旧 霊皇戦隊セイレンジャー 1

□第6話・3
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妖霊城

魔恐はバラ水晶の玉に映し出されるインガと妬絡を見ていた‥
一糸まとわぬ姿で褥に寝そべりながら。

傍らにはジャシン。

魔恐「狂え狂え‥あっははははは。

怒り狂い、泣き狂い‥うふふふ‥くるくると狂え‥憎悪に狂い、みぃんな狂い死ね。

あははははは‥ジャシン‥お前は私に狂え‥この身体に狂え。

狂ったもの同士‥ともに悦楽の地獄へと堕ちようぞ」

妖しくまねく艶やかな肌。

その肌はくねくねと波打ち、やがて魔恐はジャシンの胸に口を這わす。

侠真「お楽しみのところ悪ぃがな!」

扉を蹴破って部屋の中に入ってくる侠真。

魔恐は乳房を隠しもせずに

魔恐「まぁ、あに様‥一体何の御用ですか‥血相までお変えになって」

と、妖艶に問う。

ジャシンは乱れた髪を簡単に結わえ、薄絹の衣を羽織る。

ジャシン「これはこれは若様‥ちとお戯れがすぎましょう。

さ、魔恐様」

魔恐にも衣を着せ掛ける。

侠真「おめえたち、カルマに何しやがった‥なんであいつがあんな力を持っている!

てめぇら‥それに、インガに何を吹き込んだ!

ツクモ神にあれ以上、怨・魂力を注ぎ込んでどうしようってんだ!!」

魔恐「そんなことを聞きにいらしたの?あに様。

なぁんだ、つまらない」

ジャシン「魔恐様に成り代わってお答えいたしましょう。

今までの戦いでわかったことは、ツクモ神のあきらかな力不足‥
想いを狂わせるといいますが‥そんなもの、狂うというほどのものではなく。

そこで‥力が足りぬなら、さらにその力を増すように力を与えればよいと‥ククク。

千々に乱れ、真に狂い、狂乱の心理に入ってこそ、想いはその苦しみから解き放たれる」

魔恐「わたくしの力を与えたのですわ‥つまらぬ想いなど吹き飛ぶような‥そう、
狂気を与えてやったのです‥うふふふ‥狂うことでその身に秘めた真の力を発揮する。

人も心も精霊もね‥あっはははは」

侠真「真‥魔恐!てめえっ!!」

ジャシン「若様‥カルマはインガを慕うからこそ手助けに赴いたまで。

私はそんな男心に感服して、カルマに魔恐様のお力を授けました。

一途な恋と言うものですか‥クク、インガがよほど、亡くした許婚に似ているのか‥

おかげで少々しらけてしまいましたがね‥ククク。

奴は惚れた女を助けに行っただけのこと。

もちろん、インガにも渡しておりますよ‥魔恐様の茨を。

己が身体に刺す事で、秘めたる力を解放する素晴らしき茨‥ククク、

それが妖霊族繁栄の得策でございましょう?

霊皇どもを抹殺するための‥ククククク」

侠真「黙れ!そんな力などいらねぇ!!そんなもんが何になる!?

命のやり取りに、狂うも何もありゃあしねえんだ‥想いと想いが‥
魂と魂がぶつかりあう‥それが戦いだ!」

ジャシン「それはただの喧嘩‥こどもの喧嘩にございますよ‥侠真様‥クククク」

紫水晶の槍、無頼を大きく振ってジャシンの首を薙ぎにゆく。

その穂先を舞うようにかわすジャシン。

銀髪が軽やかに揺れる。

侠真「ジャシン、てめぇ!」

その侠真を魔恐の薔薇水晶の鞭、紊乱(びんらん)が襲う。

侠真は紊乱を無頼で弾き返すと、一気に間合いを詰めて
両手に持った無頼の柄で、魔恐の首を強く押す。

侠真「調子に乗ってんじゃねえぞ、魔恐!!」

魔恐「ぐっ」

その態勢のまま壁に押し付けられ、喉を柄で締め上げられる。

ジャシン「悪ふざけがすぎましょう、侠真様っ」

冷たき長柄の鎌・賢愚で斬りかからんとするジャシンを蹴り倒し、
なおも魔恐を締め上げる。

侠真「妹だ、真忍だって言い張るなら、ちったぁおとなしくしときやがれ!」

魔恐「ぐぅぅ」

苦しさに顔が歪む‥そして‥

魔恐「あ、あに様‥苦しい‥いや‥死ぬのはもう‥いや‥あに様」

哀願する表情‥切なげな声。

すべてが侠真の胸に衝撃を与える。

愛しい者‥愛すべき妹‥真忍の可愛い笑顔が、無邪気な笑い声が侠真の中を駆け巡る。

次の瞬間‥締め上げる手が緩む。

魔恐「うふふふ‥甘いのね、あに様」

紊乱がしなり、侠真の背中を激しく打ちのめす。

侠真「ぐぁ」

倒れるのを踏み堪える侠真だが、かなりのダメージの様子。

続く2撃目を無頼で叩き落すと、魔恐へと鋭い突きを放つ。

穂先を阻む賢愚の刃。

凛雫「魔恐様!」

騒ぎを察知し、駆けつける凛雫。

侠真「邪魔だぁぁジャシン!」

無頼を振り抜き、ジャシンの胴を叩きつける。

ジャシン「うがぁ」

口から血を吐き、後ろへと吹き飛ばされて倒れる。

魔恐は動じず、侠真を見据えていた。

侠真は無頼を高々と振り上げて、魔恐目掛けて叩き下ろす。

ガシーン‥凛雫の仕込み刀・久涙がそれを阻む。

凛雫「お引きください、侠真様」

侠真「凛雫っ、とめるんじゃねぇ!たとえおめぇだろうと、邪魔するやつはぶちのめす!!」

凛雫「魔恐様をお守りするわ、我が使命。たとえ侠真様とて、お手向かいいたします」

侠真「やるってんならかかってこい!命が助かると思うなよ!!」

凛雫「もとより命は捨てておりますれば!」

魔恐を守るため、命を賭して挑む覚悟は出来ている。

それが凛雫の決意‥では‥その想いは?

