彩心闘記セクトウジャ・3

□レベル10・4
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1月7日


その日、朝から報道は大騒ぎだった。

自国党本部は『国土防衛強靭化計画』を掲げ

対未確認破壊脅威はじめ

国を取り巻く様々な脅威と戦うための国守軍の兵力を維持するため
義務兵役・徴兵制を導入する法案を、国会へ提出することを決めた。

審議100時間を目安にして、スピードを意識して採決へと移行すると

実質[強行採決]をすると宣言しているような文言で、政府は発表する。

少子高齢化や出生率低下が叫ばれる中

従来通りに志願だけに頼っていては
人口減少傾向の一途をたどる国にとって、圧倒的兵力不足に陥るのは必定。

まずは若者層をターゲットに、奨学金返済減額・免除制度を整え

ありていに言えば[貧困層から徴兵]‥経済的徴兵から始める。

それが徴兵制施行前、3年間続く。

高校卒業後、兵役にすぐ就いて宿舎生活なら
住宅費・光熱費など減免。

入学金・授業料無し、さらに毎月11万8000円の手当。

年2回の賞与は33万8000円。

退役せずに国守軍に残る場合、手当は身分によって上がっていく。

そして徴兵制施行後の義務兵役について

健康な男子・女子は満18歳より21歳になるまでの3年間
国守軍に入り訓練を受け、任務に就くことを定めた。

進学を希望する者も、就労を希望する者も
みな兵役を義務と課す。

一般大学への進路を希望する者へは
兵役を終えてよりの入学となるものの、入試に関して一定の優遇がなされ

国守軍退役後は、希望の大学へ入学しやすくなっている。

任務中の功績によってはさらに優遇される。

これによって、進学を希望する者たちの口を塞ぐことができる。

他の職種へ就労を希望する者へは、二通り‥

就労するところが決まっている者には、就労先へ非正規労働者としていったん就労。

兵役の後、特別就労金の支払いと正社員としての雇用を企業側に義務付け
就労先が未決定の者には

退役後、優先的な就労先あっせんを決めている。

しかし‥企業側には

[残業時間規制の撤廃および残業手当支給義務廃止]と

[企業側の就労者解雇の自由]を与える制度を
企業の活発的な設備投資などを言い訳に、併せて整備している。

正社員が増えたところで、働かせたいだけ働かせ

自由に解雇できることが確約された企業側は、この制度に納得した。

そして義務兵役3年が過ぎ、退役した者たちは皆
予備兵士として、いつでも出撃できるような状態でいることを義務化。

半年に1度の体力訓練を課す。

さらに徴兵制導入前3年間の未兵役者については

20歳以上から年金受給資格者までの幅で

身体が健康であるものは兵役5年の義務を設ける。

つまり、身体に問題がなければ
精神的・心因的な病気は度外視するということで

引きこもり・ニートといった若者たちこそ、これの対象とされ
この2項に関しては満16歳よりの適用とした。

加えてホームレスについては、皆いったん兵役準備の施設へ収容扱いとし
健康チェックの後に国守軍へと入らせる。

生活保護受給者についても同様で

この2項は徴兵制導入前からの即時適用とする。

不登校の学生たち、働かない者たち‥国にとって不必要な人間を戦場へ送ろうと
権力の座に就く者が勝手に線引きをして、言っているようなものである。

当然、進学にしても就職にしても、ある一定の[安定]を約束されて
国民は納得するだろうと政治は考えている。

あまりにも乱暴な制度は許されるものではなく
法案成立後の内容による無謀なバラマキといえる支出についても
冗談ではなく国を滅ぼしかねない。

この国の民主主義はいまや、死寸前である。

しかしこの制度こそ真の国防だと、政権与党の自国党は胸を張る。

連立与党の幸正党も、この法案を支持。

つまり宗教団体が支持母体の党は、長年掲げている
