旧 霊皇戦隊セイレンジャー 1

□短編・クリスマス編
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「霊皇戦隊セイレンジャー」

「クリスマスやっ!じんぐるべぇる、じんぐるべぇる、じんぐるべぇるべぇ!!」

2008年12月

福福・屋上 12月24日・午後2時。今日はクリスマスイブ。

伝助は冷たい風を頬に受けながら、のんびりと流れる雲を見ながらくつろいでた。

そこへ洗濯物が沢山入ったカゴを持って仁がやって来る。

昼時の慌ただしさも過ぎ、遅ればせながら私物の洗濯物を干しに屋上へと来たようだ。

仁「ん?伝助、なにしてんだ?」

伝助「なんや、仁か‥いや‥ちょっとな」

仁「なんだよ、やけに今日はおとなしいじゃねえか。なんかあったのか?」

伝助「満優様は?」

仁「あぁ、姫さんなら今晩のクリスマスパーティーのケーキを焼いてくれてるぞ。
総右衛門も源左衛門も手伝ってたけど」

洗濯物を干しながら喋っている。

時折、しわを伸ばすためにパンパンッと干した物を叩いている。

慣れた手つきだ。

伝助「そっかぁ‥そーいや、こんな時期やったなぁ」

仁「何が?」

伝助「人間達がこんな風にクリスマスやイブやイボイノシシやゆーて浮かれとった頃や‥
僕が満優様におぉたんは」

遠い日の記憶…

伝助の回想 少し古い町並み、ここはその昔、八百八橋と言われた上方、

笑いとお好み・たこ焼きの粉もん文化の街・大阪。

大阪城を仰ぎ見つつ、人々がせわしなく暮らしている。

東京・大阪・名古屋‥全国津々浦々、いつの時代でも人の世は、相も変わらず忙しく生きている。

そんな街の中心の商店街、通りに「岸玩具店」と看板を掲げたおもちゃ屋がある。

ヒーローのソフビやら着せ替え人形、合体ロボに積み木に野球盤、変身ベルトにボールにラジコン。

様々なおもちゃが並ぶ中、ほんの少し前まで空前のブームを呼んでいた
パンダのぬいぐるみ‥

デフォルメされた可愛らしいぬいぐるみが

「特価・売り尽くしセール!現品限り!!」

と張り紙されたワゴンの中に大量に積まれていた。

ブームに乗って、儲けるチャンスとばかりに大量仕入れをしたものの、あっという間に
ブームは去り、残ったのは在庫の山、所詮ブームはブームと言ったところか。

倉庫には沢山のパンダが溢れかえっている状態。

店主は、このクリスマス商戦に特価セールをかけ、一気に在庫を処分してしまおうと考えていた。

功を奏してかある程度は売りさはいたが、倉庫を点検したさいに、
1体だけダンボール箱からこぼれてしまったようで、ほこりまみれで床に落ちていた。

店主「なんや、ここに1個だけて‥にしても、ほこりだらけできったないなぁ。
これじゃ売りもんにならへんわ」

不機嫌に呟くと、そのぬいぐるみを店裏のゴミ箱に押し込める。

一瞬、ぬいぐるみの表情が悲しそうに見えた…。

店主「とんだお荷物やったな」

吐き捨てるようにいった。

大量に仕入れたパンダのぬいぐるみが売れ残ったら大損するところだったらしく、
幸い特価セールでようやくはけた。

しかし岸玩具店に危うく損益をもたらすところだった原因の品を、
忌々しく思っているようだ。

その夜…。

ごそごそ‥ガタンッゴトンッ…不審な物音が岸玩具店の店裏から聞こえてくる。

音の主は‥ほこりまみれになってゴミ箱に押し込められたあのパンダのぬいぐるみが、

這い出だしたあとに、どこで手に入れたか知らないが、左手に灯油が入った小瓶と、
右手にマッチを持っている。

パンダのぬいぐるみ「馬鹿にしやがって、馬鹿にしやがって、馬鹿にしやがって‥」

涙を浮かべ、鼻水をたらしながら何度も何度も呟いていた。

木枯らしが吹く中、おもむろに灯油入りの小瓶をゴミ箱に投げつける。

激しい音と共に小瓶は割れ、灯油は辺りに飛び散った。

パンダのぬいぐるみ「み、みとれぇ!」

怒りに震え、燃える瞳。

マッチを勢いよく擦り、灯油にまみれたゴミ箱に火をつけようとした時…。

『お待ちなさい』とぬいぐるみを止める声がした‥とても美しい声だった。

ぬいぐるみが振り向くと、そこには亜麻色の長い髪で、純白の衣をまとった麗しい女性が
1人‥満優だ。

一瞬、ポォっとなるぬいぐるみだったが、ハッと我に返る。

パンダのぬいぐるみ「な、なんですぅ?とめんといておくれやっしゃ!この店のあほんだらに
思い知らせてやりまんのやっ!」

満優「そんな事をして何になります‥燃やしてしまえばあなたの悔しさや悲しみが
無かったことになるのですか?