凛雫「うおぉぉぉ」

駆ける銀色の流星。

侠真「なら死にやがれぇ!!」

無頼を回転させて勢いを生み出し、渾身の一撃を見舞う。

残像を残して消える凛雫‥無頼は床を打ち砕いた。

粉々に砕かれた床が飛び散る中、凛雫は侠真の頭上の宙に姿を現す。

久涙を構えて斬りかかる。

凛雫「間合いを詰めればこちらのもの」

侠真「させるかぁぁ」

床を叩き砕き、食い込む槍の柄を利用して侠真は頭と足を逆さまに飛び上がる。

宙より襲う凛雫を迎え撃つ侠真の蹴り。

凛雫は宙で態勢を入れかえ、その蹴りをかわして着地する。

侠真は駆け上がった反動で食い込む槍を抜くと着地し、続けざまに突きを繰り出してくる。

凛雫はその突きを避けていく。

ジャシン「ほぅ‥やりますねぇ‥凛雫」

壁にもたれて座ったままのジャシンが呟いた。

凛雫は格段にパワーアップしていた。

真忍へその身に宿るすべての怨・魂力を注ぎ込み、
甦った魔恐の怨・魂力を新たに受けて甦生した凛雫。

悼痛の影から流星へ‥跳ね上がった力の矛先はなぜか今、侠真へと向けられている。

倒すべき敵、霊皇‥セイレンジャーへではなく、想いを寄せる侠真へと。

なぜ?

命を賭して真忍を守るが凛雫の望み。

そして、命を捨てられるほどに愛しい想いは侠真に。

なぜ、今‥剣を交えなければいけない?

影から流星へと生まれ変わったと言え、以前の自分で無い事は嫌と言うほどわかっている。

もう、あの頃には戻れない‥そんなこともわかっている。

戻れないとわかっているからこそ、侠真の目さえまともに見れない自分がいる。

抱いた淡い恋心も、思い描いた幸せもすべては脆く崩れ去る。

死して生きながらえているこの身を呪う‥穢れたこの身を‥。

侠真「でやあぁぁ」

最速の一撃を受け止める凛雫。

侠真は見る‥受け止める凛雫の顔を‥
感情を殺し、凍りついた仮面のような表情に不釣合いな涙を。

瞳から零れ落ちる想いの雫を。

侠真はトンと軽く凛雫を押し返す。

殺気が萎んだのを感じ取った凛雫は黙ったまま久涙を鞘に収めた。

侠真「魔恐、ジャシン‥よく聞け!おやじがどうかは知れねえが、
この俺様は惑わされねえぞ。

感じるんだよジャシン、てめえからな。

怨みも怒りも悲しみもねえ、憎しみも感じられねえ‥。

おめえはいってえ何もんだ!?

わかっているのは、てめえは腹ん中で何考えてるかわかりゃあしねえ
イカレた野郎ってことだけだ!

真忍の姿に似せた人形に命を与え、おやじをそそのかすおめえが許せねえ。

魔恐に取り入り、力をその手にして何企んでやがる‥これだけは言っとくぞ‥
俺の前に立ちふさがるやつは誰であろうと容赦しねえ‥誰であろうと貫き殺す。

魔恐、てめえもだ!せいぜい、俺様の無頼の錆にならねえように気をつけるこったな!」

血走った目でジャシンや魔恐を見据える。

魔恐「おぉお、恐ろしや‥あっははは‥ご忠告、感謝いたしますわ、あに様」

ジャシン「クク‥勇護といい、侠真様といい‥

どうやら私は誤解を受けてしまうようですねぇ‥クククク」

魔恐「ジャシン、部屋が穢れた‥閨を移るぞ」

ジャシン「は、仰せのままに‥では若様、失礼いたします‥ククク‥ふっははは」

部屋の中に立ち込める深い霧‥その霧の中をジャシンは魔恐の手を取り去っていく。

立ち去る2人の背中を睨みつける侠真。

凛雫は侠真に‥声をかけようとしてその言葉を飲み込み、黙ったまま部屋を出て行った。

侠真「凛雫‥てめえの幸せを考えろと言ったものを‥バカなヤツだ。

セイレンジャーか‥へへ、あの女…愛理のやつはまた暴れんだろうなぁ‥はははは。

俺様も行ってパッとやりてえが‥ま、今日はやめとくとするぜ。

女の恨みを使うなんざ気に食わねえからな‥インガはカルマに任せるとして‥
愛理、おめえは俺様がモノにするか殺るかのどちらかだ。

それまで負けるんじゃねえぞ‥はははは」

腰にぶら下げた徳利を手にし、グイッと酒を侠真は飲んだ。
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