旧 霊皇戦隊セイレンジャー 2

□第11話・3
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都内

学校の生徒たちが集まる避難所を抜けて、琢磨は あゆみの手を引いて走っている。

小さい身体で、あゆみをまるで守るようにして走る‥

あゆみ「たっくん、先生のところに戻ろ?

お母さんも たっくんのこと、心配して来るかも知れないし」

しかし、琢磨は歩みの言葉には耳を貸さず、とにかく危険から逃げるように‥

そんな様子で走っていた。


異空間

ここはジャシンが『天獄‥ヘルヘブン』と呼ぶ空間。

暗く冷たく、陰湿な雰囲気の空間に 侠真と凛雫は倒れていた。

凛雫「ん‥うぅ‥」

起き上がると、目の前に広がっていたのは‥白色と黒色のモノトーンの世界。

花も木も草もあるのだが‥色彩というものが失われていて、
白と黒とが、淡く交じり合う世界だった

侠真も目を覚まし、起き上がった。

侠真「なんだ‥ヘン、ずいぶん陰気なところに来たもんだぜ」

侠真のほうを見る凛雫‥互いに見る姿には、色彩がある。

凛雫の銀色の装束も、侠真の赤髪も、紫水晶の槍・無頼も色彩は輝いている。

凛雫「侠真様、お怪我はございませぬか!?」

侠真「ああ、心配するな。

それより‥とっとと真忍やごん、ねん、伝助たちを探し出して戻るぞ。

こんなところにいたって仕方ねえ‥ジャシンの野郎をブッ倒しに戻らねえとな」

無頼を手にして

侠真「凛雫、ついて来い」

モノトーンの中を歩き出した。

歩き出すと、岩がゴロゴロとしているのがわかる。

そして、鬱蒼とした木々も立ち並んでいるのだが‥青々とした葉があるわけでなく

白と黒の淡い葉が茂る枝‥樹から、生気を感じられない。

まるで‥そう、死体が立ち並んでいるような印象を凛雫は受けた。

凛雫「気味が悪い‥」

背筋を冷たいものが走る‥凛雫は初めて『逃げたい』という気持ちになった。

ここには長くいてはいけない‥悪寒がとまらなかった。

凛雫「ごん! ねん! どこだ‥どこにいる!!」

声は反響を残して消えていく。

ズルズル‥何かが這う音が聞こえる。

侠真「凛雫! 気をつけろよ‥」

何かはわからないが‥ソレが危険なものだということは、わかる。

凛雫「侠真様っ」

近づこうとした瞬間、凛雫の足を何かが絡め取る。

凛雫「くっ」

身を屈めて、その何かを素早く久涙で切り払った。

そのまま前転して侠真のそばへ。

侠真「真貫豪力!」

気配がするほうへ、紫色に輝く光りのドリルを撃ちこむ。

紫の輝きに照らし出せられるのは、大きな口から涎を垂らし、牙を剥いて襲い来る巨木。

まるで血に飢えた獣のような醜悪な樹が、5体はいようか‥木々に身を紛らわせながら
木の根を脈打ちつかせて、今にも食いつかんと向かってきた。

凛雫「バケモノが!!」

久涙の鞘から手裏剣を取り出すと、いっきに魔樹へと投げつける。

幹へと突き刺さりはするのだが、いっこうにダメージは与えられない。

侠真は無頼を回転させて、叩きつけた‥揺らぐ魔樹に、さらに蹴りを。

侠真の背後からスルスルと迫る枝を凛雫は切り落とし、

凛雫「侠真様! ご用心を」

侠真「わかってらあ!」

槍を大地に突いて宙を跳ぶ!

侠真「やっかいだろうが なんであろうが、さっさと倒しゃあおんなじだ!!」

宙から無頼を突き出して落下‥まるで、落雷のように樹を裂いて着地する侠真。

凛雫は久涙の鞘から手裏剣を出して投げる!

