付喪堂綴り・1

□第2章・2
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愛「助けてくれるの‥」

メアリー「その代り、アンタが本気と覚悟を持ってなけりゃあ
あたしはアンタをブッ叩く! アンタの本気と覚悟が曇りゃあ、全力で蹴倒してやる!!」

源左衛門「お前の覚悟を見せてみろ‥猫の手ばかりではない
ウサギの手も貸してやる」

伝助「熊猫の手もな♪」

総右衛門「犬の手もに ござりまする」

淑「しかも2頭でございますわっ」

ルナ「およばずながら、天使もですよ」

ずず「へへ、鳥もでやんすっ」

ピーノ「ピーノの おてて もでしゅ♪」

淑の手の中にいた てっぱんが
ヒラヒラと愛の前へと降りていく。

メアリー「最弱にしたつもりだけど‥だいじょうぶだったかい?」

てっぱん「ええ、わたくしが見ていたものは
柔軟剤のお風呂とアイロンのエステでございましたわ」

伝助「ごっつ気持ちよさそうやん」

またたびシャドーは、てっぱんを苦しめるものではなかった‥

ピーノ「よかったでしゅ‥ピーノ、どんな魔法を使ったらいいのか わからなくて
じちゅはドキドキしてたでしゅ」

ホッとした様子のピーノ。

てっぱん「愛‥怖がってもいい、泣いたっていい。

あなたが泣けば、わたくしが拭いて差し上げます‥

あなたのお母さんの、いくつもの涙も わたくしが拭いてきましたから。

そのたびに、お母さんは強くなっていきましたのよ。

まだまだ これから‥あなたの人生はこれからです。

お母さんを亡くして辛かったでしょう‥不安も悲しみも大きかったはず。

だけど、逃げたってしかたがない。

人は、いつかは困難に立ち向かう日が来るんですから。

そんなとき、きっとお腹の中にいる子が支えてくれるわ‥

あなたが その子を支えるように、その子もきっとあなたを。

だから心配しないで。

人の親になるという大切なことから、逃げ出さないでちょうだい」

愛「なんだろ‥なんでかな‥お母さんに言われてる気がする‥おかしいなぁ‥」

ポロポロと零れ落ちる涙を、てっぱんは そっと優しく包み込んだ。

愛「ハンカチさん‥」

伝助「あっ、てっぱんって名前どす」

愛「てっぱんさん‥」

てっぱん「愛さん」

ハンカチの てっぱんと抱き合いながら
愛は母の温もりを感じていた。

淑「豊さん、言いたいことが おありになるのでございましょ。

さぁさぁ、早く言って差し上げなさいっ」

豊「は、はい!」

淑に促され、豊は愛の前へと‥

豊「ま‥愛‥」

愛はゆっくりと顔を上げた。

豊「実はね‥その‥なんていうか‥」

メアリー「ええい、ハッキリおしよっ」

豊「は、はい! 昨日、バイト先のコンビニのオーナーに
正社員にならないかって言われたんだ。

アチコチわたってきて、一通りのことはなんでも出来るし
期待してくれてるんだよね‥

俺さえよかったら正社員に‥将来的には、店長として勤めてもらいたいって。

だから‥」

豊は、大切そうにポケットから箱を取り出す。

愛「それ‥」

総右衛門「女子なら、一目でわかるケースにござりまするな‥ふぉふぉふぉ」

淑「ですわねぇ‥中に入ってるのは輝く石。
それにもまして、好きな人を愛する心がキラキラと輝いておりますわっ」

豊「そのことも報告しようって思ってさ‥なんか最近、様子がヘンだったし
俺を避けてる感じもしたし‥でもさ、やっと愛に言える自信がついたっていうか‥

俺、愛にそばにいてほしいって‥いつまでも、俺の傍にいてほしいって。

そう言えるようになったんだ」

豊は、そのことを最愛の人に告げようと
いつもの焼き肉屋で愛が来るのを待っていた。

だが‥突然、代わりに現れたのは総右衛門と淑だったが。

豊「前からバイト代、ちょっとずつ貯めてたんだ‥遅くなって、ゴメン」

頭を深々と下げ、差し出す手には指輪ケース。

愛「え‥ほ、ほんと? ウソ‥ヤダ‥‥ほんとに? ほんとに、本気なの‥」

伝う涙の温もりが、真実だと教えてくれる。

そしてその涙を、暖かくふき取る てっぱん。

メアリー「あたりまえじゃないかっ、大の男がそう軽々しく
惚れた女に頭を下げないもんさ‥だから信じておやんなね」

『パパ‥ママ‥』お腹の中の子の嬉しそうな声が、豊と愛に聞こえた。

総右衛門「ほれほれ、忘れものじゃ」

焼肉店にいた豊を、引っ張って連れて来た総右衛門と淑‥

豊が置き忘れていた花束も、しっかりと持ってきていた。

豊「あ‥ありがとうございます」

総右衛門から、花束を受け取る。

ほら、愛が好きな花はカーネーションだって言ってたから」

