彩心闘記セクトウジャ・3

□レベル11・2
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広間になだれ入るグリゾンビー。

ベルメリオの手を取ってジャスティは、玉座へ移動する。

ベルメリオはジャスティに座れと命じ、傍へ立った。

メフィスト「合心‥見せてもらったぞ、人間‥」

ふたたびメフィストはクリムゾンの中に入りこみ、リリスを連れて飛び去る。

小さく『待って』とリリスは言葉を残し、クローマパレスを後にした。

ジャスティ「あの女‥何者だったんだろうか‥」

リリスが気になるジャスティは消えた宙をしばし見つめ、ベルメリオとともに去る。

サッキュバス「チっ、アイツは贄を失って

コイツは化け物に生まれ変わって‥ずいぶん、ややっこしいことだよ」

インキュバス「だが考えようによっちゃあ、俺たちに都合がよくなったってことさ」

サッキュバス「よくなった?」

インキュバス「ああ。

メフィストは、贄を見つけ出すまでは
そうそう動けねぇ。

その間に俺たちが、ベルメリオから得た戦力を使って

人間世界を‥大陸 (テルーモー) に壊滅的な打撃を与える」

サッキュバス「そうすりゃあ、一気に最終戦争が始まるってことか」

インキュバス「そうだ。

ハートフィールドと大陸の融合が進み、天海へつながる新世界が開く。

そうすりゃあ、俺たちが天海へ流れ込んで
天使や神をブッ殺す。

そうさ、最終戦争がはじまる」

サッキュバス「そいつはいいねぇ。

どれ、ベルメリオがアイツに夢中な間に
私たちは用意をしようじゃないか」

インキュバス「ああ、今日こそ彩心もあの ぬいぐるみたちも
俺の手で引き裂いてやるぜ」

夢魔たちは恐竜戦艦グラウザウラー格納庫へと向かう。

グリゾンビーの群れは、新たに生まれた無窮の裁者と
赤色の女王を讃えていた。


風救隊本部

風丘グループ本社横に建てられた頑丈な建物。

この建物全体が、風救隊の本部となっている。

レスキューライドの格納庫や、隊員たちの訓練所も設置してあり
街の防御の要といった雰囲気が感じられる建物。

隊員たちはレスキューライドの整備や、それぞれの訓練中。

その奥、救護室があり

ベッドの上に紅が眠っている。

周囲には伝助たちがいる。

他に桐花、連絡を聞いて駆け付けた蒼唯たちもいる。

雪永「紅ちゃん‥」

淡い緑の病衣を着せられた紅は、深く眠っていた。

脳波計も心電図も落ち着いている。

桐花「薬が効いているというより、搬送される直前からこうなったみたい。

脳波、その他各検査も異常なし‥そうね、いうなれば回復のために眠っている‥かな」

桜花「紅ちゃん、こん前のことがあってから
身体にも心にも大きなダメージば負っとったから。

ウチがしっかりしとらんかったばっかりに」

翠季「それは桜花さんのせいじゃないですよ‥私だって何もできなかった」

檸檬「私も」

墨彦「俺も」

菫「私も‥なんにも出来なかった」

蒼唯「何もできなかったのは私もだ‥勇者だからと紅1人にさせてはいけなかったのに」

心を破壊することで救いを求めた神父の心を、紅は刺し貫いた。

その結果、神父は自発呼吸などの生命活動は正常ながら
目を開けていても意識が無いような状態になってしまう。

しかし、神父を訪ねる男女の自立と良い報せを聞き
回復の兆しが見える、わずかながらも微笑みを見せた。

時間をかけて心は修復されていく‥悲しみが薄れるように。

だが紅の手には心を貫いたときの感触が
心を破壊したという事実が重く残ったままになっていた。

伝助「せやけど‥紅ちゃんはあの時、なんもかんも覚悟してやったことや。

その覚悟は勇者として必要なことやった‥紅ちゃんは強ぉなった。

これからもっと強ぉなる‥」

ピーノ「しょの強さがまた、紅しゃんを傷つけましゅか?」

