彩心闘記セクトウジャ・3

□レベル10・2
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指令室では、卓上マイクのスイッチを切り
背もたれに深く身体を預ける柳がいた。

夏生「新しく編成されたソルジャーズ‥これで国の国防力も増すというワケですね」

柳「私が育てた兵士たちだからな。

世界がどう言おうと、SSDは最強の軍だと自負しているよ‥それが事実だから」

夏生「世界最強の軍にふさわしい装備を、私は作らせていただきます」

柳「それで博士‥SSDアーマーの出力は
これまでのものよりも上げてくれただろうね」

夏生「はい、リミッター解除をしましたが‥

ですが、本当にいいのですか? あれでは装着者の身体が持ちません」

柳「それは国守軍のように甘ったれた戦いしかできない人間の物差しだ。

私が育てたソルジャーズに物差しはいらない。

例え壊れようとも、それをいとわない戦士だからだよ。

戦って死すことこそ戦士の本望。

生ある間に、どれだけ多くの敵を倒すかで価値は決まる。

素晴らしいとは思わないかね? これこそが戦う者だよ。

鴉蒙は資質こそ素晴らしかったが、所詮はウジ虫のような刑事の息子だ。

私の期待には答えられなかった。

小暮もそうだ」

夏生「小暮 直明‥どうして彼ほどの戦士が‥」

直明は、母親に捨てられた。

直明だけではなく、父も‥夫である男も、妻に捨てられた。

そのあてつけに、父は自ら死を選び

直明は天涯孤独の身となった‥。

柳「感情を殺しきれず、自我を捨て去れないものなど戦士ではない。

ただの失敗作、欠陥品。

邪魔以外の何物でもない。

廃棄しなければならないのだ。

鴉蒙、小暮は廃棄されて当然の物。

織田、釜石、野口など問題外」

鴉蒙 鉄志、小暮 直明、朱紗 夕也の3名は
前身組織からSSDソルジャーズへとスライド昇格し

織田 俊充、釜石 治夫、野口 茂美の3名は国守隊に所属していたのが
隊から軍へと移行する際、SSDに編入された人員。

それには防衛省の意向もずいぶんとあったようだ。

柳ははじめから織田達3名には期待などしておらず
すぐに戦死しても構わないといった姿勢で

ただ、鉄志や直明までもが混乱してしまったのは予想外の出来事。

柳「欠陥品と交われば、まともなものも どこかが壊れるという見本だな」

だからこそ、新生ソルジャーズはトルーパーズよりの登用に限定した。

前身組織・blood-shadowより任務に就いている者たちしか
柳の指令に応えられないと判断したから。

柳「お前たちは戦闘マシンだ。

血も涙もいらない‥心などいらない。

敵を発見したら、即抹殺するための機械でいい。

そうでなければ、なにも守ることなどできんよ」

笑みを浮かべる柳。

柳「博士」

夏生「はい」

柳「ご子息が隊長となった意味は‥わかるだろう?」

夏生「わかってますよ」

狙いは『justice』‥特殊高機能戦闘システム。

これさえあれば、この国が世界を統べるといっても過言ではないだろう。

人間が住む世界においては。

あらゆる状況に置いても瞬時に対応する兵器を生成し
戦闘データを蓄積すればするほど成長し続ける戦闘システム。

核爆弾をも凌ぐものでも、justiceは作ってしまうのだろう。

それがSSDの手中に収まれば‥手にしてしまったなら‥

夏生「私の技術こそ、世界を救うものだと世に知らしめることができる‥」

柳「新世界の誕生は‥私の世界の誕生は近い」

2人の思惑はどこへ向かうか?


都内

高層ビル‥立ち並ぶビルの景色が当たり前となった東京の中でも一際、高い。

地上65階建てのビルは、黒い壁で異彩を放ち
まるで東京を見下ろしては、暮らす人々を監視しているよう。

このビルの中には様々な団体や企業がオフィスを構えており

最上階から下に10フロアは
宗教団体『照真一信会 (しょうま いっしんかい)』の総本部。

政党である幸正党の実質的な支持母体[照真一信会]

