彩心闘記セクトウジャ・3

□レベル10・3
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『にゃー』

今夜のご飯を求めて、広場に集まる猫たち。

『ありがとうにゃ、まりんさん』『いつもすまないねぇ』

『いいのいいの、えんりょなく食べて。

食べて、強く生きなきゃ‥せっかくこの世に生まれてきたんだから』

生きるために争うものたちはいる。

けれど まりんは、それをよしとはしない。

仲間同士だ、支えあって生きていきたいと思う。

甘い考えだと、綺麗ごとだと笑われても。

『みんなで支えあって、この命の限りを‥生き抜いてやるんだ!』


シアン「生きる!」

マゼンタを抱いて大きくジャンプ。

サッキュバス「ふん、野良猫が」

放つ拳の圧で、シアンの身体を大きく打ちつける。

落下するが、マゼンタに怪我がないよう身を挺して守った。

マゼンタ「シアン、だいじょうぶ!?」

シアン「なぁに、これくらいのこと!!」

起き上がってすぐに蹴り、そして閃く刃。

サッキュバス「このまま時間をかければ、楽しみながら捕まえられるんだけどねぇ‥

でも私も忙しくて。

残念だけど、サッサと終わらせようじゃないか」

サッキュバスは手甲と盾を装着して、シアンの前へと出る。

シアン「どうする‥このままマゼンタ様とここで朽ち果てるワケにはいかない。

せめて‥せめて、私の命に代えてもマゼンタ様をお助けする。

それが私の生きるということ‥ノワール様に救われた、私の命の役目!」

サッキュバス「はん、いちいちうるさいんだよ。

それにしても、どうして人間なんかを飼ってたんだろうねぇ

吸血鬼とやらは」

シアン「きさま! ノワール様、マゼンタ様を侮辱するのはやめろ!」

サッキュバス「ったく、ギャーギャー ギャーギャーうるさいねぇ、この野良猫!」

拳を振るうサッキュバス。

『どうせ あっという間にヤられるんだよ、お前は』

シアンを軽く始末する気でいたサッキュバスだったが

放つ一撃をシアンは逆手に持ち替えた短剣で受け止めて、右足の前蹴りを撃った。

ボディーに食らい、おもわず後ずさり。

サッキュバス「なに?」

瞬殺と思った相手から反撃を受けるなど、想定していなかった。

シアン「私は言ったはずだ‥生きると!」

マゼンタを抱いて、シアンは強烈に踏み込み短剣で切り払い!

