彩心闘記セクトウジャ・2

□レベル7・7
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頬をかすめる弾丸に、菫はとても嬉しそうな笑みを浮かべて

菫「そうこなくっちゃ♪」

2丁拳銃を操り銃撃。

蒼唯は動きの速度をさらに増して、引き金を次々に引いていく。

胃液交じりの血を吐いて、むせながらも立ち上がる紅。

緋色「俺の方が剣の腕前は上だ‥

姉ちゃんを守るために、必死になって体得したんだからな!」

紅「知ってるよ‥父さんの代わりに、私やお母さんを守ろうとしてくれていたんだよね」

緋色「俺はヒーローになりたかった!

誰のでもなんかじゃなくていい、姉ちゃんや母さんのヒーローになりたかったんだ‥

やっと俺はなれた! それだけの力を手にしたんだから!」

紅も「違うよ! そんなのヒーローじゃない‥ただのモンスターだよ!」

緋色「なんとでも言ってろ!!」

緋色の打ち込みを紅は防ぐ‥しかし、振り下ろされるアガマルの衝撃はすさまじく
受けるレットウが軋む。

緋色「そんな刀がなんになる!?」

紅「これは私の刀! 伝助くんに託された、守る刀だよっ」

緋色「しょせん戦いは戦いだ! 守ると言い訳していたって、命の奪い合いじゃねえか!」

アガマルの柄でレットウをあしらい、体勢を崩した紅を緋色は蹴る。

ドッと倒れる紅だったが、すぐに刀を杖に立ち上がり

紅「命の奪い合いはしない‥

私たち彩心の戦いは、戦う相手の命も守りたいと拳を握る、剣を取る。

それがセクトウジャなの」

緋色「笑わせるなっ!!! だから姉ちゃんはダメなんだよ! 敵の命は奪うものだ。

でないと、自分の命が奪われる!!」

紅「私達は相手を滅ぼしたいワケじゃないっ。

必要以上に斬ることも撃つこともしたくないの!」

緋色「どんだけ自分が強いと思ってるんだ! 自惚れんなっ」

アガマルを叩きつけ、レットウは防ぐ。

紅「自惚れてるのは緋色の方よ! いい? 誰も誰かを傷つけていいことなんてない。

誰かが誰かの生きようとする意志を曲げていいことなんてないの。

互いの想いが、心が叫びあって

衝突するときだってある‥だけど憎しみ合わなくたっていいんだよ!

心と心がぶつかって、わかりあえる。こともある

わかりあえないことだってあるだろうけど

その心を理解しようと努力できることはできる!

積み重ねて、いつか戦うことを辞められたなら‥そのために私たちは戦う!

いつか戦いを世界から失くすために!!」

緋色「なら今すぐ戦うのをやめろ! 誰かが世界を総べたなら、戦いなんておきなくなるさっ」

紅「それで生きてるって言えるの!? そんなのって生きてるとは言えないと私は思う!

撃ちあわなくても話は出来る、絶対に譲れないことを1つもって

お互いに譲り合う気持ちで話し合えたら、解決できないなんてことはないの!」

蝕「そうかしら? 人間がそんなに利口な生き物だとは思えないわね。

ずいぶんとオメデタイ思考の勇者ちゃんだこと」

緋色「そうさ! だから姉ちゃんは、バカって言われるんだ!」

斬り込む緋色、受ける紅。

緋色「世界が言葉でわかりあえるなら、こんなに戦いばかりの歴史になっていないさ!

人間は争い、奪い続けて生きてく生き物なんだよ!

そんな世界で生きていくには力が必要だ‥

だから俺は、力を手に入れた!!!」

紅「力に頼って、力に溺れてるのはヘンじゃないの!?

緋色、目を覚まして!! 私といっしょに‥家 (うち) に帰ろうよ!!」

緋色「姉ちゃんが戦うのを辞めない限り、俺は姉ちゃんを倒してでも戦いを止めさせる!」

振り上げたアガマルを、力の限り下す緋色。

紅「やめてよ、緋色!!」

思わず振り上げたレットウ‥緋色のアガマルを弾き、切っ先が右頬を裂く。

緋色「ぐぅ!」

飛び散る鮮血。

左手で右頬を抑え、後ろへとよろけた緋色の姿。

紅「あ‥あぁぁ‥」

手にしたレットウに滴る緋色の血。

紅「ヤダ‥こんなのヤダ‥ヤダよぉ‥イヤだ!!!」

緋色「戦いはイヤだなんて言いながら、姉ちゃんも戦いに飲みこまれてんじゃねえか!

