旧 霊皇戦隊セイレンジャー 1

□第6話・2
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心「あ、お兄ちゃんっ」

満優「おかえりなさい、仁さん」

瞳に浮かんだ涙を覚られないように、慌てて拭う。

仁「ただいまぁ‥あー重っ」

疲れているようで、その場に座り込んでしまう。

満優「仁さん、ダメですよ。そんなところに座ったりしたら」

心「そーだよ、お兄ちゃん!さっさと立って、奥に行くの!!」

座っている仁を無理やり立たせようと追い立てる。

仁「わ、わ、‥なんだよ心っ。なに怒ってんだぁ」

渋々と立ち上がる。

心「なにも、うにもないよっ。満優姉ちゃんばっかり、お仕事させてさぁ」

ぷぅと頬を膨らませた。

仁「え?あぁ‥ごめんごめん」

心「お返事とごめんなさいはしっかりと1度っ。もぉ、お兄ちゃんったら。

それに、わたしにあやまってたってダメなのっ。満優姉ちゃんにちゃんとあやまってっ」

仁「わかったよ‥わかったてば」

ずいぶんと怒っている心に手を焼き、苦笑いする。

仁「ごめんね、姫さん‥ちょっと手間取っちゃって。

このお詫びとお礼はこんど必ずするからさ」

ニッコリと笑顔で言った。

満優「いえ‥ホントは私も楽しかったんです。いろんなお客さんとお話して、
作ったものを食べていただくって、とても素敵なことですわ」

仁「ホント!?じゃ、また代わってもらおっかなぁ♪」

心「お兄ちゃんっ」

仁「じょ、じょーだんだって」

満優「喜んで、お手伝いさせていただきます」

仁「あんがと、姫さん。それとさ、何がいいか考えててね」

満優「え?」

仁「お詫びとお礼だよ♪なにしていいかわかんねえしさ‥だから、なにがいいか
リクエストがあったらなんでも言ってよ。

俺、女の人になにしたら喜んでもらえるかなんてわかんねえし…アハハ」

満優「そうだ‥でしたら…連れて行ってもらえますか」

仁「どこどこ?」

満優「遊園地‥1度行ってみたいと思ってたんです。

ですから‥日曜日‥いつかの日曜日によかったら遊園地へ連れて行ってくれますか?」

仁「ゆ、遊園地ねぇ‥」

仁の胸は高鳴った‥

や、やべぇ‥これはっ…これはもしかすると、ひょっとすると‥
で、伝説の遊園地デートってヤツじゃねーのかっ!?

妄想が爆走をはじめる。

満優「ダメですか?」

不安げな表情を見せる。

や、やっぱり‥可愛い‥すっげぇ可愛い!いや、可愛すぎる!!

行けぇぇぇ俺!かっとばせぇぇぇぇぇ俺!!

仁の頭の中はもう、誰にも見せられないほどに、妄想が暴走していた。

仁「う、ううんっ‥べつにダメじゃないよっ。休みは日曜日も店だし‥

あっ!いやいや、日曜日は店も休みだし‥お、おっけーだよ、遊園地」

やったぁぁぁぁぁ!!ホームランだぁぁぁ!

父ちゃん、母ちゃん、俺やったぜっ。

ホームランを‥とびっきりでっかいホームランを打ったんだぜぇぇぇ!!

いぇいっ♪

こころのなかで、仁のヒーローインタビューが始まった。

満優「よかったぁ‥嬉しい」

もう、倒れてしまいそうなほど感激している仁。

カメラのフラッシュが瞬き、歓声が称えてくれる‥気がしている。

満優「よかったですね、心ちゃん。これで日曜日は3人で遊園地ね」

心「やったぁ♪」

楽しそうな声をしている‥楽しそうだ。

やったぁぁぁぁぁ!!ホームランだぁぁぁ!

父ちゃん、母ちゃん、俺やったぜっ。

ホームランを‥とびっきりでっかいホームランを打ったんだぜぇぇぇ!!

