彩心闘記セクトウジャ・2

□レベル7・9
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埼玉

博良は、埼玉の公演先に戻った。

雪永に連れられ、ツネとともに楽屋へ入る。

そして博良は、座長はじめ一座の全員の前で手をついて謝り

もう1度、祈想座の舞台に立たせてほしいと詫びる。

もちろん、舞台に穴をあける (無断で休むこと)は厳しく叱られたが
一座に戻ることを誰も咎めはしなかった。

むしろ、ツネさんはじめ座員・幹部全員が
座長や副座長に頭を下げて、戻してやってほしいと願う。

うれし泣きする博良に雪永もおもわず、もらい泣き。

母は『それで雪永、お前はどうするんだい?』と訊ねるので

雪永「お父さん、お母さん‥僕は、僕のやりたいことがあります。

いままで、いろんなことを教えてもらったけど‥

お芝居のことも踊りのことも、たくさん教えてもらったけど

僕は‥舞台を降ります」

母は答えを聞いて泣いたが、父は『そうか‥決めたことなんだな』と。

雪永「はい‥僕はきめました」

叱られると思っていた‥けれど『わかった‥師と弟子の縁はこれで切った』と父。

雪永「‥‥いままで本当に‥ありがとうございました」

涙は無い。

自分で決め、覚悟をもって選んだ道だから。

一霧「雪永‥これからは三代目・祈 雲海(いのり うんかい)じゃなく

オマエの父さんの‥祈白 一霧(いのしら いつむ)として

オマエを見守るよ」

と、笑った。

砂綾「雪永‥バカな子だよ‥ホント」

口ではそう言うが、きっと母も父と同じ想いだろう。

想 絹糸(おもう きぬいと)としてではなく

雪永の母親‥祈白 砂綾(いのしら さあや)として

雪永の成長を願う親の姿。

雪永「みなさん、本当に今まで

ありがとうございました!」

深々と下げる頭に、皆の温かい声が降り注ぐ。

ツネ「若座長」

雪永「ツネさん、もう雪永って呼んで」

一霧「博良‥明日からまた冬馬に戻って‥」

博良「はい! 自分と戦っていきます!!」

雪永「そうそう‥ねえ父さん、劇団に入りたいって子がいるんだけど」

一霧「ん? 誰だ」

雪永「博良の親友で恩人‥カーターさんっていうの」

砂綾「外人さんかい?」

博良「カーターさーん!」

スッと戸をあけて、ピッカピカの新造ボディでカーターさんが現れた。

頭部も一新されて、ヘルメットではなくなったのだが

どこをどう見ても『特撮ロボットヒーロー』の主人公のよう。

メインカラーは燃えるレッド!

