旧 霊皇戦隊セイレンジャー 1

□第3話・1
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「霊皇戦隊セイレンジャー」第3話
            「雨、のち…」
2009年1月

福福 木曜日の夜。

伝助「めっしまだかっ、飯食わせっ、飯まだかっ、めっし食わせっ」

両手に箸を片方ずつ持ち、太鼓を叩くようにお茶碗をチャンチャンと鳴らす。

ゴンッ!‥愛理の拳骨を脳天にもらう伝助。

愛理「おまえは昭和のガキかっ!」

一撃必殺のゲンコをお見舞いして机の上に置いてあるモバイルPCのディスプレイを
また覗く。

なにやらデータをまとめているようだ。

伝助「お前に言われとぉないわ」

小声で言い返すが、パソコンのキーを叩いている愛理の背中から、命の危険を感じる
ほどの、何かしらの気が発するので慌てて総右衛門が伝助の口を押さえる。

源左衛門「伝、やめておけ」

総右衛門「こ、殺されまする」

そうこうしてるうちに仁が、今出来上がったばかりのおかずを盆に乗せて運んでくる。

満優や信代、孝太たちは食卓の上を用意すると‥

「いっただっきまーすっ!」

心・仁・愛理・信代・孝太・伝助・総右衛門・源左衛門・満優、全員そろっての夕食だ。

テーブルの上には色とりどりの茶碗や箸が並んでいる。今夜のおかずは酢豚とポテトサラダに大根の味噌汁。

仁「にしてもさぁ‥なんでみんな居んの?」

口いっぱいにご飯を頬張りつつ、ここ最近夕飯時には全員集まっている事を今さらながら不思議に思い、みなに聞いてみた。

愛理「悪いっ!?食費はちゃんと出してるわよっ」

まるで今にも仁に噛み付きそうな勢いで言う。

仁「おわっ!」

愛理のいきなりのキレっぷりに驚いて、みそ汁をこぼしかけた。

仁「アチチっ!い、いやさぁ。食費の事は気にしてないし、ちゃんとみんな
出してくれてっから全然だいじょうぶなんだけどさぁ‥自分ちがあんのに毎晩ウチんとこに来んのも大変じゃねぇのかなぁって」

孝太「まぁ、家はあっても僕は1人暮らしですし」

信代「それに、みんなで食べたほうが美味しいよね」

心「にぎやかで楽しい♪愛理お姉ちゃんもそうなんでしょ」

愛理は照れくさそうな顔をして心に微笑んだ。

伝助「なんや偉そうにしてて、怒りんぼさんの淋しんぼさんかい。

砂糖の塩漬けやあるまいし、おまえはどっちやねん」

そこまで言ったところで愛理の殺気に気付き、慌てて口を閉じる。

そんな様子を見ながら、心はずいぶんと楽しそうだった。

長い間、食事は忙しい兄の横、店のカウンター席で済ませていた。

こうして他愛もない会話をしながら食事をするのが嬉しくてたまらない。

楽しい夕食がすぎて行く。心の横で、伝助が総右衛門の肉を食べたと騒いでいる。

源左衛門は総右衛門に自分の皿の上の肉を分ける。喜ぶ総右衛門と、愛理に怒られる伝助。

仁は『まだ、あっから』と中華鍋から酢豚を大皿に盛り付け、それを見てはしゃぐ伝助。

孝太は愛理のお代わりのご飯をよそい、信代は仁のお茶を湯飲みに注いでいる。

心は満優とおしゃべりの最中…福福に和やかな時間があふれていた。


都内の安アパート 金曜日の午後6時を過ぎ、すっかり日が暮れてしまった町並み。

その一角にある、古びた2階建てのアパート『日下部荘』。

そのアパートの2階の1番手前の部屋。

日下部荘・201号室 1人の女性が慌てて身支度を整えている。派手なスーツに身を包み、
鏡を覗き込みイヤリングをしながら、先ほどから見当たらないバッグを探していた。

