旧 霊皇戦隊セイレンジャー 2

□第11話・1
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「霊皇戦隊セイレンジャー」第11話
     「愛してくれますか?」

2009年9月

都内・マンション

その日は雨だった‥9月初旬、残暑だ 寝苦しい夜だと言っても
やはり夜風は身にしみる。

そのマンションの7階‥月も隠れて、暗いベランダの隅で10歳くらいだろうか‥

少女は独り、小さくうずくまっていた。


マンション前

ジャシン「ククク、これはこれは‥使えますね」

手から、怨・魂力の塊を解き放つ。

陰鬱な雨の夜は更けていく‥。


商店街

福福の近所の商店街。

一夜明けても、まだ雨が降っている。

雨を逃れて、アーケードの中を仁と満優が歩いていた。

満優がクッキーを焼くので、今日は材料などを買いに仁もいっしょに来ている。

仁「バターとグラニュー糖は福福にあったし‥薄力粉は買ったでしょ‥あとは」

返事が無い‥満優はショーウインドゥを見つめて、ボゥッとしていた。

仁「姫さん?」

満優はまだ気づかずに歩いている。

心ここにあらず‥まさに、そんな言葉がピッタリ。

この20日あまり‥ずっと何かを考え、ともすれば思いつめたような様子が続いている。

原因は、仁にもわかっていた。

雪明りの結晶の宝珠‥愛の証として、勇護にわたした思い出の宝珠を
大切に持ち続けていた。

そのことから起きた、満優の心の波紋‥

けれど、それを問うことも責めることも出来ない。

満優と勇護‥2人にしかわからない時を、いくつもすごしたのだろう

『過去』に嫉妬しても、戸惑ってみても‥どうしようもない。

それをわかっている仁は、見守っている。

そして‥満優がどちらを選ぶのかも、仁は見守っている。

『どっちを選んでもかまわねえさ‥姫さんが幸せになってくれれば‥それでいいんだ』

満優「あ‥すみません、ボーっとしてしまって。

なに‥でしたでしょう?」

仁「えっと‥あとなにを買うんだったっけ?」

満優「あっ、クッキーの材料でしたわね。

バターとグラニュー糖は‥」

仁「それは福福にあるって言ったよ」

満優「えっと」

仁「薄力粉も買ったし」

満優「そ、そうでしたね」

仁「だいじょうぶ? 具合でも悪い?」

満優「いいえ、なんでもありません‥ごめんなさい」

『原因なんか知ってるのに‥』自分の意地悪さを恥じる。

困った様子の満優に

仁「いやいや、別に気にしなくていいよ。

なんかほしいものでもあったの?‥あったら言ってね♪

ジャンボジェット機以外なら、なんでもプレゼントするから」

意地悪な自分への恥ずかしさも手伝って、ちょっと、おどけて言ってみる。

満優「そんな‥ありがとうございます

そうだ、でしたら‥」

仁「ん? なんでも言ってね、一戸建て以外♪」

満優「あら? さっきは飛行機以外っておっしゃったのに」

仁「やっべ♪覚えてた」

クスクスと笑い満優を見ると、仁の胸は苦しくなる。

愛しい‥それをみすみす手放すかも知れないような真似をして‥

『この大バカッ!!!』愛理の怒鳴り声が聞こえてくるようだ。

満優「好きなお方と暮らすのでしたら、どこでもいいんですよ。

わらのお家でも、木のお家でも‥」

仁「レンガのお家でもいい?」

満優の笑い声が、心地よく弾む。

満優「そうそう、あと足りないものはチョコチップですわ」

仁「チョコチップで出来た家?」

満優「もう」

頬をプクっと膨らませ、次にまた笑い声が弾む。

満優「伝助たち、チョコチップ入りのクッキーが食べたいとかで」

仁「あいつら、ぬいぐるみなのにチョコのしみとかついてだいじょーぶなのかな」