辛かったでしょう、よく耐えたと思います。

あなたの気持ちがわかる‥など、おこがましいことなど言えません。

でも、いくら火をつけたところで‥復讐を果たしたとしてもあなたの心はけっして
癒えることはありませんよ。

怨讐は罪のない他の者も傷つけ、やがて自分自身を滅ぼすだけ‥。

それよりも、わたくしといっしょに精霊の世に行きませんか?ともに精霊の森へ」

パンダのぬいぐるみ「精霊の‥森?」

満優「ええ‥その森の奥深く…澄んだ泉のほとりで火の優しさ‥水のささやき‥
土の笑い声‥風のいたずら…光の励ましと闇のいたわり‥すべてがあなたを癒してくれるでしょう」

パンダのぬいぐるみ「うそや!そんなんうそに決まっとる!だぁれもやさしゅうなんかして
くれへんっ、

みんな損得勘定で生きとるご時勢やないか!

なにを信じろっちゅーねん、誰を信じたらええんやっ!

頼れるのは自分だけじゃっ、信じるのは自分だけっ、後はみんなみぃんな、敵ばっかしやっ!」

ぬいぐるみは泣きながら、自分に言い聞かすようにそう叫んだ。

パンダのぬいぐるみ「工場の中で誰からもなんも言われず優しゅうもされずっ、

ダンボールに突っ込まれて海渡って、着いたら直ぐにトラック乗っけられて暗い倉庫の中やった。

やっと連れてこられたとおもたら店の棚にほっとかれて、いつかこぉて
くれるんやろかって、おもぉても全然こぉてくれへん‥

店のおっさんは僕の顔見てこんなん仕入れるんとちゃうかったって

汚い唾飛ばしながら僕を責める‥僕がなにしたんや?

そないしてるうちにこの店の倉庫にずっとしまわれて…

ダンボールから落ちてしもた僕はほこりまみれや。

虫やねずみらが話し相手やったわっ!

ほしたら今度は邪魔もんあつかいで、とうとうゴミ箱に捨てられてもぉたんや!

なんでこないな目にあわされなあかんねんっ!

僕が悪い事したんなら何されてもかまへん!

な~んもしてへんのにされるんはゆるせへんのやっ!

僕がなにしたんかっ、僕がなにやったんか教えてくれ、誰か教えてくれやっ!」

満優「可哀想に‥酷く傷ついたのですね…あなたは何もしていません。

だからもう泣くことはありません、泣かないで‥

心を恨みや憎しみなどで汚す必要は無いのです。

誰もあなたを傷付けたりはしない‥あなたも人も花も鳥も‥

みな等しく愛されるべき存在なのです。

あなたは人の心に和みをあたえるために生まれてきたのですよ…

でも、悲しいことに今は和みも凍てつく厳しい時代…。

辛く苦しい時の流れでも、やがてその急流は穏やかな流れとなり、

安らぎと微笑みの海へと移り変わってゆく…あなたの心に愛を持ってください‥

辛い涙、憎しみと恨みの怒りは捨て去り、はじめは小さくたってかまいません、

愛をもってください‥

あなたが持った愛は、やがて何ものをも包み込むほどに大きくなる、

限りない愛となってゆきますから。

果てなき愛は、砂漠にたゆまず降り続く雨のごとく、
やがて茂るる大樹の実となり、たおやかな森、とわに栄えん…

これはわたくしの母がよく聞かせてくれた詩(うた)です。

限りの無い愛は渇いた心に雨粒のように沁み続け、やがて大きな愛情が満ち、

その愛情はまた受け継がれてゆき、やがて広がりし慈愛が世をいだく…

私の愛をあなたの心に届けます。

もし、あなたがこの小さな愛を受け入れてくれるのならば、

またひとまわりこの愛は大きくなれる‥

いつか‥必ず、大きくなった愛はみなを正しき姿へともどしてくれますから…

だから‥ね…私といっしょに森へ行きませんか?さ、私とゆきましょう」

パンダのぬいぐるみの瞳から大きな涙の粒が落ちた。

パンダのぬいぐるみ「ほ‥ほんまに…?」

満優「はい‥。そうだ、あなたの名前…そう、あなたと同じ悲しみを持つものに

小さくて無限の愛を伝え、願わくばその悲しみから助けてあげてほしい…でんすけ‥
伝助はどう?」

パンダのぬいぐるみ「伝助‥伝え助けるで、伝助…ええ名前や…」

喜びが体中を駆け巡る‥生まれてはじめて知る喜び。

満優「伝助‥さ、いきましょう」

伝助「はいっ!」

にこやかで晴れ晴れとした表情。

満優「あ、伝助‥」

伝助「へ?」

満優「あなたの右手‥燃えてますよ」

伝助「え?」

マッチを擦ったまま持っていたのを、すっかり忘れてしまっていた。

伝助「しもたぁぁぁ!うぎゃぁぁぁぁぁ!おっほぉぉぉォォォぉぉ!にゃしゃぁぁぁぁぁぁぁ!

ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!ひえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

寒さきびしい夜空に伝助の声がこだました。
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