幹に深々と刺さった。

凛雫「砕けてしまえ‥」

凛雫の言葉が合図のように、次々と手裏剣は爆発を起こす。

幹が吹き飛んで、崩れ折れる1体の魔樹‥

凛雫「残るは‥!」

凛雫は突然、膝から崩れるように座り込んでしまった。

その隙を突くように、スルリと音も無く他の魔樹たちの枝が伸びて、凛雫の首を絞めた。

凛雫「がっ!」

爆発から逃れた魔樹たちが、次々と枝を伸ばして凛雫を縛る。

2体の樹に手、足、首を絞められ、動きを完全に封じられる凛雫。

残るもう1本の魔樹は、侠真を襲う。

侠真「凛雫ぁ!」

侠真の無頼での一撃は、迫る魔樹を無頼でいとも簡単に粉砕し、
凛雫の救出へと向かった。


天獄内

伝助、ルナ、総右衛門、淑、ごん、ねんの6人が
源左衛門と命在を探して歩いていた。

総右衛門と淑のそばに倒れていたごんとねん‥その後、伝えまフォンで連絡を取り合い
合流したのだが

伝助「やっぱり、ほかのみんなとはつながらへん‥人間世界でも精霊世界でもないんか。
僕らの知らへん異世界ちゅーこっちゃ‥パンダカラーのようで、そうでない世界や。

に、しても めっちゃ さぶっ」

モノトーンに閉ざされた空間に暖かさはなく、凍えてしまうように寒い道を歩いていた。

(ま、ぬいぐるみなので あまり気温は関係ないはずなのだが、気分的な問題だろう)

