旧 霊皇戦隊セイレンジャー 1

□第5話・2
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精霊の森 森を抜け、谷へと出る道を侠真は駆けていた。

遠くから聞こえる蹄の音。

侠真「ちっ、騎馬隊か」

森を抜け出たところで、侠真は騎馬隊に取り囲まれた。

侠真「隊長があんな目にあったってのになぁ‥忠義も結構だが

耐えて忍んでばかりも男の恥ってな!」

戦闘態勢。

剣や槍を手に騎馬隊が周りを囲む。

侠真はスゥと息を吸い込み‥

侠真「行くぜぇぇぇ」

いっきに吐き出すと殺気と気合がこもる魂力を放った。

たじろぐ馬達。

中には振り落とされる者もいる。

たじろがぬよう、馬に命じるものの怯えた馬たちは言う事を聞かない。

騒然とするあたりを無頼が駆け巡る。

乗りし馬たちが怯え、態勢が崩れた騎馬隊たちにはなすすべもない。

窮地に陥る。

侠真「命が惜しいやつぁどきやがれっ」

飛んでくる人参型の手裏剣。

無頼で叩き落す侠真。

侠真「源左か!」

ある決意を胸に、満優より一足早く駆けつけた。

源左衛門「侠真様、槍をおひきくださいませ。これ以上同胞を‥ご自身をも傷付けて
なんといたしますっ」

侠真「源左、言うな‥俺の気は変わりゃあしねぇ‥王にも友である勇護にも
刃を向けたこの俺だ。

とまらねぇ気性なのはおめぇも知ってるだろう‥おめえは、凛雫とよく似てる奴だからな」

源左衛門「侠真様‥やはり無理と。ならば、満優様が来る前に我が手で葬るまで。
悲しみをこれ以上広げさせる前に」

殺気に包まれる源左衛門。

侠真「へへ‥そうこなくっちゃな。源左、嬉しいぜ‥憎まれてもかまわねえ‥

憎しみをとめるために自分が憎まれてもか‥おめえと飲んだ月見酒‥

旨かったなぁ‥勇護もそうだが‥おめえ漢だなっ!」

唸る無頼‥閃く人参刀。

天高く舞う源左衛門。

しかし、その上を跳ぶ侠真‥

侠真「悪ぃな、槍を使って跳ぶ分俺の勝ちだっ」

強烈な蹴り。

ガードはしたものの、激痛が源左衛門を襲う。

勢いよく地面に叩きつけられた‥が、姿は見えない。

侠真「ちっ」

落下していく侠真の脇をすり抜ける猛スピードの源左衛門。

天空を舞う‥叩きつけられた地面をすぐさま蹴っての跳躍だった。

紅き月と蒼き月‥双月照らす満月の夜は紫の月明かり‥

双月の間に浮かぶ源左衛門。

源左衛門「空中でふたたび跳ぶわけにはいかぬだろう!」

侠真「なにをおっしゃる‥」

無頼を空中で足場にして不安定なものの、僅かながらに跳びあがる。

源左衛門と並ぶ侠真。

侠真「うさぎさんってな!」

強烈なパンチ!

殴られた源左衛門は、お返しとばかりに蹴りを放つ。

侠真の頬を捉え、赤く腫れあがり、唇を切る侠真。

2人は地面へと着地。

源左衛門は人参刀を構え、睨んでいる。

地面に突き刺さった無頼を抜き、クルクルッと回転させて身構える侠真。

2人のにらみ合い‥侠真は笑う。

源左衛門「何がおかしい‥」

侠真「おめえは死ぬ気で俺にかかってくる‥勇護は俺の言葉に迷っちまった‥

どちらも俺の‥大切な友だった‥そう思ってな」

源左衛門「そうだな‥俺の友の1人も‥退くことを知らぬ大馬鹿者だった。

ただの‥愛すべき大馬鹿者だった」

侠真「おめえ、人間に『不良品』だとか言われて、作られて直ぐに処分されかけた‥
だったな」

源左衛門「そんな昔の事は忘れたな」

侠真「人間を守ってどうなる‥俺と一緒に暴れねえか」

源左衛門「断る‥」

侠真「人を守ってこの先どうなるってんだ」

源左衛門「そんな先のことは知らぬ‥知っているのはひとつ。

誤った道へ進む友は、身体をはってでも止める‥それだけだ」

光る人参刀。

侠真「そうか‥なら‥いくぜぇぇぇ」

しなる無頼‥雷のような侠真の動き。

源左衛門「伝助‥総右衛門‥俺が帰らぬときは‥あとは頼む」

疾風と化す源左衛門。

雷の如き武将と風の如き兎の戦い‥紫の夜に。

侠真は身体を右方向に激しく回転させ、無頼の柄尻で源左衛門を撃たんとする。

突進してきた源左衛門は、その柄尻に足をかけて飛び乗ると、無頼をつたって走った。

そして、侠真の顔面へと跳び膝蹴り。

侠真「ちぃぃ」

危うく避けて、過ぎ去る源左衛門の背中へ左足で蹴りを後方に。

源左衛門「くっ」

背中を蹴られ、地面に転がる。

しかし、すぐさま飛び跳ねてからふたたび斬りかかるっ。

侠真「うおぉぉぉぉ」

柄尻を左手で持ち、宙に大きく円を描くように回す。

地面を蹴って跳び退いた‥これでは、源左衛門も近づけない。

侠真「源左、どうしたどうしたっ!もう終わりか!!」

源左衛門「攻防一体か‥しかしっ」

回転する無頼‥一周まわりきるその刹那!

