彩心闘記セクトウジャ・2

□レベル8・1
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「彩心闘記セクトウジャ」レベル8

『朝日を望んだ女』

2010年11月

都内

『はあぁぁぁぁ!』

夕闇の中、ぶつかり合う刀が散らす火花は
辺りを一瞬明るく染めて、すぐに暗闇へと戻る。

高速で移動する両者は紅と緋色。

緋色はクリムゾンに乗っており、紅はセクゾースト。

戦竜であるクリムゾンは、口から炎を吐いて紅を攻撃。

紅は炎の中を突っ切って『だぁぁぁぁ!』レットウを騎乗の緋色へ叩きつけた。

衣服に移った炎は疾走する風で消し飛ぶ。

紅の1撃に、危うくクリムゾンから落ちそうになる緋色を
尾でサポートして背中にとどめるクリムゾン。

クリムゾン「マスター!」

緋色「俺ならだいじょうぶだ!」

クリムゾン「だと思ってました」

緋色「ホントか!?」

クリムゾン「あら、本当ですわ」

急旋回すると、向かってくる紅へ

翼を羽ばたかせて強烈な風を巻き起こすクリムゾン。

緋色はキルへと姿を変えて、アガマルの柄を伸ばして薙刀にすると
紅へ強烈に振り下ろす。

『着心、装心!』矢継ぎ早にマモーブ装着と戦心システム機動。

バトル・セクトウジャとなった紅は、スビナーで高速移動。

渦巻く風を大きなレットウで切り払って
アガマルを左腕で防御し、刃とセクゾーストの装甲から走る火花をそのままに
レットウの柄でクリムゾンを打突!

クリムゾン「きゃ!」

紅「はあぁぁ!」

キル「このぉ!」

放ったアガマルを刀に戻すが間に合わず
紅はキルへ身を翻して、大きく斬りつけた。

逆袈裟の太刀筋。

キル「うあぁぁぁ!」

クリムゾン「マスター!」

自身も痛打した胸に苦悶の表情を浮かべながら、背中に乗せたキルを案じる。

紅「緋色! いい加減にしてっ」

キル「うるさい! 俺はお前を倒す! お前を倒して、戦いから遠ざけるっ」

紅「あんまりワガママ言ってると お姉ちゃん、本気で怒るからね!」

キル「やれるものなら! 」

クリムゾンを飛び下り、キルは紅に突っ込んでいく。

緋色「やってみろ!!」

キルの振り下ろすアガマルをスビナーで軽く移動してかわすと

紅「姉ちゃん☆激おこバーンチ!!!」

勇者として目覚めても、相変わらずのネーミングセンス。

キル「弟・激怒キック!」

やはり姉弟だ。

ぶつかりあう紅と緋色。

紅「緋色っ」

緋色「姉ちゃん!」

ふざけているようで、紅の心は張り裂けそうに辛い。

誰も好き好んで、弟と切り結びたい姉などいない。

でも、やらなくてはいけない‥たとえ厳しいことだったとしても
それで間違ったことから弟を救えるなら、紅はいくらでも辛い目に遭う。

緋色の『姉を倒してでも戦いを止めさせる』と

紅の『弟を倒してでも戦いを止めさせる』とは

似て非なる想い。

いわば『自己中』と『愛情』の戦いか。

そんな悲しい戦いが人知れず起きている夜の帳の中に
慎ましやかく、けれど暖かい暮らしを送る人たちがいる。

その人たちの暮らしを、紅は守っているのだ‥たとえ、弟と戦っても。


安アパートの1室、淡い色調のカーテンから部屋の明りが洩れる‥

小さいテーブルの上にカセット式のガスコンロ。

白菜、絹ごし豆腐、シイタケ、春雨、鶏肉‥

『さ、今夜はお鍋よー』女性の声が聞こえ

『はーい』『お腹すいたね』と、子供と男性の声。

男性は『今夜はお鍋かぁ、美味しそうだね』と言い

『もう11月になったからねぇ。少し冷えて来たし、いいかなって思って』と、

女性は朗らかに答える。

『いただきまーす』3人の声が聞こえ、楽しい夕食の時間。


紅「はあぁぁぁ!」

スビナーは高速回転。

おおきめレットウが、キルのアガマルを押していく。

アスファルトとこすれ、踏ん張るキルの足裏から火花が走る。

クリムゾンは上昇し、錐揉み急降下で紅に突進!

