旧 霊皇戦隊セイレンジャー 1

□第1話・2
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朽ち果てた森 城の城壁の様な残骸が、辺りにそびえ立っている。

その場所に、信代・孝太・愛理もいた。そこへ仁が満優に連れられてやってくる。

愛理「あっ!ストーカー料理人!生きてたのねっ」

仁の姿を見て、そう叫んだ。

仁「あっ!てめえこそ生きてやがったのかっ!人のことをストーカーとか言うなっ。
へん、やっぱり可愛げないだけあって、ゴキブリ並みの生命力だなっ」

愛理「なぁぁんですってぇ!ゴ、ゴキブ‥許せないっ、こんな可憐な女性を捕まえてゴキブリだなんて…セクハラよっ」

信代「ちょっと違うかも‥」

愛理「いいえっ!名誉棄損よっ!告訴してやる、訴えてやるわっ!」

仁「んだとぉ!」

この2人の仲は最悪のようだ。

孝太「まあまあまあまあ、喧嘩はやめなさいって」

警官の制服姿の孝太が、仁と愛理の間に割ってはいる。

愛理「どいててっ。あっ、ちょうどいいわっ、こいつ訴えるから捕まえて!」

孝太「いやいや、それは‥」おたおたする孝太。

仁「おい、おまわり!警棒貸せ、いやっ拳銃貸せっ!」

仁と愛理にもみくちゃにされる孝太。

孝太「いや、あの‥あのですね‥おまわりって呼び方もどーかと…」

愛理「なによぉぉぉ!こらっ、警官!私に拳銃貸せっ!」

孝太「いや、だから警官って呼ばれてもですね…」

孝太をはさんで暴れる仁と愛理。

楽しそうに信代はその騒動を見守っている。

満優「みなさん、聞いてください」

仁・愛理・孝太「あ…はい…」満優の威厳ある一声で騒動は静まった。

伝助「満優様っ」シュタっと忍者のように満優の傍に現れる。

満優「ご苦労様でした。みなさん、私の話を聞いてください」

仁・愛理・孝太・信代の前に、満優はゆっくりと進む。そして、語り始めた。
満優「昔…遥かな時の向こう、私達精霊と、あなた方人間はともに支えあって生きていました。あなた達も経験があるでしょう‥野に咲く花々や、木々を愛でる事が…その時、
愛でられた花や木も、人を慈しんでいるのです…」

信代「あぁ‥あの時の感覚…」

仁や愛理、孝太は不思議そうな顔をして信代を見た。

満優「そうです‥あなたならご理解してもらえますね」

信代は以前から、そういう波動を感じられる数少ない人物だ。

満優「そうしたお互いを『思いやる』心がエネルギーとなり、調和と平静は保たれ、
この世界は安定して形作られていました…でも…」

愁いを帯びた表情を見せる。

信代「物質敬拝‥経済至上主義に捕り憑かれた人間社会…」

満優「人が物やお金と言う自らが作り出した価値観に溺れた時、私達と貴方方はともに歩めなくなりました…でも貴方たち人が生み出した物にも精霊は宿るのです。ともに生きていた頃はそれを皆がわかっていて、自然だけではなく、物も大事に‥大切にして暮らしに溶け込んでいました」

伝助「僕もそーや。まあ、ブームっちゅうのんに乗って大量生産って奴で生まれたもんの、
あっちゅう間にブームは終わってもぉてな‥結果、売れ残って、ほこりかむってたらゴミ扱いされて、ほかされてもぉた」

孝太「パンダ‥」

愛理「ぬいぐるみ‥」

仁「変なの‥」

伝助「ちょ~っと待ていっ!パンダ?そぉやっ!ぬいぐるみぃ?それが何かっ!そやけど、変なのってなんじゃあああいっ!喧嘩売ってんのかワレぇぇぇ!こぉいっ!こぉいっ!」

ファイティングポーズをとりながら仁ににじり寄る。

仁「あ、ごめん。ごめんなさい」

あまりの剣幕にあやまる。

満優「伝助」

満優に制され、伝助は渋々引き下がる。

満優「それからは、開発と言う名の自然破壊。今までそれで何不自由無く、暮らせていたものを、山を削り‥川を埋め‥人の行き過ぎた繁栄と引き換えに、この世界は汚されてしまいました…欲望のためだけの破壊‥海は毒にまみれ、大地は荒らされ、空も黒く塗り潰される…そして、人の心も…」

涙が頬を伝った。

伝助「満優様っ」

心配する。

満優「大丈夫です‥ありがとう」

照れる伝助。

満優「私達は待つ事にしました。人々が気付き、ささやかで、でも満ち足りた幸せの日々を‥精霊と暮らした日の事を思い出してくれるのを‥その日が来るまで、私達は信代さんの様な方々との出会いを大切にし、じっと待ちました‥永く‥永く…。時には精霊の声が聞こえると嘘をつき、悪事を働く人間を目の当たりにし、時には何の罪も無いもの達を理不尽な暴力で失い、無残に捨てられ‥破壊され‥傷つき、消えてゆく精霊たちを思えば
この胸が、この身が引きちぎられる思いがしました…幾度も‥幾度も‥
でも、きっといつかは‥いつかは‥と…」