源左衛門は飛び込んでゆく。

源左衛門「ふっ‥見切れば造作も無い事だ」

源左衛門の蹴りが侠真の腹部を捉えた。

侠真「ぐぅ」

口から血を吐いた。

源左衛門「懐に入る‥お前のような得物を持ったものには常套手段だ」

続けて高速回転蹴りっ。

侠真「そうこなくっちゃな!」

蹴りを受けながらも無頼を滑らせて瞬時に短く持ち、突いていく。

かわして蹴り続ける源左衛門。

侠真「えぇぇいっ」

地面についた無頼を軸にしての連続蹴り。

意地と意地のぶつかり合い‥友を思う気持ちの激突。

離れる両者‥が、源左衛門が膝をついた。

侠真「どうやら勝負はもうすぐだな」

源左衛門「俺1人では死なん‥お前を連れて黄泉路を渡ってやるさ」

侠真「へへ‥そいつぁどうかな!」

最後の攻撃へと走る。

源左衛門「伝助‥総右衛門‥許せ!」

駆ける‥覚悟を胸に。

激突!!

侠真「源左ぁぁぁ」

源左衛門「うおぉぉぉぉぉ」

瞬時に拡散する人参型手裏剣。

侠真の身体へ無数に突き刺さる。

侠真「ぐぉ」

突然の攻撃に一瞬、怯む。

その隙を源左衛門は逃さない。

全身の力を込めて‥侠真の胸に人参刀を突きたてた。

ほとばしる鮮血。

同時に、侠真が短く手にした無頼の穂先も‥源左衛門の胴を貫いていた。

源左衛門「侠真‥様」

侠真「源左‥」

まるでスローモーションのように地面へ倒れる源左衛門。

胸に突き刺さる人参刀を抜き、侠真もよろめきながら後ろへ数歩下がった‥

谷底間近だった。

そこへ落馬し、倒れていた騎馬隊の隊士が剣を投げつける‥

払いのける力は侠真に残っておらず、それを避ける‥その数センチ。

足元が崩れた。

侠真の身体は宙へと放り出される‥

光の矢が‥満優の放った白夜の矢が、矢尻に白い魂力を帯状に発しながら飛んでくる。

その矢を掴む侠真‥満優の体が光り輝く‥魂力を開放していた。

強くなりたい‥力さえあれば‥友への情けも断ち切る力が‥侠真の胸に去来する想い。

満優の優しさ‥矢にのびる帯‥それを掴んでしまう己の弱さが侠真自身を傷つける。

左手に握る、魂力を変化させた光の矢と帯‥侠真の身体は今、その帯ひとつで
命を繋いでいた。

手を放せば奈落が口を大きく開けて待っている。

満優「侠真様」

必死で支えようとする‥しかし、隊士たちは剣を手に向かう。

満優「なりませぬ!手を出してはならぬ!!これは霊皇・満優としての命です。
剣を退くのです!!」

叫ぶ満優‥しかし、満優ひとりでは支えきれない‥と、言って隊士たちに
助けを求める言葉もない‥剣を退かすことでさえ、無茶なことだと承知はしていた。

満優「侠真様‥」

崖へと引きずられ始める満優。

このままでは‥その時だった。

侠真「俺は強くなってやる!誰にも負けねぇ男になって、
守ってやりたい奴をきっちり守れるように!

気にいらねえ奴は叩きのめせるように!!

誰も守れねえ、誰もが泣くこんな世界‥ぶっ壊してやるぜぇ!!」

そして、侠真は光の矢を放り投げた。

満優「いやぁぁぁ」

その声で気を取り戻す源左衛門。

源左衛門「侠真様!」

しかし、身体は思うように動かない。

侠真は‥笑い声を残して谷底へと消えていった。

逃れた想真は王家とは距離を置き、人間の世界を粛清するべく準備を始めた。

しかし、王家の知るところとなり、捕らえられ、幽閉される。

侠真の亡骸を捜索したが、発見には至らなかった。

想真は「息子は生きておる‥生きてさえおればよい」

うわ言のように呟いていたという。

凛雫は‥あの騒ぎの中、何処ともなく姿を消した。

真忍を弔い、侠真の姿を懸命に捜していたと見かけたものは言っていたが‥
その後、姿を見たものは誰一人もなかった。

ただ‥真忍がはめていた「愛の花のクリスタル」で出来た指輪と、
鍛錬の折に、侠真の使っていた手ぬぐいを胸に抱いていたと言う。

源左衛門は助かっていた。

「侠真様‥最後まで本気を出さず‥急所も外していた‥」

悔しそうに‥伝助と総右衛門に呟いた。

満優は‥救うことが出来なかった自分をひどく責めていた。

勇護はそんな満優を慰め、癒していた‥精霊と人間‥己が心に迷いが生まれていたが。

やがて‥妖霊と化した想真‥憎魔は精霊族を攻め入り‥
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