付喪堂綴り・1

□第1章・1
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「不可思議萬請負業 付喪堂綴り」
第1章『心の旅』


2009年12月25日


都内

ビルが立ち並ぶ街並み。

忙しそうに街を駆け抜ける人々の陰に隠れるように
その建物はひっそりと佇んでいた。

東京に似つかわしくないほどに古ぼけた建物‥

一見、西洋風の家にも思うが
伝統ある日本建築にも思える不思議な雰囲気。

年季の入った木材の看板には
『付喪堂(つくもどう)』と書かれていた。

看板の横に『不可思議事萬相談承ります』と記されているが‥

まだ引っ越してきたばかりなのか、入り口にも部屋の中にも
ダンボール箱がたくさん積まれている。

入り口を抜け、2階への階段をあがると居住スペース。

1階の部屋に、小さな机と椅子が数脚置かれてあり
電話やファックス、パソコンにコピー機と
まるでオフィスのよう。

付喪堂の事務室らしい。

事務室の奥のドアをくぐると、そこは応接室。

アンティークなソファーセットが置かれていて
天井には、これまた感じのいいアンティークなシャンデリアが吊り下げられていた。

さらにその右隣のドアを開けると
たくさんの書物・文献が、7段の書架を8架設けて
きちんと整理整頓されて並べられている‥が、
まだまだダンボール箱の中にたくさんの文献が残っている様子。

書庫は地下室と2階部分へと繋がっており
地下&2階は、1階よりもさらに多くの文献が置かれている。

ちょっと戻って事務室へ‥事務室横に部屋があり
入り口に『休憩室』と書かれていた。

中から

『じんぐるべぇる、じんぐるべぇる、じんぐるべぇるべぇ♪

うぉあいにぃ~とんなんしゃーぺい、しぇいしぇい、いえらいしゃんっ、ヘイっ!

じんぐるべぇる、じんぐるべぇる、じんぐるべぇるべぇ♪

ルーメン、ウェントゥス、アっモル、ガウディム、
そんなにラエトゥスのっ、 ヘイっ!』

『うぉあいにぃ』『とんなんしゃあぺい』『しぇいしぇい』『いえらいしゃん』とは
それぞれ中国語で『私はあなたを愛してます』と『東西南北』に『ありがとう』と
『夜来香』という。

夜香来とは、夜になると香る5弁の星のような形の花。

ちなみに花言葉は『高貴な心』。

『ルーメン』『ウェントゥス』『アモル』『ガウディム』『ラエトゥス』とは
ラテン語で『光』と『風』と『愛』に『喜び』に『嬉しい』の意味である。

伝助「いやいや、今年も歌いましたな♪」

わけのわからないジングルベルを歌っていたのは伝助と総右衛門、源左衛門。

そういえば、去年も歌っていたな‥。

今日は2009年12月25日‥クリスマス。

淑「昨夜のチキン、美味しゅございましたわ♪」

メアリー「そうだね。あたしゃケーキも気にいったよ」

楽しそうに話している淑とメアリー。

総右衛門「夕べは女の子の霊に助けを求められて手助けしているうちに
ちと帰るのが遅ぅなってしまったが、チキンを食したうえ
ケーキも特売で安く、しかも大きなものを買えることが出来き
美味しいケーキも腹いっぱいに食べれました‥イヴを祝えたのはなによりにござりまする」

この世に誕生しないままに天へと帰った女の子の霊が
母親の危機を助けてくれと伝助たちを頼ってきたのは前日‥

その母親のお腹には新しい命が宿っており
その子の想いもまた、伝助を頼り‥きよしこの夜の奇跡と、
母親もその子たちも無事に救くうことが出来て、ようやく帰宅したイヴの夜だった。

