彩心闘記セクトウジャ・2

□レベル6・10
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都内

桐花の車が入ってきたのは、風丘グループ本社。

影太「ここは‥」

桐花「伽黒さんがお勤めの会社ですね」

千夜「あなた」

不安げな表情。

車は地下駐車場へ。

車体を運ぶエレベーターがあり、そのまま車を乗り入れると

IDカードを操作パネルに入れ、暗証番号を入力。

ボタンを押すと、カードを抜いた。

通常降りれる地下を越えて、さらに降りるエレベーター。

最深部へ着き、降りる。

いちばん奥の扉、操作パネルがあり

桐花はまたIDカードを入れ、なにやら押すとカードを抜いた。

影太「ここは、確か」

桐花「ええ、ご存じのとおりですわ」

千夜「どこなの?」

影太「社長専用の出入り口があると聞いていた」

桐花「聞いたというより、知っていた‥ですね」

影太「あ‥ああ、これだけの規模のビルだ

こんなものがあってもおかしくないし

風丘グループと言えば、この国の頂点‥

いや、世界の名だたる企業とも互角どころか

それ以上に戦える企業グループだ。

そのグループの長ともなれば、どんな危険があるとも限らない。

ガードするには、これくらいの設備があっても不思議じゃないさ」

桐花「IDカードも、そんじょそこらのシステムじゃないですしね。

ウワサでは、未確認破壊脅威のパンダくんが協力してるとか」

影太「俺はそこまでは知らん」

桐花「社長の娘さんが深くかかわってるんですよ‥それに、伽黒さんの息子さんも」

影太「息子が?」

桐花「墨彦くん」

千夜「墨彦が!?」

言っている間に車は進み、広いスペースに停車。

桐花「どうぞ‥といっても、私もこれで2度目ですけど」

桐花の持つIDカードは、特別に発行された物で

それだけ信用されているちという証でもあった。

ここまで来る経路、スペース、どれもトップシークレットなのは間違いない。

車を降りて通路を少し歩き、ドアを抜けると

地下とは思えないほどのテラスに出た。

影太「こいつはまた‥スゴイ」

まるで屋上に出たかのような日差しと風。

それは人工的なものだとはなかなか気づけないほど。

桐花「一応、LEDの照明なんですけどね。

すべて一括管理されていて、日差しの強弱‥もちろん風も調節できるそうですよ」

『悪いね』声がして振り向くと、スーツ姿で銀縁眼鏡の男性が歩いてきた。

影太「アナタは」

男性は『風丘 厳(かぜおか いつく)』信代の父であり

今や付喪堂と協力関係にある超巨大企業グループの社長である。

厳「すまない、こんなところまで呼び出して。

紺乃さんも、私用で使ったりして申し訳ない」

桐花「いいえ、お嬢様にはご贔屓いただいてますから」

厳「信代もアンティークがわかるようになったとはね。

嬉しい限りだよ」

そういうと、お気に入りのティーセットが乗るワゴンをそばに引き

厳「まずは、ゆっくりお茶でも」

厳が紅茶を入れる間は無言。

しばし、一同も沈黙して待っていると、高々とティーポッドを持ち上げてカップに注ぐ。

厳「さっ」

微笑む厳からカップを受け取り、紅茶を飲むと

とても甘く、芳醇な香りが全身に沁み渡るようで。

千夜「美味しい‥」

緊張し通しだった千夜も、思わず笑みが漏れた。

厳「よかった」

嬉しそうな表情の厳へ、まず影太が切り出した。

影太「それで、社長‥」

厳「あぁ、心配しなくてもいいですよ」

厳はそっと、話を始めた。

その会話に桐花も加わり

影太にまず、墨彦がセクトウジャという心の闘士として戦っていることを告げる。

影太はそう驚く様子はなく『アイツ、最近はいい顔してましたからね』と言った。

母の千夜も、薄々は感づいていたのか

ただ『怪我だけはないでほしい』と心配していた。

次にセクトウジャが国から危険分子であると狙われていることと

それは言いがかりだということ‥

しかし、国は聴く耳を持たずに

家族である影太たちの住まいに国守軍が押し入ったことを伝えた。

そして、屋鋪の逮捕を伝える。

影太「ホントですか!?」

桐花「ええ‥私が最も信用している蒼唯から聞きましたから‥間違いありません」

屋鋪は墨彦たちの実の父親・鴉蒙の不正に加担し、罪を犯していたこと‥

