旧 霊皇戦隊セイレンジャー 1

□第4話・1
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「霊皇戦隊セイレンジャー」第4話
            「ともだち」
2009年2月

深夜‥走る閃光。

不気味な遠吠えが聞こえている。

暗闇の中、爛々と目を光らせて、勇護が歩いていた。

立ち止まると

勇護「来い、ツクモ神・牙愁(がしゅう)」

巨体の、狼のようなツクモ神が現れる。

勇護「牙愁、人間どもに思い知らせてやれ」

勇護は牙愁にそう命じた。

身震いするような雄叫びを上げ、牙愁はある建物に向かって突進していった。

破壊される建物。

この建物は

「動物管理センター」

野良犬や野良猫、家庭で飼えなくなった動物を一定期間預かり、その後‥処分。

命を絶つ‥簡単に言えばそういう施設だ。

もちろん、愛護の観点から飼いたい、引き取りたいと申し出れば譲り受けることだって
出来る。

申し出がなければ、一定期間の保護の後、入っていた檻から出され、施設内の通路を
狭める形で徐々に1つの部屋に誘導される。

追い込まれたそこは‥処分室。

部屋の扉を密閉し、ボタンを押せばその部屋に炭酸ガスが注入される。

つまり、窒息死‥けっして安楽死ではない。

経費がかさむ、予算が無い。

この理由で、人間に裏切られた動物は最後の瞬間まで苦しんで逝くことになる。

哀しみや憎しみを残して。

ただ、勘違いしてもらっては困る。

職員とて、好きでそんな仕事をしている訳では無い。

泣きながらガスの注入スイッチを入れる者もいるし、
毎朝、慰霊碑に手を合わせて供養する者もいる。

辞めようかとも悩みながら、哀しい目をした動物達から逃げ出す事無く、

しっかりと送り出すのがせめてもの、人間としての責任と
一身に背負って務める者もいる。

それでも、帰るべき場所をなくした動物達は後を絶たない。

理由は様々だ‥

引っ越すから‥引越し先はペットを飼えないから無理。

病気になって‥歳をとりすぎて…めんどうがみれない。

それもまた、哀れだ。

長い年月、家族同然に過ごしてきたペットが病気をしたから‥歳をとって何かと大変…

わけはそこここによってあるだろう。

介護する家族がいるから‥自分も年齢で体が思うように動かない‥確かにあるが‥だ。

施設に預けられたそんな動物達の最後をご存知か?

弱った動物達は動けない‥自立歩行が出来ないために、職員に抱きかかえられて
処分室へと向かう。

死が待つ部屋へ‥何が待ち受けるか、感じてはいても抵抗など出来ないほど弱った体で。

残酷な話…。

人間を介護できないからとすてるだろうか?

人間を動けないからと言ってすてるだろうか?