とても悲しげな顔で、ピーノは伝助に聞く。

伝助「強いからとゆーて、傷つかへんワケとちゃう。

その反対や‥強ぉなればなるほど、抱えるもんも背負うもんも
ぎょーさんになっていく」

総右衛門「覚悟というものはの、ピーノ‥

目をそらさず、耳をふさがず、口をつぐまず‥誰かのために自分が傷つくことじゃ。

それを恐れていては、何も成すことができない時もあるのじゃ」

ピーノ「しょれでも、傷つくのを仕方がないってピーノ‥思いたくはないでしゅ」

ルナ「そのために、蒼唯さん、檸檬さん‥皆さんがおられるんです」

雪永「僕たちが‥」

淑「仲間の手が、心が、勇者を支えていくのでございますわ」

伝助「生まれた時は別々でも、死ぬときは一緒と決めた仲は

源左衛門やメアリー、ずずからよぉ聞いた話や」

ペン「ホントに死んでしまうとはイケんですが、固く結ばれた仲っちゅーのは
自分1人でどうにもならんことを、解決してくれると思います‥」

ルナ「私の大切な仲間たちは、それぞれに辛いことや苦しいことを抱えて

たくさんの寂しいさと悲しさにあふれた世界を生きて、みんなに出会えた‥

だからもう今は、寂しさも悲しさも薄れている」

蒼唯「紅‥ゆっくり眠れ。

いまは、ゆっくり」

眠っている紅の額に蒼唯は優しく手を置き、そっとつぶやいた。

紅を囲んで心配する面々の心から、温かく柔らかい生心力が紅へ伝わっていく。

桐花「優しさ‥友情‥愛‥君たちは、目に見える形で伝えていくのね。

世界がもし、君たちのようでいられたなら

いいえ、君たちのようにまでは行かなくても

心を誰かに伝える術をわかっていたなら

以前の私なんて、私たちなんて、不要になれていたのに。

人殺ししかとりえのなかった存在なんて‥ね」

しかし今、心を伝えあう輪の中に蒼唯と菫はいる。

自身は支えることができる力の中にいる。

それがとても嬉しく思う桐花は、仲間たちのためにそっと部屋を出ていく。


SSDベース

ここ最近、柳の思い描いた社会のストーリーと現実の動きが、大きく違ってきていた。

『徴兵制』を強行に進める政府と国民の間に、明らかな溝ができつつあった。

国守軍や徴兵制を支持する者たちの多くは はじめ

[自分たち以外]の人間が徴兵されると信じて疑っていなかった。

しかし当然、国の考えは違う。

そもそも支持していた側の考えがあまりに稚拙だったのかもしれない。

[自分だけは大丈夫]そんなことはないと危機感を持つ者が少なくなった。

所詮、他人事‥愛国と声高に、唾吐き散らしながら怒鳴る者たちが

平和を願う人たちぶつける言葉『平和ボケ』という言葉は

むしろ、こういう人たちのことを差しているのではないだろうか。

友達を、恋人を、家族を

国は戦争へと連れ去っていく。

昔、犯した過ちを偽物の政治家たちの言葉に踊らされて忘れ

その挙句が通った道を再び歩き始める愚かさ‥

そう切り捨ててしまうには悲しすぎる。

誰かが気付かなければならない。

誰もが気付かなければならない。

世界は平和でなければならないのだと。

人と人は争い、殺し合ってはいけないのだと。

柳「すべての現象を特異なる存在のせいにして

国民の不安ばかりを煽り、国はまともな議論もないままに憲法を強行に改め

戦争を放棄したこの国に軍隊を持たせ、徴兵制も敷いた。

また、軍事重視の政策に転換した政府はまず

福祉目的で増税したものを年金、介護、多数の社会保障を削りあるいは切り捨たうえ

大企業優遇と軍事にのみ、増えた税収を当てている。

同時に各マスメディアには圧力と

上層部への懐柔を図った結果、報道と名乗れる者はいないに等しい惨状だ。

そこに金や色と言った、欲があふれていることは想像し難くないだろう。

政治も報道も荒れ果て、いまや『民主主義』は死んだも同然である。

現政府の悪政、これ以上の暴走を見逃しておいていいのだろうか。

