彩心闘記セクトウジャ・3

□レベル10・5
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光臣「桜花さん、やめなさい! その手を穢してはいけません!!

あなたは歌で、その心で、世の中に希望と笑顔をあふれさせるんじゃなかったんですか!?

そのあなたが、怒りに任せて人を殺めていいと思いますか!?

その程度でしか、あなたの心は本気ではなかったのですか!!」

桜花「神父さん‥」

ようやく自分がしようとしていたことに気づいて、桜花は恐怖からピュートを手放した。

締める鞭が解け、地面へどさっと倒れた少年は

ゲホゲホと咳き込み、失禁もして
なんとか息を吸い込んでいた。

桜花「ウチ‥ウチ‥」

檸檬「桜花姐さん!」

檸檬は着心してサッキュバスと戦いながら、桜花をとても心配していた。

自身、陥りそうになった暗闇。

その暗闇が桜花を飲み込んでしまわないかと、檸檬はそれが恐ろしかった。

檸檬「桜花姐さん、しっかりして!」

サッキュバス「ほらほら、アンタの相手は私がしてやるから!」

夢魔の蹴りを左手で受け、檸檬は後退を余儀なくされる。

桜花「ウチ‥ウチは‥人をこの手で‥」

心の獣‥獣は桜花を食い破り、怒りのままに野に解き放たれるところだった。

桜花「これが殺意‥これが‥悪意‥」

誰の心の中にも棲む獣。

光臣「桜花さん‥」

フラフラと足取りは定まらないが、
光臣神父は少年のそばへと近づきながら桜花へ話しかける。

光臣「心の中の獣‥確かにあの悪魔が言うように
人の心の中には獣が棲んでいるのかも知れません。

それは私の心の中にもいます‥私だって昔、救えなかった人たちのことを想い、悔やみ
獣が心から飛び出てきそうになりました。

今もそれは変わりません‥変わらないんですよ。

この少年がハカセくんや彼女に吐いた言葉、

イチさんたちへした仕打ちや、その罵りを
私だって許せないと思えば、怒りが胸を満たし、あふれ

そこから獣が出ようとしてしまう。

みな、弱いんです。

人は弱さと強さの間を生きる‥生きるため支え合う‥
だから『人間』というのだと私は思っています。

神がそう名付けたのだと信じています。

ならば神はどう求められておられるでしょう。

私たちにどう生きろと、求めておられると思いますか桜花さん‥」

うつむき、震えていた桜花は顔を上げ、神父を見た。

光臣「ひたすらに、ひたむきに
まっすぐ前を見るのです。

前を見、空を仰ぎ

生きていること、生き続けること

全身に、心に感じ

誰もが‥できるだけの誰もが、笑顔で生きていけることを考え

貴女は貴方のできることを、ひたすらに、ひたむきに行っていくんです。

祈るばかりではだれも救われません‥私はそれを教わりました。

人が人の都合で作った信仰というもので、
ただ祈ってだけいては救われない命があると知り

私は神に問いました‥決して御返事をお返しにはなりませんでしたが

それが神の御返事なのだと、わかることができました。

私たちはこの生ある限り、善き生き方を選び
歩んでいかねばならないのだと。

それこそ神が
私たちに問いかけていることなのだと、私たちに期待しておられることなのだと、
気付くことができました。

獣に負けてはなりません‥その獣とて、あなたの1部なのですから。

私の、あなたの‥心の中の獣は、その人自身の1部なのです。

獣さえも人は制することができる。

貴女は貴方を制することができ、貴女しか貴女を制することはできません。

弱き者でも、必ず強くなれるのです‥

だから桜花さん、心の中の獣などに負けないでください」

桜花「神父さん‥」

光臣「桜花さん」

苦しんでいた少年が立ち上がった。

手には鈍く光るナイフ‥

ドサ!