伝助「それにしてもなんやね。

クリスマスっちゅーと、男がごっつ高価なプレゼントと めっちゃ高ぉて美味しいご飯を
女の人におごらなアカン日やってね」

総右衛門「若、ですから それはかなり誤解を生みまする表現にて」

メアリー「アラ、いいじゃないか。年に1度のことだもの、
それっくらいしたってバチゃあ 当たらないさね」

総右衛門「いやいや、おなご方の『年に1度』はアテになりませぬゆえ」

苦笑いの総右衛門に

淑「まぁ あなたっ! なんてことをおっしゃるのかしらっ。

女子にとりましてバレンタイン、ひな祭り、ホワイトデー、夏休み、クリスマスは
どれも年に1度の大切なイベントにございましてよっ」

総右衛門「た、たしかに個々のイベントは年に1度じゃが‥」

淑「ムキィィィ! まぁだ何か文句でもございますのっ!」

総右衛門「あ、ありませぬ」

ヨヨヨとむせび泣く総右衛門をしり目に、淑はいそいそと片づけものをしている。

源左衛門「クリスマスの説明は、以前もしたはずだが‥

まぁクリスマスのことなら、ルナに聞けばちゃんと教えてくれるだろう」

伝助「せやね♪ルナ、早ぉ帰ってきぃひんかな」

どうやらルナは、おつかいで近所のスーパーに行ってるよう。

淑「ですけど、ようやくお店が開けるのでございますわね」

源左衛門「ん。だが店といっても、何を売るというものではないがな」

淑「思いだしますわ‥わたくしがナースをしていました頃、
患者さんのお子さんの行方が知れず、捜しあぐねていた私に
伝助さんが自分は探偵だと名乗られて‥

それが縁で、離ればなれになった私と総右衛門さまが
こうして、めぐり逢えたのでございますものね」

総右衛門「うむ‥そうじゃな。

しかし、まさか本当に探偵事務所のようなものを構えることになろうとは
それがし思いもいたしませんでしたぞ、若」

伝助「まぁな♪戦いが落ち着いたら、まずは始めてみたいって思ぉてた事やったんや」

メアリー「で、ここは探偵とやらをしようって場所なのかい?」

伝助「探偵ともちょっとちゃうねんな‥まぁ名前を付けるとしたら、不可思議萬請負業‥

僕らとおんなじ付喪はんに関する悩み事や、悪霊・怨念・妖怪、化け物退治‥

いろんな不思議な悩みを解決しまっさっちゅー
すぴりちゅあるな、お仕事なんや!」

メアリー「ようするになんだ、オカルトだね」

伝助「ちゃうっ! すぴりちゅあるやっ」

メアリー「スピリチュアルとオカルトってさ、

日本プロ野球のセ・リーグとパ・リーグの違いみたいなもんじゃないか」

淑「あら、そうなんですの?」

伝助「ちゃうわっ、すぴりちゅある っちゅーのんはな
不思議な世界から贈られてくる愛やっ。

僕らはその愛のお仕事をするんやで」

メアリー「悪霊退治が愛ってかい? あはははは」

伝助「メアリーぃぃぃ」

メアリー「あははは、捕まえられるんなら捕まえてみなっ」

楽しい追いかけっこが始まる。

山積みダンボールをすり抜けて、メアリーが伝助に『おいでおいで』と招き猫。

伝助「しゃあぁぁぁ」

伝助はシャカリキになってダンボールを飛び越え追いかける。

淑「あらあら。メアリーさんったら、すっかり愛理さんみたいになられましたわね」

総右衛門「ふむ。確かに似てきておるな」

感心しながら総右衛門は事務室を出て応接室へ。

書庫の反対側‥左側のドアをあけると、付喪堂・制御室へと入る。

中には各種センサーなどの機器類がギッシリと並んでおり、
真正面には、壁一面のモニターディスプレイ。

スーパーコンピューターが立ち並び、街中の各要所に仕掛けられている
『伝助式がっちり守りますんにゃわセキュリティーシステム』が制御されている。

総右衛門「保育園、幼稚園、各学校、病院‥ふむ。

万事うまく動いておりまするな」

妖霊族・魔フォウズとの戦いはすんだものの‥伝助式(以下略)はそのままにしている。

天獄の存在も、いまだ残っているし
人間界から完全に脅威が消えたわけではない。

怨・魂力に反応していたセキュリティーシステムを、
未確認・未知の脅威に対しても反応するように改良。

データは、付喪堂のメインコンピューターに蓄積されて
日々、更新されていく。

また、巨大な災害時にも反応するように調整している。

伝助曰く『災害時にも有効やし、いずれはもっとエリアを拡大して
付喪警備っちゅーのんも作ったる』とのこと。

どうやら手広く事業を拡げて、グループ化を計画しているらしい。

『全国の付喪はんが、安心して働けるグループをこさえたるっ』が
伝助の想い。

そのあとは‥仲間とともに、広い世界へと飛び出したいのが夢である。

センサーのチェックをしている総右衛門に

源左衛門「伝助の夢‥星の海や次元の海へ、
いつか船出したいと言っていたな」

制御室の入り口にもたれかかりながら、微笑んで源左衛門は言った。

総右衛門「源左衛門殿‥さようでござりまするな。

船出のための第1歩‥それがこの付喪堂にござりまする。

我らも誠心誠意、若の夢のためにお力添えいたしたく思ぅておりまする‥

それがまた、それがしの夢にて」

源左衛門「総右衛門だけではない‥それは俺の夢でもある」

笑顔の源左衛門。

総右衛門「まこと。みなで広い広い、大きな海を旅してみとぅござりまするな」

『ただいまぁ』

事務室にルナの声が‥すぐさま『ルナぁぁぁ♪』と、伝助の甘えた声が聞こえる。

総右衛門「やれやれ」

苦笑いしながら、総右衛門はチェックを続けた。
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