この血を見て見ろよ‥これが姉ちゃんのやってることだ!

俺はそんな姉ちゃんを止めたいんだ!!」

紅「私は‥」

緋色はアガマルを構え、暗黒騎士 ダークナイト・キルの姿へと変化した。

悪意に染まる装備の数々を身に着け、紅と対峙するキル。

緋色「俺は暗黒騎士‥ダークナイト・キル」

その横に、戦竜・クリムゾンが かしずいて見せる。

クリムゾン「わたくしはクリムゾンと申します。

マスターのためならばこの命、捧げる覚悟にてございます」

紅は弟の変化に衝撃を受ける‥

蒼唯「紅!」

紅の気持ちは痛いほどわかる‥親友が、しかもこの手で殺してしまった親友が

亡霊となって目の前に立ち、ピオレータの姿になって襲ってきた‥

あの時の衝撃を知っている蒼唯には、紅の心の痛みは辛すぎるほど理解できた。

緋色「俺と姉ちゃん‥どっちが力に溺れてるんだろうな」

紅「私‥私は‥」

アガマルの妖しい輝きに、気を失いそうになった紅の目に

レットウの輝きが飛びこんできた‥

紅はいつも伝助に、刀の扱い方や戦い方を特訓してもらっている。

レベルを上げ、速く『勇者』という心のジョブにふさわしい者になろうと

努力し続ける日々だった‥それはけっして、弟を傷つけるために習ったものではない。

まさか‥そんな‥弟を傷つけたこと、緋色がキルへと変化したこと

すべては自分が、力を持ってしまったためなんだろうか‥

戦うことを選んだためなんだろうか‥

『ええか紅ちゃん。

剣を手に取れば、いついかなるときに

どんなことが起きるかもわからんっちゅーことがあんねん。

苦しゅうなる、辛ぉなる‥

泣きたい時も、どーしたらええんかわからんようになる時もある。

ホンマは剣なんぞ、手にせぇへんことがいちばんや。

手にさえせぇへんかったら、戦うことさえせぇへんかったら

そう思うときは来るやろう。

やけど、手にせぇへんかったら大切な人を守ることもでけへん‥

眼ぇに映る人たちも、おんなじ空を見てはる人たちも

だぁれも守られへんねん。

戦うのはイヤや、大切ななにかを守れへんのはもっとイヤや。

僕たちの戦いは、戦いを終わらせるために戦うっちゅー矛盾を抱えとる。

戦う罪はいつか、償わなアカンやろう‥ま、それは僕たちが償うことであって

紅ちゃんたちは僕たちが巻き込んでもぉた ことやさかい‥』

いつになく真剣な顔で言った伝助に紅は

『私は巻き込まれたんじゃないよ、差し出された手を自分で選んで握ったの』と

答えた。

『紅ちゃん‥おおきにな。

ほしたら、ごっつ強いイケメンパンダの僕からアドバイスや‥

なにがあっても、心を強ぉ持っときやす』

『こころ‥』

『せや‥心が強ぉないと、悪意に負けてまう。

悪意っちゅーもんは誰の心にもおる厄介なヤツや。

チョット隙見せたら、スルスルって身体を乗っ取って

悪さばっかりさせよんねん。

しかも悪意は理屈をこねて、おどれがいちばん正しいとエラそうに言いよんねん。

でもええか、紅ちゃん‥ぜんぶ、心ん中に答えはある。

正しいこと、悪いこと、ぜーんぶ心の中に答えはあんねん』

紅の胸をポンと叩き

『これは神様からもろぉた‥そうやなぁ‥『人間の取扱説明書』みたいなもんや。

モンスタリアが狙ぉてる、あの『光の球』が神様がどーかもまだはっきりせぇへんし

その神様とこの神様は ちゃう神様かもしれへんけど

とにかく、神様からもろてんねんな‥』

『取扱説明書?』

『せや。

何が正しいことか、何が悪いことか

人は生まれたときにその両方をちゃんとわかるように、神様が持たせてくれたモン‥

取扱説明書みたいなモン、それが心やと思う。

心は正しいことがわかるようになってて、それを良心っちゅーヤツって呼ぶんやな。

ほんで、次のページにはしたらアカンことが書いてあって

それをやったら壊れてまいますよ、故障しまっせと教えてくれてんねん。

それがまぁ、悪意っちゅーヤツでんな。

