旧 霊皇戦隊セイレンジャー 2

□第12話・前編・1
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「霊皇戦隊セイレンジャー」第12話
            「届け、この想い」前編

2009年10月


『ぐわぁぁぁぁ!!』

絶叫が辺りに突き刺さる‥


妖霊城・牢獄

手足を鎖につながれたカルマ‥鎧は外され、筋骨隆々の肉体は傷だらけ。

あちらこちらから血が滴っている。

ガックリとうなだれる様子‥意識を失ったよう。

2体いるクグツ兵の1体がカルマの髪を掴んで、もう1体のクグツは水をカルマに浴びせる。

それを見ている半獣人・インガ。

ジャシンは魔恐に命じて、カルマを徹底的にいたぶらせていた。

今までのものとは違う、薔薇水晶の棘がついた鞭の紊乱を振るい
カルマの身体を打ち付ける魔恐。

気を失えば水をかけ、意識が戻ったカルマをふたたび いたぶる‥

もう何日も何日も、こういったことは続いていた。

ジャシンは、半獣人のインガを抱き寄せる。

誰に はばかることもなく、ジャシンはインガに言う。

ジャシン「見てみろ‥クク 操り人形の姫が裏切り者のカルマを打つ。

おもしろい光景だろう? インガ」

ジャシンは、すこぶる機嫌がいい。

カルマを捕らえたあの日‥

息も絶え絶えな憎魔とインガがいる王の間へと、ジャシンと魔恐は入ってきた。

そこでジャシンは、変わり果てたインガの姿を見‥歓喜した。

『美しい‥』怒りというものが形を成したかのようなインガの姿に
ジャシンは酔いしれた。

魔恐は憎魔へ

『私は、ジャシンの妃となります‥今後、我が妖霊の全権をジャシンへ。

とと様、よろしいですわよね』

憎魔はその言葉を聞き入れる‥ジャシンに添うて、2人が世界を支配すればよいと。

『わしは、お前の幸せだけが願いじゃ‥魔恐、愛しい魔恐よ』

涙さえ流して、憎魔は喜んだ。

その曇った瞳では、淀む娘の瞳など目に入りはしない。

妖霊族の全権を手に入れたジャシンは、将軍から皇帝へと上り詰めた。

絶望の皇帝・ジャシン‥玉座に座るジャシンは、傍らに魔恐をかしずかせて
冷たく笑う。

足裏を舐めろと命ずれば、魔恐はウットリした目で舐めることだろう。

父の憎魔を殺せと命ずれば、躊躇無く息の根を止めることだろう。

だが、そんな事に興味はない。

ジャシン「ククク‥絶望さえあればいい‥ほかに何もいらぬ」

魔恐という人形を抱き、快楽の悦で鳴かせるジャシンは
まるで子供のようだった。

無邪気で残酷な子供‥そして、新しいおもちゃを手に入れた子供のように
インガを愛した‥

『いつかは‥捨てられる』

あきられるまでの愛だとわかっていたが
それでもインガの身体は悦び、ジャシンを受け入れる。

『もう‥終わりたい』そんな想いが胸に去来するのを
インガは誰にも悟られまいと、必死に隠していた。

憤怒の獣となった我が身‥その身がかろうじて『母』を残しているのは
胎内に宿る命への想いか。

故に、いっそうインガは隠す。

『この命だけは、守りたい』

そう思う今、目の前で呻くカルマの姿を見て、インガは両腕で腹部を覆った。


霊皇の宿

ここは書庫‥総右衛門がなにやら大量の文献を紐解き、調べ物をしている様子。

淑、凛雫もいた。

凛雫「それにしても‥総右衛門、その話は本当か?