伝助、缶吉、ごん、ねんと

付喪堂技術班が総力を挙げて製作したボディ。

マモーブの試作をベースに、骨格フレームやモーターなど組み込んで
動力源は疑似魂力。

頭部内に納められたコンピューターは愛・伝えまフォンシリーズのノウハウを使い

そこにピーノの魔法で復活していたカーターの記憶データを移す。

埼玉に着いたころには、キッチリ完成していて

顔部分はメットゴーグルタイプから、伝助の趣味で某人造人間チックに仕上げられ

著作権を考慮してカラーリングは、もともとのマモーブ試作体のベースの赤と銀のまま。

カーター「私ィ、カーターと申しますデェース」

いわゆる外人さんイメージそのままに、カタコト日本語発音で語尾を上げて自己紹介。

砂綾「え? その‥なんて言ったらいいのか」

座員たちも目を白黒にさせて、ちょっと困惑気味。

雪永「ダ、ダメかな?」

ツネ「そりゃ‥誰でも座長は受け入れなさってきましたけど‥」

砂綾「人間じゃないとダメとは言っても書いてもいないけど‥」

確かに、座員募集と書いて劇団のポスターの端に張り付けている紙には

『求ム、人間』とも『入団条件・人間であること』とは書いていない。

雪永「そ、その‥」

『ええか雪永ちゃん、カーターはんの説明に困ったら

風丘グループのお手伝いロボットのテスト用ロボットなんどすと

オトンやオカンに言いなはれ』との助言を思いだし

雪永「お、おとっつぁん、おっかさん

カーターはんは、風丘グループといわはる

大きなお店 (おたな) のグループがありますやろ。

そこで作られた『お手伝いロボット』のテスト用ロボットなんどす」

砂綾「なんでお前、妙な京都弁なんだい?」

ツネ「それに、おとっつぁん おっかさんって‥芝居じゃあるまいし」

動揺したため、明らかに怪しい雪永。

博良「お願いします! カーターさんは俺の大切な恩人で‥いや、恩ロボットで

親友なんですっ。

どうか、どうかお願いします!」

カーター「OH! 博良サンもぉ、こう言っていますので

ここはひとつ、広い心で許してやって‥あッ、オクンなセぇ♪」

ツネ「へ?」

みんな唖然となる中、座長の一霧は太腿をバーンと叩き

一霧「面白い! 気に入ったぜ、カーターさん‥いや、カーター。

今日からオマエを弟子にしてやる。

そうだな‥祈 クラウドってぇ名を付けてやるよ」

雪永「お、お父さん」

ノリノリな父を見て、嬉しいやら戸惑うやら。

カーター「OH、クラウド‥雲ですねェ♪」

雲太郎、雲二郎、雲三郎といる中で

新しく入ったカーターはクラウド。

博良「よかったな、クラウド!」

クラウド「A―HAHAHA、フユウマさぁん、アリがとデェース」

冬馬「『ふゆうま』じゃねえ、冬馬‥とうまっていうんだ!」

妙ではあるが、明るい新人が入ったことで

これからの祈想座も盛況間違いなしだろう。

雪永は、舞台を降りる少しの寂しさを感じながらも

これからの劇団の未来を思うと、心が弾んでしかたがなかった。

次期座長を務めるであろう冬馬、その横にクラウド。
おそらく史上初となるロボット役者であり、雪永は皆とともに楽しげに笑った。


数時間後


雪永は父や母、冬馬や仲間たちに『また来るね』と告げ
駐車場へとやってきた。

付喪ライナーはすでに他の路線を走っている。

父や母、博良は早速カーターを交えて稽古中。

歩く先のスペースに、雪永のセクゾーストを墨彦たちは停めていた。

雪永「よいしょ」

乗ろうとしたとき『若‥じゃねえや、雪永ちゃん』

雪永「もう、ツネさんまで『ちゃん』って呼ぶ」

振り返るとツネ。

ツネ「えへへへ、だってどう見ても‥ねぇ」

雪永「ま、しかたないか」

互いに笑う。

ツネ「いい子ですね、クラウド。

ありゃ、いい役者になりやすぜ‥根性があるようだし」

雪永「そうだね、戦う心‥ってやつを持ってる子だから」

ツネ「戦う心‥ですかい?」

雪永「うん。僕の仲間とおんなじだよ」

ツネ「へぇ‥ホントに、いい仲間と出会えたんですね」

雪永「なに言ってんの、ツネさんも僕の大切な仲間の1人だよ。

お父さんのようだし、仲間だし」

ツネ「ありがとうございやす。

それじゃあアッシも、雪永ちゃんは大切な仲間で‥可愛い娘だって言わせてもらいやす」

雪永「娘って!」

また大笑い。

