付喪堂綴り・1

□第1章・3
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『おーまいがっ!』突然叫ぶ、伝えまフォン。

総右衛門「若、若の伝えまフォンのようにございまするぞ」

伝助「おお、メールが来たみたいや」

『おーまいがっ』って‥『ユーガットメール』転じて『オーマイガ!』 と、言ったところか。

伝助はメールを読む‥

ルナ「どうかしました?」

伝助「缶吉からや‥この世界のことなんやけど」

メアリー「何か わかったのかい?」

伝助「この世界な、今も分析中なんやけど‥なんや、空間のエネルギー波形が
人の脳波っちゅーかなんちゅーか‥そんなもんにピッタンコなんやと」

淑「それは‥どういうことですの?」

総右衛門「つまり、もしかしたら人が作りだした世界かもと言えるわけですな」

源左衛門「そうか。人の脳波‥つまり思念と同じ波形をとる空間‥

それは、人が作りだした世界かも知れぬと」

ルナ「では‥」

伝助「この世界は、銭好はんの夢‥いいや、心の世界なんかも知れへん」

ずず「オイラは‥何日か前に、クソオヤジを街で見かけたんでさぁ。

別れたっきり、生きてるものか死んでるものかも気にしていませんでしたが
街で偶然見かけたときは驚きましたぜ。

今ぁなにをしてるのかと、あちらこちらと探りを入れりゃ
人様を苦しめる悪党になってやがった。

おっかさんを叩き出しただけじゃ物足りず、大勢の人まで泣かせるようなクソオヤジなら
オイラの手でこらしめてやろうと、機会を伺ってたんです」

伝助「なら、この世界のことは‥」

ずず「オイラもビックリで。

とっちめるつもりが、いきなり、ヘンな空間に足を踏み入れちまって‥

それでも、クソオヤジに ひとあわ吹かせてぇ思いが勝り」

源左衛門「ここまで来たというわけか」

ずず「へぇ‥なんで、オイラもまったくこの場所についちゃあ 知らねぇんです」

伝助「そうか‥この世界は‥銭好はんの世界なんかも知れへんな」

ずず「クソオヤジの‥世界‥」

伝助「そうや。

なんか‥このあたりの場所に、見覚えとか あらへんか?

記憶の中の景色やと思うんやけど」

ルナ「夢で見ただけということはないんでしょうか」

伝助「まぁな‥夢だけでって景色もあるやろうけど

結局それも過去の景色のイマジネーションや。

信代ちゃんみたいな子たちなら、
まだ見てへん景色や
誰かの見た景色も見るんやろうけど

銭好はんには、そないな力は あらへんやろうし。

ずずが覚えてる景色があったら、
この世界は人の心が作り出したもんって、ハッキリするんやけどな」

ずず「見覚え‥ですねぇ‥」

キョロキョロと見回すが、とくに思い当たる場所はない。

『カンカンカンカン‥』ポツンと建っている駅のホームに、踏切の信号音が響く。

総右衛門「まさか‥列車が来るのでしょうか?」

伝助「んなアホな」

線路の遠くから、何かが近づいてくる‥

淑「アレは‥」

ずず「見覚えがあるヤツですね‥」

が、信じられないといった表情。

線路を進むのは、3階建てのビル。

メアリー「やっぱコイツぁ夢だね‥ビルが風を切って走ってるよ」

言ってるうちに近づいてくる‥

ルナ「あぶない!」

危険を感じたルナがまず、そう叫んだ。

叫んだかと思うと、ホームをめちゃくちゃに破壊しながら
ビルが駅を通過していく。

瓦礫が飛び交う中を、伝助たちは逃げる。

源左衛門「ずず、銭好を守っていろ!」

ずず「え!? へ、へいっ」

言われるままに、銭好を一応守る ずず。

メアリー「ハン、どんなにヒドイ奴だったとしても
オヤジはオヤジさ。

ワケがしっかりわかるまでは、短気をおこすんじゃあないよ‥

縁を切るのも切らないのも、それから決めりゃあいいさ。

それに‥誰しも、悪いほうへも善いほうへも
変われるものなんだよ」

優しく微笑みかけるメアリー。

ずずは、自分に本当に姉がいたら‥こんな風に言ってくれたのではと、感じていた。

ずず「へぇ‥すいやせん」

メアリー「謝んなくていいから、そのオッサンをちゃんと守っててやりなっ」

伝助たちとともに、飛んでくる瓦礫をパンチやキックでメアリーは払い落とす。

伝助「もうないか!?」

ルナ「終わり‥の、ようです」

走り去るビル‥銭好は『うぅぅ‥待ってくれ‥お、置いてかないでくれ‥』と

うわ言のように呟いていた。

伝助「置いてかないでって‥寝言?」

総右衛門「そこっ!? 若、気になるところはそこにござりまするかっ」

伝助「じょーだんやがな」

なんて、ニンマリ笑い

ずず「あのビル! どっかで見たことがあるって思ったら
クソオヤジの勤めていた銀行の‥」

伝助「そーか‥置いてかないでって今ゆーたやろ。

ビルが走りすぎていくんを見て、置いてかんとってって ゆーたんは‥

この世界がホンマに、おっちゃんの世界やったちゅーことや」

銭好「うぅぅ‥みんなに置いてかれる‥社会に捨てられていく‥

浜子‥浜子‥すまなかった‥俺がバカだった‥俺のやり方では‥

間違った方向に進んだばっかりに、結局‥ひとりぼっちになってしまった‥

お前を捨て、お前の大切なものたちも捨て‥俺が間違っていた‥許してくれ‥」

伝助「寝言、長っ!」

総右衛門「いやいやいやいや、寝言ではございませぬ!」

伝助「わかっとるがな、じょーだん やがなぁ」

そんなやり取りなど関係なく、ずずは 驚きを隠せない。

ずず「クソオヤジ‥おめぇ、後悔してんのか?