危うく盾で防ぐが、一撃の威力で腕が痺れる。

サッキュバス「レベルを上げたか」

生きようとする力は、シアンのレベルを『75』へ引き上げる。

シアン「マゼンタ様、あの中へ!」

視線の先に扉がある。

シアンたちだけなら、空間を割って出入りもできるが

マゼンタを安全に人間世界へ送るためには
あの扉を使うしかない。

追ってくるサッキュバスの拳をかわし

シアンはマゼンタを抱いて走る。

シアン「あと少し‥」

インキュバス「魚をくわえて逃げるドラ猫ってヤツか?」

嫌味に笑って、インキュバスが現れる。

矛を一振り‥短剣で受け止めるものの、威力によってシアンの身体はぐらついた。

扉へたどり着く前に、転がり大きく横へそれてしまう。

インキュバス「ハハハ、さぁて‥ドラ猫は殺処分としようか」

サッキュバス「安心しな、人間は私が美味しくいただいてやるさ」

夢魔はシアンとマゼンタへと にじり寄る。

周囲を取り囲むグリゾンビー。

シアン「負けるもんか‥こんなところで、何も守れずに死ねるかぁぁぁ!」

まりん‥シアンは生きることに真っ向から向き合う。

あきらめない

投げ出さない

挫けない

強く[生きる]と心の力を燃やした。

人間世界へ通じる扉から光があふれる。

サッキュバス「なんだよ!?」

インキュバス「これは‥まさか!?」

勢いよく開けられた扉の中から、光球が飛び出してきた。

サッキュバス「アレってまさか‥」

インキュバス「へへ、神の奴が乗り込んできやがったってワケか」

シアンとマゼンタを救う光。

シアン「これは!?」

『恐れることはありません』

2人を光は包む。


クローマパレス内のベルメリオも、神の出現を感知した。

『神を狩れ!』

アズゥ、ベルデ、ズオンソーもベルメリオに命じられ

現れた神を殺すために広間を出る。


インキュバス「この!」

光球に飛びかかる夢魔たち。

矛と拳を次々と光へ叩き込むが、光は攻撃を撥ね返して
扉へと向かおうとする。

サッキュバス「逃がすか!」

盾を投げると、光に食い込み‥

『うっ』

どこかに当たったのか、光はよろけるように地面へ落下。

すると、一斉にグリゾンビーは光に襲い掛かる。

包まれた光から出て、右手に『青影(せいえい)』左手に『陰緑(いんりょく)』を持った

シアンがゾンビーをなぎ倒していく。

ふたたび、宙へ舞い上がろうとした神を

ズオンソー「待て!」

拳を振るって、押し留めようとする。

撥ね返されるが、光に隙が生まれ

アズゥ「ニハーイィ・ナバート・アフダル!」

最大の強化呪文を加えて、植物を操る魔法を光球へ放つアズゥ。

触手のように伸びた蔦が、光球を絡めとった。

シアンはマゼンタや地震を救った神へ対して

神狩りを行おうとするベルデたちの行動を止めたい気持ちと

自分はモンスタリアの一員であるからには、止めてはいけないとの
ふたつの気持ちの間で揺れる。

しかし、ゾンビーの群れは決断する時間を与えてはくれない。

ベルデ「僕たちも、少しは強くなったんですよ」

ノワールが神に敗れて消えてしまった日から
3人は力を合わせてレベルアップに努めていた。

いや、トランも含めて4人が。

シアンもまた、鍛えることを怠らず

そして生きることへの強い想いがレベルアップへとつながった。

アズゥ、ベルデ、ズオンソーはレベル70

トラン、シアンはレベル75

それぞれに力を上げてはいるがもちろん

時間を作ってはノワール捜索やベルメリオの警護なども努めていた。

ベルデは光球に飛び乗り、高々と腕を振り上げて
一気に光の中へと差し込む。

身体を包む暖かい光‥

ベルデ「なんだ、この光は‥」

アズゥ「ベルデ!」

アズゥもまた、ベルデの下へ飛び

ともに、光の中にいる神を引きずり出そうとした‥

インキュバス「俺たちの邪魔をするな!」

ベルデたちを切ろうと矛を振るうが、ズオンソーはそれを止めた。

ズオンソー「それが、お前たちの本心だな」
サッキュバス「だったら、どうするんだよ!!」

ズオンソー「決まっている!」

人狼の拳は夢魔の拳と激突する。

サッキュバス「女王の命に背いてまでも、私と殺りあおうって?」

ズオンソー「ベルメリオ様は今、混乱されているだけだ。

ノワールが戻ってくればまたきっと」

サッキュバス「ご主人様が『戻ってくれる』って期待してんだ」

『あはははは』と高笑い、ズオンソーと格闘。

ズオンソー「神を狩るのは我々だ! お前たちのような奴らの力などいらん!」

パンチの嵐!