って思ったら‥特大ファールだったよ‥父ちゃん‥母ちゃん‥ああっ。

ヒーローインタビューは‥延期のようだ。

仁「そーいや‥今朝言ってたもんな、心。遊園地に行きたいって」

はしゃぐ心‥楽しそうに、満優と笑いあう。

そんな2人の姿を見て

仁「ま‥これも有り‥だな」

と、微笑んだ。

居間へと嬉しそうに入っていく心。

満優は振り返り

満優「ありがとうございます、楽しみにしていますからね。

そうだ‥ねぇ、仁さん。

その日はやっぱり、お弁当を作って行きましょうね。

私が作りますわ‥サンドイッチがいいですか?

それとも、おにぎりのほうがいいかしら?

から揚げに卵焼きに‥タコさんウィンナーは外せませんわね」

とても嬉しそうな満優‥そんな満優を見て仁は幸せだった。

少し頬を赤らめながら

仁「必ず行こうね‥どうせだから、サンドもおにぎりも作ってさ♪手伝うし」
と言って笑った。

満優もウンと頷いて微笑む。

満優「それで仁さん、愛理さんのお母さんには会えたのですか?」

仁「うん!ばっちり。姫さんが店番してくれたおかげだよ」

満優「そうですか‥よかった」

そんな2人の様子を厨房にいた源左衛門は黙って、見守っていた。

見守ってはいたが‥

源左衛門「‥‥‥しまった…いつ出て行っていいものか‥」

それが問題だ。


直人が住むアパート

2階・左端の1室から、豚汁の美味しそうな匂いが漂っている。

キッチンには、エプロンをかけた櫻子が立っていた。

直人はまだ、帰宅していない様子。

結婚したら、とりあえずは櫻子もこの部屋に越してくる。

すでに、いくつかの荷物は運ばれているようで、
2人ではちょっと手狭だが、それもまた楽しいものだと櫻子は思う。

そして、いつか2人で小さいながらもマイホームを建てよう‥それが直人と櫻子の夢。

そんな部屋の外での出来事。


直人が住むアパート前

「キュルキュルキュルキュル」不気味な声が聞こえる。

声の主はツクモ神・妬絡(とがらみ)。

虚ろな目をした、トカゲの如き異形のものは、音も無く直人の部屋へと忍び寄る。

壁をはいずり、窓から部屋を覗く‥

幸せの匂いを嗅ぎつけ、その香りの中にいる者を抹殺するために‥。

妬絡「キュルキュルキュルキュル」

舌先を鋭く尖らせて、部屋の中の櫻子に狙いを定めた。

今、まさに凶器と化した舌を放たんとしたそのとき、何者かの腕が妬絡を引っぱる。

抵抗しながらも、地面に落下する妬絡。

夜の帳に隠れるその影は、続けざまに妬絡の動きを封じようとする。

妬絡「キュルキュルキュルキュル」

怒りに震えるように、妬絡は影に応戦した。

2度‥3度‥激しく交差する。

妬絡の舌が影の腕を捉える‥影は唸り声を発した。

月の光が差し込み、影の姿を浮かび上がらせる‥キラキラと月光が乱反射し、
ガラス細工のような姿のモンスターが現れた。

妬絡とガラス細工のモンスターはもみ合っている。

そんな2体の間に割ってはいる魂力弾‥

伝助「月夜に蠢くモンスター‥なんや、さっき観たDVDみたいやな‥」

レンタルDVDを返却しに行った帰りの伝助‥

福福への帰り道、偶然にこの現場に通り合わせたらしい。

ぼやきつつ、戦闘態勢を取る。

妬絡は唸り声を発している。

ガラス細工のモンスターは、伝助には目もくれず、妬絡を制しているかのよう。

伝助「そうやっ‥テストも兼ねて実戦投入やっ」

伝えまフォン・赤を取り出して、ポチっと短縮ボタンを押す。

ディスプレイが輝き、宙に武装データを転写。

そのデータは実体化すると、一振りの刀となる。

白を基調として肉球柄の鞘に真っ白な柄、深い黒色をした装飾がある。

鞘から抜き放ち、柄尻を左手に持つと切っ先を天へ突きつける。