ん…数年前、大阪で患者を見捨てた病院がある…金が払えないからと‥。

勇護「ふん…だろうな。だからこそ、人間どもは粛清されねばならんっ」

吐き捨てるように言った。

こんな理由もある…家族旅行かペットを飼うかの二者択一。

家族旅行を計画し、日にちもせまったある日、子供が捨て猫を拾ってきた。

しかし、父親は反対する…

「そんなもの、旅行に行くか、猫を飼うかどっちかひとつにしろ。

両方取れるなんて、世の中そんなに甘くはない!」

この人なりの情操教育だそうだ。

その、お偉い情操教育のおかげで、猫はこの施設につれてこられた。

母親は言った

「短い間だったけど、この子達も命に触れることで優しくなれたと思います。

今回は残念だけど、次に飼うときはこの施設でもらいたい」

この夫妻には何の恨みも無い、ましてお子様にはなおさらに。

面識も無く、モザイクの向こうの人たちに憎しみなんて持つはずもない。

失礼なのは百も承知…ただ、少しだけ言わせて欲しい。

ふざけるな‥

今、目の前で消されようとしている命の火を助けずして、情操教育だの、
優しさ、命とは?なんて語ってほしくない、言葉を口にすらして欲しくは無い。

傷付ける気はけっしてないが、言わしてもらった…許されよ。

今、動物管理センターが破壊されていく。

全国にあろう施設のほんの1つにしかすぎないが…。

破壊されたセンターから犬や猫たちが逃げ出している。

どこへゆくのだろう…。

生き延びれる場所へ…存在するのだろうか。

いや、死をただ待つよりはましか…。

牙愁の遠吠え。

それはまるで、人間に対して何か訴えるように聞こえる。

と、同時に、逃げてゆく動物達へ「生きろ」とも、叫んでいるようだった…。


福福・居間 朝ごはん中の仁・満優・心・伝助・総右衛門・源左衛門。

並んで朝食を食べていた。

心が食べ終わり

心「ごちそうさまぁ、行ってきまーす」

元気に駆けてゆく。

仁「おっ、行ってこい」

満優「いってらっしゃい」

伝助「気ぃつけてなぁ」

総右衛門「いってらっしゃいませ」

源左衛門「んっ」

それぞれ送り出し、

仁「ごちそうさまっ」

満優「ごちそうさまでした」

伝助「ごちそうさん」

源左衛門「ちそうになった」

総右衛門「わたくし、おかわりをば」

ご飯をよそって3杯目。

伝助「なんかオモロイのやってへんのかな」

リモコンでテレビのチャンネルを変えていく。

仁「今の時間、ニュースにワイドショーばっかりだぞ」

満優「これ、総右衛門。食事中に新聞など読んではダメですよ」

総右衛門「これは失礼をば‥?‥仁殿、動物管理センターとはなんでございまするか?」

読みかけの記事が気になり、問いかけた。

仁は洗物へいこうとしていたが立ち止まり

仁「んーと‥なんだっけ」

満優は皿などを片付けている。

源左衛門「まぁ理由は様々だが、動物を一定期間保護し、期限がくれば処分する‥」

仁「あっ、そうそう。この前、源さんと一緒にテレビで見たんだった。

ひどい話だよなって言ってたんだよな、源さん」

源左衛門「んっ」

仁「たしか‥職員さんが施設で保護してる動物で、子供たちに‥」

伝助「あぁ、あれか!そやそや、こどもらに命の授業っちゅーのんをしてはるってやつ
やったな」

仁「有名な人なんだってさ。そんな人もいるってのが動物管理センターだ。

まぁ、あっちこっちにあるんだってよ‥数はしらないけど」

伝助「少ないってゆーてなかったかな」

総右衛門「ほっほぉ。さようでございまするか」

源左衛門「で、そのセンターがどうかしたか」

総右衛門「いえいえ、そのような方がおられるセンターではないのですが、
同じような施設が昨夜‥」

「ガシャーン!」

総右衛門がいいかけると、皿の割れる音が厨房のほうからする。

仁たちがいってみると

満優「すみません、手がすべってしまって‥」

あやまりながら、割れた皿を片付ける。

伝助、総右衛門、源左衛門も片付けに加わった。

仁「あ、いいよいいよ、あぶないから。あとは俺たちでやっから」

片付けていた満優を優しく移動させ、仁は破片を集める。

満優「すみません」

仁「いいって、それよりケガはない?」

満優「はい」

その頃、テレビでは「動物管理センターセンター、深夜の謎の爆発」のニュースが
放送されていた‥しかし、誰もこの騒ぎで気付いてはいない。

仁「ここはだいじょうぶだから‥あ、悪いけどさ、洗濯物のほう、頼むよ」

満優「はい」

風呂場へ行き、洗濯機から洗濯物を取り出すと、カゴに移して屋上へ向かう。

伝助「もーないか?」

総右衛門「もうございませぬ」

源左衛門「そうだな」

仁「もうだいじょーぶ♪さんきゅな。伝、総じい、源さん」

ゴミ箱に割れた皿を捨てた。

仁は洗物をはじめ、伝助たちは居間へ帰っていく。

仁「フフッフン、フッフフン♪」

鼻歌交じりに茶碗を洗う。

伝助はリモコンでチャンネルをあれやこれやと変えていた。

伝助「あれ、僕のお気にの鼻歌やん‥にしても仁、最近ご機嫌さんやな」

源左衛門「んっ」

伝助の言葉に頷きながらテーブルを拭いている。

総右衛門「そう言えば満優様も随分と以前のような柔らかな表情をされるようになりました。良きことにございまする」

ご飯を食べ終え、自分と伝助、源左衛門のお茶を汲んでいた。

伝助「ま、そーやな。みんな楽しいんが1番や♪」

総右衛門がお茶をいれた湯のみを置く。

伝助「おぉきに」

源左衛門の前にも。

源左衛門「すまん」

総右衛門はズズズッとお茶をすすり飲み、

総右衛門「ふぉふぉふぉふぉ♪」

嬉しそうに笑った。

最後になった総右衛門の茶碗などの洗物を終え、仁は満優の手伝いをしに屋上へと上がる。

妙にこの生活が楽しい仁。

心は両親と暮らした記憶が無い‥母を生まれてすぐに亡くし、2歳の時には父も。

それ以来ずっと兄・仁との2人暮らし。

でも、仁には両親と暮らした記憶がある‥楽しい思い出があればあるほど、

妹・心とはまた違った寂しさは募ってゆく。

その寂しさに耐えながら妹を育ててきた。

胸のうちに悲しみも寂しさも不安も抱えながら。

しかし‥今は違う。

伝助もいる、総右衛門も、源左衛門も。

何より、愛理、孝太、信代‥そして満優がいる。

毎日が楽しい‥。

満優と食事の献立を考えたり、満優と一緒に家事をこなしていき、

満優と一緒に笑い、満優と一緒に喜び、満優と、満優と、満優と…。

彼はまだ自分の気持ちに気付いていない。

目は彼女を追う‥耳は彼女の声を捜す…。

必死に今まで突っ走ってきた彼にとって、それは初めての感情…

だから彼は戸惑う‥戸惑いながらも、ともに過ごす時間に喜びを感じる。

勇護‥避けては通れない存在。

精霊‥忘れてはいけない事実。

仁「でも、そんなの関係ねぇ!そんなの関係ねぇ!!」

今頃、おっぱっぴーか?

よくわからない感情はまだわからなくていい。

いつかきっとわかる日が来る。

遠いのか近いのか‥いや、まもなくその時は訪れる…。

けど、今はまだ何故だかわからない感情に、喜びも嬉しさも感じればいい。

楽しい日々を噛み締めればいい‥もう少しだけ‥それぐらい、いいだろう。
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