強引な勧誘が問題視されることが多いのだが、事件化はもちろん
騒動にすらもならずに信者数を伸ばし、一大宗教団体となっている。

政教分離はどこへ追いやられてしまったのだろうか‥

自国党と連立与党を組み、政権の座についてからは
その勢力をさらに拡大し始めていた。

そして‥暗部の深くで、変化は起きている。

照真一信会を飲み込む蛇のような存在がいた。

蛇のようなモノの名を[真・救世神教]という。

かつて、カルト教団として[救世神教]という団体があった。

救世神女・天祈(くぜしんにょ・あまき)こと
園田 ひろ子を教祖に、霊感商法や詐欺
信者から布施と称して多額の金品を奪い取っていた。

が、山梨県にて伝助とルナ
旅の退魔師『慈宝』『慈勇』によって、憑りついていた[魔]を払われ

結果、警察に詐欺その他多くの容疑で逮捕されることとなる。

しかし‥ひろ子は拘留中、その姿を忽然と消した。

以来、数ヶ月も見つからないまま。

それもそのはずで、天獄の住人・夢魔 サッキュバスに身体を奪われ
すでに魂は存在しない。

サッキュバスは内閣・政府要人を肉体と怪しい薬物により虜にして
とくに宗教団体である照真一信会を利用することで

影から暗躍を始めようと企んでいた。

人の心を静かに暗黒に染め、地上を滅ぼす一つの力とする‥

謎の女性『救世神女・始 (くぜしんにょ・りりす)』を教祖に頂き 

まず、あっという間に内閣の中心、自国党の主要メンバーと幸正党代表を手中に収める。

魔の手は刻々と国民に迫っていた。

最上階、1フロアは救世神女・始の部屋。

すべてのブラインドやカーテンを閉め切り、始はその中で佇んでいた。

同じ暗闇の中でも[あの頃のように]身体を丸めて、眠ることはない‥

[あの頃のように]物音におびえ、耳にまとわりつく命の嘆きや
身体を弄られる動物たちの声を聴かなくてもいい。

『リリス』

どこからか、始を呼ぶ声。

413と呼ばれていた始は、影から[リリス]という名を与えられた。

始は‥リリスは、暗闇に浮かぶ濃い影を見つけると
嬉しそうに近寄った。

『リリス‥どうだ、自由の身になって』

リリス「あ、ああ‥あぁ‥」

彼女は言葉を発せない。

彼女は記憶や言葉が欠落している。

それだけ脳をもてあそばれ、『人』であることを[人]に壊され続けたから‥

人にとって、彼女はすでに413と番号で呼ぶだけの道具でしかなかったから。

濃い影はリリスの細い腰を抱き‥

『リリス‥お前は私の花嫁‥お前の身体は私のもので、私の力はお前のもの‥

いいか、リリス‥私とお前は、ひとつだ‥ひとつになるのだ』

影はリリスを一糸まとわぬ姿にすると、悦びの波紋の中へと抱き落としていった、


2011年1月4日


正月三が日も過ぎて、街はいつもの日常へと戻りつつあった。

まだ正月気分が抜けない人、まだもう少し正月気分でいられる人

それぞれの表情を見せながら、街は新しい年を過ごしている。


風丘グループ本社・秘密地下室

地下駐車場から高速エレベーターで地下深くに下りると
まるで太陽の下にいるかのような明るい部屋に出る。

この照明設備は、品質保証の肉球マークでおなじみの伝助作。

風丘グループ社長・風丘 厳(かぜおか いつく)は
紺乃 桐花とともにエレベーターと乗り込んだ。

地下から上がる‥今日は、厳にとっても桐花にとっても
風丘グループ全体としても大切な日である。

厳の想いが結実する‥形となる日だった。

エレベーターの中で、資料に目を通している厳。

何度もすでに読んではいるが、それでも読まずにはいられない。

桐花「緊張されてます?」

厳「まぁね」

桐花「社長の想いが形になる‥大切な日ですからね」

厳「ああ‥私の2人の娘の想い。

ひとりは志半ばで倒れ、ひとりは今も抱き続けている想い。

私も持ち続けている想い」

桐花「風はあなたを守ります。

娘さんはそう人たちに伝えているそうですね」

厳「命を守り、多くの手と手とをつなぐ風になりたい。

速く自由に世界を駆け巡り、そうあり続ける風になりたいと。

今日は、ほんの1歩にしかすぎない。

まずは足元を‥この国から守らねばならない」

桐花「いよいよ、隣国との戦争勃発が近いと聞きました」

厳「ああ、馬鹿げたマネをしようとしているものだ」

エレベーターの扉が開き、地下駐車場の上にある多目的ホールに
大勢の者たちが整列していた。

そのなかに

伽黒 影太

織田 俊充

釜石 治夫

