彩心闘記セクトウジャ・2

□レベル7・1
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「彩心闘記セクトウジャ」レベル7
『戦う心、戦う理由』

2014年9月末日

深夜の街をゆくあてもなく、フラフラと歩く檸檬。

病院のベッドに横たわる妹・蜜柑の姿が内側から頭を殴るようで、気を失いそうになる。

だが、意識は消えてくれない。

妙に冴えて、いっそこのまま眠れたなら楽になるのに

けっして眠くはならなくて。


SSDや国守軍に触発され

『愛国心』を声高々にして、民衆は動き出した。

当初は未確認破壊脅威が出ないか‥主に付喪堂のことなのだが‥

見回りすぐに、町内・街中の防犯の役目も果たすようになる。

それで留めておけば何の問題もなかった。

たとえ政治が都合よく押しつけた、ニセモノの愛国心が原動力だとしても

伝助たちにすれば、いい迷惑なのだけれど

それでも防犯のためになるのならと、あまり気にしていなかったのだが

最近、どうも様子が変わってきていた。

『人を見たら泥棒と思え』の言葉もあるが

まさに、ちょっと見知らぬ人が町内を歩いていただけで

仕事や用事で、たまたま通りかかった人でさえも

ホームレスを見かけたら当然のように

集団で取り囲んでは、きつく身分を問いただすようになった。

矛先は地域に住む生活保護の受給者にも向けられて

なんら不正なことはしていない人、家庭であっても

買い物に出れば『贅沢してるんじゃないか』

外に出て、少し帰りが遅くなっただけで『黙ってホントは、仕事してるんじゃないか』

役所に通報したり、集団で厳しい口調でもっと問いただしたり

暴走気味のところがあった‥

恐ろしいのは、自分たちの行動になんの落ち度もなく、

正当なものだと盲信していることだ。

人には自由というものがある。

自由には責任も必ずついてくるが、人は自由であり

この社会で暮らしていれば『権利』いうものが保障されている。

不正さえしていなければ、あるいは人の道理に反していなければ

自由と権利は、責任と一定の義務が果たされれば保障される社会だ。

だが今は違う。

過去において一定の義務を果たした者も、責任を全うした者であっても

自警団の主義主張で、もっと言えば好き嫌いで、見てくれのみで判断されただけで

取り締まられても仕方ないという風潮が蔓延し始めている。

公園で、他人と言えども子供が泣いていたので声をかけただけで

『声掛け不審者』と呼ばれ

無職だから、悪いことをしているに違いない、無職が昼間にブラブラしている

それだけで取り締まられるという事態が、何ヶ月もしないうちに起きるようになり

やがて起きたのが‥蜜柑の暴行。

檸檬「蜜柑‥」

包帯だらけの妹の顔‥

命は助かった‥だが、割れたガラスが腕に刺さり、そのせいで神経が切れ

深く傷ついた腕はもう、2度と動かせなくなった。

絵や文章を書き、作家になることを目指して頑張ってきた蜜柑の利き腕が動かなくなった。

『れもネェなんて、どっか行っちゃえ!』

『アンタこそ、帰ってくんな!』

姉妹ゲンカをしたまま別れて

なのに、姉たちをバカにされたことに腹を立て
暴行に遭ってしまった妹。

檸檬「あんなこと‥言わなきゃよかった‥」

『バカ!』

自分が発したその言葉は、跳ねかえって自分の胸に深く突き刺さっている。

檸檬は深夜でも煌々としている街中を、暗闇の中を歩いているような足取りで
あてどなく進み続ける。





2014年10月


いちごみるく

紅と緋色の母親・茜がケーキを作っていた。

まだ開店時間ではない。

厨房で、ショートケーキやシュークリームを作っていた。

紅も緋色も、家に帰っていないのは知っている。

心配していないワケがない。

だけど、一方で子供たちを信じている。

だから‥帰って来て、もしも理由を話すなら聴く耳を持つ。

不必要な、過度な干渉はよしておこう‥茜はそう思っている。

