旧 霊皇戦隊セイレンジャー 1

□第2話・2
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妖霊城・王の間 冷たく光る透明の棺。

その前に1人たたずむ勇護。

透き通った棺にそっと手を置く。

勇護「真忍(まお)‥」

この棺に眠る、淡いピンク色のドレスをまとう娘の名を呟いた。

凛雫がそこへ現れる。

勇護「ん?‥凛雫か。お前は片時も真忍の側を離れぬな」

凛雫「それが私の務め‥真忍様の影の如くお側にお仕えし、お守りせねばならない私の。今となってはその役目をしくじり、何よりも大切な真忍様を失った私にはこれくらいしか出来ませぬゆえ‥」

勇護「もう己を責めるのはよせ。あれはお前にもどうしようの無い事だ‥真忍自身が良かれと思い、人間と接触したために起きた事。憎むべきは人間だ‥けっしてお前が悪いわけ
ではないだろう」

凛雫「いいえ、真忍様がこのようなお姿になったのも私のせいでございます。
どのような時もお側にいなくてはならないのが私の務めだったものを‥一時でも目を離した己を許す事はできません」

勇護「凛雫、もうよせ。お前も俺も傷を負った。

そして真忍は帰らぬ者となり、満優は遠い場所へと去っていった‥
すべては人間の愚かさゆえに。真忍‥思慮深く、心優しき娘だった‥俺と満優とお前と‥

が友であり、真忍の兄との4人で野を駆け、歌い、笑い‥あの頃がとても懐かしい。

人間さえいなければ、今もともに笑い、歌ったことだろう‥凛雫、その中にお前もいた
ことだろうに…あまり責めるなよ」

言い残し去ってゆく。棺を見詰める悲痛な表情の凛雫。

凛雫「真忍様‥これも真忍様のためならば‥私は鬼にも修羅にもなりましょう。
たとえ‥霊皇の首を獲ってでも‥たとえ‥たとえ‥勇護様の命を奪ってでも」

凛雫の瞳が、氷の炎のようにゆらめいた。


理奈の家・裏手 辺りをキョロキョロと伺う心。

誰もいないのを確かめて、物陰に隠れている理奈に合図を送る。

伝助「いまや!」

伝助の声が聞こえると、まるで忍者か怪盗のように壁づたいに歩いてくる理奈。

その後ろを伝助がついて来る‥タオルで覆面をしていた。

そして、その後ろから‥ダンボールで作った鎧のような‥いや、まるで子供がダンボールを使ってロボットごっこをするような姿でたま太郎は現れた。

伝助「ぬいぐるみ界のノッポさんかワクワクさんかって言われとる僕やさかい、
これっくらいはチョチョイのポンや」

心「ポンって‥」

たま太郎「にゃ?」

伝助「たま、もうええで、こっちおいで」

バタンバタンと音をたててたま太郎は歩いてくる。

しかし、よくこれで見つからなかったものだ。堂々としたほうが逆に怪しくないのか?

はたまた、運が良かっただけか?

とにかく、無事に家へとやってきた理奈とたま太郎。伝助はたま太郎の腕を掴むと

伝助「理奈ちゃんの部屋はどこや?」

理奈「2階の奥の‥あ、あの窓が私の部屋」

伝助「ほいな!」

理奈の部屋の窓へとたま太郎を連れてジャンプ!

音も無く屋根に降り立つと、窓から部屋をうかがう。

伝助「だぁれもおらへんな‥しかし‥これが9歳の女の子の部屋か‥(照)」

ピンクであふれた可愛らしい部屋。

たま太郎「がるっ?」

伝助「勘違いすなっ、変な趣味なんてあらへんで。僕は綺麗なお姉さんしか愛せへんねや」

そんなことをいいながら、ふたたびチョチョイのポンっと窓の鍵を開けた。

伝助「忍法・鍵穴殺し‥」

心「伝助ちゃん、壊しちゃだめだよ」

下で見ていた心が心配そうに言う。

伝助「だいじょーぶ♪ちょっと協力してもろただけやから」

窓枠が伝助に反応して、かすかに光った。

心「不思議‥」

理奈「心姉ちゃん、あれ‥なぁに?」

心「あのね‥伝助ちゃんが言うのにはね、木やお花や鳥にうさぎさんにも、
包丁さんやも金槌さんにも、みんなみんな、こころがあるんだって。

もちろん、伝助ちゃんやたま太郎ちゃんのようなぬいぐるみさんだってそう。

だから‥理奈ちゃんのお家にもこころがあって、理奈ちゃんとたま太郎ちゃんのために
協力してくれたんじゃないかな」

理奈「ほんとぉ?ありがとう、おうちさん♪」

伝助「そないに思ぉてくれるんやったら、しっかりとそーじして、大事に住んだってな♪」

たま太郎を理奈のベッドの下に隠れさせ、心と理奈のもとへと帰ってきた。

理奈「伝助ちゃん、ありがとう!もう‥だいじょうぶだよね」

心配そうな顔を見せる。

伝助「うーん‥ちょっとサイズがおっきいけどな、まぁだいじょーぶやろ。

理奈ちゃん、ええか、お母さんやお父さんにはみつからんようにな」

理奈「お父さんはお仕事忙しいからほとんど理奈のお部屋にはこないもん、だいじょうぶ。

お母さんは‥理奈のお母さんはもういないから‥お部屋にくることなんかもうないもん」

瞳にうっすらと浮かぶ涙。

心「理奈ちゃん‥」

伝助「理奈ちゃん、泣きたかったらおもいっきり泣けばええ。せやけどな、
泣いてばっかりおったらあきまへんで。泣いてて、お母さんが喜ばはるやろか?