少年は光臣神父と重なっていた。

桜花「神父さん!」

『オ、オマエたちが悪いんだ‥僕を責めるから‥追い詰めるから‥』

神父「君は‥君は何を恐れるんですか」

『そんなもんわかるかよ‥なんかわからねぇけど‥

責められるんだ、追い詰められるんだ!』

ナイフを抜いて、また刺す。

光臣「誰が君を‥」

激痛に光臣神父の顔は歪む。

桜花「やめて!」

フェンスを飛び越え、少年を制止しようとする桜花を弾く矛‥

インキュバス「へへへへ‥苦痛- pang (パン) -‥苦痛は快楽へと変わるものだぜ」

桜花は吹き飛ばされて、大きくダメージを受ける。

インキュバス「よぅ、少年。

そうだろうなぁ、今の世の中ってのは弱肉強食だぜ。

お前が誰かをヤらなきゃ、誰かにお前がヤられる。

ヤられる前にヤる、それが一番だぜ」

光臣「い、いけない‥その者の言葉に耳を貸してはいけない‥」

夢魔は光臣神父の胸ぐらをつかみ

インキュバス「神父さん、まぁ そんなに つれないこと言うもんじゃねえぜ。

アンタだって心の中に獣がいる‥さっき、そう言ってたじゃねえか。

思わねぇか? この世は無慈悲で成り立っていると。

弱い奴らはトコトン虐げられ、強いヤツだけが笑えるんだよ。

何人、そういうヤツらを見て来たらアンタたちはわかるんだ?

10人か? 100人か? 1000人か?

アンタ自身が命を奪われても、もっと多く子羊ちゃんが食べられても
アンタの信じる神ってヤツは、助けようとはしてくれねぇんだよ」

光臣神父の心に、老夫婦の悲しい背中が思い浮かぶ。

イチさんの笑い声、ハカセと寿美へ浴びせられた罵声‥

これまで、多くの人たちが誰かたちに傷つけられ
救えなかった悔しさが、悲しみが、辛さが、怒りが‥憎しみが‥

心に穴を穿っていく。

インキュバス「アンタの心はアンタが制するんだっけ?

違うなぁ‥アンタの心を俺が解き放ってやるのさ。

アンタの心に棲む、獣をなぁ」

夢魔は嬉々として、光臣神父に欠心刺を突き刺した。

インキュバス「さぁ、出てこい! ホイピエロイド‥魔涙 (まるい)デスティアー!!」

『ウォーン』

まるで狼の遠吠えのような、悲しみと怒りに満ちた叫び声が聞こえた。

光臣神父の身体から引きずり出された、ブヨブヨとした物体は
欠心刺からのエネルギーによって人形へと変わり、そこから醜悪な獣へ‥

ホイピエロイドへと姿を変える。

インキュバス「へへへへ、神父といえど
人の心の中には獣が棲んでるものさ。

さぁ、もう我慢なんざしなくていい! なにもかも ぶち壊してやれ!!」

神父の心の中から現れたホイピエロイドは『ウォーン』‥悲痛に吠える。

『バ、バケモノ!』少年は怯えた。

檸檬「いけないっ」

治夫「いかん!」

牡丹「ったく!」

桜花はまだ立ち上がれないままで‥

デスティアーは、石を投げつける少年の腕を掴み
救えなかった人々の悔しさをぶつけるように‥食いちぎった。

『ぎゃあぁぁぁ』


サッキュバス「邪魔すんじゃないよ」

檸檬を蹴倒し、治夫と牡丹も殴り飛ばすサッキュバス。

サッキュバス「くだらない理性や感情なんかで抑え込めるほど
ケモノってヤツはヤワじゃないんでね。

インキュバスも言ってたろ? 苦痛はやがて快楽へ変わる‥

心が痛むのはホンのわずかな時間さ。

ケモノが暴れるたびに、ソイツは快楽へと変わるんだよ。

奪い、殺すたびに悦びがこみあげてくるようになんのさ!」


インキュバス「さぁ、デスティアー

ソイツを喰ってしまえ。

そうすりゃ、オマエの中にまだ燻ぶり続ける神父の甘っちょろい心は
完全にケモノへと変わる。

今よりももっと、気持ちよくなれるぜ‥アハハハハハ」

言われるまま、デスティアーは這って逃げようとしていた少年の背中を爪で裂き
手を突き入れようと‥背骨も内臓も握り潰し、取り出して喰らうつもりだ。

蒼唯「インフィガール・アフマル!」

爆発魔法はデスティアーを吹き飛ばし、後ろへと倒した。

寸前のところで駆けつけた蒼唯は、セクゾーストを停車し すぐさま着心。

青色の魔法使い ウィザード・ブラウとなってインキュバスへ攻撃を繰り出す!