『平和と国民の幸福』を偽り、争いを真実とした。


都内・カフェ

檸檬の姉・柚子が座っている。

なにやら書類に目を通していて
その前にいる1人の男性は‥

フリージャーナリストの『名張 明』

かつて、ジャーナリストとは名ばかりの
ゆすり・たかりで生きていたハイエナ記者だった。

それは過去、犯した過ちと辛い出来事で
荒んだ結果だったのだが。

勇護の正体に気づき、仁たちにしつこく つきまとっていた。

途中、明はかつての恋人『今井 敬子』と再会。

彼女もまた、子供へ虐待をしていた罪を抱えていた。

虐待されていた子供は明の子であり、娘の『あゆみ』である。

父親が違う長男『拓真』だけを可愛がり

明を慕う気持ちが逆に憎しみへと変わり、あゆみを虐待していた敬子。

心が親として成長しきれていなかったためであり
その大きな原因は明との別れ‥

明、敬子、あゆみ、拓真の4人は
危機に陥ったところを霊皇セイオウジャに救われ

今は敬子と結婚し、あゆみ、拓真を育てる良き父親だ。

その後、本当のフリージャーナリストとして活動を再開した明は
同じ取材を通じて知り合った柚子と意気投合。

戦争放棄の憲法を捨て、争いにのめり込んでいく国・政治に異を唱え

人間世界を守るために戦い続ける霊皇、彩心、付喪堂までを
未確認破壊脅威と位置付けて攻撃するという国の有り様に待ったをかけるべく

霊皇や彩心、付喪堂へ

記者の武器『ペン』で援護射撃をするつもりでいる。

といっても、今はPCなのであるが。

明「で、柚子ちゃん‥何か情報は掴めたかい?」

柚子「なかなかガードが固くて」

明「ま、そりゃそうだろうな。

なんせ今はマスコミのほとんどが
初瀬政権に操られているって言って差し支えない状態だ。

アッチの新聞、コッチのテレビ局、ソッチの雑誌‥

どこもかしこも、会社のお偉いさんは政権に抱き込まれて骨抜き。

現場で歯を食いしばって仕事しているヤツラの話なんて聞いちゃくれねぇよ」

柚子「お寿司でしたっけ?『 的を射んとすればまず将を射よ』って言いますけど

なんかバカバカしいですね‥お寿司食べさせてもらって
代わりに政府に都合の悪いことを隠ぺいするなんて。

それも会長だの社長だのを抱きこんで、現場に圧力かけるんだから。

それでも報道かって」

柚子は怒り心頭の様子。

無理もない‥末の妹・蜜柑が政府の横暴な主張に陶酔した暴漢たちによって傷つけられ
重い障害を負わされたのだから。

明「ま、寿司だけじゃないらしいけどね」

柚子「金ですか?」

明「だね。

金と色‥女だね‥まぁ、ほかにもイロイロあるものさ、誘惑ってヤツは」

柚子「はぁ‥馬鹿にもほどがあるわ。

それじゃまるで、時代劇の悪代官じゃないですか」

明「越後屋はマスコミや経済団体ってところかな。

あと‥これはまだ、はっきりとしないんだけど」

柚子は明に近寄って、話を聞く。

明「幸正党の支持母体」

柚子「照真一信会がどうかしましたか?」

明「なんかねぇ‥すっごいスピードで、乗っ取られてるらしいんだよ」

柚子「え?」

明「なにか怪しいとは思わないかい?」

柚子「ええ、とっても。

でも、そんなことできるもんなんでしょうか」

明「なんかね‥宗教団体が別の宗教団体に乗っ取られるってね

おかしな話ではあるんだけど、これがホントのようで。

会の上層部ってのが、ほとんど入信しているらしい‥

で、次に下部、一般信者と

会ごと入信って感じになってるらしいよ。

で、その団体の正体どころか

名前すらまだつかめてないんだけど
あの会を乗っ取るなんてねぇ‥」

柚子「なにが起きてるんでしょう」

明「あの会に異変が起きてるっていうことはさ

政治の世界にも異変は起きてて当然だよね」

柚子「政教分離って言葉も、風化させちゃってますし‥」

明「こりゃ、俺たちが思っている以上に
なんか起きてるんじゃないかな」