仁は満優の悲痛な思いを察し、胸が痛んだ。

満優の言葉が胸に突き刺さる。孝太も唇を噛み締め、黙っている。

信代はそっと満優の肩に手を置いた。伝助も声を殺して泣いている。

愛理は…

愛理「ちょ‥ちょっと待って、なにっ?一方的に環境を破壊しただの、精霊かなんか知らないけど忘れたとか、随分じゃないっ。じゃあ総て人間が悪いって言うの?人のせいなのっ?
仕方ないじゃない!便利な世の中になって何が悪いの!?工場があるから何不自由無く物が手に入るんでしょ!発電所があるから夜中だって明るく出来るし、寒いときは暖かく、暑いときは涼しくなるんでしょ!物だって‥物だって捨てるから‥消費するから製造だって出来るんじゃないっ!いい!?仕事が欲しい、苦しいって言う人間はいくらでもいるわっ!
誰かが作らないと、誰かが消費しなきゃ仕事なんか無くなるじゃない、お金が無くちゃ
こんな冷たい世界、生きていけないのよっ!!生きていくには自然とか、いちいち捨てる物なんかに感謝したり、情が移っちゃやってけない‥疲れちゃうじゃないっ!!」

愛理のこの言葉を聴いて、伝助は怒る。

伝助「じゃかぁしいわっ!ほな、なにかっ!?捨てるもんには、えぇ顔はできん、仲良ぉはなれへん、親切になんかするかいっちゅうんやな!そんならまんま、人で考えてみぃや!
親も兄弟も‥肉親、親友、恋人っみーんないつかは別れるんや!進む道がちごうたり、
天国に逝ってもたり…やったら、おまはんはその人達に感謝したり、情を通わせたりは
しぃひんのかいっ!たった一言‥ありがとうって思ぉたりはせーへんのかいっ!」

愛理に掴みかかろうとする伝助を信代がとめる。怒りに震える伝助。

愛理「人は…人は‥人は違うものっ!」

なおも伝助に食って掛かろうとする愛理を孝太が制している。

仁「どう違う?」

静かに口を開いた。

愛理は振り返る。

仁「その‥伝助か。伝助が言う事、俺は判る…俺の父ちゃんも母ちゃんも早くに死んじまった。母ちゃんは妹の心を産んですぐ‥父ちゃんは心が2歳の時に事故で…まだ16だった俺は、心と、父ちゃんや母ちゃんが必死こいて守っていた店を遺されてどうしたらいいのか、正直わかんなかった。頼れる身内なんか誰もいねぇ、いきなし心を抱えて、
どーしたらいいか…心細くなっちまって‥ひっそりとした厨房ん中で泣いた…母ちゃんが生きていた頃も、死んじまった後も、父ちゃんがいっつもいて、いっつも賑やかで…なんか泣けてきてさぁ…そんな場所が静まり返ってんだぞっ、灯が消えちまったような場所で、ちっちぇえ妹と2人取り残されて…明日からどうしよう‥どうして生きていきゃいいんだよ…涙見られないように、心を寝かしつけて…泣いちまった。
散々泣いて、そんで、父ちゃんがいつもいた厨房を‥賑やかだった場所を、もういっぺん見たくなって、作れもしねえオムライスを作ったんだ。火ぃつけて、重たい鍋振って‥
やっとこさ、コゲくっさいオムライスっきゃ出来なかったけどさ…でもな…
鍋振ってる時、指切りながら包丁握ってる時、
がんばれっ!負けんなっ!しっかりしろっ!って励まされたんだ!!父ちゃんの想いがこもった鍋や包丁が‥母ちゃんの優しさが一杯積もったあの店‥福福が‥みんなして俺を励ましてくれたんだ!俺にはそう聞こえた‥そう思ったんだ。父ちゃんも母ちゃんも思い出として俺のこころん中にいる。そして、そんな俺や心をあの店が包んでくれている!俺は学校を辞めて、働いた。修行して、18ん時に福福を再開出来て…そん時も父ちゃんの形見の鍋たちに励まされて…だから今までやってこれたんだ。親の想いも、その想いが詰まった物も、俺にとっちゃ全部おんなじなんだ!それがおかしい事か?わかんない事か?人と物は違うって、何が違うって言うんだよ!」

光る涙。

愛理「ぐ‥私は‥私には‥私には、なんにも残らなかった!苦しさと悲しみしかなかった!」

信代「本当に?あなたのお父さんは、あなたへ贈る事が出来た最後の誕生日プレゼントの
オルゴール‥あなたが今も大切に部屋に飾ってるのをとっても喜んでる…お母さんだってそう‥喧嘩のせいで寂しい思いをしてたって、あなたから初めて貰った母の日の贈り物、
大事にしている‥包み紙もリボンも全部大切にとってある。あなたが書いた作文も‥お母さんの似顔絵も‥一所懸命作ったサバの味噌煮のレシピも…どれも大切な宝物‥あなたが一番の宝物…待っててくれる人がいる。あなたを大切に想い、待っててくれる人がいるじゃない…それは、あなたにとっても宝物じゃないの?こんなに大切なものが残されているじゃない…」