ねんは『んも、んも(寒い、寒いよぉ)』と文句を言っていた。

源左衛門の位置は把握出来るのだが、特定が出来ず

また、仁たちと連絡がつかない。

ごん「ぶひっ、ぶひぶひ」

伝助が手にする、伝えまフォン・赤を見ながら言っている。

伝助「ん? これほしいんか? せやったら、ごんの分と ねんの分を
こっから帰ったら作ってやるでな」

ごん「ぶひひん、ぶひひん♪」

ねん「んももん、んももん♪」

爆笑付きの大喜びの舞い。

総右衛門「これこれ、ここがどういう空間かハッキリしないとというのに
あまり気を抜いておるでない」

伝助「お前らにやらへんと、すぐに『ぶひっとフォン』とかゆーて、
パクリそうやからな。

それはそうと、総右衛門の言う通りや。

一応ここのデータは取っとる最中やで、帰ったらすぐに調べなアカン‥

しっかし、ほんまに薄気味悪いとこやなぁ」

彩を失っている大地に、淡い白黒の鬱蒼とした木々たちが立ち並ぶが‥

まわりのものから、生きていると言う事がまったく感じられない。

伝助「テレビのセットや舞台の大道具みたいや」

ねん「うんもも、んもーも」

総右衛門「これこれ、樹がゾンビみたいになって襲ってくるかもなどと‥
冗談はやめておけ。

そもそも、根を張る樹木がホイホイと動くわけなかろう」

ごん「総右衛門さんは、そういうところは現実的に考えるふびっ」

淑「それもそうですわ‥私たちの存在自体が、ふぁんたじーでございますものね」

ルナ「でも‥気をつけるに こしたことはないと思います。

この空間に感じる空気は‥まるで地獄か魔界か‥とにかく、邪気が充満しています」

伝助「ジャッキーがフルチャージな空間なんて、最盛期の香港映画みたいやな‥

みんな、ごっつパワーがある空間かも知れへんで、

何があってもおかしゅうないっちゅうわけや‥ボチボチ気ぃつけや」

あれほどルナが心配しているにもかかわらず、

『ボチボチ』などと、関西の定番挨拶に使われるようなフレーズを使って
超楽観的に歩く一同の後ろで‥ズルズルズル‥。

一同はハタと足を止める。

伝助「ルナ‥なんやろか‥なんや、ズルズルズルって‥

おそば食べてるような音せえへんかった?」

総右衛門「若っ‥その表現では『ズルズルズル』の意味合いが変わってしまいまするゆえ」

淑「どっちかというと、アナコンダがニョーロニョロに近ぉございますわねっ」

ごん「ぶひひひひ♪アナコンダが ぶーニョロロって。

でもホントぶひね、後ろのほうでズルズルズルとニョロニョロ的に聞こえたぶひよ」

ねんはお腹がすいたのか

『んももん』(うな丼)と呟いていた。

ルナ「あまり‥思いたくないのですけど、こういうときって振り返ったら
モンスターがいたりするんですよね」

伝助「ちょ、ちょちょ、むかしのホラー映画やないんやし‥

それに、定番コントや ないんやから、そないなこと あらへんのとちゃう?」

と、ぬいぐるみなのに汗びっしょりで言う。

総右衛門「な、ならば‥1度 確かめてみたらどうでござりましょうか」

伝助「そ、そそそ、そーやねぇ‥で、誰が見んの?」

総右衛門「そ、それは若にござりましょう」

伝助「いやいやいやいや、ここは博識の総右衛門に譲るわっ」

総右衛門「こんな時に何を おっしゃいまするか若っ。

やはりここは若めにビシッと決めもらわねば に、ござりまする」

伝助「そんな遠慮ばっかし しぃひんと、総右衛門からお先にどーぞ」

総右衛門「若、若からお先にっ」

伝助「総右衛門から見たらええやんかっ」

ごん「どっちでもいいから、早く見るぶひっ」

伝・総「じゃかしいわいっ!! そんなら、お前が見ろやっ!!!」

ねん、大爆笑。

ルナ「あの‥よろしかったら私が見ましょうか」

と、ルナが言っている間に

淑「これからは、率先して女性が参加する社会でありたいですわねっ」

なんていいながら、振り返ってみる淑。

淑「あら?」

総右衛門「な、なにも変わったことはないか?」

淑「ええ、とくに変わったことございませんことよ」

総右衛門「そうか‥ホッとしたぞ」

伝助「なんやぁ♪オバケみたいなんが出てくると思ぉたわ」

ごん「ぶっひぶひぶひ」

ねん「うんもんもんも」

ルナ「そうですか、それはよかったです」

淑「ま、しいて変わったと事といえば、樹が若干動いているだけですわね」

魔樹が4体‥根と枝をくねらせてジワジワと近づいていた。

総右衛門「かびーんっ☆」

淑「どびーんっ☆」

一応、驚いて見せるものの、イマイチなにがおかしかったのかわかっていない様子。

伝助「で、出とるやぁぁぁんっ!!!」

ごんとねんが大爆笑の中、ルナはいち早く祈願天使翼を出した。

ルナ「ルーチェ、オプスキュリテ、撃ちなさい!」

爆発光線を撃つ白い羽根のルーチェと、破壊光線を撃つ黒い羽根のオプスキュリテ。

今まさに、襲いかからんとする魔樹の足を止めている間に、
総右衛門も慌ててボムボーン・バルカンモードを撃つ。

淑もガードボーンのタロとジロを操って、魔樹の攻撃を跳ね返し、

ごんはトンファー・阿雄を、ねんは金棒・吽雌を持って魔樹を滅多打ちにしていた。

伝助「ちょい待ちーな、じょーだんは淑やぁぁぁんっ!!!」

『冗談はよし子さん』の変化形を叫びながら放つは笹かまぼこ‥笹かまぼこでボッコボコ!

とても ぬいぐるみとは思えない戦い方で、とりあえず敵は撃退した。

伝助「ドラゴンなクエストやあるまいし、いきなしオバケ樹が現れても困るっちゅーねん」

いきなりで なくても困るのだが‥

ルナ「伝助さん、気をつけて!」

白い羽根・ルーチェが爆発光線を放って枝を阻止した。

伝助「コイツら、まだやる気みたいやで!」

一同は即座に分かれて戦闘態勢をとる。

気が付けば、さらに魔物の樹は数を増やしていた‥その数、20数体。

伝助「にょきにょきズルズルが、いっぱいやーんっ!!」

魔樹が猛烈な勢いで伝助を襲う!

すると‥ズガーン! 魔樹がまっぷたつに切り裂かれた。

カルマ「邪魔だ!」

残哀を構え、カルマは魔樹を斬り伏せる。

伝助「カルマっ」

魔恐「ええい! 鬱陶しいヤツラが!」

紊乱を振るって迫る枝や根を払い落としていた。

魔恐とカルマをも、魔樹は襲っているようだ。

魔恐「この樹どもは、いったいなんだ!? ジャシンめ、いったい何を考えて‥」

紊乱を操り、根を切り落としていく‥しかし、魔樹の攻撃は止まない。

カルマ「魔恐様、お下がりください!」

しだいに追い詰められていく魔恐の前に出で、残哀を構えるカルマ。

魔恐「くっ、いらぬことじゃ!」

カルマ「俺は貴女様をお守りいたします‥それが俺に残された使命」

次々と襲い来る 根や枝を切り払って、カルマは魔恐を守っている。

無数に襲う枝に、根に、カルマも無傷ではすまないが‥それでもなお、立ち向かう。

魔恐「カルマ‥」

戦う剣士の背中に、
失ったはずの温もりを感じる。
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