隠された何かがあるかも知れぬとは」

総右衛門「そのお力、断言するのは危険やも知れませぬが‥

怨・魂力で保っていた凛雫殿の命、ジャシンに吸い取られたさいに
新たな力が宿ったと言われておりましたなれば、もしや何かあるのではと」

凛雫「ああ‥あの時私は、確かに命を落としかけていた‥

いや、すでに死んでいたといっていいだろう。

この身体に満ちる不思議なエネルギーを感じたのは確か‥
何があるのか、あるのならば知りたい」

総右衛門「そのような記述がないかと、この前より探しておりまするが‥

いやはや、見当たりませなぬ」

淑「それにしても、ずいぶんと古い物ですわね」

本棚に整然と並ぶ、古い書物の数々。

総右衛門「うむ‥したが、これでも残っておったのは不幸中の幸いじゃ。

大半は城と共に燃え落ちてしもうたでの」

凛雫「そうだな‥私が妖霊に組していなければ‥」

凛雫の表情が曇る。

総右衛門「いや、それは せんないことにござる‥

すぎたるを悔いても責めても、何がはじまるというものではなし、
何が取り戻せるといったことでもなかろう。

第一、あの時に凛雫殿が我ら側にいたとしても
どうなっていたかは時の運。

これだけ残っただけでも、よしとせねばなるまいて‥

勇護殿もそうじゃが、凛雫殿、あまり自身を責めるでない」

総右衛門の言葉に、凛雫の表情にかかる曇りは薄れる。

凛雫「かたじけない‥」

淑「そうですよ、凛雫さん。

そうそう、それはそうとアノお話は進めてよろしいのですね」

総右衛門「ん? なんのことじゃ?」

凛雫「ああ、それならよろしくお願いいたす」

淑「心得ました‥こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ」

なにやら帳面を取り出して書き加えている。

総右衛門「淑、それはいったい‥」

凛雫「いや、私も『精霊主婦の会』の会員になろうと思ってな」

淑「凛雫さんは侠真様の奥方になられたのですから、主婦の会への入会を
お誘いしたんですの♪

ルナさんに、予定として信代さん、それに凛雫さんも入会してくださいましたし‥」

凛雫「そういえば、メアリーは?」

総右衛門「そうじゃ、源左衛門殿の御内儀なれば
入会しておるものと思っておったが」

淑「メアリーさんでしょ‥お誘いしているんですけどねぇ」

凛雫「まぁなんだな‥あのものは、そう誰彼と仲良くやっていくものには見えないからな」

淑「意地っ張りと申したらいいのか、なんといったらいいのかはわかりませぬが‥

あの方、嫌いではないのですよ。

嫌いでしたら、はなから誘いもいたしません‥ですが、すぐには打ち解けてくれなくて」

確かに、メアリーは源左衛門の妻となっていっしょに暮らしている。

だが、伝助たちとすぐに仲良くもなれないでいた。

『群れるのは苦手でねぇ』

嘘かホントか‥そういって、皆をはぐらかすメアリー。

総右衛門「ふむ‥友を持つことが恐ろしいのやも知れぬな」

淑「恐ろしいとは?」

総右衛門「亡くした友のことが胸につかえておるのじゃろう。

お婆殿への確執は消え失せたと申しても、心に負った傷は
そう簡単に乗り越えられはせぬであろう。

時をかけてほぐすか、メアリー殿自身が壁を壊すか‥それを待つしかないのやも」

凛雫「皆が簡単に割り切れるものでもない‥それを考えれば、満優様はじめ
愛理も信代も‥霊皇たちは寛容でいてくれる」

総右衛門「満優様はもちろんのこと‥仁殿も孝太殿も、
霊皇の皆は心地よい御仁たちじゃ」

淑「仁さん、孝太さんに関しては、ただ単純ということもありますわね」

総右衛門「これこれ」

3人は楽しそうに笑った。


福福

厨房内で、朝食がすんで洗い物をしている仁とルナ。

今日は福福の臨時定休日で、のんびりとした雰囲気。

心は商店街の福引で源左衛門が当てた、浅草の遊園地のチケットをもらったので
遊びに行ってくるとでかけた。

あいにくチケットは、小人用のもの。

ただ、フリーパスなのでかなり遊べるだろう。

仁が最初、いっしょに行くと言っていたのだが
せっかくの休みだからと心は気遣う。

すると‥『ならば、俺とメアリーとで行こうか』と源左衛門。

そんなわけで、2人が付き添うことになった。
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