盾で防ぎ、右手のストレートパンチを繰り出すサッキュバス。

ズオンソーは身体中に死心力をみなぎらせ、人狼形態へと変化した。

鋭い牙、隆々と張り詰めた筋肉‥

サッキュバス「かかっておいで、チワワちゃん」

『ガアァ!』唸る人狼は素早く動き、夢魔のボディーへ蹴りを喰いこませた。

サッキュバス「へぇ、楽しませてくれるじゃない」

軽口を叩くが‥かなりのダメージを受けた様子。

ズオンソー「彩心がその力を合わせて強くなるのなら

俺たちにもそれができるはず‥個々が強さを増し、その強さを合わせれば
お前たちなど!」

アズゥ「ホグーム・カセィール・アスワド! ソルアー・カセィール・アフダル!」

攻撃力、素早さ、ふたつの能力を一時的に高める呪文を続けざまに唱え

ズオンソーを支援。

さらに

アズゥ「ニハーイィ・ハッド・ウルジュワーン!!」

最大の強化呪文を加え、相手を一時的に麻痺させる呪文を神へと放つ。

動きが鈍る光球。

ベルデ「さぁ、出てこい!」

光に差し込んだ手を、さらに深く進めると‥細い肩に触れた。

次の瞬間、光の暖かさはより強くなり

アズゥの魔法効果を打ち消す。

アズゥ「なに!?」

ベルデ「な、なんだ!?」

『愛を知る者たちよ‥目覚めなさい』

神の声により、強く輝く光に飲まれるアズゥとベルデ。

サッキュバスはダッシュし、ズオンソーとの間合いを一気に詰め

肘、後ろ蹴り、ジャンプして回転蹴り、さらにパンチの連打、跳んでクルリと踵落とし。

目にも止まらぬスピードで、ほぼ同時に放ってみせた。

受けきるズオンソー‥筋骨に傷一つなし。

サッキュバス「チっ、生意気だねぇ」

サッキュバスは力を解放、真の夢魔の姿へと変化。

ズオンソー「ガアァァァ!」


サッキュバス「グォグガァ」

人狼と夢魔は吼え合い、互いの拳をぶつけていく。

1発、1発とパンチが当たるたび

両者の骨が軋み、肉が裂けていく。

サッキュバス「レベルアップは伊達じゃないってワケだね」

まるで、いい獲物を見つけた猛獣のように

サッキュバスは目をぎらつかせて、戦いに酔いしれる。

ズオンソー「俺の戦う意味は‥意味は!」

戦う意味を見失ったズオンソーだが

おぼろげに、行きつく先が見えてきたような気もしている。

ただ、まだそれがなんなのか

言葉にできないままではあるが。

衝撃で血を吐く人狼。

夢魔は恍惚の笑みを浮かべて、しだいに人狼を追い詰めていった。

光の中から出てきたアズゥとベルデ‥2人は、身体の中に入りこむ生心力を感じていた。

しかし、苦痛はない‥むしろ、穏やかな気持ちが心に広がっていく。

ベルデ「これは‥」

アズゥ「なに? とても‥とても‥」

ベルデ「穏やかな鼓動‥」

身体に渦巻く死心力は生心力に打ち消され、アズゥとベルデを浄化しているようだった。

人の残酷な心から『青色の魔女 ウイッチ・アズゥ』は生まれた。

人の弱い心から『緑色の人造人間 ホムンクルス・ベルデ』は生まれた。

数多の人の心から取り出された負の感情は、青色と緑色のモンスターを生んでしまう。

だが‥ぶつかり合う正義と悪の中で、2人は互いを必要とするようになり

それは[愛]へと育っていく。

いつしか‥モンスターはその心に生を持った。

生きるための心を。

神は芽生えた生きる心の力を、最大限に育てるために光を送り
ついに2人を『怪物』から、純粋な『生命』へと解き放った。

『聖なる祝福を』

神の言葉が聞こえる。

インキュバス「そんなもの!」

矛を振って乱入。

神は夢魔と戦う。

アズゥ「これは‥ベルデ、私たちはいったいどうしたら」

ベルデ「それは‥」

『アズゥ! ベルデ!』

赤色の女王 クイーン・ベルメリオの怒号。

大鎌・シンクワァを構え、神へと斬りかかる。
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