『誰か』の問題ではない。

『自分』の問題である。

我々はただ、傍観しているワケにはいかない‥か」

タブレットを無造作にデスクに置き

柳「どこのどいつが書いた記事だ?」

夏生「さあ? そこまではわかりませんでしたけどね‥

ですけどかなり人気のようですよ、そのサイト。

取り立てて違法行為もしていないので、警察に取り締まらせるワケにもいかず

サイトの記事に賛同した学生たちが、デモを始めたりしてるんだそうで」

柳「まったく、平和ボケもここまで悪化すると救いようがないな。

ウジ虫はどこにでも湧くということか。

もっと監視を厳しくしないといけない‥」

夏生「監視ですねぇ‥」

柳「社会というものは、権力と豊かな富を得ている層によって

作られていくことが正しい姿だ。

我々軍人は、権力を持った者たちと富む者たちが作った社会を守り

これには向かう者たちを徹底的には除した末に

平和という安定した世界を実現できる。

つまり我々こそが平和の戦士であり、この世界の救世主なのだ。

有るべき形の社会を押し進め、守ることによって

世界を平和へと導く救世主‥それこそ戦い者である」

夏生「それによって多くの命が失われますが?」

柳「そんなことで潰れる奴らの命など、アリ1匹

いや、雑菌ひとつにすら劣るものだよ、博士」

夏生「‥‥そうですね」

柳「デモなどしている暇があるのなら

どう行動したなら国家に貢献できるのかを、考えてほしいものだよ

国民でありたいなら。

それより博士、アーマーのパワー調整はどうなっている」

夏生「ああ、そのことでしたら」

夏生は仕事へ戻る。

机の前に座り、パソコンのキーボードを叩いて

夏生「指示どうり、最大に調整済みです」

柳は満足げな表情で、司令室を出ていった。

夏生はキーボードを打っていたが手を止めて

柳のデスク上に置かれたままの、自分のタブレットを手に取った。

夏生「椿」

サイトのシンボルマークは椿の花をあしらったデザイン。

それは娘から父や兄へのメッセージなのだろう。

この記事を書いている者たちと共にいる‥

夏生「あの頃に帰れたなら」

息子と娘、そして妻と暮らしていたあの頃に。

純粋に、夢を追っていたあの頃に。

夏生「私はもう‥」

夏生は苦し気に、言葉を絞りだす。


付喪ライナー

伝助は開発室で作業中。

紅を蒼唯たち彩心に任せ、伝助ら付喪堂一同はライナーに戻った。

ペンとエトの武装も作らねばならないし

メフィストの登場で急きょ運用することになったマモーブMk-3の調整、

さらに‥間近と思う決戦へ向けての力を、伝助は作る気であった。

ただ、時間が過ぎる中を待っていることはできない。

何かをしなくてはならない時がある。

待つべき時はあるものだが、今は違って行動するとき。

伝助「よっしゃ、これでペンのんは完成や」

思えば、伝助をリーダーに缶吉、ごん、ねんと開発チームがいて

そこに新たに加わったペン。

伝助が設計したものは、チーム皆で形にしてくれるし

互いにアイデアを出したり、設計その者を提出してくれたりと

活気あるチームになった。

ペンの武装はペン自身が考案したもので

缶吉の武装を手本にしてみたものらしい。

缶吉たちがある程度進めていたものを、伝助が最終調整をして完成。

その間に次は、エトが餡子の武装を参考に設計したものを

缶吉たちが作っている最中。

伝助「ペンが来てくれてよかった」

ペンの技術は驚くべきものだ。

これだけの技術があるのならきっと、伝助の夢も実現できるだろうと思う。

世界を駆け巡る夢のための力を。

伝助「でもその前に、やらなアカンことがある」

平和な世界を作るために、伝助たちは情熱を注ぐ。
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