彩心闘記セクトウジャ・2

□レベル9・1
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「彩心闘記セクトウジャ」レベル9
『見上げれば、青空』

2010年12月

都内

もう12月‥2010年も残りわずかで

月の初めと言っても12月となると
街中はクリスマスに向けてソワソワ、ウキウキし始めている‥はずだった。

色とりどりのイルミネーション、綺麗に飾られたクリスマスツリー
恋人たちも子供たちも、サンタクロースの訪れを心待ちにしている季節なのに

今年は違う‥。

そんな街の雰囲気が気に入らないのか、空は曇っていまにも泣き出しそうだった。


生クリームに、鮮やかな赤色の大きなイチゴがいくつもあって
ニッコリ笑っているかのようなケーキがテーブルに置かれている。

チョコのプレートに『メリークリスマス』と書いていて

砂糖菓子のサンタクロースが愛らしい。
その横にチキンレッグが2本皿に乗っていて、横には手作りのポテトサラダ。

クリームシチューもあって、深めの木の皿に入っていた。

スプーンも材質は木。

とても暖かい雰囲気だ。

テーブルの横に5歳児くらいの背丈のツリー。

飾り‥クリスマスオーナメントがキラキラしている。

『ただいまぁ』部屋の外で蒼唯の声が聞こえた。

訓練に出ていた蒼唯が帰ってきたよう。

菫「お帰りぃ」

ドアを開けて

蒼唯「ただいま」

いきなり菫は小さい手のひらで蒼唯の目を覆い

菫「蒼唯、目を閉じて」

『?』蒼唯は突然のことで意味がわからない。

料理や飾りつけを、まだ見られたくないのだろう。

菫「目を閉じっててばっ」

蒼唯「えー、ヤダよ」

菫「いいから閉じてっっっ」

渋々、菫の言うことを聞いて目を閉じる蒼唯。

手を引いてそっと部屋の中に入り

菫「開けていいよ」

目を開けた蒼唯の瞳に映るケーキやごちそう‥

菫「じゃーん♪どうお? 蒼唯」

蒼唯「どうって‥またずいぶん張切ったな」

菫「なによぉ、せっかく頑張ったんだからもっと驚いてよっ」

頬を膨らませ、キュートな瞳で蒼唯をひと睨み。

蒼唯「ははは、ゴメン」

菫「もう、しょうがないなぁ」

蒼唯はイスに座ると『美味しそうだ』と喜ぶ。

その表情や声がたまらなく愛おしくて、菫も嬉しい。

シャンパン風のジュースのフタを蒼唯が明けると『ポンっ』と音が鳴り

菫はグラスに注ぐ。

淡いピンク色の炭酸ジュースはグラスの中で揺れて弾けて、宝石の海。

『メリークリスマス』チンっと音を立ててグラスを合わせ、ひと口。

蒼唯は次にシチューを食べる。

蒼唯「美味しい」

菫「でしょお♪ねね、ツリーの飾りも見て」

赤や青、黄色と光る電飾と共に吊られているのは
星、天使、サンタクロース、トナカイとソリ、ベル、綿で作った雪、柊、杖、

くつした、リンゴ‥あと、小さなプレゼントの箱と

人型のお菓子は

菫「ジンジャーブレッドマンっていうの。

生姜とスパイスが入ったクッキーなんだよ」

蒼唯「へぇ、食べれるんだ」

菫「そう。

私が焼いたのよ、後で食べようね」

蒼唯「うん」

菫「それでね、ツリーの飾り‥クリスマスオーナメントっていうんだけど

ひとつひとつ、意味があるんだ」

蒼唯「サンタクロースはクリスマスにかかせないし

トナカイとソリはサンタが乗ってやってくるだろ‥

くつしたは確か、サンタクロースがプレゼントを入れるって」

菫「そう♪」

小さい靴下の形の飾りが、クリスマスツリーでユラユラ。

蒼唯「あとは知らないな」

菫「星はね、クリスマスツリーの頭に飾るの。

キリストさんが生まれた事を知らせた星なんだって」

蒼唯「キリストさんって‥お隣さん呼ぶみたいに言っちゃダメだよ。

だって‥」

菫「神様なんでしょ‥知ってるよ。

でもいいの、キリストさん」

蒼唯「はいはい」

菫「天使は神様のお使い、

雪は、雪が降る夜のクリスマスをホワイトクリスマスって言うじゃない。

雪は冬の象徴だから飾るんだ。

雪の結晶や雪だるまでもいいんだよ」

蒼唯「へぇ‥でもなんだな、おせちみたいに

もっとイロイロ深い意味があったりするのかと思った」

菫「へ?」

蒼唯「ほら、数の子は鰊(にしん)の卵で、数が多いから子孫繁栄を願うものだったり

黒豆は、魔除けの力が有る黒色と
まめ(勤勉)に働き、まめ(健康)に暮らせって願ったり‥」

菫「お正月はクリスマスの後でしょっ」