どうやら今から出勤のようだ。

彼女の名前は『羽田 知美(はた ともみ)』33歳になる。

知美「おっかしいなぁ?さっきまでこのへんに‥」

キョロキョロとあたりを見回し、見つからないバッグに困り果てていた。

すると『おかあさん、あったぁ』と可愛い声が聞こえる。

知美「あ、てっちゃん♡ありがとう」

バッグを見つけて持ってきてくれたのは6歳になる知美の息子『哲也』だ。

もうすぐ小学校に入学する。

今は知美と哲也の二人暮らし。

そのため、知美は必死に働いている。

小さなスナックの従業員‥それが知美の仕事。

哲也が4歳の時に夫‥哲也の父が急死した…事故死だった。

優しい夫で、小さな会社に勤めるサラリーマン。

しかし、出世は見込めない不器用な男性であった。

そんな夫を知美は誰よりも愛し、夫も不器用ながら精一杯、子を慈しみ、
妻を愛した人だった。

あの日…昼過ぎ辺りから、雨がしとしとと降って‥嫌な天気の一日だった。

夫の大好きなポーチドエッグコロッケを作っている真っ最中。

焦らすかのように鳴る電話‥悲しみを告げる電話。

受話器を握る知美の目の前には無邪気に遊ぶ哲也の姿が。

残酷な事実を伝える声が耳を通り過ぎ、あっという間に遊ぶ哲也の姿があふれる涙で
見えなくなってしまう。

震える手‥抑えても抑えても震えはとまらない。

そのうち、手だけでなく全身が震えてくる。

それから、どうやって夫が待つ病院へたどり着いたのか記憶は無い。

ただ、今朝元気に会社へと出て行った夫は、物言わぬ冷たい体となって、知美と哲也の
迎えを待っていた。

「久しぶりに子供の顔見ながら、女房の手料理食うんだよ」

それが最後の言葉…。

親しい同僚に、嬉しそうにそう告げた彼は、雨がそぼ降る中、愛車の原付に乗って会社を
後にした。

聞けば、初歩的なハンドルミスだったそうだ。

それから2年‥夫を亡くしてすぐの頃は、泣いて泣いて泣き明かして日を送っていた知美も、頼る親戚もいない自分達の境遇に負けまいと、ずいぶんたくましくなっていた。

いや、たくましくなるしかなかった‥と言ったほうが正しいか。

母と子が、生きていくために強くなったのだ。

幼い子を守るため、知美は働きに出る。

暮らすだけで手一杯のため、夫との生活で

保険に入っていなかったことを少し悔やんだが‥すんでしまったことを悔やんでも仕方が無いと前向きに思い、知美は汗水流して働いた。

仕事と子育ての両立…言ってしまえば簡単に聞こえるが、その苦労は計り知れない。

TVが伝える社会と現実なんて全然違う…。

仕事が出来れば嫌味を言われ、出来なければ怒鳴られる。

かと言って、女だからとロクな仕事もさせてもらえず、セクハラなんか当たり前。

シングルマザーは遊び相手には都合がいいのか、

セックス目当ての男達がしょっちゅう食事や飲みに誘ってくる。

せっかく勤めたセールスの仕事も長くは続かず、仕事を転々とした。

パート・アルバイト‥正規で雇ってもらいたかったが贅沢も言ってられず、

歯を食い縛って懸命に生きてきた‥

やがて、飲めないお酒を無理に飲み、年齢をみっつほどサバよんで今のスナックに勤める。

彼女を、お店のママは快く迎えてくれた。

「女ひとり子ひとり、生きてくのには色々あるさ」

ママはそう呟いていたっけ。

サバよんだ歳もあっさり見破り、楽しそうに笑っていた。

何かと気にかけ、よくしてくれるママ。

出会うまでに、セールス・コンビニ・スーパーマーケット‥キャバクラなどの面接も

十数件受ける時間がかかったけど。

そして、現在に至る…。

知美「てっちゃん、じゃあお留守番お願いね。ご飯は机の上に‥」

哲也「プリンはれいじょーこ♪」

明るい声。

知美「冷・蔵・庫!うふふ、食べたら歯を磨くこと」

哲也「はーい!」

知美「ドラえもんとしんちゃん見たらテレビを消して、ご本を読んで‥9時になったら
寝んねだよ」

哲也「はーーい!」

知美「何かあったらお母さんに電話」

携帯を小さく振りつつ、見せる。

哲也「はーーーい!」

元気な声が響く。

隣の部屋の中から『うるさい!』とヒステリックなおばさんの怒鳴り声が聞こえた。

肩をすくめ、苦笑いする知美。

シーっと小さな可愛い人差し指を口にあてる哲也。

知美「じゃ、行ってくるねぇ」

声をひそめて哲也に手を振り、ドアを閉めた。

哲也は言いつけを守り、玄関の鍵をかける。

カチャっと鍵の音がしたのを聞き、微笑む知美。

寂しい思いをさせている…そう思いながらも、生きていくためにはしかたない…

自分に言い聞かせて、腕時計を見る。

知美「あっ、いけない!」

慌ててアパートの階段を下り、仕事場へと急いだ。

街はすっかりネオンに彩られ、キラキラと輝いている‥

でも、この親子を幸せと導く明かりは…ネオンに霞んで、まだ見えようとはしなかった。


妖霊城 インガが城の庭園にある噴水の水面を鏡として、前回の戦いで伝助に
傷付けられた顔を見ている。

頬にくっきりと伝助の爪痕の傷が残っていた。

インガ「ぐぅ‥おもちゃ如きが‥」

そんなインガの姿を見ていたカルマが近づいてくる。

カルマ「インガ」

声をかけた。

インガはハッとなり

インガ「なんだ!ふん、笑いたければ笑えばいい。次こそは霊皇どを皆殺しにしてやるさ!」

カルマに言い放つと、足早に立ち去った。

カルマは無言で立ち去るインガを見送る。

その背中にはなぜか寂しさが滲んでいた。

苛立ちながら歩くインガ。

ジャシン「また随分な傷を受けましたねえ、ククク」

ふいに、どこからとも無く現れたジャシンが声をかけた。

薄ら笑いを浮かべている。

インガ「くっ、ジャシン‥黙れ!」

背中を向け、足早に立ち去ろうとするインガの肩を掴まえ、細身に似合わない力強さで
インガを抱き寄せた。

インガ「あ‥」
たいした抵抗も見せず、ジャシンの胸に抱かれるインガ。

ジャシン「まったく‥お前の美しいその顔に傷など…」

耳元で甘く囁いた。

ジャシン「セイレンジャー‥その傷の礼、私が言ってきてやろう…クク」

言い残すと、瞬く間に姿が消えた。

インガ「ジャシン…」

切なげな声で名前を呟くと、何処かへと立ち去ってゆく。
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