愛理「お父さん‥お母さん…」

愛理の瞳が涙で溢れる。

孝太「本官も‥僕も父や母は健在ですが、社会に出る祝いにと、両親から贈ってもらった万年筆、今でも宝物です。辛いときにこれを見たら、元気がでてきます!」

満優は泣き伏す愛理の傍へ静かに座った。

満優「みな、それぞれなのです‥それぞれが感謝し、感謝され、生きている…それだけが世の理なのです…人間をただ責めるわけではないのですよ。思い出してほしいのです‥
すべてに感謝し、思いやる心を…。気付いてほしいのです‥精霊たちだけでも、人間達だけでも生きてはいけないと言う事を…。
そして、私達のような過ちを犯さないでほしいのです…」

ゆっくりと立ち上がる。

満優「私達の中から、憎悪に支配され、邪悪な力に取り憑かれた者がいます…
その名は怨憎の皇帝・憎魔(ゾーマ)」

満優の回想

精霊の城 鎧に身を包んだ者たちが慌ただしく駆けている。

物々しい雰囲気の中、白き弓・白夜を携えた満優が歩いてきた。

満優「お父様」

満優の呼びかけに振り向く人物‥精霊の王・慈育(ジーク)だ。

慈育「おぉ、満優。何をしている?早くこの場を離れぬかっ!」

満優「嫌ですっ、私も戦います」

慈育「ならん!わしにはわしの、お前にはお前の役目があるのだ」

精霊の世界は今、動乱の真っ只中にあった。

王家の中より謀反を起こす者が現れたのだ。

その者は激しい憎しみの感情に支配され、精霊の力を捨てた。

遂には邪悪な力を取り込み、自らを妖霊の皇‥怨憎の皇帝・憎魔と名乗り精霊の世を崩壊させるべく、軍を率いて侵攻してきたのだ。

迎え撃つ精霊族。

しかし、妖霊族は強靭で戦いは劣勢を強いられる。

だが、希望はあった。

精霊族の伝承に『霊皇』と呼ばれる存在がある。

精霊の中でも神にも等しい力を持つと言われる『光・火・水・土・風・闇』の元素の精霊。

その精霊が選びし者たちが霊皇である。

精霊と人間との架け橋‥守護者たる霊皇は、誰でもなれるものではない。

清らかな心の持ち主は言うまでは無く、その者の資質が問われる…力強さ、優しさ、折れない心‥霊皇に選ばれる…それは用意な事では無かった。

ゆえにまだ、火・水・土・風‥4人の霊皇はいない。

しかし、光と闇の霊皇がいる。

慈育は、突然の動乱に混乱する精霊の世を2人の霊皇に託し、反攻の機会を作る気であった。

満優「私は光の霊皇‥この世界、ひいては人の世のためにも、ここで妖霊族を討たねば‥」

そんな満優を慈育は制する。

慈育「よいか、娘よ‥いや、光の霊皇よ…今、我らは突然の事態に浮き足立ち、思うように反撃もままならず、責めあぐねておる。このまま場当たり的に事を考えていては王家だけでは無く、最も守るべき民たちもが滅んでしまうやも知れん。それだけは何があっても
避けなければならん!光と闇の霊皇が力を合わせ、残った一族を束ねて奴らめを討つ事こそが、お前の使命なのだっ!一時の感情で大局を見誤るでない‥わしが奴らを食い止める。
お前達が態勢を整え、撃って出るまでは、なんとしてでも食い止めてみせよう。
光の霊皇‥我が愛しい娘、満優…お前達に明日を託し、後の世の礎となろう…泣くな‥
泣くでない…我が子に、お前たちに託して逝けるとは、なんと幸せな事ぞっ!」

泣き咽ぶ満優を強く抱きしめた。父の暖かい胸の中で慟哭する満優。

慈育「ん?勇護はどうした」

勇護(いさご)とは、闇の精霊に選ばれし、もう1人の霊皇‥もう1人の希望。

勇護は満優が慕う想い人‥婚約者でもあった。

そこへ、シュタっと着地する影‥伝助だ。

伝助「王様!勇護様、望みの丘にて、出立のご準備整えておられます!それと‥勇護様よりの
言伝でございます!今、王に会うは決心が鈍る事となりますゆえ、御前に馳せ参じる事無き無礼、お許し願いたいとの事‥どうか御武運をと…満優様をお連れに参りましたっ!」

涙ぐむ伝助は、一気に言葉を伝えた。

慈育「あいわかった!勇護に伝えよっ、この世を‥人の世を‥可愛い娘を頼むぞと…
さっ、満優‥もうゆくのだ」

満優の背中を優しく押した。

満優「お父様」

別れが辛い‥伝う涙がとまらない…。

慈育はそんな満優に暖かく微笑むと、力強く頷いた。

慈育「行けっ!」

風にたなびくマント。

伝助「満優様っ」

父との別れに取り乱す満優の手を取り、引いていく。

満優「お父様ぁぁぁ」

泣き叫ぶ。伝助に引かれ、木々の陰へと消えていった。
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