョンはおしまい。

また次の機会に楽しみましょ‥束になって遊んであげるわ」

手を軽く降ると地面が小さく連続的に破裂。

その間に蝕は撫子を連れて姿を消していた。

珍平「退いたか‥よかった‥」

かなり疲れたのだろう、珍平の身体から急に力が抜けて座り込んだ。

結「だいじょうぶですか!?」

珍平の汗をぬぐう結。

ペンはまだ気絶中。

そんな3人を取り囲む野良犬集団。

結「な、なんですか!? やるっていうならワタシ‥相手になりますよっ」

やれば強い子・結は身がまえるが、群れの中から割って出たカシラは
珍平に頭を下げる。

カシラ「兄貴、申し訳ございませんでした!」

カシラに続き、全員が頭を下げる。

珍平「おまんら」

カシラ「ひとりじゃなにもできないちっぽけな俺たちも
力を合わせてこれから、よりよい未来を創るために生きていきます」

珍平「わかってくれたんか‥ありがとうの!」

笑顔を見せる。

そんな珍平に結の心はときめいた。

結「決めた! ワタシ、付喪堂に入りますっ。

そして‥珍平さんの奥さんになるっっっ」

珍平「えっ!?」

カシラ「せ、先生」

珍平「ぺ、ぺぺ、ペン、早よ起きろっっっ」

珍平は疲れもどこへやら、飛び起きて駆けだした。

結「珍平さぁぁぁん!」

追いかける結。

突然の堕天使襲来もかすむ、押しかけ女房登場である。


付喪堂

逃げ出した珍平追い駈けた結、気絶したペンはカシラに運ばれ帰宅し身体を休めた。

チョコとりんも付喪堂へとやってきて、出されたお茶を飲んでいる。

淑たちの手当てで目を覚ましたペンは、撫子と決着をつけれなかったのを悔しがる。

伝助たちはその珍平やペンたちの言葉で蝕が生きていたことを知り
さらにはなにやら企てていることも知る。

撫子‥新たなる付喪神を仲間に引き入れ、蝕は何を企むのか?


一方、ペンの調べと缶吉の協力も加わって
りんの家の引っ越し先は、関西にあるとわかる。

また、懸念されていたような
りんは捨てられたのではなく、りんが誤って家を飛び出てそのまま帰ってこれず
気になりながらも引っ越しの時間に追われて仕方なくその場を去った‥それが真相だった。

伝助「送っていこか?」

そう切り出したが、りんはここで生きていくという。

缶吉の調査で、関西の新しい家はマンション‥おそらく、りんが戻ったところで
遅かれ早かれ別れがきていただろうと思われた。

チョコ「人の都合でどうにでもされる命」

カシラ「だが、自分の意思で生きていける命」

りん「だったら‥生きたい」

カシラ「俺たち、力合わせて生きていこう」

チョコと仲良くなったりんは、カシラたちとも仲良くなって
蝕に襲われ重傷を負ったボスも淑の手当てで事なきを得て

医師の能力も身に着けているピーノの治療で
身体もしばらく安静にしていたら元通りに動くようになるという。

なによりも、ボスも力合わせて生きていくことに賛成し
今後一切の悪事をやめ、正しく生きていこうと決意したことが珍平はとても嬉しかった。

新しいリーダーにチョコが選ばれ、カシラたちがサポートする。

それをボスたちは支えると、若い者たちを支えていくと誓った。

集団はまず、付喪堂が用意するシェルターで暮らし
今後、移住できる森や林、山間部‥あるいは過疎の村など探していくことになる。

ピーノ「安住の地が早くみつかりましゅよーに」

星に願いを‥ピーノの想いだった。

そういうことで、気にかかるのは りんのこと。

まだ幼いりんをほうってはおけないと考え、珍平はともに暮らそうと告げるつもりだ。

だけども‥チョコがりんに『一緒に暮らそう』と告げ
りんも頬を赤らめながら『はい』と答えたそうなのだが‥

ペン「それは‥その‥珍平さん‥ね」

どう声をかけていいものかと。

珍平はただ、黙している。

結「おめでとうございます! ワタシたちと一緒で、新婚さんじゃないですかぁ♪」

珍平「誰が一緒になると言うたとか!」

結「えへへ、ワタシ嬉しい」

総右衛門「話がなにやらかみ合っておりませぬな」

メアリー「いいじゃないか、今時、押しかけ女房ってものも珍しくてさ。

あんがい、いいもんさね。

それにけっこう、お似合いのふたりだよ」

ケラケラと笑うメアリーに、困る珍平と照れる結‥

とても賑やかな夜を過ごした。

りん「わたし、一生懸命生きていきます」

辛いことはこれからたくさんあるだろう。

でも、それでも生きていくことできっと未来は明るくなると

そのために付喪堂は全力で動くと
楽しい宵に伝助たちは誓う。
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