牡丹「蒼唯、菫!」

駆けつけた2人に安堵する。

治夫「大丈夫か!? 牡丹」

倒れた牡丹を引き起こす。

牡丹「そうか‥私にも仲間がいるんだね」

治夫、隊員たち、自分はもう1人ではない。

ひとつの身体を取りあうワケでなく、孤独な戦いをしなくてもいい。

心配し、励まし、叱咤もする仲間がいる。

牡丹「さて‥あたしたちは、あたしたちの役目を果たそうかね」

治夫「ああ!」

希望の風は強く吹く。


菫はグリゾンビーたちをなぎ倒し、サッキュバスと対峙した。

菫「夢魔!」

サッキュバス「助かったってのに、わざわざ死ににきたのかい?」

菫「死ぬのはアンタよ」

倒れている檸檬‥

檸檬「す、菫さん」

サッキュバス「さぁて、丸腰でどう戦うのかい? 蝕に飼われていたお人形ちゃん」

菫「私は、蒼唯たちに助けられた。

この身体を作るのは、私の遺した銃に宿っていた私の想いと
蒼唯や紅ちゃん、檸檬ちゃんたちの想いと心。

私は付喪神であり、心の力を持つ者でもある!」

取り出したのはツァイフォン‥

檸檬「それって!?」

フラフラとしながらも起き上がる。

菫「心のジョブが亡霊だった私は、想いの力・魂力で付喪神となって甦り

身体の中の死心力が消えて‥生心力に満たされたとき、ジョブチェンジしたの‥着心!」

まばゆい紫の輝き。

左手首にまず装着されたマモーブは
テスト運用段階だが急きょ、実践投入された最新鋭の『Mk-3』で
Mk-2同様にスロットへツァイフォンを差し込む。

次々と菫の身体をマモーブは覆い

菫「紫色の狩人 ハンター・ヴィオーラ」

それは、ゴーストであったビオレータの心が浄化され

菫は自身やみなの『想い』によって付喪神となって転生し

さらに心の力・生心力をシエル・マインデーションによって得たことで
亡霊から心のジョブチェンジも果たし、新たな彩心となった‥

想いと心、菫の持つ力を最大限に発揮するため
伝助はマモーブMk-3を投入し、これを身に着けた菫は‥

菫「私も‥心の闘士、彩心セクトウジャ!」

伝助印のハイスペック戦闘アーマー『マモーブMk-3』を装着し
心の色彩と心のジョブを使って戦う新たなる彩心‥

それが『紫色の狩人 ハンター・ヴィオーラ』。

紅たち仲間と『守る』ために戦うことを誓った心の闘士である。

菫「サッキュバス! これ以上、好き勝手はさせないからねっ」

ツァイフォンから取り出したのは短剣に可変する特殊2丁拳銃。

右手に持つのは『プラティコドン』

左手に持つのは『パエオニア』

[プラティコドン Platycodon]とは桔梗の学名で

[パエオニア Paeonia]とは牡丹の学名である。

檸檬「私たちの新しい‥」

菫「そ、仲間よ♪」

サッキュバス「フン、いくら数ばかりそろえても」

菫「そうそう、問題は量より質よね」

軽く飛んで二段蹴り。

避けるサッキュバスへプラティコドンの射撃、

すぐさま間合いを詰めて、パエオニアの斬撃。

サッキュバス「ぐっ」

菫「でもそれってさぁ‥

量より質の闘士が、みんな集まっちゃったら、

アンタはもうOUTってことになるんじゃない?」

そう言って菫はサッキュバスを笑う。

サッキュバス「お前たちが質の良い闘士だとでも言いたいのかい? ナメるな!」

菫「行くよ、檸檬ちゃん!」

檸檬「うん!」

新しい仲間の登場に、檸檬の闘志も燃え上がる。

狩人と戦士は、力を合わせて夢魔を叩く!
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