寸前のところで、スビナー移動で避け
大型銃のルージュ・パーツを撃つ。

弾丸は戦竜を苦しめる間に
キルはようやく紅から離れた。

紅「緋色!」

キル「俺はキルだ!」

紅「緋色は緋色、私の大切な弟だよ!!!」

キル「ぐっ」

姉の叫びに心が惑う。

クリムゾン「マスター!」

緋色をかばうように前に立ちふさがると

キル「クリムゾン、帰るぞ!」

クリムゾン「はい!」

緋色‥ダークナイト・キルを背中に乗せて
クリムゾンは飛び去った。

回転を止めるスビナー‥装心が解け、続いて着心も解き
傷だらけの紅は、戦竜とともに飛び去る緋色を見つめていた。

『緋色‥』涙の代わりか、弟の名が一つ‥こぼれた。


翌日


付喪ライナー

仁たち霊皇と、侠真たち霊将が揃い
後はいまだ低下したままの魂力を元に戻せたなら
彩心たちの戦況も、ガラリと変わるに違いない。

そしてもう1人‥大きく戦況を左右する者が付喪ライナーに乗っている。

朱の鬼 ヴァーミリオンこと、朱紗 椿。

この前の戦いで椿は、死んだとばかり思っていた兄と父が生きていたと知り
しかも、仇と憎んで己が幸せを捨てて選んだ復讐の道。

来る日も来る日も、仇を討つ事だけを考えて行動し生きてきた。

その仇である組織SSDに兄と父がいる。

兄、父の仇を討つため眼前に立ち剣を向け
向けた相手が兄や父だったということが、椿の心をズタズタに引き裂いた。

椿の負った怪我は軽いものである。

しかし、心に負った傷は深く、重い。

医務室のベッドから彼女は動こうとせず、ひたすら眠っては
時折、目を開け‥天井をボンヤリ見つめるだけ。

気が付いたらまた目を閉じて寝ている。

栄養は淑と餡子がバッチリ看護しているので問題ない。

心配しているのは心がこのまま壊れてしまわないかということだ。

桜花とメアリーが医務室へと入る。

メアリー「邪魔するよ」

桜花「起きとるね?」

手にはトレーに乗せられた土鍋。

桜花「今日は、鍋焼きチャンポンば作ったとよ」

鍋焼きうどんの要領で、長崎名物チャンポンを作ったということか。

メアリー「で、食後のデザートにカステラと冷たい緑茶だと」

桜花「カステラっちゅーたら、飲み物は牛乳って言うとるばってん

通は緑茶で楽しむとばい。

熱くても冷たくても、ウマいんやけど

私は冷たい緑茶が好きやけん、おススメするから食べてみんね」

メアリー「でもねぇ。

もうずいぶんと食っちゃいないからさ、

もっと腹に優しいものから入れたほうが あたしゃ、いいと思うんだけどねぇ。

なんでまさら、長崎グルメ推しなんだよ」

桜花「長崎の食いもんは、ウマかとよ。

とくにチャンポンは、お肉・野菜・魚介のうま味と栄養がギュッと入って
麺は消化によかやかね♪ そして食後のカステラっ。

これはもう、元気回復完璧フルコースばい」

メアリー「あたしゃ、梅干しと海苔の佃を添えた
粥のほうがいいと思うけどね。

ガッツリ食べるなら、鍋焼きうどんに おにぎりだね。

海苔巻きもいいし、とろろこんぶを巻いたおにぎりも美味しいよ」

桜花「うんうん、それもウマそうやねぇ。

けんど、やっぱりチャンポン、カステラばい」

メアリー「はいはい」

明るく会話しても、椿に反応は無い。

メアリー「桜花‥そこに置いてておやり」

桜花「そ、そうやね‥ここにチャンポン置くけん。

お腹すいたら食べるとよ」

2人は医務室を出る。

ベッドの上で椿は、ただぼんやりと天井を見つめていた。


客室へ入るドアが開き、桜花とメアリーが戻ってくる。

翠季「どうでした?」

桜花「ぜんぜん‥かなり堪えとるようやね」

メアリー「それもそうだろうさ‥死んだと思っていた家族が生きてりゃ嬉しいだろうが
ソイツが、仇と狙っているヤツらの仲間になってたってんじゃ

どうにもねぇ‥やるせないさね」

メアリーが腰かけた席の隣に、イチゴが座っていた。

椿との連絡が途絶えてから、イチゴは椿が首にかけている

ヴァーミリオン・武装転送装置の『マハーマーユーリー』の反応を追跡し
付喪ライナーを訪ねてきた。

付喪堂とイチゴは初対面‥最初こそ警戒したが

マハーマーユーリーの何を調べるでもない付喪堂の対応に
イチゴは信頼に足る存在だと付喪堂を認識する。

しかし、イチゴが突然目の前に出れば、椿はさらに混乱しかねないし

兄、父の生存と複雑な状況、それらに至る過去の出来事を思いだせば
心のダメージはより深くなってしまうと、餡子の診断によって止められて

桜花たちは椿の様子を見に行ったというワケである。

そのことについて、蒼唯も苦しんでいた。

椿の過去に大きく関わる蒼唯もまた、今は椿の目の前に出ないほうがいい。

あのとき‥急襲された朱紗邸の中に

蒼唯の姿があるのをイチゴはメモリーしていて

『おもってもみないトコロでオ会いしましたね』と驚いた。

蒼唯もあのときのロボットだと思いだし、

同時に椿があのときの、朱紗博士の娘だと‥

『私が‥運命を変えてしまったんだ』と過去を悔やみ、憎む。

『アナタはアナタの役目をハタサレタんデショウ‥だけど‥ダケドです』

それ以上口にすればきっと、怨み言の一つや二つ

いや、もっと出てきて止まらなくなる。

イチゴの制御装置がストップをかけたのかもしれない。
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