桔梗

牡丹

並び立っている。

厳は隊列中央に置かれている朝礼台に上がり、マイクスタンドの前に立つ。

桐花は影太たちが並ぶ列へ加わる。

厳「諸君、集まっていただき感謝する。

今日、新しい年の始まりとともに
私たちの新たな挑戦もスタートする。

知っての通り、いまこの国は謎の脅威から狙われている。

東京を襲った寒冷テロ、さらに大規模な襲来を経て

平穏を取り戻したかに思えた短い日々を
焼き尽くすように脅威はまた襲ってきた。

怪物のような戦艦、コウモリのような戦闘機に戦車

しかし、この国を、世界を
守ろうと立ち上がった若者や、不思議な存在もいる。

それを政府は、襲来するものたちとすべて混ぜ合わせ

[未確認破壊脅威]と呼んで、国守軍、SSDは殲滅しようとしている。

が、我々人類を救おうとするものたちと、我々人類を滅ぼそうとするものたちと
双方あるということを国は認めず

ただただ、国防と称しては街に多大な被害をもたらす戦いしかしていない。

いま、この国は国防を隠れ蓑にして

あるいは世界平和に協力するという大義名分を掲げ

明らかに戦前の軍国主義に立ち戻ろうとしているほかない。
領土問題、戦争責任、歴史認識‥発端は国同士双方譲らぬ子供じみた政治のせい。

資源の奪い合いも絡む国と国のいがみ合いは
互いに引くことを知らずに武力衝突へ突き進もうとしている‥

いや、それを我が国が望んでいる。

積極的な平和主義をと吐く舌のもう1枚で、争いを欲している政治。

それはもはや、首相はじめ内閣のせいだけではないだろう。

政治に無関心を決め込む国民も、自分たちの利益しか考えない国民も
ともに招いた社会のありさまなのだろう。

それがたとえ、政治の体たらくのせいによる不信感が募った結果だとしても。

政治は他人事でなく、自分たちの暮らしに重大な影響を及ぼすもの。

暴走し、国民を見ずに利益・利害ばかりを見ている政治と

傍観を決め込む無関心な国民

これで社会が、国が、世界が平和になれるはずもない。

だが。

だからといって、このまま見過ごしていてはならないのだと私は思う。

近頃、多く囁かれる『愛国心』というものは偽物に過ぎない。

本当の愛国心とは、この国が2度と過ちを犯さぬように

ときに叱り、ときに激励し、国民自らが利益やしがらみにとらわれず

進んで政治の選択を行うこと。

国が間違った方向へ進もうとしたときは、間違いは間違いだと正し

危機に瀕した時は手を取りあって助け合う。

それこそが愛国心だ。

そして愛国心は世界を愛するということへとつながり

世界の平和を強く願い、実現へと協力していくことが人の愛というものだと‥

そこに武力はいらない。

たしかに、それをよしとしない勢力はいて
大きく邪魔をするだろう。

しかし、銃の引き金を引く前に
よく考えるべきだ。

いま、たがいに銃を向けあって
命を奪い合う者たちにも、戦場へ出てくる理由があることを。

世界各地で紛争、内戦は絶えることなく
そこに大国は己たちの思惑を持って介入する。

それではいくら経っても平和など訪れはしない。

大切な者を奪われたからと、子供たちまでが銃を取る。

その銃で撃たれたものたちの大切な人間がまた銃を取り
撃ったものたちを撃つ。

互いの上に立つ者に、本当に信念というものはあるのだろか?

自らの手を汚すことなく、大勢の血を流させる戦いを
安全が保障される場所から眺め、兵士に死ねと命令する。

戦い、犠牲になるのは常に子供であり、女性である。

そして、奪われた大切なものを守ろうと、取り返そうと銃を取った者たちだ。

それが戦争だ。

戦争は国に多大な利益をもたらし、国民に重大な被害を与える。

国は、国民のためにあるものだ。

けっして、政治家、官僚、富裕層、1部の人間たちのためにあるワケではない。

土地に根付いた人々の、暮らしをおくる場所こそが国である。

私たち風丘グループは、迫る脅威が巻き起こす災害被害から
国民を守るために、新たな組織を発足させる。

我々、人類を救おうと立ち上がった若者たちや、その存在に

今までは影ながら支援をしてきたが
国が暴走を始めている今、事態は一刻の猶予もないと諸君たちにも思ってほしい。

風丘グループは総力を挙げて、国民を守るための組織を作る。

それが‥[風救隊(ふうきゅうたい)]である」
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