ほな心をもろぉた人間は、どーしたらええですのん? ってなりはる。

それも心は教えてくれてんねん‥鍛えるんや。

心を鍛えて良心を強ぉ持ってへんと

悪意はすぐに誘ぉて来 (き) よる‥支配しようとする。

悪いことは簡単にでける。

ええことをしようと おもたら、難しい。

僕、最近思うねん‥神さまはひょっとしたら、そーすることで人間たちに

自分の手ぇで正しい方を選んでほしいんとちゃうやろか? ってな。

せやから、ええことをしていく価値があるんやろう。

神様がぜんぶ決めてはんのとちゃう、選ぶんは人自身や。

心を持ったもんが選ぶんや。

やから紅ちゃん。

これから辛いことも苦しいこともあるやろう。

どんな時でも、心を強ぉ持っときやす。

手を離したら悪ぅなってまう‥しっかり離さんようにギュっと持っておくんどすえ。

ほしたら紅ちゃんは、ブレることものぉて

悪意に騙されへん。

それが勇者でっせ♪』

『うん‥なんかよくわかんなかったけど、しっかり覚えておく。

私、勇者だから♪』

『覚えとけって、ゆーたやんか』

笑いながら怒る伝助に

『伝助くん‥さっき、私のおっぱい触ったでしょ』

伝助は記憶をたどる‥[紅の胸をポンと叩き]‥←『ほら、触ってる』

『しもたぁぁぁ!!! セクハラしてもたぁぁぁ!!』‥‥‥

紅は伝助のセクハラ‥いや、言葉を思い出す。

紅「私は‥」

目にレットウと同じ輝きを戻し、カッと見開く。

紅「力に溺れているのは緋色だよ!

正しいこと、悪いこと、それは心がちゃんと知っているんだから!」

蝕「なに?」

イラついた表情を覗かせる。

緋色「心が知っている?」

紅「緋色、緋色はこんなことしていて

それで私が本当に喜んでるって思ってる!? 思ってないよね‥自分が間違っているって

ホントはわかってるんだよね。

後戻りできないだとか、仕方がないとか

そんなこと思ってるんなら緋色‥お姉ちゃんと帰ろ。

お母さんがお味噌汁作って待ってる‥私も、とびっきり美味しいケーキを作るよ。

だから‥」

蝕「ボウヤ、どうすんのよ? お姉ちゃんが迎えに来てくれたわよ。

仲良くお家に帰って、ママのお乳でも飲むかい? アハハハ、ボウヤにはお似合いかもねぇ!

紅「ヘンなこと言わないで!」

蝕「あらぁ? ぜんぜんヘンじゃないわよ、ボウヤが迷子になって泣いてるから

帰れるように言ってあげてるだけじゃない」

紅「緋色はボウヤなんかじゃ‥」

緋色「うるさい! 俺は‥俺はガキなんかじゃねぇし、姉ちゃんに守ってもらいたくもねぇ!」

蝕「ほぅら、ボウヤはああ言ってるわよ、おねーちゃん?」

紅「緋色は‥必ず私が連れて帰る!」

紅の頭の上に光りが現れ『レベル28』に上がったと告げた。

折れかけた紅の心は、しなやかに突き進む。

クリムゾン「マスター!」

緋色を守って前面に。

紅へ火球を吐いた。

紅「勇者☆カンカン斬りぃぃぃ!」

おそらく『カンカンに怒ってる』であろう勇者の斬撃。

火球を断ち割り、構える体勢から‥

紅「紅ササニシキ!」

クリムゾンを蹴散らして、レットウの切っ先は緋色のボディーに火花を散らせた。

緋色「ぐっ!」

蝕「あらあら‥おねーちゃんの言うことを聞かないボウヤは‥殺しちゃうのね。

残酷だこと♪」

紅「違う! 私は目を覚まさせたいだけ。

優しくするばかりが家族じゃない‥厳しくすることも家族の大切な役目だから!」

突き出す緋色のアガマルを撥ね、倒れ込むように左ひじを叩きこむ紅。

その威力と気合に、緋色は尻餅をついてしまう‥

クリムゾン「マスター!」

倒れたキルを守り、クリムゾンは尻尾を紅へ打ち付ける。

レットウで防ぐがダメージは避けられず

ツァイフォンを手にした紅は『着心!』左腕部のスロットにイン!
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