心配して、お化けとかになってしもて、みんなから怖い!だの、いやぁ!だの、キモぃぃ!とか言われたら悲しい気になりますやろ?

そりゃもう、悲しいですわな。なんやったら、ごっつぅ腹立ちますわな。

だって大好きなお母さんなんやから‥

せやから、悲しかったら泣いてもええけど、泣きっぱなしはあかんねんで。

理奈ちゃんのためだけやない、天国にいてはる大好きなお母さんのためにも
理奈ちゃんは強ぉならなあきまへんねや。泣いた分だけ強ぉにね」

ニカっと笑顔を見せる伝助。

理奈は「心姉ちゃん、伝助ちゃん、ありがとう」

ようやく気持ちが落ち着いたのか、理奈は2人に礼を言うと、家の中へと入っていった。

少しして、中から女の人の声が聞こえた。理奈の顔を見て安堵したのか、ホッとした様子。

すぐに『理奈ちゃん、ごめんなさい‥おばちゃんね‥』と聞こえたが、

理奈の声は一切聞こえること無く、階段を駆け上る足音と

強く閉じられるドアの音だけがかすかに聞こえた。

心「理奈ちゃん‥新しいお母さんの事、まだ許せないみたいだね」

哀しそうな表情の心。

伝助「まだ時間がかかるかもしれへんなぁ」

2人は理奈の家を離れ、ゆっくりと歩き出す。

心「あのね‥わたしも、お母さんがいないし、お父さんもいない‥理奈ちゃんの気持ちは
すごくわかるけど‥ちょっとうらやましいなぁって…」

伝助「新しいお母さんがおる理奈ちゃんのことな‥そやな、人はもちろん、物にしたって
側におる時は大切さなんてわからんもんや‥なくなってはじめて大切やったっちゅうことに気付いてしまうんやなぁ、これが。

でも、心ちゃんには、仁っちゅう料理大好き心ちゃん大好きってお兄ちゃんがおりはる
やんか」

心「伝助ちゃん、わたしとのナイショね。わたし‥わたし、お兄ちゃんの側にいて
いいのかな‥お兄ちゃんはわたしのためにいっつも遅くまで働いてくれて、大好きな
オムライスも美味しいご飯を毎日毎日作ってくれて‥でもね、わたし知ってるの。

お兄ちゃんにはお友達がぜんぜんいない‥よく話す工場のおじさんや近所のおばさんは
いるけど、同じくらいの歳のお友達はいない…アルバムをみたんだ‥

お兄ちゃん、学校へ行ってる頃の写真にはお友達がいっぱい家に遊びに来てたみたい‥
けど、お店を始めた頃の写真にはだぁれもいない…。いつもお店に来るお客さんは
よく話してくれるけど、でもそれとは違うってわたしにもわかるもん‥お友達もいない、
好きな人なんてぜんぜん作ろうともしない‥それって、わたしが側にいるせいなんじゃ
ないかなって…だからね、伝助ちゃんや、満優姉ちゃん‥孝太兄ちゃんに信代姉ちゃん
愛理姉ちゃん…みんながきてくれて良かったぁって思うの。

今日だって、愛理姉ちゃんが早くからお店に来てて、お兄ちゃんとっても嬉しそうだった。

ケンカみたいなことしてたけど、ほんとはとっても嬉しそう‥やっとお兄ちゃんにも
お友達が出来たんだって思ったんだ‥でもね‥それでも、わたしがいるせいでみんなと
遊びにもいけないんじゃないのかな‥とか思ったり…」

喋りながら、必死で涙をこらえる心。

そんな心の頭の上に、伝助はヒョイっと飛び乗った。

伝助「心ちゃんはええ子やな」

心の頭の上に寝そべり、ポンポンっと優しく撫でる。

伝助「心配しぃな。お子ちゃまがそないに大人に気ぃつかわんでもええのや‥だぁれも
心ちゃんがおるせいでなんて思ぉてへんよ‥あの仁がそないなこと思ぉとるかいな。

遠慮せんでもええ、遠慮なんかしとるヒマあったら、どんどん甘えてどんどん大きくなり。
そんで、大きくなったら、これだけ幸せになりましたでえぇなんて、姿をよぉっと見せて
やるんや‥お兄ちゃんに幸せな姿をよぉっとな。それが恩返しっちゅーもんやな。

せやから‥心ちゃんはなんも気にせんと甘えてやるんや。心ちゃんが仁のことを
そんだけ考えて、想ってたらなんも心配いらへん‥仁の想いも心ちゃんの想いも
どっちにもちゃんと伝わってる‥それが思いやりや‥それでじゅーぶんや‥な♪」

心「‥うん♪」

伝助の言葉に励まされたのか気が晴れたのか…愛らしい笑顔に戻る心。

伝助「ほな、帰りまひょか」

心の頭から降りる伝助。

2人は福福へと向かって軽快に歩く。

互いの顔を見ると、理奈を手伝ってゴミの山の中をかき回したせいか、
頬や鼻が黒く汚れている。(まぁ、伝助はもともと鼻は黒いけど)

そんな顔を見合って笑う伝助と心。

すっかり夕暮れになった道を、兄が待つ家へと歩を早めた。
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