2人が話しながら歩くアーケードの中‥通り過ぎたコーヒーショップの店の中。


コーヒーショップ

そんなに広くはない店内。

カップルが一組と、近所に住む主婦たちが4人で座り休んでいた。

『ねえねえ、今朝のアレ観た?』

『この前の氷河期テロのこと?』

先月‥ツクモ神・氷情によって雪に覆われた都内の出来事は
政府の見解、各マスメディア報道で
どうやら未知の新型兵器を使用した『テロ』と見られているようだ。

『違うわよ、出来ちゃったってヤツっ』

『ああ、ナントかって歌手の出来ちゃった婚でしょ』

『そうそう、イヤラシイわよねぇ。

避妊ぐらいすればいいのに。

その子の相手の俳優さん、私 好きだったんだよ 幻滅しちゃった』すると‥

女「この前までドラマやってた子でしょ。私も好きだったのにぃ」

この女性は『今井 敬子』34歳の主婦。

10歳の長女と7歳の長男、そして夫と4人暮らし。

『子供って言えばさぁ‥そのあとの特集かなんかでね、海外の‥どこだっけなぁ‥

忘れちゃったけど、貧しい国があってね』

『あ! それも観た観た。人身売買ってヤツでしょ』

敬子「人身売買? なにそれ」

『なんでもね、よそんちで働くようにって、お金で子供を売るんだって』

『うそぉ、信じらんない』

敬子「ねえ」

『あとさ、虐待のニュースもあったよね』

敬子「虐待? どこで」

『うーんと‥栃木だったけ‥1歳にもならない子をさぁ、壁にたたき付けたんですって』

敬子「うわぁ‥ヒドイ。

自分が生んだ子でしょ‥よくそんな事できるわよねぇ。

許せない」

『だよねぇ。1歳にもならない子をにさ、よくそんなヒドイことできるよね』

『そうだ、虐待っていえばさ‥木下さんちの奥さん、怪しくない?』

『なにが?』

『いやねぇ、虐待の話し してたんでしょ』

敬子「うそっ!? あの奥さんが」

『おとといさぁ、イカの特売あったじゃない。

あの日にスーパーに行ってたわけよ』

敬子「あのイカ買ったの? 私んところ、売り切れで買えなかったぁ」

『スタートダッシュが大切よ』

『ちょっとちょっと、イカの話はあとあとっ』

『お菓子がほしいとかで、下の子が泣いてたのよね。

そしたらさぁ 木下さんてば、目なんか吊り上げちゃってさぁ

昨日も買ったでしょっなんて怒鳴る怒鳴る』

『うわぁ、怖―い』

『なにもそこまで怒鳴らなくても‥みたいな』

『旦那さん、稼いでないの?って感じよね』

大声で笑う4人。

敬子「あっ、もうこんな時間‥ごめんね、帰らなくちゃ」

『拓真くん、帰ってくる頃よね』

敬子「ええ、帰ってドーナッツ揚げないと」

友達に挨拶をすると店から出て、家路を急ぐ敬子。

敬子が走り去るのを見届けて

『ねえねえ、敬子さんもさぁ』

『怪しくない?』

『言えてるぅぅ』

そうヒソヒソと話した後、3人はまた大声で笑った。


妖霊城

玉座に座る憎魔の隣に、ジャシンと魔恐が立っている。

その前に跪くインガとカルマ。

魔恐「命在は依然、行方知れずのままか」

インガ「追っ手を差し向けておりますが、いまだに何処へ隠れているものか‥

ようとして、行方がつかめません」

魔恐「そうか‥奴が裏切ったというのは真であろうな」

ジャシン「魔恐様は、満優の惑わす言葉によって混乱されてしまい、

意識を失われておりました。

そのとき‥ヤツは魔恐様に対して牙を」

カルマ「信じられぬ‥あれほど魔恐様に忠義を尽くしていた命在が突然‥」

インガ「下っ端は黙ってな!

ほんとうなら、お前は憎魔様の御前に出れるヤツじゃないんだよ!!」

魔恐「インガ、お前こそ でしゃばりすぎであろう」

インガはハッとして、跪いて深々と頭を下げる。

魔恐「カルマは私を、城へと連れ帰った‥お前はそのとき何をしていた?