柚子と明は、この国の中枢で
なにかが起きていることを確信する。


橋の下・テント村

イチさんたちが暖をとりながら雑談中。

芋やら餅を、下から火を燃やしている一斗缶の上に網を置いて焼いていた。

『なあなあ、これ見たかよ?』

駅から拾ってきた新聞。

一面に『国防力増強のため、徴兵制導入』と書かれていた。

『どうするよ、これじゃまるで戦時中じゃねえか』

『また戦争が始まるのか?』

イチ「でもこれよ、ハカセはロクな議論もされてない法案が
このまま通るワケないって言ってたけどな」

『それがどうやら、強行採決も辞さないって話だよ』

イチ「なんだ、それ? まるで独裁者じゃねぇかよ」

『だよな‥ほれ、なんとかって名前のアレ』

イチ「ああ、あの大悪党な」

そんな会話をしているイチさんたちを睨む目があった。

炊き出しの時、乱暴を働いた若者たちだ。

『おい、行くぞ』

『おう』

肩をいからして進む方向はテント村。

手にはバットを持っている者もいる。

また暴行を働こうとしているようだが
少年たちの首根っこを掴む手があった。

桜花「なぁん しよんね」

セクゾーストから降りた桜花が
強めの口調で少年たちを制する。

『うるせぇ』

『離せ』

桜花「やけん、なんばしよっとか説明したら離してやるけん」

『なに言ってるかわかんねぇよ』

桜花「あ、そうやった‥なにしてるのか説明したら、離してあげるわよ」

『なんにもしてねぇだろ』

桜花「これから何かしようってところじゃない」

『うっせぇババァ』

桜花「誰がババァぁって言うたんね!!!」

烈火のごとく怒って桜花は、少年たちを引きずり回す。

慌ててバットを振り上げる少年に

桜花「どうしてもやるっちゅーんなら
覚悟しっかり決めて来るんぞ!!!」

その迫力に腰を抜かせて

『に、逃げろ』

煙が散るように、転がるように少年たちはサッと逃げていった。

桜花「近頃の子供は可愛げが なかねぇ」

セクゾーストを押してテント村へ。

教会で出会ったイチさんたちに、正月だからと差し入れに来ていた。

桜花「神父さんの知り合いなら、私の知り合いってワケですから♪」

イチさんたはニコニコ、桜花を招いて
仲良く話した。

一方、桜花に叱られ逃げた少年たちだが
まだ遠巻きに睨んで毒づいていた。

『チっ、エラそうにしやがって』

『ババァのくせに』

『女のくせに』

『社会のゴミのくせに』

彼らは橋の下のテント村を撤去せよと抗議している団体メンバーの子供たちだ。

親が、周囲の大人が‥社会がホームレスを『ゴミクズ・お荷物』と貶めるのを聞き
育った環境で、彼らの考え方も歪んでいった。

人をゴミクズとして扱うことに、何ら疑問を持たず
人を社会に不要と考えることに何ら抵抗を持たない心を育ててしまう。

当然、ひび割れた心は人の痛みなど想像すらできずに

学校へ行っては誰かを[イジメ]という名の暴力で傷つけ

ネットでは[炎上・荒らし]と言う名でさらに多くを傷つける。

リアルな空間でも、叱られたことのない心は乱暴さにブレーキはかからず

人を肉体的にも精神的にも、傷つけることになんら罪悪感を感じなくなっていった。

『アイツら‥マジでブッ殺してやりてぇよ』

なら、殺せばいいじゃないか

少年たちは、どこからか聞こえてきた声に驚きあたりを伺う。

サッキュバス「ここだよ」

ハッと気づいた少年の1人の真後ろに夢魔がいた。

別のすぐ横にインキュバス。

インキュバス「殺りたきゃ殺れ、犯したいなら犯せ‥なぁ、俺たちは自由だぜ」

その声は少年たちの ひび割れた心を容易に掴んで離さない。


桜花「ゴメンね、急に用事が入っちゃった」

イチ「また来てくれよー」

桜花「うん、また来るばい」

セクゾーストに乗って走る。
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