2人が帰ってきたらまず、温かいみそ汁を飲ませてやろうと
キッチンには玉ねぎの味噌汁が炊かれて、ガス台の上に置いてある。

準備が整ったホールケーキを前に
ホイップクリームが入った絞り袋を手にして

ケーキの上にパイピング(絞る)‥イチゴを乗せて完成。

綺麗に切り分け、セロファンなど飾りつけ。

商品棚へ並べた。

並べ終わったとき、茜の携帯が鳴る。

紅からの着信だった。

電話に出る‥

茜「おはよう」

落ち着いた声。

『おはよう‥』

娘にいつもの元気がない‥

茜「ご飯、食べたのかい? お味噌汁も玉子焼きも作ってあるよ」

『う、うん‥あのね‥緋色のことなんだけど』

茜「一緒にいるの? アイツもご飯、食べたのかい?」

『ううん‥それがね‥しばらく家に帰らないかもしれないんだ』

茜「‥‥ふーん‥‥まぁ、男の子だからね。

1人旅したい時もあるさ」

『お母さん』

茜「なんだい」

『ゴメンね‥私が悪いんだ』

茜「ケンカでもしたの? 珍しいね」

『ゴメン』

茜「私に謝らなくてもいいさ。

どっちが悪いのか知らないけど、それでも姉ちゃんを泣かせるのはダメなことだよ。

緋色が帰ってきたら、ゲンコツくれてやらないとね」

『必ず、連れて帰るからね』

茜「紅も帰ってこれないの?」

紅「うん‥しばらく‥」

茜「そう‥そうでないと、ダメなんだね」

『うん‥』

茜「そうかい‥いいよ、わかった‥好きにしな」

『うん‥うん‥』

茜「紅」

『うん‥』

茜「ご飯はちゃんと、食べるんだよ」

『うん‥うん‥‥‥ゴメンね』

茜「がんばってきな!」

そう言って、茜の方から携帯を切った。

ボタンを押すには勇気がいる。

なにをしているのか? しようとしているのか?

泣きたい気持ちは十分あって、引きとめたい‥連れ戻したい

どこにいるのかと問いただしたい気持ちは心が張り裂けそうになるほどある。

だけど‥茜はそうしなかった。

信じていることを紅に知らせるため

なによりも、親として勇気を見せてやりたかったため。

茜「紅‥緋色‥」

落とした涙のせいか、ほんの少し今日のケーキは塩辛かった。


伝ラボ

セクゾーストに乗って、紅は出て行ったあと。

もちろん、緋色を捜すため。

そこに待ち構えているのは蝕とピオレータ。

ならばと、蒼唯もセクゾーストに乗って紅について行った。

ずず「いってらっしゃい やしっ」

腰を落とし、深々と頭を下げて送り出す ずず。

ピーノ「おかしいでしゅねぇ‥」

不安げに、愛・伝えまフォン-白をポケットにしまうピーノ。

ずず「ん? どうしてぇ」

ピーノ「しょれがねぇ‥檸檬しゃんと連絡が取れないんでしゅよ」

ずず「そう言やぁ昨日の晩も、そう言ってたな」

ピーノ「紅しゃんの目が覚めたから

しゅぐに来てくだしゃいって言おうとしたんでしゅけどね‥」

ずず「どうしたんだろな? 缶吉さんに聞いたか?」

ピーノ「ツァイフォンの現在地を特定しゅれば、すぐなんでしゅけど

おにいしゃんも缶吉しゃんも、今はバタバタしてるでしゅ」

ずず「ああ、そうだった」


伝助は缶吉、ごん、ねんを率いて
セクトウジャの新武装の最終調整をしている。

『伝助さん、ここは どないなっとんのかの?』と、缶吉が尋ねると

『ん? あぁ、ココは僕が調整済みや』伝助は答える。

なんでも、武装そのものは完成していて

あとはシステムをインストールするだけらしい。

『完成したら、すぐにツァイフォンにアップデートさせなアカン』

伝助も缶吉も、伝ラボの付喪PCを前にカタカタとキータッチ。

ごん、ねんも、ポテトチップスを食べながらキーを素早く打っていた。


ピーノ「ちょっと捜しに行ってきましゅ」

ずず「おぅ、ならオイラも付き合うぜ」

ピーノは黒いマントをサッと羽織り、ずずといっしょに伝ラボを出て福福へ上がる。
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