伝助「僕が作った業物、笹葉魂撃守國景(ささのはこんげきのかみくにかげ)‥

万年溜めの雪水に清めて、僕にはおめえと言う、

あっ、強い味方が‥あぁったのだぁぁぁ」

国定忠治よろしく、びしっと決める伝助。

まんまる月夜に映える名刀・笹葉魂撃守國景‥伝助専用・剣撃武器。

まぁ、それっぽい名前を付けた伝助印の刀‥
はばきと呼ばれる刀身と鍔の間の金属部分に堂々とした肉球マーク。

刀のサイズは伝助スケールに合わしてある。

刀身や柄、鞘には各種センサーを搭載しており、
いざと言う時のレーザー銃やビーム砲、ミサイルを内蔵。

最大パワー時は、刀身が橙色に輝き、切れ味は格段に跳ね上がる。

しかし‥よくよく考えると凶悪な武器のような気がするが‥。

侠真が現れ、また魔恐の存在も知るところになった今、
これまで以上に戦いが激化すると判断。

伝助たちも更なるパワーアップが必要と、新装備を開発していた。

仁たちには『まずは己の精進からやっ』などと言っていたのだが‥
ちゃっかり自分のために作っておいた‥それがこの刀である。

抜いた白刃を1度、鞘に納めた。

伝助はこの刀を手に、催眠学習を活用したり、
1週間の効果的なメニューが収録されているDVDを観ながらの
トレーニングに励み、「吉宝来来流(きっぽうらいらいりゅう)」と言う名の、
居合い+薩摩示現流のような速と剛の剣術を編み出した‥らしい‥ホントなの?伝助。

伝助「ふふん♪」

伝助は不敵に笑う。

そんな伝助に襲い掛かる妬絡‥抜刀せんと構える伝助だったが、行く手を阻むように
妬絡の行く手をさえぎるガラス細工のモンスター。

伝助「なんや?‥トカゲとガラスのケンカかいな?」

伝助は走るっ。

妬絡に刀を納めたままの鞘で一撃っ、
後方へ倒れた妬絡をガラス細工のモンスターが押さえ込もうとする。

妬絡「キュルアァァァ」

痛みと怒りを含んだ声が、夜の帳をつんざく。

伝助「うーん‥ケンカやのぉて、ガラスはんは、トカゲを止めとるっちゅーか‥
ま、僕に敵対する気はないっちゅーこっちゃな」

ガラス細工のモンスターの様子を注視しながら、笹葉魂撃守國景の鯉口を切る‥

伝助「ちぇすとぉぉぉ」

気合もろとも、鞘の中より刃を走らせて、妬絡へと閃かせる。

「腕はしなる竹のように‥一撃は砕く鋼のように」

吉宝来来流・極意「笹かまぼこ」‥って、伝助が紹介してくれと。

嵐を巻き起こすかのような旋風と電撃の太刀筋と一撃。

肩口を大きく斬られ、苦しむ妬絡‥追い詰める伝助とガラス細工のモンスター。

双方の攻撃を受け、劣勢を察知してか‥
妬絡は櫻子がいる部屋をジロっと1度睨み、続けて目くらましの爆破を起こして退却した。

伝助「眩しっ!あぁっ、しもたっ!トカゲ、逃がしてもぉた」

キョロキョロと辺りを伺うが、姿は見えない。

すると、そんな伝助の背後でガラス細工のモンスターは、
アパートへ向かって悲しげな叫びを発した。

伝助「なんや?あのトカゲもガラスはんもあの部屋ばっかり見てはるけど‥
なんかあるんやろか?」

トカゲに似たツクモ神にガラス細工のモンスター‥共通してみるわ
2階・左端の1室‥。

あまりの騒ぎにアパートの住人が部屋の中から飛び出してきたようだ‥櫻子の姿もある。

伝助「あかんっ隠れな‥ん?‥ガラスはんは‥」

叫んだあと、猛スピードで去っていったようだ…
あとに桜の花びらがはらはらと舞っていた。

伝助「訳ありっちゅーやつか‥あのお姉さん」

物陰に身を潜めながら、ガラス細工のモンスターが残していた目線の先‥

騒ぎに不安を感じてか、部屋から飛び出て外の様子を見ている櫻子の姿を見つけ、
伝助はなにやら思案していた。
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