影太と正徳の取り調べ通りだったと伝える。

その転落人生の結末と

鴉蒙は組していた反社会勢力との諍いの結果、死んでしまったことも告げる。

元とはいえ、子供を儲けるほどに愛していた男の罪に激しく涙する千夜。

厳は言った。

『証拠がありながら、取り合わなかった上層部。

だが、君自身も現実を突きつけるには躊躇したのだろう‥

当時の状態すぐの時に、奥さんに現実を知らせていいのか?』と。

遺された人の息子とのことももちろんある。

殉職ということで、鴉蒙の死が伏せられたが

厳「いくら巧妙に隠しても組織の隠ぺいとは、いつか必ず白日のもとへ出る物だからね」

影太も口を開く。

その後、妻だった千夜との間に愛が芽生え影太は結婚

だが、長男・鉄志は父の正義を継ぐと家出してしまった。

父の罪を知らぬままに。

鴉蒙の死によって、消えてしまった屋鋪の不正の証拠を追いかけるも

最中に墨彦が補導されて‥責任を追及される。

厳「その、鴉蒙刑事へかけた情けの罪悪感もあり、キミは警察を退職した‥

違うかい?」

黙ったまま、頷く影太。

千夜「あなた‥ごめんなさい‥ごめんなさい」

影太「あやまらなくていい‥すべては私が決断したことだ」

夫の職を奪ったことを詫びる千夜。

影太「なにも謝ることはない‥

俺はただ親として、息子の起こしたことに対して責任を取ったまでだ」

千夜「でも、墨彦の問題だけじゃなかったのね‥気づかなくて‥」

自身の幸せ、息子の幸せ‥亡き夫の名誉を守るため、影太は辛い選択をしたのだから。

厳「知ってのとおり、この国は今病んでいる。

もともと病んではいたのだが

それはほんの極僅かな人間たちによる風邪のようなものだった。

ところが今は『未確認破壊脅威』と名付けた未知なる存在への恐怖と不安を巧みの煽り

近隣諸国への疑念をも恐怖にすり替え

武装し、戦争の放棄をかかげた憲法を投げ捨てた。

確かに、政治のことまで私が口を出せるはずもない。

だが、平和の尊さは、わかっている。

私には選挙へ投じる表がる。

たった1票かも知れない。

されど、1票だ!

過去の戦争に負け、戦勝国に押しつけられたからと

大切なことを掲げる憲法を地に落とし、踏みにじった国の態度には怒りを禁じえない!

あまつさえ、武器を製造し、他国へ売りさばいて利益を得る‥

誰がこの国を、死の商人にしてくれと頼んだ?

人殺しの道具を撃った金で国が潤い

我が子の顔がまともに見れるだろうか?

汚れた金を掴むその手で。愛する者を抱きしめられるか?

他国の子供や愛される者の命を奪う兵器を撃ったその金で得る幸せなど

違法薬物を売って得た金となんら変わりはない。

犯罪者が掴む金と同じだ!

まったく、今という時代は常軌を逸している。

私は、たとえ国に逆らってでもこの国を正気に戻したい。

病んだこの国を、元通りの姿へと戻したい。

これが私の想いだ」

影太「社長‥」

厳「青臭いと思うだろう?

だけどね‥私の大切な娘たちに、恥ずかしい思いをさせたくないんだよ。

カッコ悪くてもいい、父親として恥ずかしい生き方はしたくない。

我が子に対しても、社員に対しても。

皆の親である以上、しっかりとした生き方を見せたいんだ」

影太「同感です」

厳「単純なのかもしれないがね‥君もそうかもしれないね」

笑顔を見せる厳と影太。

厳「当面、君たちはここにいてもらう。

国守軍からマークされているからね」

桐花は思う‥こういう人間のもとで働いていたなら

自分の『今』は大きく違っていたのかも‥と。

桐花「いけない、いけない。

時代のせい、社会のせい‥そんなことないわ。

すべて自分の選択でここまで来たんだから」

寂しく笑みを漏らし、桐花は泣いている千夜に

美しいレースのハンカチを渡した。


都内・病院

廊下を小走りに、檸檬は部屋を探していた。

看護師から聞いた番号‥

檸檬「あった」

そこは個室。

ドアを開けると、まず母が『檸檬』と泣きついてきた。

祖母の姿もベッドの横にある。

おそるおそるベッドへと目を向ける‥顔や腕、包帯だらけのその姿は

蜜柑のものだった。
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