彩心闘記セクトウジャ・2

□レベル7・3
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シアン「うぅ‥」

意識を取り戻したシアンは、ハッとなって跳び起きた。

よろつく身体を抑え

青影(せいえい)、陰緑(いんりょく)

2本の短剣を両手に構えて

シアン「オマエらあ!」

女「子猫ちゃんが いっちょまえに、威嚇するんじゃないわよ」

男「俺はお嬢ちゃんを黙らせる。

お前はその猫を黙らせろ」

女「言われなくても、この薄汚い野良猫は私がヤるわ。

なんなら、コッチのデカ物お嬢ちゃんも私が相手していいのよ」

男「やめとけ、コイツはそう簡単な相手じゃないさ‥

あの吸血鬼、厄介なヤツを連れて来たもんだ」

男は矛の『苦痛- pang -』

女は盾と装甲の『快楽- pleasure -』

膨らむ殺気は宮殿を揺らす。

『シアン!』『トラン!』声がしたかと思うと、廊下の向こうから

ズオンソー、ベルデ、アズゥが駆けてきた。

ズオンソー「イヤな気を感じて、ベルデたちと戻ってきてみれば‥」

アズゥ「よくもこのクローマパレスで、散々暴れてくれたわね!」

ベルデ「お前たち、タダでは返しませんよ」

男「もたついていたら、こうなって当然か」

女「だろ? だからサッサと始末しておけばよかったんだよ。

無駄な運動しないで済んだのにねぇ」

薄笑いを浮かべる。

女「人狼、人造人間、魔女のお出ましねぇ」

男「まぁ、この身体を馴染ませるには

ちょうどいい運動になるか」

女「加減がわからないから、殺しちゃったら すまないね」

ズオンソー「なにをゴチャゴチャと!」

シアンのふらつく姿を見たズオンソーは、謎の女へ怒りのままにパンチを放つ。

ベルデ「そっちは任せましたよ!」

アズゥと2人、謎の男へ攻撃開始。

斧・ミドンを振り上げて強烈な1撃!

だが、矛は強固に斧を弾く。

ズオンソーは、謎の女へ跳びかかった。

チャゼンコウで攻撃。

女の盾が、強固に爪を防いで

女「くすぐったいねぇ!」

蹴りは人狼に多大なダメージを与える。

シアン「ズオンソー!」

アクロバティックな飛び蹴りから、両手に持つ短剣で複雑な斬撃。

女「悪いけど私、畜生はどれも嫌いでね」

拳はシアンの胸をえぐり、大量の血を噴出し

声もなく倒れるシアン。

ズオンソー「シアン!」

あのシアンが手も足も出ない‥『がぁぁぁぁぁ!』怒りの咆哮。

ドクン‥全身が脈打ち、獣化するズオンソー!