霊皇に付けられた傷でも舐めていたのであろう。

フンっ、これではどちらが役に立たぬものか、知れているというもの。

力なくば、口をふさげ‥この役立たず」

インガ「ぐっ‥も、申し訳ございませぬ」

ジャシン「クク、魔恐様 インガも立派にオトリを務めましたゆえ、お許しの程を。

インガ、寛大な魔恐様に感謝するがいい」

インガ「はっ‥」

インガは伏せた顔のまま‥唇を噛み締めた。

悔しさがそうさせる。

愛しい男を横取りされ、今また多くの面前で受ける恥辱。

魔恐への怒りと悔しさで、身体が震えそうになるのを必死で堪えた。

憎魔「して将軍、次なる侵攻はすすんでおるか?」

ジャシン「憎魔様、セイレンジャー討伐の計画‥進めております」

憎魔「うむ‥勇護の始末を失敗してからというもの
侠真、凛雫と我らに刃向かう うつけ者どもが後を絶たぬ。

カルマよ、命在の捕獲、処刑を速やかに行え。

取り逃がすな‥魔恐に拾われ、力を与えられたものを裏切るとは
何があっても許しておけぬっ。

凛雫も同罪じゃ‥大馬鹿者の侠真ものぅ‥

勇護、満優、霊皇の小童たちとまとめて
八つ裂きにしても気がすまぬわ!

よいか、なんとしても抹殺せよ。

インガ、お前はジャシン将軍の駒となって、心して働け‥

両名とも、失態は手柄で取り戻すがよい‥命を投げ捨て、我と魔恐に尽くせ」

憎魔は玉座を降りて、王の間の奥へと消えていった。

その足元は、どこか頼りなく‥力が入らないといった様子。

ジャシン「憎魔様、奥でお休みになられてくださいませ」

消えゆく憎魔に声をかける‥ほくそ笑むのを悟られないように。

ジャシン「カルマ‥命在の始末は任せたぞ。

同類相憐れむと、いらぬ情から面倒を起こさぬように‥ククク」

カルマは挑発にのることなく、ジャシンに頭を下げて王の間を出ていこうとした。

魔恐「待て‥命在の始末ならば、私もゆこうぞ。

この手で始末してくれる‥カルマ、供を命じる」

カルマ「はは」

ジャシン「魔恐様、何も野良猫風情の始末にお手を汚さずとも‥」

魔恐「命在は私が力を与え、そばに置いたもの。

主に逆らう罪の重さを思い知らせ、苦悶のうちに息の根を止めてやる‥。

凛雫に続いて命在までとは‥許してはおけぬっ」

ジャシン「お気持ちはわかりますが‥」

魔恐「黙れっ! 何か勘違いしているようだな、ジャシン。

お前を気に入っておるのは確か‥だが、かしずくのはどちらなのか
主はどちらであるかということを忘れるな。

私に指図することは、誰も許されはしはしない‥たとえ、それが とと様であろうとも。

私を支配するのは私自身。

男妾の分際で、私に指図をするでない!

あまり調子に乗るな‥身の相応をわきまえよ!!」

魔恐は強く言い放って、王の間を出ていった。

あとにカルマが続く。

残るジャシンとインガ‥

インガ「ジャ、ジャシン‥将軍‥」

ジャシン「クク、クククク。

身の相応か‥おもしろいことをいう。

主と人形‥確かに身の相応だな。

せいぜい、今は楽しむがいい‥それが主の情というものですよ」

目が妖しく光り、隠そうとしても隠し切れない恐ろしいまでの殺気がまわりに突き刺さる。

インガ「キャ!」

殺気に圧倒されて、思わずよろけるインガ。

ジャシン「行くぞ、インガ」

ニヤリと笑うと、ジャシンはインガを伴って王の間を出る。

ジャシンの中のドロドロとした、得体の知れないものをまざまざと感じ、
後をついていくインガの胸中に、
言いようの無い恐怖が広がっていった、
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