旧 霊皇戦隊セイレンジャー 1

□第1話・1
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「霊皇戦隊セイレンジャー」第1話
            「美しい国」
2008年 11月

宇宙空間から見た地球…暗い空間に浮かぶその星は、闇の中でコバルトブルーに光り輝く宝石にも似た美しい星だ。

では、もっと近づいてみよう。
大気圏を抜け、海面に近づく。

東京湾‥宇宙でこの星『地球』を輝かせていたたおやかな海は、ここでは淀んだ
鉛色をしていた。

「東京湾も随分綺麗になった」

「魚も住める様になった」

と人々は言う。

しかし、本当は綺麗で当たり前だった…綺麗でなければいけなかった。

まして、魚が海に住んでいて安堵する状態の方が可笑しいのだ。

魚は勿論、大空を飛ぶ鳥も、息づく虫たちも、動物も植物も、すべてがこの星に住まう
もの達なのだ。
魚が海にいて喜ぶよりも、住めなくした事を恥じたほうが良い。

海は生命の源、母なる海だ。

誰がこんなに汚したのか?海だけではない。

山も森も川も…そして人の心も…。

昔、人間と共に生きた存在があった。

それは『精霊』
この世の万物には精霊が宿っている。

人々は花を愛で、その花に宿る精霊は愛でている人を慈しむ…そんな風に互いに支えあって生きていた。

いつの頃からだろうか…人は文明の発達ばかりを追い求め、精霊達との安息の日々を忘れてしまった。

やがて、精霊は夢物語の住人に追いやられてしまう。

発展の栄華と引き換えに環境を破壊し、人々の心は荒んでいく。

何と競争するのか?何と戦うのか?周りを傷付けて得た栄華の果てに何があると言うのだろうか…。

精霊達が愛した美しい自然は‥人の清らかな心は僅かに…。

嘆き悲しむ精霊。

しかし、信じる事にした。

人間達が自分達を思い出してくれる日が必ず来る事を。

そして待った。

自分達の声を聞き、姿を見、共に生きる者達を‥精霊と人の架け橋、

霊皇(れいおう)・精連者(セイレンジャー)が選ばれるのを…。

そやけど…

謎の声「待てるかっ!」

さっきから散々ぶつくさ独り言を言っていたこの50cm大の熊猫(パンダ)のぬいぐるみ‥
こいつの名前は『伝助(でんすけ)』。

ぬいぐるみに宿る精霊だ。

でも関西弁だ。

伝助「わっちゃー、だーいぶ気が淀んでんなぁ」

ここは人間が造ったゴミ捨て場。埋立地と言うらしい。

伝助「まあまあ、静まりぃや」

辺りに散乱するゴミ達に話しかけている。

精霊は自然ばかりに宿る訳ではない。人が生み出した物にも精霊は宿る。

伝助「僕がそーやろ」

もうそろそろ独り言はやめていただきたい…。

ぶつくさ言っている伝助の隣に、純白の衣をまとった亜麻色の長く、美しい髪をたなびかせた、落ち着いた感じの美女が近づいてきた。

満優「伝助、急ぎましょう。早くかの者達を見つけださなくては」

彼女の名は「満優(みゆ)」。『精霊族』と言う一族の姫。

精霊の中には、人間と同じ容姿をした存在も有り、その存在を精霊族と言う。

(妖精)だとか(フェアリー)などと呼ばれているのがそれである。

伝助と共に何処かへと去っていった。



都内 下町の商店街の中に、小さな食堂「福福(ふくふく)」はあった。

店主は「火村 仁(ひむら じん)」と言う。25歳になる青年だ。

彼は早くに両親を亡くし、妹の「火村 心(ひむら こころ)・11歳」を育てながら親が
遺したこの食堂を切り盛りしてきた。

客「仁ちゃーん、日替わり定食なーに?」

近所の会社に勤めているOLが昼食を食べに来ていた。

仁「今日はオムレツ!」

昼時でごった返している店内に仁の元気な声が響き渡る。

汗だくでフライパンを振るう仁。ちょうどその頃…。



都内 ビルの林を高級車が駆け抜ける。
車内の後部座席、立派な革張りのシートに座っている女性。

彼女の名は「水里 愛理(みずさと あいり)・23歳」。

大学在学中から投資家として荒稼ぎをしている。

卒業してからは本格的に活動。徹底的な儲け主義で、他の投資家からは、『壊し屋』だとか、『食い殺しの愛理』だとか呼ばれて恐れられている。

影では『鬼』とか『金の亡者』だとそしられているが、一向におかまいなし。

陰口は成功者の勲章とばかり、涼しい顔をしている。

愛理「もう!まだなのっ、もういいわ、降ろしてっ」

かなり苛立っている様子だ。

左手の細い手首に巻いている腕時計をチラッと見て、まだ止まりかけの車のドアを開けて降りる。

背中まである長い髪がフワっと揺れる。

運転席に座っていた彼女の部下‥雇われ人らしきスーツの小太りな人物が、
慌てて声をかける。

男「み、水里さん!どちらへ?」

シートベルトを外し、一緒に車を降りようとして鞄を落としてしまい、辺りに書類が散らばる。

そんな男を睨み付けながら

愛理「20分よ!20分したら戻ってくるからすぐに出せるようにしてなさいっ。予定が詰まってんだから、今食べとかなきゃ暇がないの!昨日からなんにも食べてないのよっ。
たくっ、使えない!」