パワーもスピードも増した肉体は、すぐに決着をつけて

シアンの治療をと、思う現われ。

女「言ったろ? 畜生は汚らしくて嫌いさ」

迫る太い腕を、女は盾で防いで

そのまま人狼を全身で抱え上げ、投げ捨てる。

すぐに立ち上がろうとするズオンソーの肩を踏みつぶした。

ズオンソー「ぐわぁぁぁぁ!」

アズゥ「ズオンソー!? シアン!」

断末魔のような声を聴き、ハッとなって振り返ると

なす術もなく敗北している2人の姿が目に映る。

アズゥ「き、きさまぁ!」

驚愕の表情を隠せないまま、アズゥは怒りの爆発魔法を女へ撃った。

しかし‥魔法をいとも簡単に握りつぶした女。

急ぎ、『ニハーイィ』と最大強化呪文を付けた氷魔法を撃ってはみたが

男「お前は俺の相手をするんだろ?」

振り返るとすぐそこに謎の男‥

アズゥ「くっ」

杖・アオビルに集まる魔法を男へ放とうとするが

その魔法を矛が砕き、そのままアズゥの腹部を貫いた。

アズゥ「ぎゃあぁぁぁ!」

ドッと腹から血を落とし、辺り一面血の海。

ベルデ「アズゥ!」

ベルデは全身から触手を出して、戦闘体へと変わり
男に全力で襲いかかるも‥

矛は無数の突きを放って、人造人間も血に染めてしまう。


苦しむ愛しき者の倒れた姿を見るがなす術もなく

あまりの悔しさに涙を落とすベルデ。

遠のく意識の中でアズゥもまた、傷だらけのベルデのことを案じていた。

あっという間に倒されてしまった、

シアン

ズオンソー

ベルデ

アズゥ

家族に危害を加えられた悲しみのように、

『うおぉぉぉぉ!』

トランは唸りを上げて、大剣を高速で何度も男へ振り落とした。

男「ちっ、デカいだけにやっかいだな‥」

あまりの怪力に、ふざける余裕を亡くした様子。

女は男の前に出て、盾でトランのクリスターを受け止めると

女「今のうちにヤっちまいな!」

男「やれやれ、小娘は俺の趣味じゃないんだが」

ニヤリと笑って、矛を振る。

トランの鎧がまるで紙のように裂けていく‥半透明の巨体は大きな音を立てて崩れ落ちた。

女「あはははは、これで邪魔者はいなくなったね」

男「おい!」

血相を変えて、女の手を引っ張る男。

女がいた場所に、真紅の大きな鎌が飛来して突き刺さった。

男「これは」

言い終わるか終らないかのうちに

男の顔面を叩きつける腕があった。

女「なっ!?」

叫ぼうとする女の腹を深く蹴る細い脚。

床に刺さった深紅の鎌・シンクワァを引き抜いて

赤色の女王 クイーン・ベルメリオが立っていた。

ベルメリオ「私の宮殿を荒らす者は、何人たりと生かして帰さぬ」

燃え盛る炎の如き怒りに反して

声はまるで雪原の真っただ中のよう。

倒れてピクリともできないシアンたちを見て

『ニハーイィ・アダド・イラーグ・アズラク』

最大級の強化呪文を付けて、唱えた呪文は大勢の傷を癒す魔法。

ベルメリオの魔法によって、死の淵寸前まで追い込まれていたシアンたちは

瞬く間に回復して立ち上がった。

シアン「クイーン!」

シアンに続き、ズオンソー、ベルデ、アズゥも

クイーンの名を呼びながら前方に揃い、身構えて守る。

鎧の裂けはそのままだが、傷は回復したトランもベルメリオを守り大剣を構える。

女「あっははははは、ようやく女王陛下のお出ましね」

男「もっと早く、そちらから来てくだされば

こんな手荒な真似はしなかったものを」

ベルメリオ「お前たちは誰だ? この宮殿を穢し

私の配下たちを傷つけるのならば、その命を持って償わせてやるぞ」

ギラリと狩りを放つ大鎌・シンクワァ。

矛の『苦痛- pang -』の切っ先をクイーンへ向けて

男「俺たちはアンタの味方だ」

そして盾と装甲の『快楽- pleasure -』を着けたまま

女「ただ、アンタたちがどれほどの力なのか知りたかっただけよ‥
期待していたほどじゃなかったけど」

シアン「なに!?」

短剣を手に今にも跳びかかりそうな剣幕。

男「そこのデカい嬢ちゃんと‥さすがは女王、この2人は戦力として合格ライン」

女「これで、吸血鬼がいたらよかったんだけどねぇ」

ズオンソー、ベルデ、アズゥ、シアンは怒りと悔しさに震える。

ベルメリオ「まだだ‥この者たちは、いまだ発展途上の者たちである。

我の配下を愚弄するならば、この私自身がそれを証明してくれようぞ」

男「おっと、さっきも言ったように

俺たちは別にアンタたちとヤりあうつもりで来たワケじゃない」

ベルメリオ「味方などと、戯言を私に信じろと申すか?」

女「どうせアンタたちは魔法が使えるんだ。

ちょっとくらい痛めつけたってチチンプイプイ、あぁら不思議‥じゃない」

アズゥ「なんだと!」

アオビルに魔法力を集めるアズゥを制止するベルデ。

男「直前の戦闘に限定される役立たずの魔法でも、魔法は魔法。

傷を負っても回復できるなら、なんてことはないだろう‥違うか?」

ベルメリオ「ならば お前たちにくれてやろうか、悪しき呪文を‥死の呪文を」

唱えれば即『死』に引きずり込める禁断の魔法‥

男「へぇ、そんな魔法もあるのか」

女「コッチへ来てまだ、日が浅いものでねぇ」

ベルメリオ「お前たちと話を楽しむ気はない。

茶を出す気も毛頭ないゆえ‥サッサと死ぬるか、消え去るがよい」

男「神狩り‥したくはないのかい?」

女王の振り上げた大鎌が止まる。

女「愛しの吸血鬼がいない今、ますます神狩りが困難になってるんだろう?