おっかさんを捨てたこと、オイラたちを捨てたこと‥後悔を‥」

肩が震える。

ずず「くっ! 後悔するぐれぇなら、なんでショテからこんなマネしやがった!!」

拳を握って振り上げるが‥

源左衛門もメアリーも、伝助たちも止めはしない。

もう、ずずが殴ることはないとわかっているから。

ずず「う‥うぐ‥ひっ‥ひぇ‥バカ‥野郎‥」

父にたいする『怒り』という名のカゴから、ずずは ようやく飛びたてた。

伝助「よかったな」

ルナ「ええ」

ハッと何かに気付く源左衛門。

撥ねて回転後ろ蹴り‥襲い掛かる、巨石を打ち砕いた。

小石の雨がにわかに降る中、身構える伝助たち。

伝助「まだ何かおるんかっ」

すると、海面が異様に盛り上がり
一角のクジラが海面を破って姿を見せた。

伝助「デデデ、デカっ☆」

ルナ「羽根よ!」

6枚の羽根は銭好を持ち上げ、安全な場所へと飛ぶ。

ルナも後を追って翼で飛んだ。

伝助はすぐに総右衛門の背中へ‥メアリーは淑の背中に乗り
ほねっこブースター起動!

源左衛門は ずずの足につかまると
羽ばたいて飛ぶ青い鳥・ずず。

陸を攻撃する一角クジラの尾びれを
かろうじて避けた。

伝助「あんなにデカいのん‥」

総右衛門「若、ひとまずこの世界を脱出いたしましょう!

もときた道を引き返せば、出入り口が見つかるやも知れませぬっ」

地を削り、総右衛門は方向転換。

まだ暴れているクジラの巨大な尾を避けて、走り進む。

その行く手を阻むナイフの群!

数百本はあろうか‥宙を飛んで、伝助と総右衛門を襲う。

伝助「総右衛門、ちょっと後ろに下がっとき!」

総右衛門「御意っ」

ポンと前へ出て笹葉を掴んでスゥッと息を吸い込んで‥

伝助「調子にのんなや、このボケぇぇぇ!」

怒りの必殺・笹の葉さぁらさら!

謎のナイフを一掃する。

伝助「コソコソ隠れとらん、早ぉ出てこいや!」

怒鳴る伝助の声に引きずられ‥男の子が現れた。

ルナ「あの子は?」

銭好の安全を確保して、伝助のもとへと飛ぶ。

男の子‥それは、女性を助けた松太郎。

伝助「おまえ、誰やっ」

源左衛門や ずずたちも集まる。

松太郎「じゅじゅ‥久しぶりでしゅね」

伝助「ジュージューって鉄板焼き!?」

総右衛門「若、お肉に海の幸と、焼いて美味しい鉄板焼きではなく
ずずと申したかと」

伝助「そうなんや」

憎しみにあふれる瞳で、松太郎は ずずを見る。

ずず「だ、誰でぇ」

松太郎「この姿では、わかりましぇんか‥あぁそうでしゅか。

なら、これを見たら思いだしゅんじゃ ないでしゅか?」

羽根飾りのついた、黄色い とんがり帽子。

ずず「それは‥オ、オメェ‥まさか!?」

松太郎が帽子をかぶると、姿は大きく揺れて‥60センチ大のぬいぐるみへと変わる。

ずず「ピーノ!」

黄色いシャツに赤い半ズボン、ズボンと同色のサスペンダー。

水色の蝶ネクタイと、とんがり帽子に羽根飾り。

前に長―い、お鼻がとても特徴的で‥

身長60センチの、有名なおとぎ話の主人公のぬいぐるみだった。

ピーノ「じゅじゅ‥お前が出て行ってから、ボクは苦労したんでしゅよ。

カビにもかかりましたし。

おかあしゃんは帰ってこない、じゅじゅも出て行ったきり‥

おとうしゃん‥いいや、じぇによし(銭好)も いつのまにやら姿を消して。
ボクは ひとりぽっちでしゅ。

だぁれも、ボクのことなんか思ってくれずに
ボクはカビて死ぬところでした。

運よくカビは広がらずに、身体から消えたんでしゅ‥

ボクは、フラフラと家を出ました。

おかあしゃんの名前を呼んで、フラフラ‥フラフラ。

そしてね、考えました‥

おかあしゃんは、じぇによし に、追い出されたから仕方ないでしゅけど
なんで じゅじゅまでボクを捨てたんだと。

じぇによし も、じゅじゅも
ボクを捨てて平気だったんだって。

まだボロ小屋にいるほうがよかったでしゅ‥

いつかは、出してくれるかも知れましぇんから。

けど、捨てられるのは悲しいでしゅ‥とってもとっても‥悲しいでしゅ。

だから、いつか出会うことがあったら
ボクの辛かったことの分 じぇんぶ(全部)お返ししてやろうと‥待ってたんでしゅ」

ずず「ピ、ピーノ、オメェ‥」

ピーノの荒んだ眼は、これまでの旅の辛さを雄弁に物語っていた。
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