どうやら彼女は空腹で苛立っているようだ。

いや、空腹でもそうでなくても、普段から彼女はこんな感じだ。

愛理「適当に食べて来るからっ」

そう言い残して古ぼけた商店街の中へ消えていった。

男「み、水里さ〜ん」

一向にまとまらない書類を前に、情けない顔をしていた。


都内 「待ちなさぁぁい!」と大きな声がする。

声の主は「土谷 孝太(つちたに こうた)・27歳」。

派出所勤務の警官だ。

彼の目前を息も絶え絶えに走っている男がいた。

どうやらこの男は空き巣のようで、孝太に追われている。

40歳前後だろうか?全力疾走も体力は持たず足はもつれ、とうとう、もんどりうって倒れてしまった。

空き巣「わぎゃ!」

息があがり、起き上がれない。

孝太「はぁはぁ…待ちなさい‥」

乱れた息を必死で整えながら、空き巣の腕を掴む。

孝太「はぁ‥はぁ‥あの‥家で‥何をしようとしてたんですか?この辺りじゃ見かけない人ですけど?」

空き巣「い、いや‥あの家は‥そう!し、親戚の家で」

孝太「親戚の家に窓から入ろうとする人がいますかっ。それも土足で」

空き巣「い、いやぁ‥あのう…」

逃げ道はもう無い。

空き巣「すいませんっ」

いきなりの土下座。

驚く孝太。

空き巣「悪い悪いと思うちょりましたばってんが、どげんもこげんもなかとでしたい。
子供が腹ば空かせて泣くもんで、つい出来心ば起こしてしもぉたと。じゃっどん、
もう2度としましぇんっ、この通り、許してくんなっせ!許してたもぉせ!」

と、明らかに不自然な、九州地方の訛り盛り合わせ的な言語を用いて彼は頭を下げた。

孝太「子供さんが‥お腹を空かしているって‥今は?」

いや、ちょっと待て孝太君。

十中八九、作り話だと思うのだが…。

これも彼の性格である。人が良いと言うか、世間知らずと言うか…決して悪い人間ではない。むしろ、今時珍しいばかりの好漢だ。

気の優しい(弱いと言っても過言では無いが)ところがあり、実直で正義感に溢れている。

しかし…である。

警官と言う職務上、騙されやすいと言うのはどーかと思うのだが…。

空き巣「家でオラの帰りば、待っちょります。今日は年に1度の誕生日で‥」

年に1度が当たり前だ。

空き巣「せめてお腹一杯食べさせてやりたくて‥ごっつ悩んで、めっちゃ考えて、結局
盗み働くしかおまへんでしたんどす。すんまへんっ」

ほ、ほぉん。彼の言語は関西まで進出しているようだ。

孝太「誕生日か‥そーですよね。深刻な格差社会、苦しい生活を余儀なくされている人達は大勢おられますものね。でも‥でもですね、だからと言って悪事に手を染めて良いと言う訳では無いと思うんですっ。あなたが空き巣に入った家にも、被害に遭われた人達もどんな訳があるか‥苦しい時こそ、人を思いやらなくちゃいけないんですっ。家で待っているお子さんのためにも、罪を犯す事無く、堂々と胸を張って人生を歩んで欲しい…グス‥
犯した罪なら、ちゃんと償ってやり直して欲しい‥グスっ‥さあ、交番でゆっくり事情は聞きますから。悪いようにはけしてしませんよ‥グス‥あれ…」

彼が涙混じりに説得している間に(ぶっちゃけ、1人の世界に行ってる間に)空き巣犯(まー今回は未遂だが)は逃走していた。

孝太「あ、わ、え、こらあっどこに行ったぁぁぁ!!」

空しく辺りにこだまする声。

周囲を見回し、一方向へと走り出す。


都内 アパートの一室 女性が紅茶を入れている。

このアパートはお世辞にも綺麗な外見とは言えない。はっきり言えばボロアパートだ。

だが、紅茶の心地よい香りが包み込み、外観とはかけ離れた様に‥まるで、
この部屋だけ時間の流れが、空間が他とは違っていると思える雰囲気だ。

フルートの可愛い音色が、部屋の片隅に置いてあるコンポから聞こえている。

紅茶をカップに注いでいるこの女性は「風丘 信代(かぜおか のぶよ)・22歳」。

髪はセミロング、ピンク地にウサギのプリントのトレーナー、ジーンズといった服装。

普段は街角や公園でタロット占いや主にスピリチュアル的な悩み相談を聞いたりしている。

彼女は何日か前から、奇妙な感覚に悩まされていた。

一方から懐かしくも感じられる、幸い事が自分や他の誰かを探している…

しかし、もう一方からは災い事が迫ってくる…

吉凶が同時に近づいてきている…

そんな感覚が彼女から離れないでいた。

しかも、日にちを追うごとに、その感覚は身近に感じられた。

軽い溜息をつきながら、彼女はタロットカードを1枚手に取った。

信代「ん?」

カードには、『審判』の絵が描かれていた…。
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