赤いカーネーションの花束。

母のように愛を想う てっぱん、母を愛し次は母になる愛、そして愛を‥母を想う子。

母なる心を守る夫・父になろうと決意する浴衣が渡すカーネーション。

メアリー「胸張って受け取んな‥愛」

愛「はい‥豊‥ありがとう‥ 不束者ですけど‥よろしくお願いします‥」

愛は あふれる涙を堪えることなく

喜びの涙とともにそう言った。

豊「愛!‥えっと、えっと‥子っ」

伝助「『子』っ!!! こんな場面で よりにもよって呼ぶんが『子』てっ!!!!!」

メアリー「いいじゃないか、名前なんざあとからゆっくり考えるだろうさ」

源左衛門「とりあえずの呼びかただ、大目にみてやれ」

伝助「そやな‥まぁええわ。

それにしても、なんやかんやで一件落着ですな」

笹継を鞘に納める。

ピーノ「おにいしゃん‥」

メアリーとの件はどうなったのだろう‥疑問に思う。

メアリー「まぁね‥ガキに本音を言わそうとするんなら、
まずはコッチが本気をぶつけないとねぇ」

源左衛門「ん‥本気を見せなければ、本気で応えてくれぬからな」

メアリー「愛も腹ん中の子も、どっちも素直じゃないからやっかいだったよ」

淑「あら、それはメアリーさんも言えなくってじゃございませんこと」

ルナ「言えますね」

笑うルナと淑。

メアリー「うっさいね、こちとらパンダとじゃれあって
ちっとばかり疲れてんだよ、少しは介抱したらどうだいっ」

淑「はいはい」

ルナ「いますぐに」

淑は特製の『気力体力満タン丸』をメアリーに飲ませ

ルナはメアリーのほころびを縫う。

伝助「いやいや、ええ運動したな」

メアリー「伝助‥なんだい、バカ力出しゃあがって。
ったく、痛くってしかたないよ」

文句を言っているメアリーに

伝助「しゃーない しゃーない、なにごとにも本気で挑まななアカンのやろ♪」

メアリー「ふん、バカに なにを言ってもはじまらないねぇ」

ルナ「はい、終わりましたよ」

メアリー「ありがとよ、ルナ、淑」

淑「まったく、無茶されるからですわ」

ずず「えっ!? そ、それじゃあ‥」

総右衛門「なんじゃ、今頃 気付いたのか?

メアリー殿と若‥愛殿とお腹の子に、本心を言わせるつもりで
一芝居うったのでござるよ」

源左衛門「本気の芝居をな」

ピーノ「い、いつ打ち合わせしたでしゅか!?」

ルナ「そんなものは必要ありません、だって‥」

総右衛門「互いの目を見れば、声の調子を聞けば‥
それがしどもは、分かりあえる仲間にて」

源左衛門「幾度も死線を潜り抜けてきた、大切な仲間だからな」

メアリー「もっとも、あたしは いちばん遅く入った新参者だけどね」

伝助「時間の長いの短いのは、関係ないで♪

メアリーは ひねくれとるけど、ホンマはええやっちゃ。

せやから、僕らは信じてる‥メアリーは、大切な仲間や♪」

ピーノ「話さなくてもわかるんでしゅね‥しゅごい!

ボクの魔法なんかより、ぜんぜん しゅごい、魔法でしゅ♪」

ずず「くうぅぅぅ!」

感動のあまり、ずずは号泣。

ずず「くぅぅ、オイラも早く 兄ぃや兄貴、姐さん‥

皆さんにそう思ってもらえる男になりてぇです」

ピーノ「ピーノもでしゅ!」

伝助「心配いらへん、2人も仲間や‥僕らの大切な仲間で、家族やで」

ずず「兄ぃぃぃ」

抱きつくずずを、伝助はヨシヨシ。

ピーノ「ピーノも♪」

伝助とずずの間に、ピーノも飛びこんでいった。


その後‥


壊れた家の修理は、ピーノの魔法で無事に終了。

ご近所へ迷惑かけた詫びに、付喪堂より販売の『付喪大福』という
こしあん・つぶあん・カスタードクリーム・抹茶・いちご・豆の6種類の味の
大福もちセットを手渡す。

ちなみに付喪大福は、善さんと弥生さんが経営している甘味処『ひなげし』

全面協力のもと『付喪堂』『福福』『ひなげし』で、販売している品である。

いずれ、紅の家や檸檬の家でも売り出されることだろう。

豊と愛は、一緒に住むことになり

入籍は‥もうすぐの『母の日』にしようと決めたらしい。

毎年、日は変わるけど
豊と愛にとって忘れられない母の日にしよう‥

その想いで、入籍をこの日に選ぶ。

お腹の子も順調に育ち、やがて元気に生まれてくるだろう。

てっぱんは、子守りを『がんばらなくちゃ』なんて、
孫と会える日を楽しみにしている おばあちゃんのよう。

『また、いつでも付喪堂へ来なはれやぁ、赤ちゃん生まれたら、連絡おくれやす♪』

笑顔で別れる伝助たちであった。
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