そして雪永はセクゾーストにまたがり

雪永「じゃツネさん‥行ってきます」

ツネ「へい‥お気をつけて」

雪永「ツネさんも‥いや、パパも気を付けてね♪」

ツネ「パパ!? テ、テレますねぇ」

雪永「だってお父さんは『座長』じゃなくて、これから『お父さん』って呼ぶんだし

ツネさんのことは、これからパパって呼ぶよ」

ツネ「あははは、嬉しいです」

雪永「じゃあね、パパ。

こんど帰ってきたときは、セクゾーストに乗せてあげるね。

スゴイんだよぉ、このバイク‥おっきな鎧になるし」

ツネ「ええっ!?」

雪永「うふふふ、じゃあね、パパ♪」

心晴々、雪永は仲間たちが待つ東京へと戻っていった。

姿が見えなくなるまで、ツネは雪永へ手を振っていた。


翌日


児童養護施設・絆の木学園

子供たちが遊んでいる。

駐車場に停まる車の中から、シスターたち数人と

いまは『奏』という名前で呼ばれるヴァンパイア・ノワールの姿。

気になっていたこの学園に、ノワール‥奏は毎日通っている。

子供たちは奏を『おねえちゃん』と呼び、来るのを心待ちにしている。

来てはピアノを弾いて、いっしょに歌をうたう。

今日はバザーで、近所の人たちやボランティア方たちが
いろんな店を出店していた。

焼きそば、雑貨、洋服、タコ焼き、パンケーキ‥

美味しそうな匂いと、彩り豊かなものたちで賑わう中を

奏でも忙しそうに動いている。

慣れない手つきでパンケーキを焼いているが、少し目を離した途端、真っ黒焦げ。

シスターたちは大笑いで、恥ずかしそうにタネをまたホットプレートに落とす。

ふと見上げると、子供たちの笑顔が瞳に映る。

が‥寂しそうにしているこの姿もある。

一見すると、とても楽しげな空間であるが

よく見て見ると、寂しさや悔しさ、悲しみ、怒り‥

モザイク模様のようにちりばめられている。

なんで、お母さんは迎えに来てくれないの?

なんで、お父さんは会いに来ないんだよ!

大切な人たちと離ればなれであったり

大切なはずの人たちから、いわれのない暴力を受けたり

大切という言葉さえ教えられないまま、別れという言葉を先に覚えた子もいる。

そんな子たちの悲しみや怒りは、悔しさや寂しさは

楽しいという暖かい色を何度塗ったところで

容易に暖かい色へ染まるワケはない。

奏の頬を、知らず知らずのうちに涙が伝っていた。

『奏さんっ』シスターの呼ぶ声が耳に入り、ハッとなって涙をエプロンで拭い

パンケーキを焼いていたことを思いだして慌てる。

奏「また焦がしちゃう!」

慌てて机の前に来てみると、ホットプレートの前に心が立っていて

器用に裏返していた。

シスター「奏さん、この子はね、火村 心ちゃんっていうの。

ちょっと前に学園の子と友達になってくれて

それからよく、お手伝いに来てくれるのよ」

心「火村 心っていいます、12歳です」

奏「心ちゃんっていうのね。

えっと‥奏です‥その‥初めまして」

にこやかに握手をする。

『はじめまして』そうだろうか?

どこかで、この少女と会っているような気がする。

この子の匂い‥なんとなく香る、ケチャップやソース、ご飯にお味噌

食べ物のいい匂いを感じると

脳裏に1人の少女の顔が浮かぶ。

その少女はいつも不安げな顔をしていて、初めてその少女に会った時

心と同じ匂いを薄く感じたのを、奏は思いだした。

だが、その少女が誰なのかは思い出せない。

そう、雪の女王という本を抱いている。

本を抱く少女だ。

すると、次に脳裏に浮かぶのは

とても美しい女性。

美しく、けれど儚げで脆くて

愛をくれとすがってくる美しい女性。

なぜだろう‥その女性を思いだそうとすると、

奏の心はなぜか痛み、苦しくなる。

心「おねえさん」

呼ぶ声で我に返り

不思議な感覚を心に抱きながらも、奏はパンケーキ作りに戻った。

奏「上手ね」

心「お菓子を作るの、好きなんです♪」

奏「そうなの。

いいなぁ、私はお料理とか苦手で」

心「えへへへ」

プレート横に置いてある、広めのステンレス製キッチンバットに積まれた、

何枚もの黒焦げパンケーキを見て笑う。

奏「ヤダ、見ないでぇぇぇ」

奏は、とても楽しげに笑った。
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