ちょっとふくれて、怒る姿が可愛い。

蒼唯「ゴメン」

菫「クリスマスに戻るね」

2人はシチューやチキンを食べながら話す。

菫「柊はね、英語でクリスマス・ホーリーって言うの。

キリストさんが世界中のすべての人の罪を背負って、十字架の上で処刑された時
かぶらされた茨の冠を表してるんだって。

柊の実は赤いから、キリストさんの流した血を象徴してるって」

蒼唯「クリスマスだっていうのに‥血ねぇ」

菫「もうひとつあってね、トゲトゲした葉は魔除けになるって」

蒼唯「あ、それのほうがいいね」

菫「だよね、私もそう思う。

で、杖。

キャンディー・ケーンって言って、赤と白が交互に‥」

蒼唯「床屋のクルクルみたいなヤツ?」

菫「そうそう♪

あの派手な杖ね、キリスト教じゃ『人』は羊、『神様』は羊飼い」

蒼唯「迷える子羊たちよ‥だね」

菫「うん。羊飼いは杖で羊を導く。

だから、神様も杖で人を導くの。

赤と白の意味は、『白』がキリストさんの清い心で

『赤』は十字架でキリストさんが流した血」

蒼唯「また血だ」

菫「あははは」

自分たちは人を殺めて血を流し、神は人を救うために流した‥

菫「リンゴはね、昔ドイツで
キリストさんのお誕生日をお祝いするとき

舞台で『アダムとイブの知識の木』上演したんだって」

蒼唯「知識の木‥知恵のみがリンゴだから」

菫「そうなんだ。

でも りんごの木って、冬は葉っぱがないから
もみの木にりんごをつけたんだって」

蒼唯「そうか‥それでクリスマスツリーは、もみの木なんだ」

菫「クリスマスツリーのはじまりかな。

ボールはきっと、リンゴに見立てたものだね」

蒼唯「ただ飾ってればいいと思ってたけど‥意味があるんだね。

てっいうか、クリスマスがイエス・キリストの誕生日なんだから
世界中の人が誕生日を祝ってくれるって羨ましいよ」

菫「蒼唯には私がいるじゃない」

蒼唯「ははは、まぁね」

菫「これからも、お祝いしてあげるから♪」

蒼唯「ありがとう」

誕生日に菫は蒼唯に絵をプレゼントし、今は大切に壁に掛けられている。

蒼唯「で、最後‥ベルは?」

菫「ベルはね、キリストさんが生まれたことを祝って、皆に知らせたベル。

子羊に付けられたベルの音の意味もあってね

迷子にならずに、神様のところへ帰れるようにって意味もあるの」

蒼唯「神様のところへ帰れるように‥ねぇ」

菫「ね、蒼唯」

蒼唯は菫を見つめる。

菫「私が撃った人たちも、迷わずに神様のところへ帰れたかな‥」

蒼唯「菫」

菫「私が生まれたとき、お祝いしてくれたのかな‥

生まれてこないほうが、ホントはよかったんじゃないのかなぁ」

菫の過去は辛すぎる。

生まれたことさえよかったのか悪かったのかと感じるほどに。

蒼唯「菫‥私たちは確かに、多くの人を撃った。

その人たちは‥きっと神様のところへ帰れたはずさ。

その代り、私達は神様のところへ帰れないんだから」

菫「ずっと帰れないの?」

蒼唯「ああ、ずっと。

でも‥でも心配いらない、私がずっと一緒だから。

いつまでも一緒にいるよ‥

神様のところへは帰れないけど、そうだな‥‥この世界をずっと2人で歩くのも悪くない」

菫「海とか行ける?」

蒼唯「もちろん。

海だって空の上だって行けるさ‥私達は自由になるんだから」

菫は蒼唯の手を握って

菫「自由になりたいね‥早くなりたいよ。

蒼唯と海に潜ったり、空を飛んだりお花を摘んだり

楽しいだろうなぁ」

死を楽しみにできるほど、今が辛いのだと蒼唯は感じる。

いや‥生まれてこのかた、1度たりとも辛さから放してもらったことはないのだろう。

虐げられるか、命を奪い続けるか‥選ぶには辛すぎる。

蒼唯「菫」

菫「蒼唯」

蒼唯「食事がすんだら、生姜クッキーを食べながら
本を読んであげるよ」

菫「ジンジャークッキーって言ってよ。

でも、ホント♪本、読んでくれるの♪」

蒼唯「ああ‥歌もうたうさ‥ラヴソングをね。

美味しい食事の‥クリスマスプレゼントのお返しだよ」

菫「蒼唯の歌、プレゼントしてくれるのね! やったぁ♪」

身体を跳ねさせ、喜ぶ菫に
蒼唯は安らぎを感じていた。

菫「えへへへへ、嬉しいなっ」

心からの笑顔はきっと、内なる桔梗や牡丹も喜ばせているだろう。


今日が永遠に続けばいいのに
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