だったら、私たちが力を貸してやるよ」

ベルメリオ「まず、名を名乗るがよい。

ならば戯言でも付き合ってやろう」

男「これはこれは、慈悲を頂きありがとうございます、女王陛下」

女「へん、気位ばかり高くて いけすかないヤツだねぇ、女王様ってのは」

男「まぁそう言うな。

そうさなぁ‥名前か」

女「別に名前なんて意味ないんだけど‥といって、この身体の名前も気に喰わないし」

男「ひろ子か? それとも救世神女・天祈か?」

女「どちらもゴメンだね。

アンタだってその身体の名前じゃヤだろ」

男「屋鋪ナンタラってなぁ‥確かに嫌だ」

女「そうね‥そうだ、じゃあとりあえず

人間世界の伝承にある夢魔の名前を使おうかしら」

ベルメリオ「サッキュバス‥と申すか?」

サッキュバス「そうそう、それそれ」

男「よく御存じで、女王陛下」

嫌味たらしく一礼をすると、サッキュバスに向かって

男「そうさなぁ‥お前が女の夢魔なら俺は男の夢魔‥」

ベルメリオ「インキュバス」

インキュバス「オヤオヤ、ホントによく御存じで」

ベルメリオ「やはり、お前たちの話に付き合っても無駄のようじゃ」

大鎌を持ち、戦闘態勢にクイーンは入る。

サッキュバス「女王陛下がご所望なら、一手ご教授差し上げても良いんだけど

それは固―く、禁じられてるからねぇ」

ベルメリオ「禁じられている?」

インキュバス「地獄門‥の、先と言えばおわかりかな?」

アズゥ「まさか‥」

ベルデ「アイツら、天獄から来たのか?」

シアン「天‥獄‥」

ズオンソー「地獄門の向こう‥あの中に棲んでいるヤツがいたとは」

インキュバス「あのぬいぐるみたち‥付喪堂とかいうヤツラには

大きな借りがあるんですって。

以前、天獄内を荒らされたそうよ」

サッキュバス「セイオウジャも倒さなくてはならない相手‥」

アズゥ「セイオウジャは私たちが封じた」

サッキュバス「それは精霊世界のヤツラでしょ?

半分は人間世界のヤツラで

逃げ出して今じゃ、おかしな仮面をつけて戦っているはずよ」

ズオンソー「やはり、アイツらはヤツラだったか」

シアン「虎と馬‥あとは、おかしな面の2人」

インキュバス「付喪堂とセイオウジャ、それに‥ついでと言ってはなんだが

セクトウジャも俺たちの敵と言えば敵、片づけるのを手伝ってやろう。

この身体には、墨彦とかいうヤツに因縁があるらしいし」

サッキュバス「アタシの身体も、伝助とかいうパンダが

因縁浅からぬって感じみたい」

ベルメリオ「身体‥その肉体はもともと、お前たちの物ではないようだな」

サッキュバス「アタシたちが実態を持つには、贄(にえ)という肉の器がいるんだよ。

天獄内に棲む下等なヤツラなら、そのまま門を出てこれるけど

私たちクラスになると、器が必要になるのさ」

インキュバス「次元の密度が違うと言ったらわかるだろうか?

天獄の奥深くは、次元が違う世界だ。

こちらの世界が三重だとしたら、その何百倍も重なる空間」

ベルメリオ「大した口を利く‥それで、我のために何が出来る?」

サッキュバス「神狩りの邪魔をする、ぬいぐるみたちの首とセイオウジャの首を獲る事、

それについでのセクトウジャの首を撥ねる手伝い‥」

インキュバス「その代り‥」

ベルメリオ「交換条件か」
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